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01 孤独な毛玉、ふたたび


 まず地面に穴を掘ります。

 水冷系魔術を発動させて、その穴へたっぷりと水を溜めます。

 ここまでは下準備で、次からが本番です。

 用意しておいた薪に狙いを定めつつ、慎重に術式を組んでいきます。

 そして発動。

 燃えます。ボク自身が。


《行為経験値が一定に達しました。『炎熱耐性』スキルが上昇しました》


 おおぅ、もう何度も火達磨になってるのに、ようやく初めてのスキルアップだ。

 でもこれ以上は危ない。

 ボク自身が種火になって、薪に火を点ける。

 あとは急いで溜めておいた水に飛び込む。

 体は浮いちゃうけど、構わずにぐるんぐるんと回転する。

 ほどなくして鎮火。

 自慢の毛並みがチリチリだけど、『自己再生』を使えばすぐに生え変わるよ。


 ってことで、ようやく薪への着火成功。

 いやぁ、銀子の優秀さが身に染みて分かるね。

 火を起こすだけでも一苦労だよ。

 あ、でも別段、ボクだけなら火に頼る必要はなかったんだよね。

 まあいいや。

 今日はミミズが狩れたし、折角だから焼いて食べよう。

 『吸収』した時も思ったけど、このミミズって意外と美味しいんだよね。

 脂が乗ってるお肉で、ほんのりと甘味もある。

 焼けば旨みも凝縮されるかも。

 ってことで、調理開始。







 さて。銀子と別れてから十日余りが過ぎた。

 ボクは来た道を戻ったり、ふらふらと探索をしたりもしながら、サバイバル生活を続けていた。

 大雑把な目標は決めてる。

 それは、強くなること。


 まあ生き残るための必須条件とも言えるんだけどね。

 負けていないとはいえ、冒険者たちから逃げなきゃいけなかったのは確かだ。

 もっとボクが強ければ、そんな必要はなかった。

 銀子の面倒だって最後まで見て、ちゃんと安全を確認できたかも知れない。

 生後一ヶ月ちょっとの毛玉がなにを、って感じだけどね。


 だけど、これからも危険はあると思うんだ。

 ともかくも強くなっておいて損は無い。

 幸い、この世界のスキルシステムは便利だからね。

 何をどうすれば、どう強くなれるのか、分かり易い形で示してくれる。

 ただ残念なのは、自分一人だと成長が鈍いってことだ。


 実際、あの冒険者や亀オークとの戦いの最中には、幾つもスキルが上がってた。

 それと、幾分か鍛えたスキルは上がりが遅くなるみたいだ。


 少し試してもみた。

 自分で自分に針を刺すとか、針を連ねて切ってみるとか、適当な石を拾って殴ってみるとかね。

 けっこう痛い想いはした。

 でもすでに一定以上に鍛えられていた『打撃耐性』なんかは、スキル上昇アナウンスがなかった。


 『懲罰』も自分に向けたりしたんだけどね。

 『極道』と『我慢』が上がったけど、こっちの上昇具合も控えめだ。

 『懲罰』への耐性スキルみたいだから、しっかりと鍛えておきたいんだけどね。

 システムに嫌われてるのか、ボクはカルマが低いから。

 下手をしたら、『懲罰』だけで封殺されかねない。

 ここらへんは、今後の検討課題だね。

 あと、『破戒撃』への耐性も分かった。

 自分をぺしぺし叩いてたら、『不変』ってスキルが解放されたんだ。

 これもやっぱり上がり難いけどね。

 持ってないよりはマシな程度かなあ。


 新スキルと言えば、『法則改変』なんてものも見つかった。

 これはまあ、なんていうか、新しい称号と一緒に出てきたんだよね。

 また好ましくない称号で、『悪業を積み重ねる者』っていうのが。

 ちょっと硬いアルマジロが群れで出たから、『死毒の魔眼』に頼ったのがよくなかったみたい。

 カルマが-5000越えちゃった。

 前からあった『悪業を積む者』は上書きされたよ。


 で、この『法則改変』だけど、正直さっぱり分からない。

 名前からすると強力そうなスキルなんだけどね。

 ステータス上では、『不変』と一緒に、『覇者の才』に分類されてる。

 ますます謎だね。

 この『覇者の才』にしても、強そうではあるけど、どんな才能なのやら掴み難い。

 少なくとも、ボクには似合わないと思うんだけどなあ。

 精々、ワンルームの覇者くらいで充分だよ。

 つつましく生きたいよね。


 ”才能”に関しては、もうひとつの『隠者の才』は分かり易いね。

 『隠密』とか『無音』が、ここに分類されてる。

 その内に、『忍者の才』とかになったりしてね。

 いや、まさかね? ないよね?

 あるとしたら、『暗殺者の才』とか……でも隠れるのと暗殺は違うのかな。

 どっちにしても、積極的に伸ばすものではないかな。

 時には隠れるのも大切だろうけど、いまは純粋に戦闘力の方を磨いておきたい。


 そういった目標もあって、地道に魔術の訓練とかもしてる。

 着火はできるようになったのに、未だに『炎熱系魔術』スキルは上がってない。

 やっぱり狙ったところに火が出るようにならないとダメかねえ。

 術式は正確なはずなのに、どうなってるんだか。

 少なくとも、この毛玉体が炎に弱いのは間違いなさそうだけど。


 それでも他の魔術との相性はいい。

 とりわけ土木系と闇術の伸びが早いね。

 おかげで、野営地を整えるのが随分と楽になった。

 そこかしこに落とし穴を掘れるし。

 夜を待たなくても、辺り一帯を闇で覆って結界みたいにできる。

 しかも、この闇に触れた相手を察知する警戒機能付き。

 最初は辺りを暗くするくらいしか出来なかったのにね。


 ちなみに、未だに『魔術知識』は初期のままで読み進められていない。

 だけど自力での術式開発のコツが分かってきた。

 もちろん、何でも出来るって訳じゃない。

 ただ、この世界の魔力は、力を振るう方向を示してやれば、細かな道順を自分で探してくれる。

 その道順が術式となるので、間違わないよう補佐してやればいい。

 まだ「穴を掘る」とか、「暗闇を広げる」とか単純な術式ばかりだけどね。

 そういった単純なものを組み合わせれば、闇結界みたいな便利な術式も作れる。


 パッチワークみたいなものかな。

 もしくは、レース編み?

 あのちまちました作業は好きだったなあ。

 教えてもらった時は面倒そうだって思ったけど、やってると楽しくなってくるんだよね。

 と、いまは関係ないか。アクセサリなんか作ってもお腹は膨れないしね。


 ともかくも、ボクの強化計画は順調に進行中。

 そうそう、『魔術開拓者』っていう称号も貰えたよ。

 同時に『魔術開発』のスキルも解放された。

 こんなスキルもあるくらいだし、自分で魔術を作るって、この世界では珍しくないのかもね。


 さて、そろそろ行ってもいいかな?

 何処って、以前に断念した竹林にね。

 亀オークの群れには大打撃を与えたはずだし、ボクもあの時より強くなった。

 いざとなったら逃げるくらいは出来るはず。

 だから、たぶん大丈夫。

 今度こそ、筍くらいは手に入れたいね。







 という訳で、やって参りました竹林。

 静かだ。

 こういう雰囲気っていいよね。

 いまは昼間だけど、夕方で灯篭とか並んでるともっと素敵になる。

 京都だっけ? 有名な観光スポットもあったからねえ。

 そういえば中学の修学旅行って京都だったね。

 自由時間を使えば行けたのかな。

 一人で真っ直ぐにホテルへ向かったから考えてなかった。

 ま、今更だよね。


 それよりも、奇妙なくらいに静かすぎる。

 竹林の風通しの良さが、そう感じさせてくるのかな?

 一応、注意しておこう。

 筍掘りに夢中にならないようにしないとね。

 まあ『自動感知』があるし、よっぽどでないと不意打ちは受けないはず。


 とか考えてる間に、筍発見。

 ちょこんと盛り上がってる地面を掘る。

 うん。間違いなく筍だ。

 少なくとも魔獣じゃないのは『鑑定』で分かる。

 なんとなく毒も無さそうな気がするね。


 とりあえず一つだけ確保。

 あと、地下茎を掘り起こして幾つか採っておこうか。

 それくらいなら持って帰れるからね。

 人間だったらシャベルか、いっそ重機が欲しくなる作業だけど、今なら簡単だ。

 土木系魔術が活躍するよ。

 ボクが、カッと目を見開いて、グッと魔力を込める。

 それだけで大穴が開く。

 いや、実際にはそこそこ複雑な術式を組んでるんだけどね。

 穴を掘るのには、もうそれくらい慣れてきたよ。


 さて、地下茎確保。

 小さな芽がついてるね。上手くすれば増やせるはず。

 安全なところで栽培できれば、竹材も筍も採り放題になるねえ。

 問題は、その安全なところがこの森に存在するかどうかなんだけど。


 なんだか逆に、ここの方が安全な気がする。

 本当に静かだね。

 ちょっと周囲を探索してみようか。

 竹林の奥へ、かさこそと進む。

 たまに『空中遊泳』も使って、ふよふよと進む。

 森が開けて、小高い丘が見えてきた。

 だけどボクは森から出ずに、その丘の様子を窺う。


 なんだか妙な物が見える。

 丘の斜面に沿って、いくつかの穴が掘られていた。

 住居?、とすぐに思ったのは、そこに出入りする影があったから。

 亀オークだ。

 相変わらず、甲羅がゴツくて、全身が太ましい。

 斜面の中心には大きな穴もあって、そこには見張りっぽい亀オークも立ってる。


 ん~……奴らの住処ってことかな。

 まだ距離はあるから、向こうはボクに気づいていない。

 だけどさすがに森から出たら見つかるよね。

 斜面から見下ろす形で、防御には向いた地形みたいだし。


 どうしよう?

 襲撃する? それとも立ち去る?


 そういえば、幾つか新しい魔眼も訓練して使えるようになったんだよね。

 なかなかに格好良くて、気に入った魔眼もある。

 とりあえず、ぶっ放しておく?



-------------------------------

魔獣 オリジン・ユニーク・ベアルーダ LV:12 名前:κτμ

戦闘力:5530

社会生活力:-2780

カルマ:-5180

特性:

 魔獣種   :『九拾針』『高速吸収』『変身』『空中遊泳』

 魔導の才・極:『操作』『魔力大強化』『魔力集中』『破魔耐性』『懲罰』

        『万魔撃』『加護』『無属性魔術』『錬金術』『生命干渉』

        『土木系魔術』『闇術』『高速魔』『魔術開発』

 英傑絶佳・従:『成長加速』

 手芸の才・参:『精巧』『栽培』『裁縫』『細工』

 不動の心  :『極道』『我慢』『恐怖大耐性』『精神耐性』『静寂』

 生存の才・弐:『生命力大強化』『頑健』『自己再生』『自動回復』『激痛耐性』

        『猛毒耐性』『物理大耐性』『闇大耐性』『立体機動』『悪食』

 知謀の才・壱:『鑑定』『沈思速考』『記憶』『演算』『罠師』

 闘争の才・壱:『破戒撃』『回避』『強力撃』『高速撃』『天撃』

 魂源の才  :『成長大加速』『支配無効』

 共感の才・壱:『精霊感知』『五感制御』『精霊の加護』『自動感知』

 覇者の才・壱:『一騎当千』『威圧』『不変』『法則改変』

 隠者の才・壱:『隠密』『無音』

 魔眼の覇者 :『大治の魔眼』『死毒の魔眼』『混沌の魔眼』『衝撃の魔眼』

        『闇裂の魔眼』『凍結の魔眼』『雷撃の魔眼』『破滅の魔眼』

 閲覧許可  :『魔術知識』『鑑定知識』

称号:

『使い魔候補』『仲間殺し』『悪逆』『魔獣の殲滅者』『無謀』『罪人殺し』

『悪業を積み重ねる者』『根源種』『善意』『エルフの友』『熟練戦士』

『エルフの恩人』『魔術開拓者』


カスタマイズポイント:520

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