03 はじめてが空中戦
カモメが迫る。
人間だった頃なら可愛らしくも思えただろうけど、いまのボクには猛禽類みたいに凶悪な顔にしか見えない。
あ、でも鳥の種類ってよく知らないな。
猛禽類と言えば、タカとかワシだよね? カモメは違うよね?
なんて、考えてる場合じゃないか。
このままだとカモメに啄ばまれて終わっちゃう。
空中で漂うだけのボクには逃げる術がない。
だけど、抵抗できないという訳でもない。
全身の毛を逆立てる。
テニスボールくらいの毛玉体が一回り大きくなる。
さらに毛の一本一本に意識を注ぐようにすると、毛が針みたいに硬くなる。
ステータスにも『毛針』と表示されていた。
だから試してみたんだけど、想像以上に簡単だね。本能の助けも加わってるかな。
射撃もできればいいんだけど、残念ながらそこまでは無理っぽい。
だけどカモメを驚かせる効果はあった。
小さく一鳴きしたカモメは、軌道を変えて、ボクの真横を抜けようとする。
でも、そうはさせない。
擦れ違う瞬間、毛針を伸ばして突き刺した。
カモメが暴れる。
ボクはさらに毛を伸ばして、カモメに絡め、背後を取り、何本も針を突き刺していく。
針はともかく、絡んだ毛はそう簡単には解けないよ。
糸を編む要領で、素早くしっかりと巻きつけたからね。
向こうが最初に食べようとしたんだ。
こっちが食べても文句ないよね。
齧りつく。同時に、『吸収』スキルも発動。
この『吸収』、どうやら『毛針』と連動して働くスキルらしい。
刺した針がストローみたいになって、相手から吸い取れる。
スキルに頼るというか、本能的に『吸収』能力が使えるって分かるんだけどね。
赤ん坊でも乳を吸えるようなものかな。
ともかくも、刺した毛の先から吸い上げていく。
何を吸い取るかって?
ん~……単純に血や体液じゃないみたいだね。
生命力とか魔力とか、そういった根源的なモノを吸収してる気がする。
この白毛玉体、ふとすれば可愛くも見えそうだよね。
でも実は、かなり凶悪な生き物なのかも知れない。
それは『吸収』を受けたカモメを見ても分かる。
ほんの数秒の間に干乾びていった。
最後には、真っ白な灰みたいになってパラパラと空中に散っていく。
跡形も残らない。
ごちそうさまでした。
ちなみに、味はどっぺりしてた。
なんかこう、油ジュースって感じだね。もしくは生卵?
悪く言いたくはないけど、もうちょっとまともな味だったらよかったのに。
あと、少し失敗したかも。
吸収しないで、そのまま背中にでも乗ってればよかった。
そうしたら安全に着地できたのにね。
まあでも、悪いことばかりじゃない。
《総合経験値が一定に達しました。魔獣、ティニィ・ロウ・パサルリアがLV1からLV4になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《行為経験値が一定に達しました。『毛針』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『吸収』スキルが上昇しました》
頭の中にファンファーレの音が響く、なんてことはなかったけどね。
レベルアップだ。
一気に三つも上がった。ちょっと強くなった気がする。
見た目はまったく変わってないっぽいけどね。
でも、ステータスにはしっかりと変化があったよ。
-------------------------------
魔獣 ティニィ・ロウ・パサルリア LV:4 名前:なし
戦闘力:6
社会生活力:-130
カルマ:-110
特性:
魔獣種 :『毛針』『吸収』
魔導の才・極:『干渉』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・参:『器用』
称号:
『使い魔候補』
カスタマイズポイント:140
-------------------------------
戦闘力6。
初期の三倍だね。
某漫画の計算からすると、猟銃を持った農夫より強いかも。
いや、実際に戦ったら、あっさり撃ち殺されそうだけどね。
ただ、社会生活力とカルマがマイナス方向に伸びてるのは気になる。
この数値も謎だ。
なんとなく意味は分かるよ。
でも、もしかして、マイナス方向に伸びた方いいのかな?
だってボクは何も悪いことはしてないしねえ。
襲ってくる凶悪な鳥をやっつけただけだよ。
野生の獣を排除して、むしろ社会に貢献してる気もする。
だけどまあ、文句を言っても仕方ないか。
それよりも今は、これからどうするか―――とか考えてたら、またカモメだ。
今度は十二時の方向、真っ正面から近づいてくる。
えっと……何十羽とかいるんですが。
どういうこと?
もしかして、仲間がやられたから復讐に来たとか?
鳥が? そんな習性あるの? まさか、ねえ?
ボクが慌ててる間にも、カモメの群れは近づいてくる。
目一杯に毛針を逆立てる。
突っ込んできたカモメが、さっきと同じように軌道を変える。
また取り付いてやろうと思ったけど、今度は暴れられて、弾き飛ばされた。
やっぱり、この体は弱い。軽すぎる。
毛針も刺して絡められるけど、力自体はほとんど出ないみたいだ。
カモメの羽ばたきにも負けるくらいだからね。
でも、弾き飛ばされた方向は悪くなかった。
群れで飛んでいた別のカモメの背後を取れた。
そのまま針を刺して吸収―――なんてことはしない。
どうやらこのカモメの群れ、ボクを襲う意図はないらしい。
偶々、進行方向がボクと重なっただけみたいだね。
背中に乗ったボクにも構わず、真っ直ぐに空を飛んで行く。
けっこうな速度だね。
しっかりと掴まっておかないと、すぐにも振り落とされそうだ。
杭みたいに針を刺したいところだけど暴れられても困る。
代わりに、羽毛に毛を絡めておく。
《行為経験値が一定に達しました。『魔力操作』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『干渉』スキルが上昇しました》
んん? またなんか上がったね。
そういえば、この『干渉』スキルって謎のままだった。
スキル名から推測するに、『魔力』を使って何かしらの『干渉』をしてる?
意識してなかったけど、全身の白毛を操れるのって『干渉』スキルが関係してるのかな?
言われてみると、毛の中に魔力っぽいものも感じられる。
極細の糸みたいな魔力が通ってる感じだ。
『吸収』を使った時もそうだったね。
この魔力糸?を操って、あれこれと『干渉』するってことかな。
《行為経験値が一定に達しました。『魔力感知』スキルが上昇しました》
なるほど。やっぱりこの感覚が魔力ってやつなのか。
よし。覚えた。
この魔力を上手く使えば、魔法にも繋がって、出来ることも増えるはずだよね。
空だって飛べるはず。
だから、こんな状況だってなんとかなるよ。
うん。カモメがね、真っ直ぐに飛び続けているんだ。
ボクを乗せたまま、海の上を。
えっと、餌を採りに行くだけだよね?
まさか、このまま海を渡ったりしないよね?
ボクは困惑と疑問の混じった眼差しを投げる。
それに答えるみたいに、カモメはニャーと鳴いた。
って、ウミネコだったよ。