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37 死闘


 黒靄がレンジャーの頭部を包む。

 夕暮れの森に、濁った悲鳴が響き渡った。


 最初から強力なスキルだった『死毒の魔眼』だけど、使いこなしていく内にさらに凶悪さを増してきている。

 使い手であり、『猛毒耐性』を持つボクでさえ、巻き込まれただけで危ない。

 だから本当に安全な位置取りを出来ていない時は使わないようにしてる。


 ある意味では『万魔撃』以上に、ボクにとっての切り札だ。

 正しく一撃必殺。

 そう信じられるほどだった。

 なのに、防がれた。


 魔眼の発動と同時に、レンジャーの首元に掛けられていたアクセサリが光るのが見えた。

 大きな魔力反応も感じられた。

 防御の魔術が込められているとか、きっとそんな物なのだろう。

 アクセサリは砕け散ったけど、レンジャーも逃げていた。

 木陰に身を隠す。

 だけどその途中で、レンジャーは血を吐いていた。

 直撃は避けても、僅かに死毒を吸い込んだみたいだ。

 ならばトドメを―――と思った瞬間、ボクの視界が真っ白に染まった。


《行為経験値が一定に達しました。『風雷耐性』スキルが大幅に上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『風雷耐性』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『衝撃耐性』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『麻痺耐性』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『加護』スキルが上昇しました》


 いだだだだだだっ!?

 なんだ、これ、雷撃!? 魔術か!

 咄嗟に張った『加護』も貫かれて、ボクの全身が光に焼かれた。

 吹っ飛ばされて、またも地面に転がる。

 意識が朦朧とする。

 それでも歯を食いしばって、目を見開いた。


《行為経験値が一定に達しました。『精神耐性』スキルが上昇しました》


 敵が増えていた。

 レンジャーを守る形で、他の冒険者もこっちへと駆けてくる。

 幼女神官はレンジャーに治療魔術を掛けてるみたいだ。

 その隣にはローブ姿。大きな杖を持った魔術師だ。

 いまの雷撃魔術はアイツの仕業か。


 さらにもう一人、身を覆うほどの盾を掲げた戦士が突撃してくる。

 雄叫びを上げて。殺意を全開にして。

 うわぁ、顔も怖い。

 しかもその盾の表面には、複雑な模様が淡く輝いている。

 どうやら魔法的な防御が施されているらしい。

 たぶん、魔眼も防がれる。

 だからといって、このまま戦士の剣で両断されるつもりはないよ。


《行為経験値が一定に達しました。『沈思速考』スキルが上昇しました》


 魔眼をバラ撒く。

 残念ながら、いまは風向きが悪いので死毒は使えない。

 だから『衝撃』と『混沌』を連続で。魔力の出し惜しみは無しだ。

 これくらいで戦士が怯まないのも覚悟してる。

 さらに『天撃』も混ぜた。


《行為経験値が一定に達しました。『高速魔』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『天撃』スキルが上昇しました》


 『熟練戦士』の称号と一緒にもらった『天撃』は、分かり易い攻撃スキルだった。

 いや、魔術スキルでもあるね。

 基本的には『魔眼』や『万魔撃』と同じだ。

 体内に用意された専用の術式回路に、一気に魔力を流し込む。

 同時に、攻撃の起点となる空間を意識する。


 直後、空中から白く輝く柱が降ってくる。

 打撃と衝撃って感じだね。

 魔力はさほど消費しないけど、少しだけ疲労感がある。

 生命力も使っているのかも。

 十数発も連発すると息が切れて、身体の感覚が鈍ってくるね。


 属性とか、不明な部分はまだある。

 でも頭上からの攻撃は避け難く、それは間違いなく利点だ。

 実際、突撃してきた戦士の歩みが乱れた。

 その間にボクは距離を取る。

 ほんの少しの時間が欲しかった。そして、”溜め”ができた。

 喰らえ、目からビーム! 『万魔撃』!


《行為経験値が一定に達しました。『万魔撃』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『魔力集中』スキルが上昇しました》


 真っ白い閃光が森を貫く。冒険者四人を巻き込んで。

 いまのボクが撃てる最高威力の攻撃だ。

 軍勢を盾にした亀オークのボスだって防ぎきれなかった。

 これを喰らっては只では済むまい!


 いや、冗談とかフラグ立てとかじゃなくてね。

 本気でそう思えたよ。

 ほんの数秒の間だけだったけど。


 濛々と白煙が立ち昇って―――その煙を裂いて、戦士が肉迫してきた。

 もしもボクが声を出せたら、げえっ、とか言ってたと思う。

 さすがに戦士も無傷ではなかった。

 盾は焼け焦げて、鎧は傷だらけで、額から血も流れていた。

 だけど唖然としたボクは、行動が遅れてしまった。

 それでも咄嗟に『衝撃の魔眼』を放つ。

 自分の足下へ向けて。


《行為経験値が一定に達しました。『回避』スキルが上昇しました》

《条件が満たされました。『生存の才・弐』が承認されます》

《『生存の才・弐』取得により、関連スキルが解放されました》


 振り下ろされた剣は、ボクの毛を数本裂いていっただけだった。

 空中へと飛んだボクは、そのまま距離を取ろうとする。

 魔眼の良いところは、視線さえ通れば何処にでも効果を発揮できる点だ。

 上手く使えば、衝撃で素早く空中移動も可能。

 ボクの体が軽い分、ダメージを覚悟すれば、かなりの速度が出せる。


 でも、戦士の突撃はもっと速かった。

 戦士は地面を蹴り、さらに空中も蹴った。多段ジャンプだ。

 うわぁ、そんな技あるの!? 欲しい!


 とか言ってる場合じゃない。

 戦士の攻撃を援護するみたいに、上空から魔法の矢も降ってきた。

 後方にいた三人も無事ってことか。

 何発かは辛うじて回避。

 残りは『加護』や『九拾針』を使って防ぐ。

 だけど、その瞬間を狙い済ましたみたいに戦士が剣を薙ぎ払ってきた。

 回避、魔眼、どれも間に合わな―――!?


《行為経験値が一定に達しました。『衝撃の魔眼』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『斬撃耐性』スキルが大幅に上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『激痛耐性』スキルが上昇しました》


 ボクの視界が赤と黒に染まった。

 正面の単眼が潰された。

 でも複眼に意識を傾ければ、どうにか視界は確保できる。

 魔眼も針も滅茶苦茶に撃ちまくって、ボクは衝撃とともに地面へ叩きつけられた。


 『空中遊泳』と『加護』で、幾分かダメージは減らせた。

 だけどこれは重傷だ。

 複眼に映る視界が歪んでる。

 足もいくつか折れてるみたいだ。細かく確認してる余裕もない。


《行為経験値が一定に達しました。『打撃耐性』スキルが上昇しました》


 とにかく逃げよう。

 森の中に落下したのは、ある意味では幸運だ。

 上手く草むらに隠れれば、やり過ごせるかも―――なんて甘かった。


 少し離れた位置で、草むらが大きく揺れる。

 微かに地面を伝わる衝撃とともに、戦士が着地していた。

 そして、真っ直ぐにこちらへと駆けてくる。

 怒気と殺意を撒き散らしながら。


 マズイ。本格的にマズイ。これまでで一番の危機だ。

 なんとかしないと。

 魔眼と毛針を飛ばすけど、全部盾で防がれる。足止めにもならない。


 一方、ボクの足は満足に動かない。

 魔力を通して強引に動かすけど、何本か折れて体を支えられなくなってる。

 打つ手がない。

 殺されるしかない。

 絶望し掛かったボクに、容赦無く剣が振り下ろされた。


「―――Δγτッ!!」


 直前で、剣が止まった。

 気がつくと、ボクの体は柔らかな感触に包まれていた。

 銀子だ。

 ボクを庇うように抱きしめて、戦士を睨みつける。


「yπΠ! κτμΞγ”jκη’nа!」

「ε、ειφΛχ……?」


 ついさっきまで殺意を溢れさせていた戦士が、明らかに動揺していた。

 気が抜けたような顔をして一歩退く。

 まだボクへ向ける目には警戒が残っているけど、斬りつけてくる様子じゃない。


 そこへ、他の足音も近づいてきた。

 他の冒険者たちだ。

 三人とも無傷じゃないけど、ひとまずは無事と言える状態みたいだ。

 これは、不幸中の幸いって言えるかな。

 少なくとも、いきなり銀子を捕まえようとするような悪人連中じゃない。

 とりわけ幼女神官なんて、短剣を投げようとしたレンジャーを制止してる。


 よし。よく分からないけど助かった。

 全員が困惑してる。状況を把握できずにいる。

 銀子のおかげだ。

 このままプランBへ移行しよう。

 覚悟は必要だけど、まあ死ぬことはないはず。

 いまより悪い状況になることも、まず無いと思う。

 それじゃあ……変・身!


《行為経験値が一定に達しました。『変身』スキルが大幅に上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『激痛耐性』スキルが大幅に上昇しました》


 あだだだだっ! 痛い痛い痛い!

 やっぱりこれ、とんでもなく苦しいね。気を失いそうにもなる。

 魔力消費も半端じゃない。

 精々、三十秒が限界かな。

 だけど、それだけあればなんとかなるでしょ。


 光に包まれたボクの全身が膨れ上がる。

 銀子もさすがに驚いていた。

 冒険者連中は警戒を露わにして、其々の武器を構える。

 だけど襲い掛かってくるよりも、ボクの姿に驚く方が早かった。


 たぶん、成功したんだろう。

 顔は見えないけど、手足は間違いなくボクのものだ。

 いや、”人間だった頃の”ボクのものだ。

 華奢で、肌は白に近くて、女の子みたいに小柄で―――。

 魔術がそうであるように、この『変身』もきっとイメージが大切なんだろうね。

 だけど自分自身だったらイメージするのは簡単だ。

 爪や指紋の形だって覚えてる。

 まあ、全裸ではあるけど。


 そこは仕方ないよね。

 緊急事態だし。全裸で幼女の前に立っても許されるはず。

 事案じゃない。

 あ、ちなみに全身が輝いてるので、細かな部分は見え難くなってるよ。


 ともあれ、人間の姿になったボクは銀子の前に立った。

 銀子はぽかんと口を開けていた。

 さっぱり事態が飲み込めないみたいだ。

 でも、それでいい。きっと上手くいくよ。


 これまでとは違って、ボクの方が背が高い。

 そうして見下ろす小さな頭を優しく撫でた。

 ぽんぽん、と。これはもう旅の間に慣れた動作だ。

 人間の姿で触れるのは初めてだけど、ふわふわの銀髪の感触は同じように感じられた。


 そうしてボクは微笑んでみせてから、銀子の横を抜けていく。

 静かに歩いて、夕暮れの森の中へと。

 まるでそれが当然であるように。

 冒険者たちも唖然として立ち尽くしたまま追ってこない。

 そうしてボクの姿は、森の中へと消えていった。








 変身を解く。

 いだだだだっ! いだっ!

 元に戻る時も、全身を捻じ切られそうな痛みが走る。


 だけど上手くいった。

 トンデモ展開で全員が固まってるところを脱出しちゃおう作戦、成功!

 後は一目散に走る。

 足は折れて、体を支えるのも難しくなってるけど、ここが正念場だ。

 『自己再生』での応急処置もして、とにかく距離を稼ぐ。


 走りながら、後ろも確認する。

 よし。追ってきてない。

 上手く逃げられたみたいだね。適当なところで隠れよう。

 回復しつつ、連中の後をこっそりと尾行してやるんだ。

 正しく、計画通り。

 散々にボコボコにしてくれちゃって。

 このままボクが終わると思ったら大間違いだよ。



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魔獣 オリジン・ユニーク・ベアルーダ LV:11 名前:κτμ

戦闘力:3920

社会生活力:-2520

カルマ:-4680

特性:

 魔獣種   :『九拾針』『高速吸収』『変身』『空中遊泳』

 魔導の才・極:『操作』『魔力大強化』『魔力集中』『破魔耐性』『懲罰』

        『万魔撃』『加護』『無属性魔術』『錬金術』『生命干渉』

        『土木系魔術』『闇術』『高速魔』

 英傑絶佳・従:『成長加速』

 手芸の才・参:『精巧』『栽培』『裁縫』

 不動の心  :『極道』『我慢』『恐怖大耐性』『精神耐性』『静寂』

 生存の才・弐:『生命力大強化』『頑健』『自己再生』『自動回復』『激痛耐性』

        『猛毒耐性』『物理大耐性』『闇大耐性』『立体機動』『悪食』

 知謀の才・壱:『鑑定』『沈思速考』『記憶』『演算』『罠師』

 闘争の才・壱:『破戒撃』『回避』『強力撃』『高速撃』『天撃』

 魂源の才  :『成長大加速』『支配無効』

 共感の才・壱:『精霊感知』『危機感知』『五感制御』『精霊の加護』

 覇者の才・壱:『一騎当千』『威圧』

 魔眼の覇者 :『大治の魔眼』『死毒の魔眼』『混沌の魔眼』『衝撃の魔眼』

        『破滅の魔眼』

 閲覧許可  :『魔術知識』『鑑定知識』


称号:

『使い魔候補』『仲間殺し』『悪逆』『魔獣の殲滅者』『無謀』『罪人殺し』

『悪業を積む者』『根源種』『善意』『エルフの友』『熟練戦士』『エルフの恩人』


カスタマイズポイント:510

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