32 亀がノロマだと、いつから勘違いしていた?
亀オークから逃げて、慎重に周囲を窺う。
敵の気配がないのを確認して簡易拠点設営を始める。
銀子はまだ泣き出しそうな顔をしているので、毛球でぽんぽんと撫でてやる。
どうやら、よっぽど怖かったらしい。
火吹きクマに遭った時はこんなじゃなかったのに、何かあるのかな?
仮にも人型の魔獣だから?
もしかして、オークだからエルフと因縁が?
まさかねえ。
ないない。そんなエロ同人みたいな。
ほら、木苺あげるから泣き止みなさい。
くしゃくしゃの顔をしながら、銀子は木苺を口へ運ぶ。
すすり泣きながら頬張る。
器用な子だね。この様子なら、まあ大丈夫でしょ。
そういえば、この木苺も『生命干渉』のおかげで栽培ができるようになった。
魔力が直接の栄養にはならない。
だけど変換して栄養みたいなものにしてるみたいだ。
魔法効果っぽい部分は、やっぱりまだまだ謎が多いね。
そもそも理屈付けようとするのが間違ってるのかも知れない。
でも魔法の術式とか、明らかに法則性がありそうなんだよねえ。
そのうちに理解できるようになるのかね。
ともあれ、拠点を設営。
魔獣除けの偽リンゴに、落とし穴を複数。
中央に柔らかな草を集めて、毛布を敷く。
もう慣れた作業だ。そろそろもう一段上を目指したいね。
『土木系魔術』と『錬金術』、あと『栽培』も影響してるのか、木材にも多少の加工はできるようになってきた。
頑丈なツタも使って、弓くらいは作れる。
試しに銀子に持たせてみた。
エルフと言えば弓だからね。
もしくは細剣。筋肉エルフなんて邪道だよ。
銀子も弓の扱いは知ってたみたいで喜んでくれたし。
でも矢がなかった。
いや、雑な物なら作れるんだよ。
だけど矢羽根が難しい。近くを通り掛かる鳥もほとんど見掛けないからねえ。
だから今度目指すとしたら、弩弓とか投石器?
時間があったら試してみたいところだ。
さて、いまはまず昼食だね。
銀子も泣きやんで、薪に火をつけてくれてる。
ベーコンスープにしよう。
そう、クマ肉はそこそこ美味しい燻製肉に仕上がったんだよ。
毒見も済んでる。ほんのりとリンゴの風味もする。
あとは、幾つか食べられる野草も混ぜて、と。
人間だった頃と比べれば全然だけど、食事も随分とレパートリーが増えたね。
以前のイモは失敗だったけど、少し持ってきてあるので品種改良を試みたい。
この森には、まだまだ隠れた食材がありそうだ。
そのうちキノコとかも試してみたいねえ。
いつものように鍛錬をして、銀子と遊んで、そろそろ夕食を作ろうとした頃だ。
今度は、ボクの方が先に気づいた。
ほぼ同時に、銀子も肩を縮める。また泣き出しそうな顔になる。
昼間に遭った亀オークの匂いが漂ってきた。
それも複数。昼間よりも随分と数が多い。
ボクはすぐに木の上に登ると、匂いを辿って奴らの姿を確認した。
よし。逃げよう。
すぐに木から降りて銀子と荷物を抱える。
だってアイツラ、数え切れないほどいるんだもん。
何十じゃ足りない。何百、下手をしたら千を越えるかも。
もう軍勢って言える規模だ。
そんな奴らが何をしに来たのか?
知らないよ。どっかでお祭りでもあるんじゃない?
もしくは同人誌即売会とか。
勝手にやってて、ということで駆け出す。
向こうもボクたちが逃げ出したのに気づいたのか、足音が派手なものになった。
けっこう速い。
だけど入り組んだ森の中なら、小柄なボクたちの方が有利―――、
と思った時、近くの草むらが揺れた。
小柄な亀オークが現れる。
ちょっ、なにこいつ!? 全身が緑色だ。そして四つ足で迫ってくる。
衝撃の魔眼で迎撃する。
貫通針と爆裂針、さらに猛毒針もお見舞いする。
《行為経験値が一定に達しました。『九拾針』スキルが上昇しました》
緑亀オークは吹っ飛ばされ、全身に針を喰らって、そのまま動かなくなった。
倒せたらしい。
ボクはそのまま駆け続ける。
けれどまた迫ってくる足音があって、草むらが揺れる。
緑亀オークだ。犬や狼みたいに追ってくる。
こいつらは斥候、猟犬役ってことか。
手斧を使ってたことから知恵を持つとは思ってたけど、予想以上に厄介だね。
たぶん亀オークも、色んな種類に進化するんだろう。
その進化種ごとに適切な役割を担っていて、軍隊として活動する。
下手をしたら人間の軍勢より手強いんじゃない?
どうする? どうしよう? このまま逃げ切れるかな?
あんまり考えてる余裕もない。
緑亀オークの足は、ボクたちよりも速い。
また襲ってくる。魔眼と毛針で迎撃。
一体一体は弱いけど、逃げる方向を塞ぐみたいに複数で迫ってくる。
まずいね。敵の作戦に嵌まっちゃってる。
オークのくせに頭もいいなんて。
ボクの焦りが伝わったのか、銀子もいまにも泣き出しそうだ。
可哀相だけど宥めてる余裕もない。
とりあえず『加護』を掛けて逃走を続ける。
また前方に緑亀オークだ。
でも様子がおかしい。というか、盾を持ってる。
いや、仲間を盾にしてるんだ。
甲羅に閉じこもった緑亀オークを、そのまま盾として使ってる。
なんて連中だ。
頭が良すぎる。そして必死すぎる。
そこまでしてボクたちを追い詰めたいのか?
いったい理由は―――ああもう、考えるのは後だ。
盾オークの両脇から、ボクたちを包囲するみたいに別の緑亀オークが襲ってくる。
迎撃。また足止めされるけど仕方ない。
複眼からの魔眼でも、緑亀オークは吹っ飛ばせる。
毛針も貫通や爆裂なら通じる。甲羅部分で防がれなければ猛毒も効果アリだ。
一体一体は、本当に大した強さじゃない。
盾オークにしても、正面から『衝撃の魔眼』を打ち込むと吹っ飛んだ。
すぐさま毛針を打ち込んでトドメを刺す。
《行為経験値が一定に達しました。『高速撃』スキルが解放されました》
《行為経験値が一定に達しました。『衝撃の魔眼』スキルが上昇しました》
む? 高速撃? 名前からして素早い攻撃が得意になるスキルかな?
と、新しいスキルに構ってる場合じゃない。
ある程度は減らせたけど、まだまだ敵の数は残ってるみたいだ。
背後からの本体らしき足音も近づいてる。
参ったね。
徐々に追い込まれてきてる。
これは、本格的に軍勢と戦う覚悟を決めなきゃいけないみたいだよ。




