表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/185

31 竹だー!


 今日も今日とて森の中を歩く。

 銀子も斜め後ろを、とてとてとついてくる。

 似たような風景が続く森だけど、生えてる草木なんかは微妙に違ってきてる。

 それだけ新しい危険も潜んでるってことだ。

 飽きなくて済むのは良いことだけどね。


 『鑑定』も使い続けて、警戒しながら進んでいく。

 『鑑定知識』に記される文章が、少しずつ長くなってきたね。

 たぶん、それだけ詳しく書かれてるんだと思う。

 幾つか似たような単語が出てくるようにもなった。

 地名っぽいのもある。

 名前が付いてるってことは、人も住んでる、はず?

 まあ住んでいると信じよう。


 それにしても、けっこうな距離を歩いてきたはずだよね。

 人里の気配くらいは感じられてもいいのに。

 どれ、例によって木に登って辺りを確認してみよう。


《行為経験値が一定に達しました。『登攀』スキルが上昇しました》


 銀子を放っておくと、自分で木登りを始めて危ない。

 なので、ツタを絡めて背負う形で登っていく。

 肉体的には弱っちいボクだけど、『操作』で自分の足にも魔力を流せば、そこそこの力を出せる。

 子供を運ぶくらいなら魔力消費も大したものじゃない。

 体自体も地道に鍛えられてる。

 いざって時は、銀子を運んで逃げる必要もあるかも知れないからね。

 練習しておいても損じゃないよ。


《行為経験値が一定に達しました。『闘魔』スキルが解放されました》


 むむ? 闘魔? どういうこと?

 体に負荷を掛けてたのがよかったのかな。

 それとも、魔力を巡らせてたのがよかったのか。

 午後の時間にでも検証してみよう。


 いまはまず、周囲の確認。

 高い所の景色が面白いのか、銀子がはしゃいでるからね。

 落さないよう注意しないといけない。


 さて、ここから先は幾分か地形が変わってきてるね。

 丘陵地帯ってところかな。森も続いてるけど勾配のある地形になってきてる。

 あの丘の向こうは人里、だったら楽なんだけどね。

 これといって珍しい物は……ん? いいもの発見したかも。


 竹だ。バンブー材だ。

 まだ遠いけど、丘の下あたりにまとまって生えてる。

 あれが手に入れば、作れる物の幅が一気に広がるよ。

 筍も採れるって期待できるしね。


 よし。目標は決まった。

 今日はあの辺りまで進んでキャンプにしよう。

 そして種を確保する。

 あ、竹だから地下茎か。種タイプの竹もあるんだけど、どっちだろうね。

 魔力栽培が出来るタイプだといいなあ。






 で、竹林までやってきました。

 けっこう遠かったから、お昼を少し過ぎちゃったね。

 銀子の顔色に疲れが滲んでる。

 適当に伐採して、早目に休むとしよう。

 どうせ大きな物を作っても、いまは持ち運べないしね。

 その気になれば家だって建てられるんだけどなあ。


 まあ、ちぐらを作るくらいで我慢しておこう。

 それでボクが入って、銀子に持ってもらえば、まるでペットみたいに……、

 って、ペットじゃないよ。

 むしろ、ボクの方が面倒見てる側だからね。


 あー、だけど街を見つけたら、そういう作戦もアリかなあ。

 きっと見張りの兵士とかいるだろうし、すんなりとは入れないよね。

 プランのひとつとして考えておこう。

 さて、そのためにも、いまは竹を仕入れないと。


「ッ……ёεΓ、κτμ!」


 銀子がなにやら声を上げた。緊迫した面持ちだ。

 ボクは首を傾げつつ、周囲の様子を窺う。

 これといって、おかしな所は見当たらない。

 『五感制御』で常に感覚は強化してあるから、異変があれば銀子より先に察知できるはずだ。


 あ、でも待てよ。竹の匂いに違うものが混じってる。

 不快な匂いだ。

 銀子はこれに気づいたのか?

 声を顰めて身振り手振りで、銀子は引き返すように訴えてくる。


 うん。了解。

 詳しくは分からないけど、きっと危険が近づいているんだろう。

 ボクもそそくさと足を動かして、銀子の元へと駆け寄る。


 直後、風を裂く音が聞こえた。

 黒い影がボクの居た場所を掠める。銀子が悲鳴を上げる。

 高さ的に当たらない軌道だったけど、飛んできたそれの凶悪さは察せられた。

 斧だ。

 柄の部分が短くなっている手斧が、数本の竹を叩き割り、止まった。

 別の竹に刺さって止まったんだけど、とんでもない力が込められていたのが分かる。


 ボクは即座に銀子を背負って走り出す。

 同時に、背後へ向けて魔眼を発動。

 最近になって分かったけど、ボクの魔眼は、正面の単眼からだと威力が増す。

 逆に言うなら、全方位に配置されてる複眼だと威力が減衰するみたいだ。

 だからこの場合は全力が出せない。


 『衝撃』と『混沌』を受けて、竹林の奥にいたそいつらは足を止めた。

 そう、敵は複数いた。

 ぱっと見ると、なんと言うか……オークの集団だね。

 顔は豚で、五体を持った人型だ。

 音声付きの『鑑定』によると、『魔獣 ポーン・オーグァルブ』とかいうらしい。

 解説部分はよく分からないけど、たぶん名前は間違っていないはず。


 そのオーグァルブだけど、見た目はオーク&亀だね。

 頭部は豚、人間みたいな手足があって、亀みたいな甲羅が胴体を覆っている。

 太くて強そう。そして守りも固そうだ。

 『混沌』効果に掛かった一体の亀オークが、仲間に剣で斬り掛かるのが見えた。

 だけどその一撃は甲羅に弾かれる。

 剣の方が折れた。

 そして仲間に殴られて、派手に倒れる。


 ボクが見えたのはそこまでだった。逃げるのを優先したからね。

 相手は数体のみだったし、距離は充分に離れていた。

 魔眼を存分に使える距離だ。

 死毒を撒き散らせば勝てたと思う。

 だけど銀子がひどく怯えていたし、厄介な魔獣かも知れないと思って逃げた。


 ひとまず、奴等は追ってこないみたいだった。

 倒しておくべきだったのか? 逃げるべきだったのか?

 どちらが正解だったかは分からない。

 だけど少なくとも、あの竹林には近づかない方がよかったのだろう。

 この後、ボクはそれを思い知らされることになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ