31 竹だー!
今日も今日とて森の中を歩く。
銀子も斜め後ろを、とてとてとついてくる。
似たような風景が続く森だけど、生えてる草木なんかは微妙に違ってきてる。
それだけ新しい危険も潜んでるってことだ。
飽きなくて済むのは良いことだけどね。
『鑑定』も使い続けて、警戒しながら進んでいく。
『鑑定知識』に記される文章が、少しずつ長くなってきたね。
たぶん、それだけ詳しく書かれてるんだと思う。
幾つか似たような単語が出てくるようにもなった。
地名っぽいのもある。
名前が付いてるってことは、人も住んでる、はず?
まあ住んでいると信じよう。
それにしても、けっこうな距離を歩いてきたはずだよね。
人里の気配くらいは感じられてもいいのに。
どれ、例によって木に登って辺りを確認してみよう。
《行為経験値が一定に達しました。『登攀』スキルが上昇しました》
銀子を放っておくと、自分で木登りを始めて危ない。
なので、ツタを絡めて背負う形で登っていく。
肉体的には弱っちいボクだけど、『操作』で自分の足にも魔力を流せば、そこそこの力を出せる。
子供を運ぶくらいなら魔力消費も大したものじゃない。
体自体も地道に鍛えられてる。
いざって時は、銀子を運んで逃げる必要もあるかも知れないからね。
練習しておいても損じゃないよ。
《行為経験値が一定に達しました。『闘魔』スキルが解放されました》
むむ? 闘魔? どういうこと?
体に負荷を掛けてたのがよかったのかな。
それとも、魔力を巡らせてたのがよかったのか。
午後の時間にでも検証してみよう。
いまはまず、周囲の確認。
高い所の景色が面白いのか、銀子がはしゃいでるからね。
落さないよう注意しないといけない。
さて、ここから先は幾分か地形が変わってきてるね。
丘陵地帯ってところかな。森も続いてるけど勾配のある地形になってきてる。
あの丘の向こうは人里、だったら楽なんだけどね。
これといって珍しい物は……ん? いいもの発見したかも。
竹だ。バンブー材だ。
まだ遠いけど、丘の下あたりにまとまって生えてる。
あれが手に入れば、作れる物の幅が一気に広がるよ。
筍も採れるって期待できるしね。
よし。目標は決まった。
今日はあの辺りまで進んでキャンプにしよう。
そして種を確保する。
あ、竹だから地下茎か。種タイプの竹もあるんだけど、どっちだろうね。
魔力栽培が出来るタイプだといいなあ。
で、竹林までやってきました。
けっこう遠かったから、お昼を少し過ぎちゃったね。
銀子の顔色に疲れが滲んでる。
適当に伐採して、早目に休むとしよう。
どうせ大きな物を作っても、いまは持ち運べないしね。
その気になれば家だって建てられるんだけどなあ。
まあ、ちぐらを作るくらいで我慢しておこう。
それでボクが入って、銀子に持ってもらえば、まるでペットみたいに……、
って、ペットじゃないよ。
むしろ、ボクの方が面倒見てる側だからね。
あー、だけど街を見つけたら、そういう作戦もアリかなあ。
きっと見張りの兵士とかいるだろうし、すんなりとは入れないよね。
プランのひとつとして考えておこう。
さて、そのためにも、いまは竹を仕入れないと。
「ッ……ёεΓ、κτμ!」
銀子がなにやら声を上げた。緊迫した面持ちだ。
ボクは首を傾げつつ、周囲の様子を窺う。
これといって、おかしな所は見当たらない。
『五感制御』で常に感覚は強化してあるから、異変があれば銀子より先に察知できるはずだ。
あ、でも待てよ。竹の匂いに違うものが混じってる。
不快な匂いだ。
銀子はこれに気づいたのか?
声を顰めて身振り手振りで、銀子は引き返すように訴えてくる。
うん。了解。
詳しくは分からないけど、きっと危険が近づいているんだろう。
ボクもそそくさと足を動かして、銀子の元へと駆け寄る。
直後、風を裂く音が聞こえた。
黒い影がボクの居た場所を掠める。銀子が悲鳴を上げる。
高さ的に当たらない軌道だったけど、飛んできたそれの凶悪さは察せられた。
斧だ。
柄の部分が短くなっている手斧が、数本の竹を叩き割り、止まった。
別の竹に刺さって止まったんだけど、とんでもない力が込められていたのが分かる。
ボクは即座に銀子を背負って走り出す。
同時に、背後へ向けて魔眼を発動。
最近になって分かったけど、ボクの魔眼は、正面の単眼からだと威力が増す。
逆に言うなら、全方位に配置されてる複眼だと威力が減衰するみたいだ。
だからこの場合は全力が出せない。
『衝撃』と『混沌』を受けて、竹林の奥にいたそいつらは足を止めた。
そう、敵は複数いた。
ぱっと見ると、なんと言うか……オークの集団だね。
顔は豚で、五体を持った人型だ。
音声付きの『鑑定』によると、『魔獣 ポーン・オーグァルブ』とかいうらしい。
解説部分はよく分からないけど、たぶん名前は間違っていないはず。
そのオーグァルブだけど、見た目はオーク&亀だね。
頭部は豚、人間みたいな手足があって、亀みたいな甲羅が胴体を覆っている。
太くて強そう。そして守りも固そうだ。
『混沌』効果に掛かった一体の亀オークが、仲間に剣で斬り掛かるのが見えた。
だけどその一撃は甲羅に弾かれる。
剣の方が折れた。
そして仲間に殴られて、派手に倒れる。
ボクが見えたのはそこまでだった。逃げるのを優先したからね。
相手は数体のみだったし、距離は充分に離れていた。
魔眼を存分に使える距離だ。
死毒を撒き散らせば勝てたと思う。
だけど銀子がひどく怯えていたし、厄介な魔獣かも知れないと思って逃げた。
ひとまず、奴等は追ってこないみたいだった。
倒しておくべきだったのか? 逃げるべきだったのか?
どちらが正解だったかは分からない。
だけど少なくとも、あの竹林には近づかない方がよかったのだろう。
この後、ボクはそれを思い知らされることになった。




