29 少したくましくなったみたい
《条件が満たされました。『生命干渉』スキルが解放されました》
おはようございます。
爽やかな朝です。
だけど少し苦しい。
原因は、銀子がぎゅぅっと抱きしめてきてるから。
《行為経験値が一定に達しました。『耐久』スキルが上昇しました》
って、おい! スキル上がるほど力込めないでよ!
それに、そろそろ起きる時間だ。
毛球でぽふぽふと顔を叩いてやる。起きろー。
うぅん、とか言いながら、銀子がのっそりと体を起こす。
眠たそうに目を擦る。
まあ夕べは遅くまで状態異常と戦ってたからね。
ボクも少しだけ眠い。
だけど動けるなら、規則正しい生活は続けていかないとね。
ほら、起きる起きる。
ボクを撫でてないでいいから。
嬉しそうに笑ってないで、顔でも洗ってきなさい。
昨日、ボクがまず試したのは、銀子の体内にある魔力を操ることだった。
『吸収』は危険すぎる。
だけど魔力の扱いなら得意分野だ。
破魔による状態異常を受けても、ボクはどうにか魔力の乱れを抑えられた。
同じように、銀子の魔力も抑えられないかと試してみた。
その結果は失敗だった。
そもそも魔力が動く理屈からして分かってないからね。
意思に従ってくれる、と経験から判明しているだけ。
だけど他人の魔力は、ボクの意思には反応してくれなかった。
次に、ボク自身の魔力を少しだけ送り込んでみた。
『栽培』の要領でね。
偽リンゴを育てたり、改良しようとした時と同じだ。
今回は魔力で魔力を押さえつけようとした訳だけど、これも失敗だった。
不可能ではなさそうだったけど、銀子の体が耐えられそうになかった。
体内で喧嘩か、下手をしたら爆発が起こってるようなものだからね。
銀子が苦しみだしたので魔力を引っ込めた。
だけど、その時に『生命干渉』のスキルが解放された。
字面からして、そこはかとなく危険が漂うスキルだ。
手に入れた際に、カルマが300くらい減ってたし。
スキルの詳細は未だに分からない。
ただ、生命そのものに何かしらの影響を与えられるのは確かだろうね。
だから頼ってみることにした。
銀子の腕に刺した毛針を介して、また少しずつ魔力を送り込んだ。
『生命干渉』が解放された時と同じように。
今度は乱れを押さえつけるためじゃなくて、『干渉』するために。
命の危機に対して、根本的な解決方法がひとつある。
ボクが最初に死の予感を覚えた時も、”そうして”生き延びられた。
だから今回も、銀子に対して望んだことはひとつだ。
”強くなれ”、と。
その意志に沿うみたいに魔力が流れていくのを感じられた。
膨大な魔力消費が必要だったけど、幸いと言っていいのか、魔力が溢れてくる状態だったから不足はしなかった。
魔術式を描く時と同じようなものだ。
明確な結果をイメージできていれば、魔力はそれを実現しようと誘導してくれる。
そよ風に撫でられるくらいの繊細な誘導だけどね。
おまけに、『破魔』状態でボクの魔力も乱れていた。
大波に揺れる船の上で蜘蛛の糸を刺繍していくようなものかな。
さらに加えて、術式暴走で痛い目を見るのは経験済みだ。
かつてない膨大な魔力が暴走したら―――たぶん、ボクも生きていなかったはず。
だけど銀子の体内で複雑な魔力模様は組みあがった。
小さな体から銀色の光が溢れて、しばらくして、異変は治まっていた。
恐る恐る、ボクは銀子に近づいた。
あ、もちろん離れて作業してたんじゃないよ。
毛針を刺せる距離で、『大治の魔眼』も発動させてたからね。
銀色に輝き出した時に、咄嗟に木陰へ逃げ込んだだけ。
それくらいは許されるでしょ。
ともあれ、銀子の容態は落ち着いていた。
少し頬が上気してたけど、蒼ざめた顔色よりはずっと健康そうに見えた。
そうして夜まで様子を見て、魔眼による治癒も掛け続けて―――、
「ημっο!?」
銀子は元気に朝食を頬張ってる。
うっかり木苺の実を潰しちゃって、顔を汁まみれにしてた。
はいはい、布巾はここだよ。
拭いてあげるから大人しくしてなさい。
べたべたの手で撫でるんじゃありません。
はぁ。子供のこういうところが苦手なんだけどなあ。
なんだって、こんな面倒なことしてるんだろ。
騒がしい朝食を済ませて、簡易野営地を引き払う。
そうしてボクたちは旅を再開した。
しかし、この旅ってまだ始めたばかりだよね?
いきなり問題ばかり起こってる気がする。
魔獣に襲われるのは、まあ覚悟してたから許容範囲内だ。
やっぱり一番の問題は食料だね。
あの根っ子が食べられなくなったのは痛い。
木苺もそんなに残ってないし、早目に新しい食料を確保しないといけないね。
なのに、銀子は呑気に笑ってる。
鼻唄まで混じえて。
「κτμ~!」
はいはい、なに? 撫でたかっただけ?
そういうのはいいから、静かに歩きなさい。
それにしても、さっきから同じ単語ばかり口にしてるね。
もしかして、ボクの名前のつもり?
ん~……まあ、いいか。響きは悪くないみたいだし。
こっちだって勝手に銀子とか名付けてるしね。
ともあれ、旅はこれからだ。
ボクたちの戦いは始まったばかり。
あ、いやいや、戦いなんて起こらない方がいいよね。
平穏な旅を期待しよう。
期待するだけなら構わないよね?
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魔獣 オリジン・ユニーク・ベアルーダ LV:3 名前:κτμ
戦闘力:2480
社会生活力:-2150
カルマ:-3780
特性:
魔獣種 :『九拾針』『高速吸収』『変身』『浮遊』
魔導の才・極:『操作』『魔力大強化』『魔力集中』『破魔耐性』『懲罰』
『万魔撃』『加護』『無属性魔術』『錬金術』『生命干渉』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・参:『器用』『栽培』『裁縫』
不動の心 :『極道』『我慢』『恐怖大耐性』『静寂』
生存の才・壱:『生命力大強化』『自己再生』『自動回復』『激痛耐性』
『猛毒耐性』『物理大耐性』『闇大耐性』
知謀の才・壱:『鑑定』『沈思速考』『記憶』『演算』
戦闘の才・壱:『破戒撃』『回避』『強力撃』『威圧』
魂源の才 :『成長大加速』『支配無効』
共感の才・壱:『精霊感知』『危機感知』『五感制御』
魔眼の覇者 :『治癒の魔眼』『死毒の魔眼』『混沌の魔眼』『衝撃の魔眼』
『破滅の魔眼』
閲覧許可 :『魔術知識』『鑑定知識』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『悪逆』『魔獣殺し』『無謀』『罪人殺し』『戦士』
『悪業を積む者』『根源種』『善意』『エルフの友』
カスタマイズポイント:430
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