24 サバイバル生活にも潤いを求めたい
焼き魚に齧りつく。
ボクの分は要らないってアピールしたんだけどね。
銀子がどうしてもって言いたげに押しつけてくるから。
まあ十匹以上獲れたし、余裕がある内は一緒に食べておこう。
ちなみに、『塩味針』で軽く味付けもしてある。
なんとこれ、毛針の先から塩水が出ます。
薄味なのはレベルが低いからかね。
ちなみに『辛味針』だと赤い水が、『苦味針』だと黒い水が出た。
魚に飲ませたけど生きてたので、たぶん無害だと思う。
不思議だけど、魔法効果ってことで納得しておく。
でも栄養素とかは摂れてないはずだから、頼りすぎると危険だよね。
いや、でも待てよ。
単純に魔法効果って考えたけど、生物的に作り出してるとしたらどうだろう?
人間だって体内で色んな物質を作れたはずだし……。
ああ、これは考えても分からない疑問だね。
自分の体液で味付けとか考えたくもない。
放置で。頭の片隅に追いやっておこう。
ともあれ、焼き魚は美味しいです。
銀子も無邪気に笑ってる。
魚を捕まえられたのも、火を用意できたのも彼女のおかげだ。感謝しておこう。
《特定行動により、称号『善意』を獲得しました》
《称号『善意』により、『闇大耐性』スキルが覚醒しました》
お、カルマが100ポイントプラスされた。
社会生活力もちょこっと上方修正。
焼け石に水って感じだけどね。
まあいいや。いまは焼き魚の美味しさの方が大切だよ。
ん? 銀子の頬っぺたに小骨がついてる。
取ってあげよう。
黒毛をブラシみたいにして、よし、綺麗になった。
お礼のつもりなのか、銀子もボクを撫でてくる。
ん~、こうやって撫でられるのって、子供扱いされてるみたいで好きじゃないんだけどなあ。
でも幼女のすることだしね。
寛大な心で受け止めてあげよう。
余った魚は、銀子が魔術で氷漬けにしてくれた。
干物にでもしようかと思ってたけど、作り方がよく分からないし、こっちの方が確実だね。
銀子は本当に役に立ってくれるいい子だ。
さて。食料に余裕が出てきたので、午後からは拠点の作成を始める。
同時に、スキルを鍛えたりもしたい。
とりあえず、人攫いどもの荷物なんかもまとめて回収する。
森の探索もしつつ、川に近い位置へ移動。
そこで拠点作成をするよ。
まずは、例の酸っぱい偽リンゴの栽培から。
拠点を囲う形で生やしていくつもりだ。
この偽リンゴ、魔力を注ぐと驚くくらいの早さで成長するんだよね。
魔獣はこの実が危険だって知ってるはず。
最初に見掛けた時に採られてなかったのは、それが理由じゃないかなあって考えてる。
だから、偽リンゴが生えてれば魔獣は近づいてこないんじゃないかな?
まあ期待は薄いけど、下手な柵で囲うよりは安全だと思う。
でもさすがに、一日で何十本も成長させるのは無理だ。
とりあえず、四方に数本ずつ配置しておく。
成った偽リンゴを見上げて、銀子が食べたそうな顔をしてた。
なので、危ないと説明しておく。
地面に絵を描いてね。
ドクロマークとか、リンゴを食べたボクが萎んでいく様子とか、そんな感じで。
なんとなくは伝わったはず。
それでも銀子は不思議そうに首を傾げていたので、ほんの一欠片だけ渡してみた。
指先ほどの一欠片だよ。
ちょっと舐めただけで、銀子はミャぁ~と悲鳴を上げた。
ウミネコだった!?
って、違うね。とにかくすぐに吐き出したので問題はない。
『魔力感知』で探っても、魔力が減ってる様子はなかった。
偽リンゴの危険性も理解してくれたみたいだ。
《行為経験値が一定に達しました。『栽培』スキルが上昇しました》
栽培と言えば、ひとつ思いついたことがある。
少しだけど生命力を感知できるようになったので、それも操作もできないかなあ、と。
雑草の中には、魔力を送り込むと枯れちゃう種類もあったんだよね。
なので、生命力ならどうかと考えてみた。
まあ感じられるのと、それを操れるのは別なんだろうけど。
とりあえず試してみる。
まずは偽リンゴに毛針を刺して、そこから自分の生命力を送り込むイメージで。
さすがに生命力を失うのは怖いから慎重にね。
ん~……やっぱり簡単にはいかないか。
そもそも生命力って動かせるの?、っていう疑問もある。
魔力は操作できてるけど……ああ、システムに聞いてみればいいのか。
『生命力操作』って取れるー?
…………応答なし、と。
何かしらの条件を満たしてない可能性もあるね。
だけど、『魔力操作』みたいに簡単にはいかないって認識でいいかな。
そうなると、『栽培』で出来るのは魔力を送り込むことだけになるけど……、
魔眼で治癒でも掛けてみる?
幾分か成長は早くなるかも……あ、なにも治癒じゃなくてもいいのか。
魔力を養分みたいに送るだけだからダメなんだ。
もっとこう、刺激を与えるようにすればいいのかも。
イメージとしては、魔力による遺伝子組み換え?
そこまではいかなくても、何かしらの変化は起こるかも知れない。
こういう実験って、けっこう好きなんだよね。
まずは偽リンゴに毛針を刺して、その先から細い魔力糸を伸ばしていく。
種に侵入した糸は、これまでは単純に魔力を注ぎ込むだけだった。
今回は、じっくりと種の中にある魔力を観察する。
元からある種の魔力構成を、ボクの魔力で少し変えてやる。
積み木の幾つかを、同じ形の、違う色の積み木と取り替えてやる感じだね。
幾つかの種に同じような作業をして、とりあえず放置だ。
明日まで様子を見て、それから育ててみよう。
それぞれにどんな手の加え方をしたのか、覚えておかないといけないね。
《行為経験値が一定に達しました。『記憶』スキルが上昇しました》
メモ用紙が欲しくなるね。
どんな改造をしたのか、書き留めておきたい。
一目で分かるようになれば、作業効率だって上がるだろうし。
それに、『鑑定』がもっと使えるスキルなら……、
あ、でも知識系の問題なら、一応は救済措置があるんだよね。
『魔術知識』なんてものがあった。『共通言語』も。
だったら、他の知識もあるかも知れない。
例えば『植物知識』とか、システムさんは用意してないのかな?
《『植物知識』は閲覧許可を取得可能です》
《カスタマイズポイント:50が必要です。取得しますか?》
あった! すぐに欲しいところだけど、ここは我慢だ。
ボクだって、そう何度も騙されはしないよ。
どうせまた本が出てきて、それが読めないとかいうオチなんだから。
ん~、でもなあ、これまで”閲覧許可”ってひとつしか取ってないんだよね。
『魔術知識』のみ。
他のはもしかしたら読めるんじゃないか、とも思えちゃう。
そうでなくても、言葉を学ぶ参考にはなりそうだ。
ポイントも安いくらいだしね。
いや、でも待った。焦るべきじゃない。
他の”知識”もあるか確かめてからでも遅くはないよね。
《『魔獣知識』は閲覧許可を取得可能です》
《カスタマイズポイント:50が必要です。取得しますか?》
《『鑑定知識』は閲覧許可を取得可能です》
《カスタマイズポイント:100が必要です。取得しますか?》
ぬぬぬ……これは誘惑に駆られるね。
とりわけ『鑑定知識』は気になる。役立ちそうだ。
ポイントはなるべく”才能”を伸ばす方向で使いたいんだけど……、
ええい、取っちゃえ!
《申請を受諾しました。『鑑定知識』への閲覧許可を取得します》
《残りカスタマイズポイントは400です》
それじゃあ早速―――ぼふっ?
背中に柔らかな感触が当たった。
銀子だ。抱きついてきて、なにやら不満そうに頬を膨らませてる。
さっきまで黙ってボクを見守ってたけど、どうやら退屈してきたらしい。
まあ子供だから仕方ないか。
こっちの魔力も減ってきたし、回復しつつ相手をしてあげよう。
でも子供の遊び相手なんてしたことないなあ。
何すればいいんだろ?
学校みたいに授業でもする?
むしろ、こっちが魔術を教えてもらいたいくらいだよね。
だけど今は回復中だし……。
ひとまず、算数でも教えてみようか。
適当な木枝を使って、地面に書いていく。
○の下に1。
○○の下に2。
こんな感じで、まずは数字から教えていく。
最初は戸惑っていた銀子も、数字はすぐに覚えた。
足し算と引き算も、一桁なら胸を張って答えてみせる。
二桁三桁になると、やや苦戦した。
眉根を寄せて恨めしそうな顔をする。
そんな顔をしてもダメだ。勉強はちゃんとしないとね。
とりわけ算数は基本だから、どんな場面でも役に立つはず。
筆算の仕方を教えてあげると、すぐに理解した。
やっぱり頭のいい子だね。
ご褒美にお菓子をあげたくなるけど、残念ながら雑草と危険果実しかない。
あ、そうだ。
お菓子はないけど、ジュースもどきなら作れるね。
まずは人攫いどもが持ってた木製のコップを取り出す。銀子に水と氷を魔術で用意してもらう。
そこに、ボクの『甘味針』と、偽リンゴの酸っぱい果汁をちょこっと。
念の為に毒見してから、銀子へと渡す。
さあ、ごくっといってみなさい。
小首を傾げてから、銀子がコップを傾ける。
わぁっと大きく目を見開いた。
一気に飲み干して、太陽みたいな笑顔を輝かせる。
うん。喜んでもらえたようでよかった。
おかわりを欲しそうな顔もするけど、残念ながらボクは首を振る。
さっき試したけど、偽リンゴの果汁も破魔ダメージを受ける。
ある程度の量を飲めば、だけどね。
だから銀子に渡したジュースもどきには、ちょこっとしか混ぜていない。
もう一杯~!、みたいなことを繰り返し言ってくる銀子を宥めて、勉強に戻る。
今度は掛け算だ。
三の段くらいまではクリアしたいね。
それが終わったら、少しお昼寝でもしようかな。




