23 フィーッシュ!
ボクはいま、燃えてる。
比喩じゃなくて。
正しく、文字通りに、自慢の黒毛に火がついてる。
うっかり焚火に近づきすぎたのがよくなかった。
この体、どうやらかなり燃え易いみたいだ。
『治癒の魔眼』を使っても治まらない。
炎に巻かれるなんて、十歳の時以来だね。
あの時はどうやって助かったんだっけ―――。
あ、銀子が水を掛けてくれた。
水冷魔術も使えるのか、助かったよ。
なんとか火が消し止められたところで、心配そうに銀子が覗き込んでくる。
大丈夫。問題ない。
けっこう火傷したけど死ぬほどじゃない。
『治癒の魔眼』、発動。
チリヂリになった毛も、『自己再生』を使えばすぐに新しいのが生えてくる。
毛針を使った後も、ちょっとの魔力消費で再生できてたからね。
ぽんぽんと頭を撫でてあげると、銀子もほっと息を吐いた。
揃って朝食を再開する。
今朝のメニューは、干し肉のスープだ。
保存食なのであまり味は期待できないけど、折角、銀子が作ってくれたものだ。
有り難くいただくとする。
ちなみに、食器も人攫いたちの荷物の中にあった。
あんな連中の食器を使い回すのは嫌だけど、まあ状況的に仕方ない。
『操作』で食器を動かして、スープを口へ運んでいく。
幼女の手前、犬食いするのも行儀悪いしね。
でも毛玉が丁寧に食べるのも変なのかな?
そんなボクを銀子はしげしげと見つめていた。
早く食べた方がいいよー。
折角作ったのに、冷めちゃうじゃないか。
身振り毛振りで促してやると、銀子は小さく笑いながら食事を再開した。
食事の後は、また食事の準備だ。
食料確保とも言う。
このサバイバル生活が始まってから続いてる課題だけど、一気に深刻さが増した。
ボクだけなら、数日間に一匹でもウサギを狩れば事足りる。
いざとなれば、樹液と雑草だけでも生きていけそうだ。
でも銀子はそうもいかない。
子供はしっかりと食べないとね。
たぶん、育ち盛りだろうし。
数日分は、人攫い連中が持っていた保存食で間に合わせられる。
その間に安定した食料源を見つけておきたい。
とはいえ、ボク一人の時もけっこう探し回ってはいたんだよね。
なのにまだ、まともな果実ひとつすら発見できていない。
そんな訳で、今回は川に足を運んでみた。
ボクが歩く後ろを、銀子がとてとてとついてきている。
草で編んだ籠と網を背負いながら。
そう、目的は魚だ。
一度はワニに出くわしたけど、あんな大物と何回も出会う可能性は低いはず。
実際、昨夜に銀子を連れてきた時は出くわさなかったからね。
『五感制御』に『危機感知』もある。
注意深く見張っていれば、ワニが現れる前に気づけるはずだ。
そうして川に到着。
周囲を見渡す。
ウサギと目が合った。
え? いきなり獲物発見? 探してたのはそっちじゃないんだけど。
まあいいや。
ウサギがすぐさま走り出して迫ってくる。
銀子も気づいて、泣き出しそうな悲鳴を上げた。
あれ? 可愛いウサギを見ての反応じゃないよね。
怖い魔獣だって認識してるのかな。
ともあれ、『九拾針』発射。
『毒針』から進化したスキルだけど、実に”進化しすぎている”スキルだった。
ステータスに表示されたスキル名を見て首を傾げてたらね、現れたんだよ。
別ウィンドウが。
『九拾針』用の専用メニュー画面だった。
それによると、様々な種類の針が扱えるらしかった。
既に持っていた『毒針』や、その上位っぽい『猛毒針』。
見るからに危なそうな『爆裂針』や『石化針』、『麻痺針』、『呪怨針』。
変わり種としては『辛味針』や『甘味針』、『笑針』や『泣針』なんてものまであった。
どんな針やねん!、って突っ込んだよ。
隣にいた銀子には、ビクッ、て肩を縮めて驚かれたけどね。
さすがにメニューで機能を切り替えられはしなかった。
そこまでゲーム的じゃない。この世界のルールだね。
でも意識すれば、どの針を使うか簡単に選べる。
今回使ったのは『貫通針』だ。
数十本まとめて放たれた針は、その名前通りにウサギを貫通していった。
当然、ウサギは穴だらけになって倒れる。
じっくりと観察して、『鑑定』も意識して、死体になったのを確認する。
《行為経験値が一定に達しました。『鑑定』スキルが上昇しました》
と、身を縮めていた銀子が抱きついてきた。
何事か言葉を並べて、しきりにボクの頭を撫でる。
瞳には涙を溜めてるけど、嬉しそうに笑っていた。
お返しに、ボクもぽんぽんと頭を撫でてやった。
さて、銀子が落ち着くのを待って行動再開。
ウサギは血抜きのために、適当な木枝に吊るしておく。
いざという時は身代わりとして使おう。
もう一度周囲の安全を確認してから、今度こそ本命の作業開始。
持ってきた網を『操作』して、川へと放り入れる。
ボク自身が川に入るのは危ないからね。
深さはそんなにないけど、この毛玉体だと沈むと危ない。
なんとなく浮きそうな気はするけどね。
こう、ボールみたいに。
試さないでおこう。
ボクの役目はあくまで魚を見つけることだからね。
射程範囲である十メートル内なら、離れていても網は『操作』できる。
ん~、でも肝心の魚がいないみたいだ。
岩陰とかに隠れてるのかな?
どっちにしても、水の中だと発見し難いんだよねえ。
何かいいスキル無いかな?
探知系? 魔力感知があるから、生命力感知とか?
《『生命力感知』スキルは、すでに解放されています》
やっぱりあるんだ。
というか、すでに解放されている?
ん~……分からないな。魔力なら感知できるんだけど。
ボクが鈍いのか、意識していなかったからか……、
あ、銀子が川に入っていった。
魚探しを手伝ってくれるつもりかな?
まあいいや。流れも激しくないし、危なくはないでしょ。
こっちはこっちで、『生命力感知』を試してみよう。
スキルは存在するんだし、あとは努力次第のはず。
まずは、自分自身の生命力とやらに意識を傾けてみようか。
《行為経験値が一定に達しました。『生命力感知』スキルが上昇しました》
んん…………初めてだからか、やっぱり微妙だね。
ぼんやりと気配みたいなのは感じられる。
だけど自分のだけで、他のものには感覚が及ばないみたい。
この感覚が正しいのかも分からないんだよね。
魚みたいな小さなものを見つけるのも難しそうだ。
魔法系のスキル以外は、やっぱりボクは苦手なのかな?
少なくとも、もうちょっと練習が必要になりそうだ。
これなら普通に目で探した方がよさそう、と、魚発見。
銀子が岩の下から追い出してくれた。
逃がさないよう、魚に対して『混沌の魔眼』も使ってみる。
基本的には混乱効果みたいだけど、相手の動きも止められるからね。
後は、網で掬い上げてフィニッシュ。
あ、魚だけにっていうシャレじゃなくてね。
ともあれ、そこそこに大きな魚確保だ。
銀子用にすれば一食分くらいはあるね。
嬉しそうに銀子もはしゃいでる。
この分なら、当面の食事は問題なさそうだね。




