22 幼女と一晩を共にする
人攫いどもが作った野営地から少し離れて、ボクと銀子は休むことにした。
とりあえず持ってきたのは毛布と軽い手荷物だけ。
もう夜中だし、銀子は疲れてるみたいだから早く眠った方がいいからね。
細かな作業は明日に回すことにした。
薄い毛布に包まった銀子は、すやすやと寝息を立てている。
ボクを抱えたまま。
なんだろう、この毛玉体って撫でてると落ち着くのかな?
自分だと毛触りとかよく分からないんだよね。
もしかしたらキューティクルばっちりでふかふかなのかも。
ボクの方も温かいので、とりあえず抵抗せずに身を任せてる。
あ、ちなみに寝る前に、川に寄って水浴びはさせておいたよ。
ちょっと怖がりすぎて匂ってたからね。
まあ朝になれば、服もそれなりに乾いてると思う。
さほど寒い季節でもないから大丈夫なはずだ。
ついでに、軽い怪我もしてたので『治癒の魔眼』で治しておいた。
そうして銀子はすぐに眠ったけど、ボクには少し考えなきゃいけないことがある。
一気にレベルが上がって、称号やらスキルやらが増えたからね。
まず『罪人殺し』。
これは文字通り、あの男たちが罪人だったってことだろうね。
うん。始末しといてよかった。
次の『戦士』と『悪業を積む者』。
こっちはシステムメッセージが少し違ったね。
「特定行動」じゃなくて、「条件を満たしました」だった。
悪業の方はカルマだろうねえ。
ちょうど-3000を越えるくらいだったし。
そうなると、戦士の方は戦闘力の数値じゃないかって予測がつく。
1000を越えたからかな?
それくらいで「戦士」って名乗れるなら、ひとつの判断基準になるね。
少なくとも、村人Aよりは強そうだ。
そういえば、この称号自体には効果ないのかな?
例えば「戦士」だったら戦いの時に有利になるとか、腕力が強くなるとか。
ん~、まあ考えても分からないか。
それにしても、称号の中に三つも「殺し」があるって……。
「悪」も二つあるね。
このシステムが作る称号は、どうにも偏ってる気がするよ。
ボクは何も悪いことなんてしてないのにね。
まあシステムへの不満はともかく、スキルの検証もしないといけない。
一番気になるのは、新しく獲得した『懲罰』かな。
『極道』も気になるけど、謎なので放っておこう。
ひとまず『我道』のランクアップスキルだって覚えておけばいい。
『懲罰』は、基本的に『破戒撃』と同じように使えるみたいだ。
攻撃用のエンチャントだね。
『魔導の才』に分類されてるから、特殊な魔法攻撃でもあるみたいだ。
毒針に込めて使ったら、白く光ってた。
名前からすると、罪人とか悪人への特効スキルかなあ?
ちょっと試してみようか。
眠ってる銀子はそのままにして……あ、抱きしめられた。
むう。まだ一人寝ができない子供なのかなあ。
だけどこの森はそんなに甘くない。
ボクは容赦無く抜け出させてもらう。
ぽんぽんと幼女の頭を撫でて、そぉっと起こさないように。
寝床から少し離れて、適当な木枝を拾い上げた。
『操作』のおかげで、一旦毛針を刺せば、魔力糸を介して動かせる。
傍目には念力みたいに見えるかなあ。
ともあれ、その小さな枝に『懲罰』を乗せて、自分へ向けて振ってみた。
白く光った木枝が当たる。
直後、全身に痺れが走った。
お? おお? これはけっこう効くかも。
抵抗し難いような不思議な痛みがある。
ほとんど力を込めなかったのに、数秒くらいは動けなくなったよ。
やっぱりカルマに比例してダメージを受けるのかな?
だとしたら、ボクにとって危険な攻撃になるかも。
対応できる耐性があるなら、早目に鍛えておいた方がいいかも知れない。
ってことで、何度かぺしぺしと叩いてみる。
その度に、痺れるような痛みが襲ってくるけど我慢だ。
《行為経験値が一定に達しました。『懲罰』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『極道』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『我慢』スキルが上昇しました》
むむ? これ、耐性が上がったのか?
だけど、どっちが『懲罰』に対応してるのか分からないね。
ん~、どちらかと言えば、『極道』の方かなあ。
『我道』からの進化だし、我が道を行くから懲罰なんて知らん!、みたいな。
でもこれ、そもそも耐性系のスキルなのかな?
とりあえず、『我慢』とともに上げていくって方針でいいかな。
対応できる手段が皆無じゃない、って分かっただけでも好しとしよう。
さて、次は最大の検討項目だ。
進化可能になった。しかも、選択先が四つもある。
エンジェリック。デモニック。カオティック。
そして、オリジン・ユニーク。
これまでの進化先と違って、どれも強そうだね。
少し迷わないでもないけど、選ぶのは最後のでいいと思う。
原初の。唯一の。
どう進化するか分からない怖さはあるね。
だけど逆に言えば、一番可能性が広い選択肢でもある。
なにより、進化条件が特殊だったみたいだしね。
うん。踏み込んでみよう。
選択肢は決まった。
この簡易野営地は、周囲をぐるっと草で覆ってるから、意識を失っても危険は少ないと思う。
ちょこっと魔力を注いで、急いで草を成長させたんだよね。
中には魔力だと枯れちゃう種類もあったのは参考になった。
おかげで『栽培』も地味に鍛えられたよ。
まあ、進化しても大丈夫だよね。
気掛かりなのは、進化した後の姿だけど……銀子にも分かるかなあ。
ユニークとか付いてるから、今度は大幅な変化があるかも知れない。
でもベアルーダって種族の内なのかな?
だとしたら、そう大きくは変わらない?
これも考えてても仕方ないか。
《行為経験値が一定に達しました。『沈思速考』スキルが上昇しました》
それじゃあ、進化するよ。
システムさん、お願い。
そして、おやすみなさい。
《申請を受諾。進化を開始します》
《原初種への進化です。魂の解析を行います》
《原初種を設定しています。少々お待ちください》
《魔獣、オリジン・ユニーク・ベアルーダへの進化が完了しました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《進化により、『毒針』が『九拾針』へと強化されました》
《進化により、『万魔撃』スキルが覚醒しました》
《進化により、『破滅の魔眼』スキルが覚醒しました》
《特殊条件が満たされたため、称号『根源種』を獲得しました》
《称号『根源種』により、『加護』、『無属性魔術』スキルが大幅に上昇しました》
《称号『根源種』により、『魂源の才』が覚醒しました》
《『魂源の才』取得により、関連スキルが解放されました》
ゆさゆさと揺さぶられる。
柔らかくて温かな感触が肌に当たってるのが分かった。
ゆっくりと目蓋を押し上げていく。
「@、@ξyu」
目の前に銀子がいて、小首を傾げながらボクの様子を窺っていた。
もう朝陽が昇ってる。
どうやら、けっこう長い時間意識を失ってたみたいだ。
疲れてたのもあるのかな。
ともかく、先に起きた銀子に心配させちゃったらしいね。
軽く前脚を上げて、手を振るみたいに朝の挨拶をする。
言葉は分からないけど、銀子も少し安心したみたいな顔をして小さく呟きを返してくれた。
どうやらボクの進化は無事に終わったようだ。
銀子の様子からすると、あんまり姿は変わってないのかな?
と、身を起こそうとしたところで、足下に違和感があった。
ごっそりと黒い毛が落ちてる。
これ、ボクから抜け落ちたものだよね?
んん? でもボクの姿は相変わらずの黒毛玉っぽい。
だけど少し艶は良くなかったかな。
よく見れば色の違いもある?
前は黒だったけど、今度はどちらかと言えば闇色って感じかな?
微妙な違いだ。
まあ、いいか。どうせ大して変わらない。
折角だし、抜け落ちた黒毛は集めて保管しておこう。
後で編んで、何かに使えるかも知れないしね。
いっそ、ぬいぐるみでも作ってみようか。
銀子はどうやら、朝食の支度をしてくれるみたいだ。
人攫いたちが持ってた荷物から少しだけ食料も持ってきておいたからね。
保存食を取り出してる。
薪も集めてあるし……え? 火を点けた?
魔法だ。へえ、魔術を使えるんだ。
今度、教えてもらおう。
ボクも何か手伝おうかな。
あ、その前にステータスくらいは確認しておこうか。
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魔獣 オリジン・ユニーク・ベアルーダ LV:1 名前:なし
戦闘力:1850
社会生活力:-2820
カルマ:-3950
特性:
魔獣種 :『九拾針』『高速吸収』『変身』『浮遊』
魔導の才・極:『操作』『魔力大強化』『魔力集中』『破魔耐性』『懲罰』
『万魔撃』『加護』『無属性魔術』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・参:『器用』『栽培』
不動の心 :『極道』『我慢』『恐怖大耐性』『静寂』
生存の才・壱:『生命力大強化』『自己再生』『自動回復』
『激痛耐性』『猛毒耐性』『物理大耐性』
知謀の才・壱:『鑑定』『沈思速考』
戦闘の才・壱:『破戒撃』『回避』『強力撃』『威圧』
魂源の才 :『成長大加速』『支配無効』
魔眼の覇者 :『治癒の魔眼』『死毒の魔眼』『混沌の魔眼』『破滅の魔眼』
閲覧許可 :『魔術知識』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『悪逆』『魔獣殺し』『無謀』『罪人殺し』『戦士』
『悪業を積む者』『根源種』
カスタマイズポイント:500
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