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19 リンゴはハマの味


 仰向けに倒れた巨人の頭部からは、しばらく黒い靄が立ち昇っていた。

 そんなに長い時間じゃない。

 ボクが更新されたステータスを眺めてる間に、黒靄は完全に散っていった。


 前回はうっかり吸収しちゃった死毒だけど、対処を間違えなければ怖くない。

 強力でも、持続力の点では脆いみたいなんだ。

 揮発性が高いのか、魔法効果だからなのかは分からない。

 どちらにせよ、時間が経てば自然と消えていく。

 体内に入った毒効果そのものは残るけど、相手が死体になった以上は、そう長くは続かないはず。

 念の為、慎重にいくけどね。

 慎重に、ゆっくりと、巨人を『吸収』していく。


《行為経験値が一定に達しました。『吸収』スキルが上昇しました》


 味の方は、渋い緑茶みたいだね。

 体が緑色だから? もっと肉々しい味かと思ったんだけどねえ。

 美味しくも不味くもない。


 しかしこの『吸収』も不思議スキルだね。

 明らかにボク自身より大きな巨人を吸収できてる。

 なのに空腹感は満たされないし、お腹が膨れもしない。

 だけど生きるための活力にはなってるみたいだ。


 あ、でもボクの体自体はちょっと大きくなってるかな。

 もうソフトボールは確実に上回ってる。

 膨らんだっていうより、成長したって感じだね。

 レベルアップ効果もあると思う。


 さて、巨人もあらかた吸収した。

 ボロボロと崩れて風に散っていく。

 直接に食べれば空腹感も満たされるんだけど、まだ人型は抵抗あるね。

 それに、あんまりゆっくりもしていられない。

 ここ、更地だしね。

 こんな目立つ場所にいたら危ないので、さっさと移動する。


 今度こそ、まともな食料見つけたいね。

 もう甘い果物じゃなくてもいいや。

 キュウリとかナスとか大根とか、味のしない野菜でもいいから確保したい。

 そろそろ落ち着いて拠点を作りたいんだよね。

 あんな巨人もいるのに、多少の拠点を作っても安心できないのは分かってる。

 だけどスキル上げや検証もしたい。

 謎スキルもぼちぼち出てきたからねえ。


 レベルアップと同時に上がった『我道』も、放置してたけど気になるところ。

 なんだろうね? 我が道を行くスキル?

 我が侭が通るようになるとか?

 ん~……これといった変化は感じられないんだけどなあ。

 まあ持っておいて損はないのかねえ。

 森の探索を進めつつも、あれこれと考察してみようか。






 見つけた!

 『五感制御』で強化しておいた嗅覚に反応アリ。

 この匂いは林檎。まず間違いない

 異世界にも存在するのかどうか知らないけど、ともかく甘い果物の匂いだ。


 駆け出す。

 だけど、すぐに立ち止まる。

 なんだか前にもこんなパターンがあったような。

 そう、ウツボカズラの時だ。

 また匂いで誘って肉食植物が待ち構えてるなんてパターンも……?

 いや、だけどこの前とは違う匂いだしね。

 ボクだって落ち着いてる。

 冷静だ。いつもの常識的で人道的なボクのままだ。


《行為経験値が一定に達しました。『沈思速考』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『登攀』スキルが上昇しました》


 近づいてみると、本当に林檎みたいな果実が生っていた。

 まずは、じっと観察する。『鑑定』も意識してみる。

 どう見ても果物としか思えない。

 うん。そのままだね。

 あ、虫が食べてるのもある。小さな芋虫が、にょきっと頭を出してるよ。

 これは問題ない食べ物って証拠じゃない?


 よし。辺りには虫以外の生き物もいない。採り放題だ。

 急いで草を使って籠を編む。幾つか林檎を放り込んで、そそくさと退避。

 別段、悪いことをしてるワケじゃないんだけどね。

 だけど甘い匂いが漂ってるし、いつ何が現れても不思議じゃない。

 サバイバル生活は慎重に行動するのが鉄則だ。


 でもまあ、嬉しさで足取りが軽くなるくらいは許されるよね。

 初めてのまともな甘味だしねえ。

 ミミズも吸収したら甘かったけど、あれはまともとは言えないし。

 少し離れたところに川が流れているので、そことの中間で足を止める。

 日も暮れてきたし、今日はここらで休もうかね。

 木の上に寝床を作るとしよう。


 でも、その前に林檎を味わわせてもらおう。

 ふふん。わざわざ川に行って洗ってきたので、美味しそうに輝いてる。

 折角の甘味だし、綺麗に味わいたいよね。

 味覚強化も乗せて、と。

 それじゃあ、いただきます。

 がぶり。


 ぶっ!? べ、ば、ぇ―――すっぱぁっ!!

 なにこれ!?

 食感は林檎! 味わいはレモンと梅干し! その名は知らない謎果実!

 って、キャッチコピー考えてる場合じゃない。

 口の中がシュワンシュワンしてる。

 騙されたぁっ! 絶対に甘味だと思ったのに!


《行為経験値が一定に達しました。『破魔耐性』スキルが上昇しました》


 せめて味見しておけば―――って、そんな場合じゃなさそうだ。

 なに? 破魔って?

 一撃死させられそうな名前なんですが!


 耐性スキルが手に入ったってことは、この謎果実の影響だよね?

 毒じゃないみたいだけど、何かの状態異常が起こってる?

 あれ? でも、いまのところ気分が悪いとかはないよ?

 なんだろう。

 だけど異変が起こってるのは確実だろうし、放置するのは怖いね。


 とりあえず『治癒の魔眼』を発動させて……もう一口食べてみる?

 一口で耐性が獲得できるほどの異常なら、二口目ではっきりと判別できるはず。

 危険かなあ。

 でも治癒効果は発揮されてるし……あ、ちょっと待った。

 『治癒の魔眼』を切ってみる。


 …………。

 あ、分かった。

 いつもボクの魔力は『沈思速考』の効果で常時回復してるんだけど、それが失くなってる。

 破魔ってのは、つまりは魔力に対する攻撃か。

 生命力じゃなくて、魔力に対する毒みたいなものだね。

 危ない物には違いないけど、ボクの魔力量なら問題ない。

 しっかりと瞑想していれば、少しずつでも回復できる程度のダメージだ。


《行為経験値が一定に達しました。『破魔耐性』スキルが上昇しました》


 元々、魔法系には強いからね。

 これで甘味だったら、もう一口二口は食べてもよかったくらいだ。

 でも耐性を上げておけば、いざという時には役立つかも知れないね。

 余裕がある時には齧っておこうか。

 あの酸っぱさは、ちょっと勘弁して欲しいところだけど。


 せめてまともな味なら―――あ、魔法で品種改良とかできないかな?

 ミミズだってウツボカズラを急成長させてた。

 成長と改造じゃ全然違うとは思うけど、何かしら影響は与えられるかも。

 まだ寝るには早いし、ちょっと試してみよう。


 地面に置いた偽リンゴに毛針を刺してみる。

 『干渉』で草を編んでる時に気づいたけど、これって『吸収』と似てるんだよね。

 刺した針を介して、魔力で作った糸や管を通していくところが。

 魔力糸を通して偽リンゴの中にある種に触れる。

 このまま吸収もできるけど、逆に、魔力を流してみる。

 養分を送り込む感じでね。

 同時に、甘くなれ~甘くなれ~、とか念じてみる。


 いやほら、魔法だし、なんかそういう精神的な効果が出てくるかも知れないよ。

 過度な期待はできないけどね。

 でもこっちの意思に合わせて、魔力って微妙に動くんだよ。

 だからって何かの効果が現れはしないけど。


《行為経験値が一定に達しました。『魔力感知』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『精密魔力操作』スキルが上昇しました》


 ゆっくりと魔力を送っていくと、程なくして変化が起こった。

 種から芽が出る。

 実の部分を突き破るほどに勢い良く。

 おお。明らかに普通の成長じゃないね。

 これは品種改良も成功する可能性が出てきたよ。


《行為経験値が一定に達しました。『栽培』スキルが上昇しました》


 ほう。栽培ですと?

 農家には必須っぽいスキルだね。

 他にも『農業』とか『開墾』とかあるのかな。


 考えてみると、戦闘系以外のスキルは始めてだね。

 だけど在るのは、当然と言えば当然か。

 人は戦いのみに生きるにあらず、だね。


 あ、でも『魔術知識』なんかも戦闘系とは限らないか。

 『高速思考』なんてスキルもあるんだから、記憶力とか計算力とかも鍛えられそうだね。

 暇な時に試してみよう。

 まだ厳密には中学も卒業してなかったし、勉強は大切だよね。


《行為経験値が一定に達しました。『干渉』スキルが上昇しました》

《条件が満たされました。『操作』スキルが解放されます》


 む? 『干渉』が『操作』へランクアップ?

 どういうこと?

 とりあえず芽が出た偽リンゴは地面に埋めて、進化したスキルを試してみようか。

 この『干渉』って初期スキルだからね、なるべく大事にしたい。

 ボクの特徴を示してくれるスキルでもあるだろうし。


 とりあえず、これまでやっていたように草を編んでみる。

 ん~……けっこう楽にはなってるかな。

 手袋して作業してたのを脱いだような……。

 だけどレベルが上がるごとに徐々に複雑な動作ができるようになってたから、驚くほどには劇的な変化じゃない。


 基本的には、魔力糸を介して対象を動かせるスキルだ。

 魔力糸の射程は、いまは十メートルほど。

 初期から比べたら、かなり伸びたね。

 今度は、手近な樹木へ『操作』を使ってみる。

 枝を振ったりするくらいは以前からできた。

 でも躍らせるとか複雑な動きは、そもそも糸の力不足で―――、


 ズボォッ、と根っ子が持ち上がった。

 うわ、これすごい。

 木を丸ごと一本引き抜けたよ。

 しかも消耗はほとんど無いし、そんなに力を込めるつもりもなかった。


 どうやら、樹木自体の力を使ってるみたいだね。

 いや、木に動く力があるかどうかなんて知らないけどさ。

 内部の水分を操るとかで動いてるのかね?

 まあ細かな理屈はともかく、こっちが望んだように動作してくれる。

 あ、枝が折れた。

 さすがにラジオ体操は無理があったか。


 今度は、倒した木をそのまま空中へ持ち上げるようにしてみる。

 ぬぬ……こっちの場合は、かなり魔力消費が激しいね。

 というか、そこまでの力は出せない。ちょびっと揺らすくらいが限界だ。

 やっぱり樹木自体の力も『操作』して利用してるみたいだね。


 でも、これは使えそうだ。

 一旦魔力糸を通しちゃえば、射程範囲内なら自由に操作できるし、上手くすればゴーレムくらい作れるかも。

 あ、だけどゴーレムだと動力が確保できないか。

 魔法でなんとかなる?

 ん~……やっぱりよく分からないね。

 そういえば、まともな生き物も『操作』できるのかも不明だった。

 今度、ウサギにでも会ったら試してみようか。


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