01 白毛玉の使い魔候補
ぼんやりと目を覚ます。
騒々しい声が聞こえた。男女の、罵り合うような声だ。
笑い声も混じっている気がする。
何を言ってるのかは分からない。英語に似てるみたいだけど違う気もする。
うるさいな。
テレビの点けっ放しなんて、ボクがするはずが―――。
そこまで考えて、思い出した。
ボクは死んだはずだ。
教室で。タンクローリーに吹っ飛ばされて。爆発で木っ端微塵になって。
だとしたら、今の状況は―――どうなってる?
辺りを見回そうとする。
もうその時点で、ボクが変わり果てているのが分かった。
首が回らない。というか、首が無い。
でも周囲は見渡せる。
三六〇度、全方位が見て取れる。
どういうことか?
それを説明する前に、見て分かった周囲の様子を確認しておこう。
広々とした、学校のグラウンドみたいな場所だ。むき出しの地肌よりも、青々とした芝生が目立つ。少し遠くには大きな洋風校舎みたいな建物もある。
学校っていう発想に行き着いたのは、ボクの記憶が教室で終わってたから、というのもあるだろう。
だけど理由は他にもある。
周りには小学生くらいの子供たちがいた。
全部で三十人くらいかな。男女で違いはあるけれど、同じような制服を着ている。
制服、なんだろうね?
ブラウスにズボン、あるいはスカート。マントも揃いのものを羽織っている。
手には小振りの杖を握っていて―――、
中世の貴族か、あるいは魔法使いみたいだ。
ファンタジーな単語が思い浮かんだのにも理由はあるよ。
この場にいるのは、人間の子供ばかりじゃなかった。
得体の知れない生き物たちもいる。
双頭の犬とか、尻尾が三つに別れている猫とか、翼が四枚ある鳥とか、
スライムや妖精、果てには人を丸呑みできそうなドラゴンみたいなものまで。
そして、どうやらボクも”そちら側”らしい。
もちろん自分の姿は、自分の目では見られない。近くには鏡なんて無いからね。
だけど身体の感覚から、なんとなく今の姿は察せられる。
それと”見えない”とは言っても、目から少し離れた部位なら視線は通る。
普通の人でも、頑張れば鼻先くらいは見えるし、顔立ち次第で眉毛の先だって見えるからね。
そんな感覚と観察を総合すれば、自分の姿も大まかには把握できる。
認められるかどうかは別問題だけどね。
正直、ボクだって認めたくはない。
でも、受け入れないとマズイんだろうなあ。
どうやら、非常に不本意ながら、ボクは毛玉であるらしい。
大きさはテニスボールくらい。視線を落とすとすぐに地面がある。
全身が真っ白い毛に覆われている。
大きな目玉が正面?にひとつあって、他にも全身の数ヶ所に小さな眼があるみたいだ。小さな眼の方は、たぶん、毛に覆われて外からは判別できないと思う。
昆虫の複眼みたいなのが、ぽつぽつとある感じだね。
きっと毛を毟られたら気持ち悪い姿になる。
いや、白毛に覆われていても誇れる姿とは言えないと思うけどね。
ケサランパサランみたいなものかな。
風で飛ばされそう。
っていうか、いまちょっと風が吹いただけで転がったよ。
手足がないので踏ん張ることも出来ない。
この体、生き物として致命的に欠陥だらけじゃないのかな?
「―――p@pko+‘mkldrcfu#$ji@co!!」
で、そんなボクの前で、さっきから女の子がなにやら喚き立てている。
まだ十才にもなっていなさそうな幼い女の子だ。
なのに、金髪縦ロールっていうのが凄い。
言葉は分からないけど、きっと「わたくし」とか「ですわ!」とか言ってるに違いない。
時折、ボクの方を指差して、どうやら怒っているみたいだ。
ん~……?
周りの子供も、教師っぽい大人の人も、全員が魔法使いっぽい。
謎生物たちは、それぞれの子供たちに寄り添うようにしている。
つまりは、あれかな? 使い魔の召喚ってやつかな?
ハルケギ○アから始まる、ファーストキスのヒストリーってやつだね。
状況的にそれっぽい。
となると、ボクは使い魔で、目の前の幼女と契約する、と。
あんまり歓迎できないかなあ。ヒステリックな子って苦手なんだよね。
まあ、人付き合い自体が得意じゃないんだけど。
相手にしても、ボクみたいな弱そうな毛玉が召喚されたのが気に喰わないらしい。
さっきから教師っぽい人に向けて喚いているのはそのためだろう。
周りからは囃し立てたり、笑ったりする声も投げられている。
そりゃあ当然かもね。
ドラゴンとか、いかにも強そうな使い魔もいる中で、毛玉だもん。
眼を閉じてたら、きっと生き物かどうかも分からないよ。
燃やすゴミと一緒に捨てられたっておかしくない。
あれだよね、スライムやスケルトンの方がずっとマシだよね。
web小説で最弱の人外転生ってあるけど、少なくとも自分の意思で動ける分、まだ恵まれてると思う。
いいよねー、キミたちはー、って言っても許されるんじゃない?
ケサランパサランとか、かなりマイナーな謎生物だしねえ。
ほんと、どうなってるんだろう。
そもそもボクの状況からして謎なんだよね。
一度は死んだはずだ。
学校の、三階の教室に大型車が突っ込んできたのも不可思議だよね。
ともかくも、その後に転生したって認識でいいのかな?
それと異世界への使い魔召喚が混じってる?
なんだかとってもカオスだ。
ともあれ―――ぼうっとしてる場合じゃなさそうだね。
さっきから、ふわふわしてる。
ほら、毛玉だから。
風が吹いただけで飛ばされそうになってる。
っていうか、もう子供たちを見下ろすくらいまで浮かび上がってるよ。
あ、金髪縦ロールの子も気づいて振り向いた。
慌てた顔をして駆け寄ってくる。
飛びつくけど、小さな手は空中を掴むばかりだ。
風船を手放しちゃった子供みたいに。
見捨てられるかとも思ったけど、意外といい子かも。
ん? でもなんだか背後から変な気配が……。
そちらを見てみると、男の子数名が悪戯を思いついたような顔をしていた。
それぞれが手にした杖の先に、青白い光を灯している。
複雑な模様を描く光は、もしかして魔力ってやつかな?
その光が弾けると、強い風が巻き起こった。
途端に、ボクの体は高々と舞い上げられる。
どうやら、あの男の子たちが魔法を使って突風を起こしたらしい。
って、これ冗談や悪戯じゃ済まないんじゃない?
眼下の風景がどんどん遠ざかっていく。
上空の風にも煽られて、ボクはあっという間に飛ばされてしまう。
戻ろうと思っても戻れない。
だって、いまのボクは毛玉だよ。
空を飛ぶどころか、手足すら生えてないから動くのもままならない。
幸いと言えるのは、落下して怪我する心配もないところかな。
まあ、軽すぎて落下するかどうかも分からないんだけど。
どうしよう?
うん。どうしようもない。
風に流されるまま、身を任せるしかないかなあ。
でも毛玉体じゃあ、遅かれ早かれ終わりが来るんじゃないかな。
潰されるとか、焼かれるとか、何にしてもあっさり死んじゃいそうだ。
うん。死ぬのは嫌だね。
あんな苦しくて痛いのは一回で充分だよ。
そう思った。
思ってしまったからには仕方ないよね。
だから、生き延びるためにも、まずは出来ることから探してみようか。
よく分からない毛玉体だけど、仮にも魔法的な力で召喚された以上、何かしらの力は持ってると思う。
ここは落ち着いて考えて……そうだ、定番のアレをまだやってなかった。
異世界召喚だか転生だか知らないけど、こういう時のお約束だ。
念じてみよう。
ステータス、と。
…………。
……ッ……zax…………。
ん? なんかノイズっぽいのは聞こえた。
でもそれ以外の変化はない。ステータスも表示されない。
そういうのは存在しない世界かな?
でも反応っぽいのはあったよね。もう一回、試してみようか。
慣れてないことだし、方法が違うっていう可能性もあるからね。
どうせ他にやることといったら、空高くからの風景を楽しむくらいしかない。
では、あらためて……。
ステータス! Status! States! 情報開示! 能力表示!
神様、管理者さん、誰でもいいからボクの能力を見せてくれませんか?
……と、ダメ元で言ってみた。
もちろん心の中でね。
この体、一応は口っぽいものもある。でも満足な声は出せない。
それはともかく、表示されたよ。
どうやら神様か管理者か知らないけど、訴えてみたのがよかったらしい。
目の前に浮かぶのは、青白いウィンドウ。
文字や数字が並んでる。
見覚えのない文字だけど、不思議と読める。
それによると―――。
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魔獣 ティニィ・ロウ・パサルリア LV:1 名前:なし
戦闘力:2
社会生活力:-120
カルマ:-100
特性:
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どうしよう。
生き残れる気がしない。