18 適者生存という言葉を教えてあげよう
吹っ飛ぶ。
いや、吹っ飛ばされた。
《行為経験値が一定に達しました。『衝撃耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『打撃耐性』スキルが上昇しました》
巨人に殴られたんじゃないよ。
直接殴られたなら、間違いなく一発で終わる。
巨人は振り上げた棍棒で地面を殴りつけただけ。
でも、その衝撃は凄まじかった。
ボクとの距離は数十メートルはあったのに、高々と吹っ飛ばされたからね。
周囲の木々も圧し折られて、まとめて爆発したみたいに吹き飛ばされて、空中にあるボクの体を叩いた。
クリティカルヒットはしなかったけど、一瞬、気が遠くなったよ。
ちょっと体が潰れてる。
『激痛耐性』がなかったら悶え転がってるね。
もちろん痛くない訳じゃないけど、ひとまずは冷静に対処できた。
飛ばされる方向にあった木に黒毛を絡める。
地面に叩きつけられることなく、なんとか木枝の上に降り立てた。
ふぅ。
すぐに『治癒の魔眼』を使いたいところだけど、ミミズの例もあるからね。
下手に魔力反応を出すと見つかる可能性もある。
静かに逃げるのがベストだね。
戦う?
ないない。
だって相手は巨人だよ。
いまのボクなんて、巨人からすれば正に豆粒みたいなものでしょ。
そりゃあ大きいからって強いとは限らないけど、脅威なのは確かだからね。
同じ単眼同士で仲良くしよう、って雰囲気でもないし。
精々、吹っ飛ばされた恨みを込めて睨んでやるくらいしか出来ない。
『死毒の魔眼』、発動!
『混沌の魔眼』も同時発動!
ボクと巨人との距離は二百メートル以上は離れていた。
魔眼の射程はまだ測ってなかったけど、どうやら有効みたいだ。
巨人の頭が黒靄に包まれる。
ん? 『混沌の魔眼』の方は届かないね。熟練度の差かな。
でも片方だけでも充分っぽい。
雷が落ちたみたいな悲鳴が響き渡った。
こうかは ばつぐんだ!
巨人の目は大きく開かれてたしね。
あそこに死毒を喰らったら堪らないでしょ。
しかも喚き散らして、自分からさらに毒を吸い込んでくれてる。
もう二発ほど『死毒の魔眼』を追加。
これは決まったかな。
ジャイアントキリング成功?
あっさりしてるけど、死毒の効果はとんでもないからねえ。
残滓を吸っただけでも、ボクだって死に掛けたくらいだ。
ミミズだって、直撃させられる状況なら苦戦はなかったはずだし。
正しく一撃必殺。
生物相手なら、もう怖いもの無しじゃないかな。
ましてや頭の悪そうな巨人には防ぐ術なんてあるはずもない。
とか思った時だ。
巨人が赤い光を放った。
まるで炎を纏ったみたいに赤々と輝いて、雄叫びを上げる。
全身から生命力を溢れさせるみたいに。
あ、これはダメだ。
逃げる。脱兎。ダッシュ。後ろに向かって全速前進。
《行為経験値が一定に達しました。『恐怖耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『俊敏』スキルが上昇しました》
直後、凄まじい轟音がボクの背後から襲ってきた。
こういう時、全方位視界は便利だね。
背後で、森が裂けるのが見えた。
地割れみたいのも起こって、竜巻が通り過ぎていくみたいに樹木が吹っ飛ぶ。
もしも逃げていなかった、ボクも巻き込まれて潰されていた。
離れていても衝撃波で少し飛ばされたからね。
でも、逃げる後押しになっただけで済んだよ。
そのままさらに距離を取る。
巨人は暴れ続けてるみたいだ。
木とか地面とか得体の知れない肉塊とかが空高くまで弾け飛んでる。
うわぁ。早目に逃げてよかった。
最初に目を潰しておいたのもナイス判断だったね。
だけど他の感覚が鋭い相手だったら終わってた。
次からはもっと慎重にいこう。
そこそこダメージも受けたしね。
安全圏まで避難したら回復しないといけない。
巨人の暴れる音が聞こえなくなって、ほっと息を吐く。
暴れ回ってる内に死毒で倒れてくれるのも期待したけど、そう都合良くはいかなかったみたいだ。
最初に毒が入った感覚からして、『毒耐性』が高かったとは思えない。
となると、あの赤く輝き始めた影響だろうね。
何かしらのスキルだろうとは思う。
でも大きな魔力の流れは感じなかった。
『魔力感知』スキルが鍛えられたからか、ボク自身の外にある魔力も感じられるようになってきてる。
まだ曖昧な感覚だけど、派手な魔力だったら気づけたはずだ。
ん~……いかにも肉体派って感じだったから、そっち系の技なのかなあ。
生命力でダメージを強引に捻じ伏せる的な。
暴れまくりの威力も上がってるみたいだったね。
何にしても、あんなのがあるんじゃ手出しできない。
あ、でも待てよ。
あの暴れまくり技って、消耗具合はどうなんだろ?
ボクを狙ってはいたんだろうけど、位置は掴めていなかった。
滅茶苦茶に攻撃してただけだよね。
それこそバーサーカーみたいに。
だとすると、大人しくなった今は……体力が尽きた?
有り得るね。
連続で暴れまくれるなら打つ手無しだけど、一回限りなら逆に弱点になりそうだ。
もう一度『死毒の魔眼』を叩き込めば倒せるかも?
こっちは吹っ飛ばされたダメージの治療も終わったし、魔力の回復も早い。
ただ、アレにもう一度近づくのはどうだろう。
たまたま見つからなかったから逃げられたけど、捉えられたら確実に殺られる。
死毒でしっかりと目が潰れてればいいんだけど……。
ん~…………。
《行為経験値が一定に達しました。『静寂』スキルが上昇しました》
来ちゃった。
危険な敵相手にわざわざ近づくなんて、避けるべきだとは思う。
でも、あの巨人ってバカなんだもん。
巨人が暴れた跡は、はっきりと見えた。
だって森の中で一箇所だけ、ぽつんと更地になってたからね。
その中心で座り込んでる巨人は目立つ。
ちょっと木の上まで登れば、遠くからでもどんな状態か丸見えだった。
座り込んで、項垂れて動かない巨人。
じっと休んでるっぽい。
なんかちょっとカッコイイポーズだね。脳筋巨人のくせに。
これは近づくしかないでしょう。
もちろん音を立てないように、そぉっと。
慎重に、感覚を研ぎ澄ませて、周囲にも気を配りながら。
《行為経験値が一定に達しました。『五感強化』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『五感制御』スキルが解放されます》
魔眼の射程距離近くまで迫ったところで、『五感強化』もランクアップした。
これは地味に嬉しいスキルだね。
いまもけっこう遠くまで見えたり聞こえたりしてたけど、さらに便利になった。
視覚は望遠鏡みたいに―――とは、いかないか。
残念。だけどかなり遠くまで窺える。
慣れてくれば、本当に望遠鏡みたいな効果も引き出せるかも?
聴覚は、狙った場所の音を聞き分けられる感じだね。
嗅覚も似たようなもの。
触覚と味覚はまだちょっと分からない。
いまは全部を確かめてる時間もないからね。
巨人が休んでる。
距離にして三百メートルくらい先だ。
物陰に隠れつつ、なんとか近づくことができた。
魔眼の射程ギリギリってところかな。
鍛錬を積めばもっと伸びそうな気もするけど、いまはこれでも充分だね。
それじゃあ行こうか。
一撃離脱作戦、開始。
《行為経験値が一定に達しました。『魔力集中』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『死毒の魔眼』スキルが上昇しました》
巨人の頭が黒靄に包まれる。
雄叫びを上げて仰け反る。
その時には、ボクはもう逃げ出していた。
地面を殴りつけた音が響いてくる。
最初にボクがいた方向へ、石や岩が幾つも投げつけられる。
でもそれも予測済み。
さっきも攻撃した方向くらいは巨人も察知できてたみたいだからね。
攻撃の射線からズレる形で、ボクは斜めに駆け抜けてる。
それでも巨大な岩が飛んでいくのは迫力あるね。
あんなの直撃したら、間違いなく一撃で潰される。
雄叫びだけでも威圧感があるよ。
《行為経験値が一定に達しました。『恐怖耐性』スキルが上昇しました》
巨人の暴れまくりはしばらく続いた。
だけど、前回みたいに赤く光ったりはしない。
予測が当たったってことだね。
そして、あの技が使えないと、さすがに死毒には抵抗しきれなかったらしい。
《総合経験値が一定に達しました。魔獣、ティニィ・レア・ベアルーダがLV4からLV9になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《行為経験値が一定に達しました。『我道』スキルが上昇しました》
《特定行動により、称号『無謀』を獲得しました》
《称号『無謀』により、『物理大耐性』及び『恐怖大耐性』スキルが覚醒しました》
《条件が満たされました。『戦闘の才』が承認されます》
《『戦闘の才』取得により、関連スキルが解放されました》
無謀って、酷い称号だなあ。
ちゃんと勝算があった行動だし、そんなに無茶ではなかったはず。
『戦闘の才』は、まあ素直に嬉しいね。
でも随分と漠然とした才能だ。関連スキルって言われても想像が難しい。
剣の扱いとか、格闘技とか、そういったスキルかな?
毛玉なのに?
あとは、相手の弱点を突くとか、戦略を立てるとか……やっぱり範囲が広すぎだよねえ。
ともあれ、ジャイアントキリング成功。
レベルが5つも上がるとは、これは嬉しい誤算だね。
でも今度は進化無しか。
さすがに5レベル毎じゃなくなった? 次は10かな?
次に期待だね。
そして当然のようにカルマは下がってる。
ん~……巨人殺しっていうより、『死毒の魔眼』を使ったからかな?
それとも、レベルアップしたから?
なんにしても、-2950って酷いね。
3000とか5000を越えたら何か起こるとか……ないよね?
うん。嫌な予感は無視しておこう。
-------------------------------
魔獣 ティニィ・レア・ベアルーダ LV:9 名前:なし
戦闘力:940
社会生活力:-1960
カルマ:-2950
特性:
魔獣種 :『毒針』『吸収』『変身』
魔導の才・極:『干渉』『魔力大強化』『魔力集中』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・参:『器用』
不動の心 :『我道』『我慢』『恐怖大耐性』『静寂』
生存の才・壱:『生命力大強化』『自己再生』『激痛耐性』『猛毒耐性』
『物理大耐性』
知謀の才・壱:『鑑定』『沈思速考』
戦闘の才・壱:『破戒撃』『回避』
魔眼の覇者 :『治癒の魔眼』『死毒の魔眼』『混沌の魔眼』
閲覧許可 :『魔術知識』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『悪逆』『魔獣殺し』『無謀』
カスタマイズポイント:240
-------------------------------




