表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
184/185

17 決戦②


 胸と腹に一本ずつ。そして細い手でも、一本を掴み取っていた。

 その白杭が爆ぜる。

 片腕だけとなった上半身が、夜闇に力なく浮かんだ。


「……ごしゅ、じ……、システム、を……」


 残った腕を空へ向けながら、一号さんは落下していく。

 死んではいない。どうせ命のない人形だ。

 『再生の魔眼』を使ったところで効果も意味もない。

 一時的に機能停止しただけで、データのバックアップさえあれば復活できるはず。

 だけど―――許せないと、そう心が震えた。


 そりゃあボクだって、これまで何度も殺し合いをしてきた。

 奪った命は数え切れない。

 弱肉強食がこの世界のルールだ。それは理解している。


 だけどそれでも、ボクの場合は生き残るためだった。

 不必要に、気に喰わないとか、弄ぶとか、そんな理由で命を奪った覚えはない。

 ザイラスくんは違う。

 この世界に罪があるから滅ぼすとか言っていた。そんなのは独善だ。


 いや、もうそんな理屈なんてどうだっていい。

 このままだと、誰も彼も一号さんみたいに殺される。

 アルラウネやラミアたち、拠点のみんなも世界崩壊の巻き添えにされる。

 銀子やロル子だって、何も知らないまま消し去られる。


 サガラくんだって。まだ歩み寄れる余地はあったのに。

 大貫さんは困った部分もあるけど、大切な、心を許せる友達だ。


 ああ、そうか。

 ボクは失いたくないんだ。

 思いのほか、いまの世界を気に入っていたらしい。

 それこそ命懸けになってもいいくらいに。

 だったらコイツは―――ザイラスは、敵だ。絶対に仕留める。


「ッ…………!」


「ん? そんなに怒らないで欲しいな。これは必要なことなんだ」


 毛玉状態だと、まともな言葉は出せない。

 でも歯軋りして睨むだけでも、言いたいことは伝わったはずだ。


「まだ戦うつもり? それより、最期の一時をどう過ごすか考えた方が……」


 轟音が、勝ち誇った声を遮った。

 岩の柱が激しく隆起してきて、空からは大量の水が降ってくる。

 いよいよ世界崩壊が近づいてきたようだ。


 でも関係ない。その前に、目の前の敵を殺して止める。

 まずは毛針を発射。

 閃光と煙幕で、ボクの姿を隠す。同時に距離を取りつつ上昇。


「またこれかい? 色んな技を持ってるみたいだけど、さすがにネタ切れかな?」


 余裕綽々といった声が流れてくるけど無視。

 すぐに煙幕は晴らされたけど構わない。


「む……?」


 煙幕に重ねて、『闇裂の魔眼』で一帯を暗闇で包み込んだ。

 さらにその周囲へ『凍晶の魔眼』を発動。巨大な氷で覆い尽くす。

 真っ黒い氷の檻だ。

 ザイラスの障壁ごと囲んで、ちょっと驚かすくらいは出来る。


 氷の檻を眼下に、ボクは上昇していく。

 すぐに檻は破壊された。広範囲に爆発が広がっていく。

 だけどこっちに被害はない。

 四方に散らした小毛玉も、爆発の範囲外にいた。


 爆発の奥に、不機嫌そうな顔が見えた。

 驚かせるのは成功。ほんの一瞬だけど足止めもできた。

 そして発動させる―――『死獄の魔眼』、包囲六連撃。


 小毛玉を、ザイラスを囲む位置へ配置してあった。

 氷の檻と爆発の間に、ギリギリだけど発動に必要な“溜め”もできた。


 さあ、生きるか死ぬか。賭けをしよう。

 六体の小毛玉が、一斉に魔眼を放つ。

 まるで地獄の門を開いたような、禍々しい気配が膨れ上がった。

 広がるのは赤黒い魔法陣。

 それが六枚。ザイラスを囲む形で、四方と上下から展開される。


「これ、は……異界門を破壊したのはやっぱり―――!」


 余裕たっぷりだった顔色も変わる。

 死獄結界に合わせて、赤黒く照らされる。

 これまで無敵を誇っていた障壁も、侵食されるみたいに歪みはじめた。


「なっ……絶対障壁だぞ! これが破られるなんて有り得ない!」


 慌てた声も漏れる。

 だけどさすがにザイラスも対処が早い。

 障壁を補強するように魔力が注がれる。内側から新たな障壁も重ねられる。


 さらにまた別の魔法術式も描き出そうとしていた。

 このまま力押しは難しそうだ。

 でもこっちだって、まだ追撃を残している。


 六体の小毛玉とは別に、ボクはまた魔眼の発動準備に入っていた。

 狙いは、死獄結界の内部。ザイラスの目の前。

 『重壊の魔眼』、全力発動―――。


 ぎゅぽん、と。

 辺り一帯の崩壊とは場違いな、少々間の抜けた音が聞こえた。

 同時に、黒く小さな点が現れている。

 赤黒い結界のちょうど真ん中で、漆黒の点はハッキリと自己主張をしていた。


「ぁ、ッ―――!?」


 出現した途端、黒点はなにもかもを吸い込んでいく。

 謂わば、極小のブラックホールだ。

 驚愕に染まった声がまともに響くのも許さない。


 ザイラスを守る障壁も、さっきより歪みが増した。

 完全な破壊までは至らなかったけど、それは“次”で達成すればいい。


 黒点が膨れ上がる。そして―――炸裂する、重力崩壊。

 どれだけの破壊力なのか、ボクにだって計り知れない。

 少なくとも、死獄結界が罅割れるほどだ。


 密閉空間で爆発が起これば、その威力が倍増するのは想像しやすい。

 今回は単純な爆発じゃないけど、似たような効果はあったはずだ。

 障壁が割れて無防備になれば、死獄結界の中でザイラスは生き残れない。


 これで決着になる。

 ボクが出せる、ほぼ全力を叩き込んだ。

 決着にならなきゃおかしい―――。


 祈るような気分で、禍々しい死獄結界を見つめる。

 内部は真っ黒。まだ重力崩壊が続いている。

 膨大な魔力が渦巻いているおかげで判別もし難いけど……消えた?


 ザイラスの魔力が消えたのは、確かに感じられる。

 つまりは、仕留めた。間違いなさそうだ。

 まだ油断はしない。

 だけど地上へ落ちたサガラくんや大貫さんにも目を向ける。

 二人はなんとか生きているみたいだ。

 回復には時間が掛かりそうだけど、協力して崩壊を止めないと―――。


 そう思った。

 直後、背後に凄まじい魔力の気配を感じた。

 振り向く。黒い杖が突き出された。


「本当に驚いたよ。咄嗟に転移したから、満足に座標指定もできなかった」


 歪んだ笑みを浮かべながら、ザイラスは腕に力を込めた。

 その杖は、ボクの目玉を貫いていた。


「魔王や勇者よりずっと脅威だった。でも片桐くんの敗因は、情報を出しすぎたことだね。転移魔法、ありがたく利用させてもらったよ」


 杖の先端が爆ぜる。

 すでに貫かれていた毛玉は、内部から四散した。


「か、片桐―――」


「テメエェェぇぇあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」


 絶叫したのは大貫さんだ。

 その形相はかつてないほどに怖い。

 勝ち誇っていたザイラスでさえ、ちょっぴり引くほどだった。


 思わぬ援護だ。注意を誘ってくれるのは都合がいい。

 その間に、ボク本体は最後の一撃を準備できる。


「っ……なんだ、この反応……!?」


 ザイラスが視線を上に向ける。

 遥か上空に、一体の毛玉がいるのが見えたはずだ。


 そう。四散したのはボク本体じゃない。

 『変異』で大きさを変えておいた小毛玉だ。


 死獄結界からの重力崩壊で、ザイラスを倒せるのが理想だった。

 でも確実じゃない。だから保険をかけておいた。

 大きささえ揃えれば、ボク本体と小毛玉はまず見分けがつかない。

 大貫さんでもなければ、まず不可能だ。

 ちなみに大貫さんは激怒したのは、小毛玉でも潰されたのが許せなかったんだと思う。


 ともかくも、ここまでも一応は計算通りだ。

 そして今度こそ本当に最後の一手。

 狙うべき箇所は、一号さんが教えてくれた。

 完全に機能停止する直前に、念話とともに指差して。


「まさか―――システム本体を狙うつもりか!?」


 正解。その通りだ。

 乗っ取られたシステムは、ザイラスと繋がっている。

 繋がっているから、それを辿って根本の位置も特定できた。


 本当、メイドさんたちは頼りになる。

 無事に事が終わったら、ちゃんと感謝を伝えよう。


 ただ問題があるとすれば、そのシステムのある場所だった。

 いまもこの世界を見下ろしている、とても遠い場所―――それは月にある。

 破壊しようと思ったって、まず届くものじゃない。

 毛針は当然、『万魔撃』や他の魔眼だって完全に射程距離外だ。


 だけど見える。視線は通る。

 その条件さえ合えば、この魔眼は通用するはず。

 これまで一回も、まともに使ったことはないから不確かだけど。


 破滅の魔眼―――。

 これが自分のものになった時から、嫌な予感がしていた。

 だから使わなかった。

 どうしてそんな予感を、ボクが信じられたのか?

 未知の魔眼を試さずにいられたのか?

 それは、最初から魔眼が起動していたから。


 ボクが見ているものを、魔眼もずっと同じように捉えていた。

 眼にした光景を、記憶を、生活のすべてを。

 そしてなにより、カルマを。

 いつか本当の意味で魔眼を放つ時に、“破滅”の力へと変えるために。


 これはそういった、自分自身も“破滅”する魔眼だ。

 記憶を、生命を、カルマを、存在そのものを代償に、望んだ破滅を齎す―――。

 だから距離なんて関係ない。

 代償さえ差し出せば、なんであろうと“破滅”に引きずり込める。


「――――――!!」


 ザイラスがまたなんか喚いていた。

 でもサガラくんと大貫さんに襲い掛かられて、ボクには手出しできない。

 それを確認する余裕もあって―――、


 ボクは内心で笑いながら、『破滅の魔眼』を放った。

 瞬間、白に染まる。


 月だけじゃない。夜空一面、辺り一帯すべてが真っ白な光に覆われた。

 衝撃も襲ってくる。

 大気すべて、なにもかもが震えるような衝撃。


 そりゃあ月ひとつを壊せば、引力のバランスやらなにやら大変なことになる。

 この大地がどういう形で支えられてるのか詳しくは知らないけど、とんでもない被害が出るのは予想できた。


 だけど他に方法もなかった。

 システムの細かい場所は分からないから、月ごと狙うしかなかった。

 どうせ何もしなければ世界ごと崩壊させられる。

 だったら何かした後で、どうにか上手く、奇跡的に丸く治まるのを期待した方がいい。

 それに―――。


「アアアアアアアアアアアアァァァぁぁぁぁぁーーーーーー!!?」


 ザイラスに無様な悲鳴を上げさせてやった。

 頭を掻き毟っている。血も吐いていた。

 繋がっていたシステムが破壊されて、なにかしらの反動が伝わってきたのだろう。


 さっきまでの威圧感もなくなった。

 とりあえず、毛針発射。


「あ……」


 あっさりと命中。ザイラスの全身に穴が空く。

 うん。これなら簡単にやれる。

 ボクが消えるまでの短い間でも、充分に仕留められる。


 眼下にいるザイラスを睨み、突撃する。

 ぱくぱくと、ザイラスは口を動かしていた。

 だけどそんなのは無視だ。

 精々、毛玉を怒らせたことを後悔すればいい。


 『万魔撃』を放ち、『魔眼』も追加する。

 頭を吹き飛ばし、全身を跡形もなく砕く。

 真っ白に染まっている空間に、ザイラスだったものが散らばっていった。


 それを確認してボクは目を閉じる。

 微かな浮遊感を味わいながら―――ぷつりと、意識が途絶えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ