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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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15 決裂②


 夜闇を背景に、野太い光の柱が湧き上がっている。

 それを守る位置で、サガラくんは剣を構えた。


「まあ待てよ。本気でやり合うつもりはねえんだ」


 空中で睨み合ったまま、サガラくんは軽く手を振った。

 今更なにを、と問答無用で攻めかかる選択肢もある。

 だけど勇者の戦闘力は侮れない。


 いまなら勝てる自信はあるけど、その剣で真っ二つにされないとは限らない。

 サガラくんも冷や汗を浮かべているところを見ると、同じような心境なのだろう。


『だったら、どうして攻撃を?』


「時間稼ぎだ。委員長の邪魔をさせたくねえ」


 互いに緊張感を保っている。

 相手の狙いが時間稼ぎなら、いますぐ攻撃を―――、

 そんな考えも頭を掠めた。


「おまえたち、こっちの世界に居続けても構わないって思ってるだろ?」


『だとしたら? べつに、門を開くくらいは止めないよ』


「そうじゃねえ。前に少し話しただろ? もしも、あの教室での爆発事件がなくて、俺たちが普通に生きていたらって話だ」


 過去を変える。

 サガラくんが言っているのは、その可能性だ。

 有り得ないと笑い飛ばせはしない。

 異世界や魔法なんてものが存在するのだから、過去の改変だって不可能ではないのかも知れない。


 でも、もしも過去が改変されたら、現在のボクたちはどうなるんだろう。

“別の現在”が作られて、ボクたちは変わらずにいられるのか?

 それとも、消えてしまうのか?


「結果は分かんねえ」


 ボクの疑問に答えるみたいに、サガラくんは低い声で告げた。


「だけどな、俺たちは殺されたんだ。この世界のシステムが犯人かどうかは知らねえ。それでも何かしらの悪意が関わったのは間違いねえ。だったら、そんなのは許しちゃいけねえだろ」


 だから改変してやる。いや、修正してやる。

 そう述べて、サガラくんは断固とした眼差しを見せた。


「騙まし討ちしたのは悪いと思ってるぜ。でもまあ、そっちも呪いで俺を縛っただろ? お返しってことで許せよ」


「あぁん? 気安く話しかけてんじゃないわよ!」


 大貫さんは怖い顔をして言い返す。

 細かい理屈なんて、どうでもいいらしい。張り上げた声から殺意が溢れている。


 騙まし討ちを許すかどうかはともあれ、概ね、大貫さんに同意かな。

 いまの自分が消えるのは歓迎できない。

 結局、サガラくんが言った通りだ。

 邪魔させてもらおうと、ボクは戦いへ意識を傾けた。


「やっぱり止まらねえか……って、なに!?」


 ボクの戦意に、サガラくんは素早く反応した。

 同時に、こっそりと飛ばしていた小毛玉にも気づく。


 いまのボクが一度に扱える小毛玉は、最大二十体。

 普段は十体までしか使っていない。それをサガラくんたちにも見せていた。

 夜闇に紛れさせれば、勇者でも大きな動きをするまでは察知できない。

 小毛玉二体を、光の柱へ接近させていた。


 気づかれた直後、『万魔撃』を放つ。狙いは柱の中心部だ。

 『死獄の魔眼』はもっと溜め時間が必要だから、この状況だと使えない。

 だから『万魔撃』。この状況だと、最大威力の攻撃だった。


 さっきは防がれたけど、今度は二連撃。込める魔力も増している。

 二本のビームが、光の柱を貫いた。


「委員長―――ッ!?」


 サガラくんが焦った声を上げる。

 だけどボクの方も、嫌な予感を覚えていた。


 『万魔撃』を放った後の、衝撃や熱が返ってこない。

 つまりは手応えがおかしい。

 咄嗟に、小毛玉を退避させる。


 直後、撃ち返された。『万魔撃』とまったく同じような魔力ビームだ。

 まるで反射されたみたいだった。

 小毛玉は回避に移っていたので焦げただけ。

 でも嫌な予感は大きくなる。


 光の柱は収束して、そこにひとつの人影が現れていた。

 ザイラスくんだ。魔術師らしく長い杖を握って、黒いローブをはためかせている。

 見慣れた姿だけど、なんだかいつもと違う。


「……『万魔撃』って言うのか」


 呟いたザイラスくんは、冷ややかに小毛玉を見上げた。


「面白いね。滅茶苦茶に魔力を混ぜ合わせてるのに、万能属性がついてるなんて」


 その技は見切った、とか言い出しそうな雰囲気がある。

 実際、『万魔撃』は弾き返された。

 おまけに全身から溢れさせている魔力量が尋常じゃない。


「……おい委員長、どうなったんだよ?」


 港の倉庫前で、ボクたちは対峙する。

 サガラくんも怪訝そうに眉根を寄せていた。

 どうやらいまの事態は、サガラくんも聞かされていなかったらしい。


「システムにアクセスして情報を引き出すだけ。そう言ってたよな?」


「ああ。いまから教えてあげるよ」


 全身に青白い光を纏ったまま、ザイラスくんは口元を吊り上げる。

 その笑顔にもやっぱり違和感があった。

 まるで悪巧みが成功したみたいな、嫌な笑い方だ。


「まずは四羽の不死鳥。あれはシステムへのアクセス権、パスワードを持っているようなものだ。倒すことで、それを得られもする。長く生き過ぎた所為で、彼女たちは忘れていたみたいだけどね」


 サガラくんのパスワードを読み取ったってことか。

 それで、システムにアクセスした?

 だけど情報を得ただけという感じでもない。


「本来の不死鳥は、人間の勢力を一定以下に抑える役目を担っていた。魔獣と人間が争い、そしていずれ人間が勝利する。そこまでシステムは予測してた。だけど完全な決着は望んでいなかった。『外来襲撃』にも耐えられるよう、人間を鍛え続ける必要があったのさ」


 大陸では、魔獣が絶滅の危機にまで追い込まれている。

 本来なら、そうなる前に不死鳥が介入していた。

 大型時の戦闘力なら、人間なんてそれこそ国家単位で滅ぼせそうだ。


 だけど抑止力としては、いくらか力不足にも思える。

 人間には勇者がいるんだから―――いや、違うのか?


 不死鳥たちは忘れていた。

 自分たちが、システムにアクセスできることを。


『元々の不死鳥は、もっと強かった?』


「鋭いね。そう、彼女たちはシステムから助力を得られるはずだった。それこそ勇者に匹敵するくらいの力を」


 まさか、と悪寒を覚える。

 不死鳥が得るはずの力を、ザイラスくんが手に入れた?

 あるいは、“それ”以上も有り得る?


「ああ、いまからシステムにアクセスしようと思っても無駄だよ。すでに片桐くんや大貫さんのアクセス権は使えない。こっちで書き換えたから」


 マズイ。マズイ。マズイ。

 この状況は危険だ。

 ボクの毛並みも逆立ってきて、危機的状況だと告げている。

 もしかしたら、なにもかも手遅れな可能性もある。


「意味が分かんねえぞ。それより、過去を修正する算段はついたのかよ!?」


 サガラくんが声を荒げる。

 それもまあ、重要なのかも知れない。

 相手の目的が穏当なものなら、まだ歩み寄れる余地はあるだろう。


 だけど、儚い希望なんじゃないかな?

“なんでも叶えられる”ような力を持った相手は、大抵の場合、ろくでもない目的を持つと決まっている。


「そうだったね。サガラくんには、そう言って協力してもらったんだった」


「……おい、まさか嘘だったとは言わねえよな?」


 威圧混じりの問い掛けに、ザイラスくんは軽薄な笑みで答える。


「言わないよ。ただし―――」


 言葉尻に、甲高い音が重なった。

 剣戟の音。サガラくんが斬り掛かった。

 だけどその剣は、ザイラスくんに届く遥か手前で弾かれた。


 ザイラスくんは軽く杖を揺らしただけなのに、空間が剣を防いでいた。

 問題は、その刃には『絶剣』の輝きが宿っていたこと。

 絶対に防がれないはずの剣が、簡単に防がれていた。

 けれど当然のように、ザイラスくんは笑いながら言葉を繋げる。


「ただし―――その前に、この世界を滅ぼしてからだ」


 大地が割れ、海が裂けた。



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