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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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14 決裂①


 錆びたタンクローリーが青白い光に包まれる。

 くすんだ銀色の塊を、球状に並んだ複雑な文字列が包んでいた。


 この世界の文字とも、魔法で使われる独特の文字とも違う。

 だけど一つ一つの文字に意味があるようだ。

 そう感じ取れるのは、『解析』スキルのおかげだろうか。

 いまはステータス表記が乱れて見えないけど、ボクの内にあるスキルはしっかりと効果を発揮しているようだ。


「まずは、この車体に込められた情報を読み取る」


 表面からは見えない、“物の記憶”と言えるものを浮き立たせて読み取る。

 そうザイラスくんは説明してくれた。


「『鑑定』スキルの上位に『解析』ってのがあるんだ。それを応用して、基礎的な魔法とも組み合わせると、こういった真似もできる」


 ザイラスくんは根っからの研究者だ。

 この世界のスキルやら魔法やら、それらを突きつめて応用する技能に長じている。

 知識は広く、得意な分野では深く。

 そういった技能の組み合わせで力を発揮するタイプだ。


 対して、ボクは一点集中だね。攻撃力全振りみたいな。

 一応、防御技能もあるけど、先に撃つとか迎撃するとかいったタイプになる。


 勇者であるサガラくんは万能タイプかな。

 万能で、高い戦闘能力があるから、どんな場面でも活躍できる。


 大貫さんはよく分からない。

 前に一戦交えたけど、本当に、何をしてくるか分からない予感があった。


「それで、その『解析』で何が分かるんだよ?」


 サガラくんが足下を見つめながら訊ねる。

 タンクローリーを収めた倉庫、その床で、大きな円形の魔法陣が輝いていた。

 『解析』を行うために、ザイラスくんが数日掛かりで刻んだものだ。


「元の世界へ帰るための情報だよ。まずは慎重に調べてから……二人とも、魔法陣に入ってくれるかい?」


 なにげない口調で促される。

 ボクは空中に浮かんだままで、小毛玉を進ませようかとも思ったけどやめておく。

 隣にいたサガラくんは、さらりと一歩を踏み出した。


「おぉ……っと、なんだこれ?」


「情報を読み取るだけだから害はないよ」


 サガラくんの周囲に、複雑な文字列が浮かぶ。

 言葉通りに情報を読み取れるようにしているのだろう。

 それを確認して、ボクは魔法陣から距離を取った。


 ザイラスくんが視線を送ってくるけど気づかないフリをしておく。

 情報セキュリティは大事。

 メイドさんと会った時に、迂闊に踏み込んで捕まったりもしたし。


「……まあ、一人分でも充分みたいだ」


 低く呟いて、ザイラスくんは浮かんだ文字列を見つめた。

 眉根を寄せて難しい顔をする。胸に抱えていた紙束に、なにやら書き込んでいく。

 そんな作業を、ボクはぼんやりと眺めていた。







 島の夜は静かだ。

 港町の屋敷にいると、波音が心地良く眠りへと誘ってくれる。


 ただ、イビキなんかも響いてしまう。

 酔っ払ったマリナさんは眠っていても騒がしい。

 またザイラスくんに付き合って飲んでいた。


 ボクも誘われたけど、果実水で誤魔化しておいた。

 眠れないほどの騒音じゃないけど、もうちょっと屋敷の壁を厚くしてもよかったかなあと思ってしまう。


 寝室に入ったボクは、なんとなしに窓から星を眺めた。

 月明かりに照らされる毛玉。

 この世界の、いつでも中天から動かない月は神秘的な明かりを齎してくれる。

 ベッドの下に大貫さんが潜んでいるけど気にしない。

 一人の時間を静かに味わっていた。


 毛玉だって、物憂げに佇むくらいはする。

 この島での生活とか、勇者一行のこととか、これからどうなるのかとか―――。


 とりとめもなく考えていた時だ。

 不意に、光が差した。

 空一面を埋め尽くす、複雑な文字列の連なり。

 それは巨大な魔法陣だ。


 驚かされはしたけど、呆然としているボクじゃない。

 咄嗟に動けないようでは、この魔境じゃ生き残れはしなかった。

 窓を明けて、まずは小毛玉を飛ばす。

 空の魔法陣へ向けて『衝破の魔眼』を発動。

 大気ごと、魔法陣もまとめて吹き飛ばそうとした。


 魔法陣にどんな効果があるか知らない。

 だけど魔力ごと吹き飛ばせば発動しないはず。

 衝撃波が空の一部を掻き乱した。

 魔法陣も崩れて、明滅する。だけどまたすぐに復活した。


 そうなることくらいは予測の内だ。

 続けて、『重壊の魔眼』を発動。

 一帯に、歪んだ空間を留め置こうとして―――弾かれた。


 魔法陣を守る形で、広範囲の障壁が現れていた。

 全力じゃなかったとはいえ、ボクの魔眼を防ぐほどに頑強な障壁だ。


「―――ご主人様、よろしいでしょうか?」


 ドアがノックされて、一号さんが入ってくる。

 静かな所作だけど普段より素早い。もう異常は察知していたようだ。


『何が起こってるか、分かる?』


「上空の魔法陣は、ザイラス様によるものです。彼はいま、港の倉庫前にいます」


 港の倉庫。タンクローリーを置いてある場所か。

 何かを企んでいるのは確実だけど―――。


「魔法陣の効果などは、現在のところ不明です」


『こっちに話してないってことは、あんまり良い効果じゃなさそう』


 とりあえず、ザイラスくんを止めよう。

 そう結論して、ボクは窓から飛び出す。


『サガラくんには知らせておいて。マリナさんは、寝かせたままでいい』


「承知致しました。他の者を向かわせます」


 夜空に飛び出したボクに、一号さんが続く。

 メイドとして当然の行動なのだろう。

 だけど、ふとした予感に駆られて、ボクは告げた。


『戦いになると、危ないと思う』


「同行致します」


「えへへ、心配してくれるんだ。でも大丈夫だよ」


 一号さんの背中に隠れながら、大貫さんが嬉しそうな顔をしていた。

 そっちには言ってないんだけどな。

 まあ、わざわざ訂正することでもない。

 それに港の倉庫までは、ボクたちの速度ならあっという間に着く。


 倉庫の近く、地上にも、大きく輝く魔法陣が見えた。

 光の中心にいるザイラスくんの姿を確認しつつ、小毛玉を四体動かす。

 『万魔撃』を放つべく溜めに入った。


 空と地上の魔法陣に対して、ともかくも一撃を叩き込むつもりだった。

 異常事態に対して、ボクなりに素早く対処したつもりだ。だけど―――。


「遅いよ」


 遠目ながら、そうザイラスくんが呟いたのを捉えられた。

 口元が吊りあがっている。勝ち誇った笑みだ。

 直後、真っ白い光の柱が沸き上がった。

 ザイラスくんを包み込んで、太い光が天まで貫いていく。


 驚かされながらも、ボクは『万魔撃』を放つ。

 上空の魔法陣は貫いたけど効果はなかった。

 どうやらすでに、魔法陣は発動して霧散するところだったらしい。


 ザイラスくんへも向けたけれど、そちらは光の柱に散らされた。

 凄まじい魔力の流れが、『万魔撃』までも歪めて飲み込んでいた。


 いったい、何が起こっているのか?

 背後に浮かんでいる一号さんへ視線を送ってみる。


「状況は不明です。大量の魔力が集まっている、としか申し上げられません」


 とりあえず、放っておいても良いことにはならなそうだ。

 被害が残るけど、『死獄の魔眼』でなにもかもを消し飛ばそうか―――。

 そう決断しかけたところで、太い声が投げられた。


「何が起こってやがる!?」


 サガラくんだ。こちらへ向けて夜空を飛んでくる。

 焦った様子だけど、ボクはそれを見て安心した。

 二人が結託して事を起こしたのではないと―――って!?


「っ―――なにすんのよ!?」


 銀閃が瞬き、空間が爆ぜた。

 大貫さんが舌打ち混じりに後退する。黒いドレスが僅かに裂けていた。

 襲い掛かってきたのはサガラくんだ。


「はっ、伊達に魔王じゃねえな。やっぱ不意打ちでも簡単には―――!」


 横合いから『衝破』と『轟雷』の魔眼を発動。

 状況が分からない。

 でもひとまず、ボクも参戦する。


 サガラくんの追撃は止めたけど、魔眼の効果は剣で斬り伏せられた。

 勇者のスキル『絶剣』―――。

 あらゆるものを、たとえ形が無くとも切断できるという。

 魔眼効果まで切断されたのだから、それは嘘ではないらしい。


 だからといって、攻撃がすべて無効化されるワケでもない。

 続け様に、ボクは小毛玉から毛針を放つ。

 魔眼と毛針の同時波状攻撃。

 爆発や雷撃も混じって、サガラくんを後退させる。


 何発か、命中はした。だけど致命傷には遠い。

 肩の肉が爆ぜた程度は、勇者にとっては掠り傷みたいなもの。瞬く間に回復していく。


『どういうつもり?』


 一応は問い掛けつつ、ボクたちは空中で睨み合う。

 大貫さんも体勢を立て直して、戦う構えを見せていた。


 勇者と魔王と、そして毛玉と―――。

 友達の真似事なんて、最初から無理があったのかも知れない。



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