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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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12 最後の決断は


 深い穴の奥底に、銀色の大きな鉄板が見えた。

 タンクローリー。それと、いくつかの人骨。

 ボロボロではあるけれど、見覚えのある制服も残っている。


「本当に、あの時の……」


 マリナさんが声を震えさせる。

 サガラくんやザイラスくんも、身震いするほどに驚いていた。


「骨の数からすると、十人分くらいか? 完全に燃え尽きてるのもあるから……いやそれよりも、どちらで死んだのかが問題なのか? もしも爆発直前に転移してたのだとしたら……」


 ぶつぶつと呟いて、ザイラスくんが思考に耽る。

 そんな様子を横目に、ボクはメイドさんに指示を出した。


 まずはタンクローリーを持ち上げて、適当な広場に置いてもらう。

 もちろんかなりの大荷物だけど、メイドさんたちは重力系の魔法が得意なので簡単な作業だ。


 その下から出てきた人骨に、ボクたちはあらためて手を合わせた。

 今回は毛玉じゃなく、人間形態で来ている。なのでちゃんと手もあった。


「さすがにボロボロね。十年以上は経ってるみたいよ」


「もっとじゃねえか? 誰の骨かは判別も……うおっ!?」


 サガラくんが人骨に手を伸ばそうとしたところで、物陰から大貫さんが飛び出してきた。

 っていうか、飛び蹴りだ。

 思わぬ不意打ちだったけど、サガラくんは咄嗟に腕を上げて受け止める。


「おい、いきなり何しやがる!?」


「五十鈴くんは私のものよ! 勝手に触ってんじゃないわ!」


「…………はぁ?」


 呆気に取られるサガラくんを無視して、大貫さんはひとつの頭骨を拾い上げた。

 そうして身を翻すと、また物陰に隠れる。


「ふふ……この頬と額のライン、やっぱり五十鈴くんだ。骨になっても素敵……でも泥がついてるから、後で一緒にお風呂に……や、やだ! やっぱりそれはまだ早いかな。まずは添い寝から……」


 なんか妙な呟きが聞こえた。

 まあ大貫さんの趣味が普通じゃないのは、いまに始まったことじゃない。

 実害は無さそうだから放っておこう。


「……片桐も、苦労してんだな」


「ん? まあ、こんな島だからね。色々あるよ」


「島とかって問題じゃねえような……いや、俺が言うことでもねえか」


 自分の死体を見るのは、正直なところ気分が悪い。

 この場所も忘れたかったくらいだ。

 だけど何かの役に立つなら、わざわざ隠す必要性も感じない。

 ただ、どう役に立つのかも未知数といったところかな。


「しかしこうなると、ますますシステムが怪しくなってきやがったな」


「あの爆発事故も、システムが仕組んだってこと?」


「結果として、って感じじゃねえか? 何かしらの干渉をしようとして、その影響で俺たちは巻き添えに……なんにしても推測になっちまうか」


 手を振って、サガラくんは話を打ち切った。


「こういう小難しい話は、委員長任せだ。頭が痛くなりやがる」


「そうだね。ボクも苦手だ」


 頷きつつ、控えているメイドさんへ目線を送る。

 静かに頷き返してくれた。


 苦手ではあるけど、知識や情報の大切さは分かっているつもりだ。

 ボクの方でも、何かしら使い道はないか検討してみよう。

 正確には、メイドさんに頼むんだけど。







 しばらくは、緩やかな日々が続いた。

 大陸ではまだ戦争の後処理やらなにやら、ゴタゴタしているらしい。

 魔境と呼ばれているこの島の方が平和っていうのは、なんだか皮肉にも感じる。


 勇者一行は、港町で過ごしている。

 研究に耽るザイラスくんを中心に、サガラくんもマリナさんも協力している。

 ボクの方も、一定の距離を置きながら推移を見守っていた。


 完全に警戒を解くことは、まだ出来ない。

 結局のところ、ボクが毛玉っていうのが問題だ。

 そこらの魔獣と同じで、それを害したところで責める人間はいない。

 ロル子あたりは怒ってくれそうだけど、大した抑止力にはならないと思える。


 自分の身は自分で守る必要がある。

 そこから脱却できない限りは、絶対の安心とはならない。

 だから、なるべく本拠には近づけないようにもしているワケだけど―――。


 とはいえ、さほど深刻に捉えてもいない。

 適度な緊張感と言える程度だ。そうでないなら、とっくに島から追い出している。


「だからぁ、二人ろも真面目しゅぎるっていうのにょよぉ」


 夜、飲んだくれたマリナさんが部屋にやってきた。

 この人は警戒心を失くしすぎだと思う。


『飲みすぎじゃない?』


「いいのよぉ。らってぇ、美味しかったんらもん」


 定番の台詞を投げてみたけど、予想通りに効果はなかった。

 やっぱり酔っ払いに理屈は通用しない。

 抱きついてきたので、クッションで迎撃しておく。


「それにねぇ、委員長も久しぶりにぃ、飲んでたのぉ。だから嬉しくってぇ」


『ザイラスくんも? 最近、ずっと部屋に篭もってたよね?』


「そうなのよぅ。でも息抜きも大切だってぇ、やっと分かってくれたみたいでぇ」


 にゅふふふ、とマリナさんはだらしなく笑う。

 久しぶりに構ってもらえたのも嬉しかったのかも知れない。


 いまはまた、サガラくんが大陸へ足を運んでいる。

 聖教国にあった古い記録から、大きな鳥型魔獣の手掛かりが見つかったからだ。


 恐らくは、ロックバード。最後の『循環点』。

 大陸東方にある山脈を住み処にしているらしい。

 こちらでも茶毛玉を飛ばして捜索しているけど、接触はサガラくんに任せた。

 どんな対処をするかは、その接触次第だろう。


『マリナさんは、帝国に戻ったりしなくていいの?』


「なによぅ。そんなに追い返したいの?」


『そういう意味じゃないよ。神官として、仕事とかあるんじゃ?』


「片桐くんはいいわよねぇ。大貫さんとラブラブでぇ。どうせ二人っきりでイチャイチャしてたいんでしょう?」


 ダメだ。酔っ払いだ。話にならない。

 あ、なんか天井裏が騒がしい。魔王が身悶えしてるみたいだ。


「私だってぇ、その気になれば男の一人や二人、簡単に捕まえられるのよぉ。これでも一応、勇者様を支える聖女ってことになってるしぃ」


『そう。大人気だね』


「でもさぁ、やっぱりぃ、あいつらも放っておけないじゃない?」


 クッションを抱き締めながら、マリナさんは溜め息を落とす。

 お酒臭い。ちょっと離れているのに匂ってくる。

 もう夜も更けてきたし、麻酔針でも打ち込んでおこうかな。


「あの二人はさぁ、真面目すぎるって言うか……元の世界に拘りすぎてるんだよね」


 そっと小毛玉を忍び寄らせようとしたところで、マリナさんが呟いた。

 いつになく神妙な声だった。

 愚痴を吐いて、いくらか酔いも冷めたのかも知れない。


「私なんかは、こっちの世界で生きていくのも、まあ悪くないかなって思える。色々と不便はあるけど、慣れたし……片桐くんもそんな感じでしょ?」


『だいたい、そんなところ』


 適当に同意しておく。

 だけど、あながち間違ってもいない。

 もしも帰れるとしても、この島を放置するのはどうかとも思う。


 まだまだ先の問題のつもりだったけど、意外と決断する時は早くなるのかも。

 理想としては、簡単に行き来できるのがいい。

 異界門を見てると、それも不可能じゃない気もするんだけど―――。


「……私も、考えすぎなのかなあ」


 ぼんやりと遠くを見る眼差しをしてから、マリナさんはぽてんとソファに横たわった。

 そっと手を伸ばしてくる。

 わしゃわしゃと、ボクの白だか黒だか分からない毛並みを撫でた。


「んふふぅ、片桐くんの毛触りってやっぱり気持ちい―――ぃぶへっ!?」


 突然の落下。ソファが潰れた。

 床板も割れて、マリナさんごと派手に沈み込んだ。


 どうやら天井裏から魔眼が放たれたらしい。

 なんか凄い音もしたけど……うん、生きてる。気絶してるだけだ。


『任せていいかな?』


「はい。治療をした後、寝室へお運びしておきます」


 控えていた一号さんに片付けを任せて、ボクも寝室へ向かった。


 毛玉がふよふよと、夜の廊下を進む。

 天井裏の気配がついてくるのはいつものこと。

 そこで、なんとなく訊ねてみた。


『大貫さんは、元の世界に帰りたいと思う?』


「ううん。あ、でも五十鈴くんが帰るなら、一緒に行くよ」


 まったく迷いがない。予想できた答えだった。

 大貫さんのこういう決断力の高さは、ちょっぴり尊敬できる。


 だからといって真似はできるものでもない。

 ボクはたぶん、その時になってから決断するんだろうなあ。



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