10 循環点の不死鳥
聖教国への侵攻は終わった。
後始末も色々と大変そうだった。国内では虐げられている魔物っ子とかもいるみたいなので、そちらの救助もメイドさんたちにお願いしておく。
可能な限りは、人助けもしていいだろう。
細かいことはサガラくんとマリナさんに任せて、ボクは一足先に島へ戻った。
『循環点』の魔獣も探すけど、直接に出向く必要はない。
偵察用茶毛玉はすでに量産できているので、何処かにいる魔獣一体だって見つけられる。
そんなのが、本当にいればの話だけど。
『三体目まで見つかったってことは、あながち間違ってないのかも』
自室のソファに転がりながら、ぼんやりと思考を巡らせる。
ボクの目の前では、ひとつの氷像がテーブルに置かれていた。
鳥型の氷像―――というより、白銀色の鳥が氷漬けにされている。
『けっこう手強かったんじゃない?』
「う、うん。街が丸ごと凍らせられたりして……潰すのも、大変だったよ」
大貫さんはソファの裏に隠れたまま、頭の先をちょこっと覗かせた。
氷像は、その大貫さんが持っていた物だ。
正確には、自宅の奥で眠っていた。
元はもっと大型で、氷を操る凶悪な魔獣だったそうだ。
先代魔王と友好関係にあって、なにやら契約を結んでいた。魔王が一部地域の魔獣を保護する代わりに、そのアイスバードが力を貸すといった契約だ。
そして大貫さんが先代魔王を討とうとした後、アイスバードは襲ってきた。
だけど結末は返り討ち。
小型の鳥になって、そのまま氷漬けの封印を施されたという訳だ。
「えっと、話さなくてごめんね。そんな重要な魔獣だとは思わなくて……」
『気にしてないよ。ボクも、赤鳥と青鳥を放置してたし』
「そ、そう? えへへ、やっぱり五十鈴くんは優しいね」
大貫さんは顔を手で覆って、くねくねと身悶えしている。
よく分からない反応だ。でも楽しそうだから放っておこう。
『これ、どうしようか?』
「好きになさってよろしいかと。たとえ暴れたとしても、無力化は容易かと推察します」
ボクは少し考えてから、一号さんの助言に従うことにした。
まだサガラくんにもザイラスくんにも、この銀鳥については話していない。
情報を明かすかどうか、それを決めるためにも、直接対話してみるのは悪くないだろう。
『大貫さん、封印を解いてくれる?』
「う、うん、分かった。任せて」
炎で焙ろうかとも思ったけど、封印した当人に頼んだ方が確実だ。
ふと思ったけど、ボクの魔眼は炎系って無いんだよね。
衝撃、闇、氷、雷、治癒、災禍、重力、静止、死、破滅―――。
色々揃っているけど、万能とは言えない。
っていうか、破壊力に偏りすぎている気がする。
もうちょっとこう、融通が利くというか、普段使いに便利な魔眼も欲しい。
例えば……お菓子が出てくる魔眼とか?
「お茶と、なにか摘まめる物をご用意致しましょうか?」
あ、はい。お願いします。
一号さんに考えを読まれた? 表情に出てたかな? 毛玉なのに?
まあ、メイドさんが優秀なのは良いことだ。
「えっと、解けたよ。邪魔だったら、またすぐに氷漬けにするね」
『ありがとう。助かる』
ちょっと考え事をしている内に、銀鳥が目覚めていた。
氷が溶けたばかりなので、全身ずぶ濡れだ。
メイドさんに目配せして、タオルで拭いてもらう。
銀鳥は大人しくしていた。だけど、きょろきょろと首を回して辺りを窺っている。
なんだか普通の鳥っぽい仕草だ。
だけどボクの後ろ、頭だけ見せている大貫さんの方へ目を向けると、大きく目を剥いた。
「…………」
鳥の表情はよく分からない。だけどなんとなく知性は滲み出ている。
赤鳥や青鳥と違って無口。
でもたぶん、話は通じる相手なのだろう。
少なくとも、自分を倒した相手のことは覚えている様子だ。
巨大鳥だった頃の記憶は、何処まで詳しく残っているか不明だけど―――。
『こんにちは』
銀鳥が、ビクリと震えた。
驚いたみたいだ。文字を操る毛玉を前にしたら、まあ当然の反応か。
これでまず話が通じるのは確定。
さて、面白い情報を得られるのを期待しよう。
テーブルの上で、三羽の鳥が向き合っている。
赤青銀と、どれも派手な色合いだ。
大きさは赤鳥が一番かな。最近は青鳥も少し成長してきている。
封印されていたからか、銀鳥はまだ小さめだ。
「こうして三羽も集まるのは、いつ以来かにゃ?」
「さてな。少なくとも百年以上であろう」
「……百四十五年前」
銀鳥は控えめだけど、しっかり者らしい。
記憶も、三百年くらい前までのは頭に残っているそうだ。
鶏が三歩で忘れるのに比べたら、かなり凄いんじゃないかな。
「まあ、集まったからどうだという話ではあるが」
「青っちは冷めてるにゃ。折角だから騒ぐにゃ。あたしらが集まれば……なんとなく凄い気がするにゃぁ?」
「…………」
この三羽が、ただの魔獣じゃないのは確実だろう。
だけどこの世界の歴史は、少なくとも千年以上続いている。
各国の歴史書にもそう記されている。
そして彼女たちはいつから存在しているのか、そちらは不明だ。
遠すぎる記憶なので、銀鳥も覚えていなかった。
ただ、もう一羽いることだけは判明した。
「あいつもいれば、全員が揃うにゃ?」
「そうだな……堅物であったゆえ、己の領域からは動かぬであろうが」
「…………」
鳥の同窓会を眺めながら、ボクはクッキーを齧る。
メイドさんが淹れてくれたお茶も、相変わらず美味しい。
シンプルだけど甘めのクッキーには、ストレートの紅茶がよく合う。
カップを口へ運ぶ毛玉。
自分の姿を小毛玉を介して見てみると、なかなかにシュールだ。
まあ、それはともあれ。
『結局、分からないことだらけだ』
「ですが、彼女たちに利用価値があるのは間違いないようです。あるいは、この世界の根幹に繋がるかも知れません」
大袈裟な台詞、とも言い切れないか。
それがどんな意味を持つのか、どう扱えるのか、さっぱり分からないけど。
「そうだにゃ! あたしらは凄いのにゃ!」
「うむ。もっと敬ってもよいのだぞ?」
「……毛玉」
赤鳥と青鳥が、ボクの上に乗って囀る。
銀鳥も探るように嘴で突ついてきた。
うん。やかましい。毛先で突き返して、床へ放り捨てる。
また騒ぎ出したけど無視しておこう。
『残る一体も見つかるかな?』
「大陸の東方を中心に、引き続き捜索を行ってみます」
今度はたぶん、ロックバードか。
もしも見つけたら、ボクが出向いて仕留めるべき?
だけどサガラくんにも一体くらい任せた方が、釣り合いが取れる気もする。




