05 毛玉vs異界門④
《総合経験値が一定に達しました。魔眼、バアル・ゼムがLV41からLV47になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《外来種の討伐により、経験値に特別加算があります》
ごっそり経験値が貰えた。我ながら、酷い。
目の前には、まだ黒く歪んだ空間が広がっている。
『重壊の魔眼』による、重力崩壊の余波だ。しばらくは治まりそうにない。
敵基地には、魔力を無効化する力場みたいなものが張られていた。
だけどそれは限定された空間だ。
少し離れた、例えば遥か上空だと普通に魔力は使えた。
だから基地の直上を狙って、『重壊の魔眼』を全力で発動させた。
巻き起こる重力崩壊。
瞬間的な破壊力なら、ボクが持つ魔眼の中でも一番だろう。
そして周囲に及ぼす影響も凄まじい。
辺り一帯の何もかもを黒い一点に吸い込み、吐き出す。
そこからの衝撃波は、もう魔力とか関係ない。単純な暴力だ。
衝撃だけでなく、空間そのものを破壊しているようなもの。
だから魔力を無効化されても通用した。
完璧な不意打ち。
下手に大掛かりな科学兵器と違って、こっちはすぐに使える個人戦力だ。
事前に察知される可能性は低い。
その利点を活かした一撃で、基地を跡形も無く吹き飛ばした。
人工島も崩壊している。
いくつか頑丈な兵器の中には、まだ動けそうなのもあった。
でも海に放り出された上に、ボクは追撃もかける。
もう一発、『重壊の魔眼』を発動。
異界門も巻き込むけど関係ない。むしろ好都合だ。
最初の一撃で、異界門にもヒビが入っていた。
そろそろ終わらせた方が安全でもある。
短い間に対策を打ってくる相手だから、甘く見ない方がいい。
ってことで、確実なトドメとさせてもらうよ。
《総合経験値が一定に達しました。魔眼、バアル・ゼムがLV47からLV49になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《外来種の討伐により、経験値に特別加算があります》
重力を溜め込んだ黒い球体が、小島のあった場所で爆発した。
二発目の、容赦無い破壊衝撃。
辛うじて動いていた機械兵器たちも、残さずバラバラになる。
さすがに異界門は重力の波にもしばらく抗っていた。
だけど歪み、あちこちが割れて、やがて根元から崩れ落ちる。
よく考えたら、この衝撃って向こう側の世界にも届いているのかも知れない。
けっこう大惨事になってるかもね。
まあ、そこらへんはボクが知るところじゃないし、もう知る術もない。
《異界からの扉が破壊されました》
《外来襲撃の終息を確認。お疲れさまでした》
やけにあっさりとしたシステムさんの声が、完全破壊を保証してくれた。
世界的に見れば大事件。
というか、そこかしこで混乱が起こってると思う。
外来襲撃の再開っていうだけでも前代未聞のはず。
そこから、二日間ほどで事態は終息した。
なんだったんだ?、と大勢の人が首を捻りまくっていそうだ。
当事者であるボクにしても、なかなか困惑させられる事態だった。
望んだ計画の通りではあったんだけどね。
かなりの経験値を稼がせてもらった。だけど兵器を倒しての経験値、っていうのは不思議な感じもする。
なんとなくだけど、生き物を倒してその力を奪うようなイメージがあったから。
機械相手だと、なんか違う。
例えば、強力な機械を作ったとする。命令で無抵抗にしておいて倒す。
それでも経験値はもらえるのか?、なんて疑問も沸いてきた。
まあ、どうでもいいか。
もしかしたら、機械みたいな生物だったのかも知れないし。
メイドさんたちだって、生物みたいな人形だ。
そういえば、倒したら経験値もらえるのかな……?
「如何なさいました?」
『なんでもない。それより、帰ろう』
いくらボクでも、メイドさんたちを実験台にするほど非情じゃない。
そんなことする必要も無いし。
次の進化っていう目的も果たせそうな予感がする。
帰りがてら、海を巡って適当な魔獣でも狩っていこう。
そこそこ強そうなのが徘徊してたりするし。
《総合経験値が一定に達しました。魔眼、バアル・ゼムがLV49からLV50になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《条件が満たされたため、魔眼、バアル・ゼムは進化可能です》
ぐっと拳を握る。毛玉だから心の中で。
海産物のおかげで、無事に目的を達せられそうだ。
さて。異界門は消えて、ボクは次の進化を行えそうだ。
その前に、あちこちへ一言くらい入れた方が良い気もしないでもない。
進化のことではなく、異界門に関しての話を。
とりわけエルフ&獣人領の人達には、知らせてあげた方がいいだろう。
でも怒られそうだし。
色々と面倒な事態になりそうだし。だから―――。
『適当に、喧嘩にならないように伝えておいてくれる?』
「承知致しました」
メイドさんに伝令を頼むことにした。これで解決。
あとはボクの屋敷へ戻って、進化を行うだけ。
「でも進化って……五十鈴くん、姿が変わるの?」
『どうだろ。これまでは基本的に毛玉だったし、大きくは変わらないと思う』
「も、元の姿になったりするかな? あ、もちろん、いまの姿でも構わないの。私はその……五十鈴くんの、眼差しが、えっと、素敵だと思うから……」
『人型は難易度高そう。目がなくなる、なんてことはないんじゃない?』
珍しく大貫さんの口数が多い。
どうやらボクの進化に興味があるらしい。
でもどんな姿になるのかなんて、予測できないからねえ。
だからまあ、考えても仕方ない。
戦闘力のアップは期待するけど。
『数日掛かるかも知れないけど、大丈夫だよね?』
「お任せくださいませ。屋敷の警備は万全にいたします」
「わ、私も頑張るよ。えへへ、ずっと見張っててもいいよね?」
大貫さんが見張るのは、外敵とかじゃなくて、ボクのことなんだろうね。
まあ、安全が確保されるなら構わない。
でも断言はしないでおく。
そんな話をしながら、ボクたちは屋敷へと帰還した。
アルラウネやラミア、スキュラや黒犬、それと煩い赤鳥や青鳥も迎えてくれる。
もうすっかりモンスター村だ。
一番人間っぽいメイドさんズは人形で、大貫さんは魔王。
あらためて考えると、奇妙な場所だね。
でも落ち着く。ほっと一息。
みんなへの挨拶もそこそこに、屋敷へと入る。
まずは、お風呂。潮風でけっこうベタついてる。
温かいお湯に浸かって、メイドさんに手入れをしてもらって、自慢のふさふさ毛並みを取り戻す。
次に食事。メニューはビーフシチューっぽいものと、焼き立てのパン。
それと新鮮野菜のサラダ。チーズ和え。
海上では手の込んだ物が食べられなかった。その分だけ美味しく感じる。
屋敷に残っていたメイドさんが、じっくりコトコト煮込んでくれていたそうだ。
お腹がいっぱいになったところで、自室へと向かう。
今後のことを、もう一回メイドさんズにお願いしておいた。
大貫さんが屋根裏からついてきたけど気にしない。
部屋の鍵を掛けて―――さて進化、とはいかない。
とりあえずベッドに転がって目を瞑る。
寝たフリだ。いくらか時間が過ぎて、大貫さんが静かに天井裏から降りてきた。
なにやら鼻息を荒くして寄り添ってくる。
目も血走っていて、明らかに興奮している様子だけど、害意はないみたいだ。
ボクの黒い毛並みを撫でたり、頬擦りしたり、舐めたりする。
たぶんこれ、いつもやってるんだろうなあ……。
まあいいや。敵意がないのは明らかだ。
そこそこ信用はしてたけど、念の為に確かめておきたかった。
でもこれで安心して進化できる。
一度、ステータスを確認。余っていたボーナスポイントを割り振る。
そして、“その意志”を、ボクはシステムさんへ告げる。
《魔眼、バアル・ゼムは進化可能です》
《進化承認後、新たな固体を設定します》
聞き慣れた声を受け止めながら、ボクはゆっくりと意識を閉じた。
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魔眼 バアル・ゼム LV:50 名前:κτμ
戦闘力:98800
社会生活力:-9120
カルマ:-38870
特性:
魔眼皇種 :『神魔針』『絶対吸収』『変異』『空中機動』
万能魔導 :『支配・絶』『懲罰』『魔力超強化』『魔力集束』
『万魔撃』『破魔耐性』『加護』『無属性魔術』『錬金術』
『上級土木系魔術』『生命干渉』『障壁魔術』『深闇術』
『創造魔導』『精密魔導』『全属性大耐性』『重力魔術』
『連続魔』『炎熱無効』『時空干渉』
英傑絶佳・従:『成長加速』
英雄の才・弐:『魅惑』『逆鱗』
手芸の才・極:『精巧』『栽培』『裁縫』『細工』『建築』
不動の心 :『唯我独尊』『不死』『精神無効』『明鏡止水』
活命の才・弐:『生命力大強化』『不壊』『自己再生』『自動回復』『悪食』
『痛覚制御』『毒無効』『上位物理無効』『闇大耐性』
『立体機動』『打撃大耐性』『衝撃大耐性』
知謀の才・弐:『解析』『精密記憶』『高速演算』『罠師』『多重思考』
闘争の才・弐:『破戒撃』『超速』『剛力撃』『疾風撃』『天撃』『獄門』
魂源の才 :『成長大加速』『支配無効』『状態異常大耐性』
共感の才・壱:『精霊感知』『五感制御』『精霊の加護』『自動感知』
覇者の才・弐:『一騎当千』『威圧』『不変』『法則無視』『即死無効』
隠者の才・弐:『隠密』『無音』『暗殺』
魔眼覇皇 :『再生の魔眼』『死獄の魔眼』『災禍の魔眼』『衝破の魔眼』
『闇裂の魔眼』『凍晶の魔眼』『轟雷の魔眼』『重壊の魔眼』
『静止の魔眼』『破滅の魔眼』『波動』
閲覧許可 :『魔術知識』『鑑定知識』『共通言語』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『極悪』『魔獣の殲滅者』『蛮勇』『罪人殺し』
『悪業を極めし者』『根源種』『善意』『エルフの友』『熟練戦士』
『エルフの恩人』『魔術開拓者』『植物の友』『職人見習い』『魔獣の友』
『人殺し』『君主』『不死鳥殺し』『英雄』『竜の殲滅者』『大量殺戮者』
『扉の破壊者』
カスタマイズポイント:0
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