03 毛玉vs異界門②
《総合経験値が一定に達しました。魔眼、バアル・ゼムがLV37からLV38になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《外来種の討伐により、経験値に特別加算があります》
システムメッセージが断続的に流れてくる。
お茶を飲んで、おやつを食べてる間に、またレベルが上がった。
異界門から現れた奇妙な敵は、次々と消滅していく。
『死獄の魔眼』で作った結界のおかげだ。
門を抜けた直後に結界内に入るよう設置したから、ほとんど自動経験値獲得マシーンになってる。
最初は蜂みたいなのが数体。たぶん偵察のつもりだったんだろう。
あっさり消滅したので、正体はよく分からなかった。
次に現れたのは百体以上の、これまた蜂。
第一波と同じように全滅したけど、少しだけ観察ができた。
どうやら生命体じゃないらしい。
結界に捕らえられて塵になっていく間に、機械的な部品が見て取れた。
機械文明の世界からの侵略、と考えられる。
もしかしたら前回の巨人も、生体機械とか内部に鉄の骨格があるとか、そういったものだったのかも知れない。
こちらの世界よりも歴史は長いんじゃないかな、とも推測できる。
それにしては侵攻の仕方が単純すぎる気もするけど―――。
だって、第三波は蜂がさらに追加されただけだったし。
数はたぶん、五百匹くらい?
全部まとめて『死獄』結界が消滅させてくれた。
さすがに蜂だと無意味だと学習したのか、次はまた違うのが現れた。
人間くらいの大きさの、四つ足ロボットだ。
それが十体ほど。異界門から出たところで停止した。
門と結界の間は、ほんの一歩分くらいだけど隙間がある。
だから四つ足ロボは、すぐには破壊されなかった。
偵察用だとしたら、その目的は果たしたんだろうね。直後に消し飛んだけど。
門の脇に小毛玉を待機させておいたんで、討ち漏らしはしない。
『衝破の魔眼』で跡形も無く分解、吹っ飛ばしておいた。
そうしていまは、大きな戦車みたいなのが突撃してきた。
『頑丈なのなら突破できる、とか考えたのかな?』
「恐らくはそうでしょう。今回も生体反応は皆無でした。自立型の兵器、あるいは道具であると判断します」
無人兵器での偵察、って考えると妥当な作戦なのかな。
ボクの知ってる戦車を四台くらい合わせたような大きな機械だったけど。
それを使い捨てにできる相手。
油断してると、手痛いしっぺ返しを喰らいそうだ。
ちなみに、第二波の時に、外来襲撃が再開っていうアナウンスがあった。
世界中に警告が届いたはずだ。
ボクがやってることが露見する可能性もある。
それと、前みたいに“星降らし”が襲ってくることも考えられた。
システムさんが本気になるとけっこう怖い。
この世界を守るためには、かなり過激な行動も躊躇わない。
毛玉の一体や二体巻き込んだとしても、異界門の破壊を優先するはずだ。
でもその時には事前アナウンスがあるはずだし、逃げる時間くらいはある。
……なんか、作戦に“逃げる”が含まれているのが多い気がする。
まあいいか。命は大事。
ともあれ、“星降らし”はそんなに恐れなくてもいいと思う。
あんまり連発できる技でもないみたいだし、いまは敵の侵入も防いでいる。
システムさんが状況を見てくれてるなら、大技は控えてくれると期待できる。
経験値ホイホイ結界が活きている限りは、そう深刻な事態にはならないはず。
機械だって殺せる結界。
言葉的に矛盾してる気もするけど、便利だからよし。
『次は、どんなのが出てくるかな?』
「敵は多少ながら知恵があり、膨大な資源を持つと推察します。その前提に立てば、次はより頑強ななにかを送り込んでくるでしょう」
「わ、私はそろそろ様子見に入ると思うな。自信はないけど……」
一号さんと大貫さんが、其々に意見を述べる。
結果は、どちらも正解だった。
次に現れたのは、履帯付きの小さな偵察機、らしき物。
数は十二体で、半分は異界門を出た直後に停止した。
残りは『死獄』結界の中へと直進する。
すぐに崩壊して消滅したけど、前に現れた四つ足ロボよりは耐えていた。
少しの時間差だけど、何かしらの情報を得る余裕はあったのかも知れない。
思い出したのは、宇宙探索機の話。
遠くの小惑星まで探索へ行って帰還。最後には大気圏に突入して燃え尽きた。
その燃え尽きる最中に、写真を撮って送信したっていう話だ。
少し欠けた地球の映像を、ボクも見た覚えがあった。
そんな風に、破壊されるのを前提で情報を得ようとした可能性は高い。
そして残った偵察機は、仲間の破壊を見届けると引き返そうとした。
でもそうはさせない。『衝破』と『轟雷』の魔眼で全滅させる。
やっぱり機械製品らしく、雷撃には弱いみたいだ。
仲間に庇われる形で『衝破』に耐えたのもいたけど、『轟雷』の一撃で動きを止めた。
しっかりとトドメを刺して粉々にしておく。
『戦力の逐次投入は愚策って聞くけど、どうなんだろ』
「この程度は戦力として捉えていないのではないでしょうか?」
「やっぱり、偵察って感じだよね……五十鈴くん、疲れてない?」
細かな戦いは小毛玉に任せて、戦力的には余裕がある。
でも精神的な疲れは別だ。
異界門からの侵攻は断続的で、封印を解いてからもうじき二時間くらいになる。
もっとこう、ドバーっと来るのを一気にやっつけようと思ってたのに、予想とは違う展開だ。
前回の竜軍団とは違って、知性を感じさせる。
こちらももう少し頭を捻る必要があるのかも知れない。
《総合経験値が一定に達しました。魔眼、バアル・ゼムがLV39からLV40になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《外来種の討伐により、経験値に特別加算があります》
ミサイルが飛んできた。
比喩とかじゃなくて、そのまんまの意味で。
こう、大陸間弾道的なデッカイやつが。
思わず、ファッ!?、とか変な声が出そうになったよ。
一号さんは表情を変えなかったけど、その背後で大貫さんは目を見張っていた。
結界に入ったら消滅するのは、相手も理解したはずだ。
それを今度は、速度で突破しようとしたらしい。
だけどそのミサイルも、結界に入った途端に砂のように崩れて“死んだ”。
爆発もしない。合計六発が経験値に変わった。
「もしかして……あの、もしかしてなんだけど、地球と繋がってたり、するかな?」
『どうだろ? 可能性は低いと思うけど』
大貫さんが言いたいことも分かる。
科学文明となれば、ボクたちがいた世界とその点は同じだ。
でも明らかに技術としては進歩しているから―――。
『少なくとも、“帰れる”ってことはないと思う』
「あ……そう、だよね。時代が違うみたいだもんね……」
そんなことを話しながら、ボクたちは休憩を取る。
一旦敵が現れた後は、しばらく間が空くのがこれまでで分かってきた。
対策会議とかしてるのかも。
だからこっちも作戦の見直しとかする時間を作る。おやつを食べながら。
長丁場になるのも想定して、それなりの食材は持ち込んであった。
揚げパン美味しい。
粒々の砂糖と、カリッと焼けたパンの食感が贅沢だ。
甘味と紅茶の組み合わせは、こっちの世界だと庶民には縁遠いんだよね。
クッキーとかも食べたくなる。
「ね、ねえ、五十鈴くんは……料理のできる女の子とか、好き?」
『どうだろう? 美味しいものは好きだけど』
「そうなんだ……今度、私も料理してみていいかな?」
『屋敷の厨房なら、好きに使っていいよ。あ、でも管理はメイドさん任せだから』
呑気な会話をする時間もあった。
仮にも戦場だっていうのに、どうにも緊張感が沸いてこない。
しばらく異界門も静かで―――もしかして諦めたかな?、なんて思い始めた頃だ。
この世界にとって、“天敵”とも言える兵器が現れた。




