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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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01 暗躍の毛玉


 島から海を渡って西方、獣人とエルフたちの領域を再び訪れた。

 目的は、近い内に目覚めるはずの勇者対策。

 つまりは、ちょっと鍛えておきたい。システム的に言うと経験値が欲しい。


『っていうことで、異界門をください』


「おぬしは何を言っておるのじゃ!?」


 ですよねー。

 キツネ長老の尻尾が、ぼふぼふと床を叩く。苛立たしげだ。


『ダメ元で言ってみただけ』


 族長が暮らす屋敷の客間で、ボクはごろごろしていた。

 隣では、銀子もボクを撫でながらごろごろしている。

 一応、巫女っぽい服装に着替えているので、仕事中と言えなくもない。

 実際は、子供が遊んでるだけなんだけど。


 このエルフ&獣人島だと、ボクはかなり友好的に接してもらえる。

 専属巫女さんをつけてもらえるくらいに。

 忌み神っぽい扱いだけど、とりあえず安心して過ごせる場所だ。


 だからまあ、わざわざ無茶して敵対するような状況にはなりたくない。

 異界門を開くのが危険ってのは、ボクだって理解できるからね。


 鍛えたいからって、簡単には手を出せることじゃない。

 大勢の命を預かる族長なら、当然の判断でしょ。


「けーちゃん、もっと強くなりたいの?」


 銀子が抱きつきながら訊ねてくる。

 最近は、乗るようにして全身で抱きつくのが好みらしい。

 なんだっけ、バランスボール? あんな感じになってる。


『怖い人が来るかも知れないから』


 勇者怖い。魔獣の敵。

 ボクは魔眼だし、話せば分かってもらえる可能性は高そうだけどね。


「ん~……怖い人は嫌だよね。そうだ。私も一緒に強くなる!」


『そっか。無理しない程度にね』


 小毛玉で頭を撫でてやると、銀子は嬉しそうにはにかむ。

 わしゃわしゃと撫で返してくるのはいいんだけど、たまに甘噛みもしてくるから子供は油断できない。


「ふむ。鍛錬をしたいというのは分かったさね。ところで……」


 キツネ長老が視線を部屋の隅へ向けた。

 そこには押入れがある。そしてちょっと開いた戸の隙間から、情熱的な眼差しが注がれ続けている。

 放置されてたけど、やっぱりキツネ長老は気になって仕方ないらしい。


「なんなのじゃ、アレは?」


『トモダチ』


「あのような友がおるか! 明らかに不審者ではないか!」


 キツネ長老が怒鳴るのも分からないでもない。

 元魔王こと大貫さんは、かなり特殊な趣味をしてるからね。肌も病的に白いし、眼光も鋭いから、けっこう勘違いされやすい。


 でも基本的には無害だよ。たぶん。

 ここの人達に対しても傷つけないように注意しておいたから、暴れはしないはず。

 子供の教育上よろしくなさそうなのはともかくも。


 部屋の端には、一号さんも静かに佇んでいる。こっちは教育によさそうだ。

 いつものように完璧なクールメイドだし。

 見習えば、何処に出しても恥ずかしくない淑女に育つはず。


『本当に気にしないでいいよ。ボクがずっと側にいるつもりだし』


 ガタリ、と押入れから音がした。

 一拍の間を置いて、なにやら荒い息も漏れてくる。

 どうしたんだろ? 興奮させるような発言じゃなかったよね?


「……愛情の形は様々ということか。あたしの世界もまだまだ狭かったみたいさね」


『そんな大仰なものじゃないと思うけど』


「変わったおねえちゃんだね。でも、けーちゃんの友達なら、きっといい人だよ」


 銀子の方は、無防備すぎる気もする。

 だけどまあ、ここで暮らしている間は大丈夫かな。孤島だし。都会に行って騙される、なんて事態は起きそうもない。


「ともあれ、話を戻すさね。鍛錬をしたいという話だったのう」


『大陸って、魔獣は少ないんでしょ?』


「辺境に行けば、まだそれなりに残っておるとは聞くのう。しかし、おぬしが住んでおる“魔境”ほど手強い魔獣はおらぬはずさね」


 やっぱり、そうなるよね。

 大陸の偵察は茶毛玉で続けてるけど、手強そうな魔獣は見掛けない。

 冒険者ってのも、辺境で細々と活動しているくらいだ。

 むしろ普通の野生動物が多く繁殖しているみたいだった。


「しかし力を求めるならば、なにも命懸けの戦いをする必要もあるまい。地道な鍛錬も大切さね」


「私もね、ちゃんと精霊魔法の練習してるよ!」


『そうかぁ。偉いね』


 撫でてあげよう。子供は誉めて育てるのが良いってどこかで聞いた。


 まあ確かに、地道に鍛えるっていう選択肢もある。

 スキルなんかは使っている内に強化されていくし、それで戦闘力が上がったりもする。レベルの方も自力で上げられるって、ザイラスくんやロル子から聞いた。


 だけど効率を求めるなら違う。

 生きている相手を倒した方が、経験値をごっそり貰える。

 外来襲撃のボーナスはなくなったけど、その点は変わっていない。


「……急ぐというのは、何か危惧することでもあるのさね?」


『それなりに。ボクって一応は魔獣だし』


「備えたいということか。万が一の際には味方になりたいが……あたしらでは力不足さね」


 キツネ尻尾が不満そうに揺れる。

 ボクのことなんだから、気にしなくてもいいのに。

 確かに一度は助けた形になったけど、ボクが勝手にやったことだし。


 獣人って義理堅いって話もあったっけ。

 そういえば封じた異界門を見守っているのも、ずっと昔に帝国と約束を交わしたからだとか。


「稽古の相手にもなりそうもないからのう。そちらの彼女の方が適任さね」


 キツネ長老がまた押入れへ目を向ける。

 って、なに? ガゴン!、って派手な音がしたけど?

 押入れの中で暴れて、頭でもぶつけた?


「か、彼女だなんて……ふふ、うふふ……」


 変な声が聞こえた。でもなんだか嬉しそうだ。

 怪我をした訳でもなさそうだし、放っておこう。






 その日は、エルフ領に泊まることにした。

 銀子がまた別れたくないって泣き出しそうだったし。

 それに、アリバイ作りの意味もある。

 一緒に寝ていた銀子をベッドに残して、ボクはこっそりと部屋を出た。


『そっちの様子はどうかな?』


『順調です。間も無く魔法陣の起動を行います』


 暗がりに茶毛玉が潜んでいる。

 メイドさん特製の、偵察も連絡もできる高性能タイプだ。

 通信先にいるのもメイドさんズ。

 とある作戦を、密かに実行してもらっている。


『安全第一で。失敗しても構わないから』


『承知致しました。隠蔽も万全を図ります』


 こういう悪巧みって、あんまり好きじゃないんだけどね。

 だけど安全には気を配ってるし、エルフや獣人には危害は及ばないはず。

 万が一の時には逃げてもらう準備もしてある。


 通信を終えて、ボクは寝室に戻る。

 大貫さんの気配もついてきているけど気にしない。

 そうして翌朝―――、


「い、異界門が移動しておるじゃと!?」


 集落全体が騒然となった。

 慌てるエルフや獣人たちを、ボクはパンを齧りながら眺める。


 へえー。異界門が海を移動かー。

 封印の氷ごと、船みたいにー? すごいねー。

 いったい、何処の誰がそんなこと企んだんだろー。



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