15 公国制圧④
ステータス表記にある『カルマ』―――。
これに関しては、ずっと謎のままだった。
なんとなく、悪いことをしたらマイナスになるんじゃないかな、という程度だ。
その推測にしても矛盾がある。
だって、ボクは何も悪いことはしていない。
なのに、マイナス方向にブッチ切りで突き抜けている。
これはおかしい。
うん。反論は認める。
ともかくも、そのカルマの謎が最近になって少し解けてきた。
エルフの里の人々、ザイラスくんやマリナさん、色々な人と接したおかげだ。
あれこれと話すついでに、カルマについても教えてもらった。
悪いことをしたらマイナス修正される。
これはまず間違いないそうだ。
だから犯罪者対策なんかにも、『懲罰』系スキルは重宝される。
兵士の出世条件は『懲罰』を使えること、なんて話もあった。
逆に、善行を積むとカルマはプラスへ向かう。
それと、ただ生きているだけでも普通の人間ならカルマはプラスになる。
だけどこの“人間なら”っていう部分が問題だった。
人類種以外、つまりは魔獣やそれに類する生き物―――、
それらの種族は、生きているだけでカルマはマイナスへ向かう。
また成長すればするほど、そのマイナスは積み重なっていく。
当然、ボクも人類種以外に含まれる訳だ。
だから『懲罰』系スキルに弱い―――というのは、過去の話。
「な、何故だ!? どうして邪悪な貴様が、この『聖結界』の中で動ける!?」
襲撃者が黒甲冑を睨む。
でも構わずに、掴んだ首を捻り上げていく。
「バカな……罪人ならば悶絶死するほどの『懲罰結界』だぞ!」
「こんな禍々しい奴が平然としていられるはずが……っ!?」
驚く顔を確かめてから、残った襲撃者を片付けていく。
殴ったり、蹴ったり、小毛玉から『麻痺針』を飛ばしたりと。
簡単なお仕事だった。
「いやはや、さすがですね」
「助かりましたわ。バロール様、ありがとう存じます」
『この程度、俺がいなくても問題なかったはず』
たぶん、ロル子一人でも片付けられた。
そもそも部屋に乱入される前の段階でも倒せたんだよね。
周囲は小毛玉で警戒しているから、廊下から来る連中も丸見えだった。
撃退が遅れたのは、正当防衛の形を取った方がいいかなあ、と思ったから。
それと、『懲罰』に耐えられるっていうのも示したかった。
どうもボクは、黒甲冑姿でも周囲の人間に怖がられるみたいなんだよね。
禍々しいとか、邪悪だとか、そんな印象を与えるらしい。
これもカルママイナスの影響だ。
犯罪者なんかも、そういった気配に敏感な人間には察知されるそうだ。
ボク一人なら、べつにどう思われても問題ない。
だけどいまは、ロル子の護衛についている。
周囲への印象も気にした方がいいのかなあ、と思ったり思わなかったり。
『懲罰』に耐えてみせれば、一応は善人だっていう証明になる。
実際は『唯我独尊』スキルの恩恵だけど。
これから人間と関わる機会が多くなりそうだし、試したかったっていうのもある。
対抗スキルって言っても、絶対とは限らないからね。
カルマのマイナスっぷりが酷いと、それだけ『懲罰』の影響も大きい。
実際、いまも少し痺れてたから。
今回は大丈夫だったけど、やっぱり『懲罰』系に対する時は油断できない。
我ながら、慎重すぎるかなあ、とも思う。
こういう考え方はたぶん、アレだね。
サガラくんが呪いを受けて倒れたって聞いたから。
邪龍との戦いで弱っていたところを、遠隔地からの呪術でやられたらしい。
そんな話を聞いちゃうと、どれだけ戦闘力が高くても油断できなくなる。
今回は、確実に安全って言える状況でもあったからね。
『懲罰』なんて効かない一号さんもいたし。
だから襲撃者たちには、実験台になってもらった。
『あとは尋問だけど、どうしよう?』
倒れた襲撃者たちは、一号さんが魔法の縄で縛り上げた。
いつもならメイドさんズに尋問を頼むところだ。
でもいまは一号さんしかいない。
「後は、わたくしどもに任せてくださいませ。この国の問題ですもの」
ロル子が兵士を呼んで、襲撃者たちは引き摺られていく。
まあ細かい調査とかは任せていいか。
裏で誰かが糸を引いているとか、新事実が分かったら聞かせてもらおう。
兵士たちが部屋を出て行くのを見送って、ボクたちは席に戻る。
一号さんも部屋の端へ戻って、申し訳無さそうに一礼した。
無言だけど気にしているらしい。
自分たちで尋問できなかったことを。
『気にしないでいいよー』
一号さんだけに見えるよう、魔力文字で宥めておく。
でもコルラート先生は気づいて首を傾げた。
「どうかなさいましたか?」
『いや、こちらの話だ。人手不足だと思ってな』
「……なるほど。バロール殿はあの島に屋敷を構えているのでしたな。すぐに人を呼ぶという訳にもいきませんな」
しかしこの先生もロル子も、あらためて考えると凄いね。
襲われた直後だっていうのに平然としている。
それとも、お貴族様って命を狙われるのが当り前なのかな?
だとしたら、人間の世界もけっこう殺伐としているってことか。
魔境と変わらない? いや、さすがにそこまではないか。
『転移魔法でもあればいいのだが』
「それは多くの魔術師にとっても夢ですな。私も若い頃は研究しておりました」
「コルラート先生がそんな研究を?」
「ええ。当時は随分と熱を入れておりました。まあ、もっと情熱を注げるものに出会って、結局は諦めたのですが……」
そんな話をしながらお茶を啜る。
敗戦した国の首都だっていうのを忘れるくらいに、平穏な空気が流れていた。
城での襲撃を退けてからは、まず平穏と言っていい日々が続いた。
夜中に一号さんが暗殺者を撃退したり。
ロル子に求婚してきた貴族がいたり。
街に近づいてくる竜が三匹くらいいたけど、大した問題にはならなかった。
求婚してきた貴族は滅んだし、竜もまとめて素材になった。
バロールさんの一睨みで解決でした。
そうして十日が過ぎて、帝国軍が到着する。
侵攻部隊というよりは占領部隊だ。
公都の扉は大きく開かれて、戦いは起こらず、帝国軍を迎え入れた。
「いやはや、本当に一人で一国を陥としちゃうとは。ビックリだよ」
「片桐くん、実はサガラくん並の戦闘力?」
『ここではバロールさん』
「おっと、そうだったね。バロール様、お疲れ様であります!」
マリナさんが大袈裟に敬礼する。
ザイラスくんも同じように敬礼して苦笑していた。
そんな二人だけど、勇者の仲間として、帝国内ではかなりの発言力を持っている。
今回の件についても、上手く話をつけてくれたみたいだ。
二人がいなかったら、また余計な戦いも起こっていたかも知れない。
あとは、ロル子やコルラート先生が交渉するだけだ。
降伏条件とか、今後の公国の在り方とか、細かい話になる。
まあ、ボクは関わらずにお任せだね。
一応は護衛として同席するけど―――、
ただ、ひとつ気になることもある。
帝国軍と一緒に来たのは、ザイラスくんたちだけじゃない。
以前に会った、公国の第四王子も連れて来られていた。




