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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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14 公国制圧③


 王様をブチのめした。だから明日から自分が王様だ―――、

 なんて、そんな理屈が通じるはずもない。


 普通なら、残った貴族からの反抗を受けて処断される。

 だけど公国の戦力は、ほとんどが帝国への侵攻に向けられていた。

 その戦力は壊滅して、敗残兵となってまだ帰国の途中。

 残っていたのは文官や、戦場に出ずに済む高い地位にあった者ばかりだ。


 あるいは、王から疎まれていたり、無視されていたり。

 王が討たれても、むしろ嬉々としてロル子を歓迎する者が多かった。


「此度の偉業、公国はおろか、大陸の歴史でも類を見ないものかと。真の英傑であられるヴィクティリーア陛下にお仕えできること、この上ない光栄であります」


「わたくしは王位に就いてはいないのですけれど……」


「おお、これは失礼を。つい自分の希望が口に出てしまいました。これも溢れる忠義故のこと、なにとぞお許しくださいませ」


 歯の浮くような台詞を並べ立てて、跪いた騎士がさらに深く頭を下げる。

 真っ先に味方宣言をしに来たのは、ボクも以前に会った騎士団長だ。

 亀魔獣騒動の時に、手柄に拘ってた人だね。

 今回も王都に残されていて、城の警備責任者になっていた。


 騎士団長から警備隊長になったってこと? つまりは降格?

 まあ、そこらへんの細かい事情は知らない。

 何にしても長いものに巻かれる性格なのは間違いなさそうだ。


 ある意味では、とても信用できる。

 新しい王に取り入って良い地位を得たい、って目論見が丸分かりだ。

 ロル子も、そこらへんはすぐに見抜いたらしい。

 そっと溜め息を吐いたのを隠して、騎士団長に笑みを向ける。


「協力は嬉しく存じます。まずは城内や街の混乱を治めねばならないのですけれど、頼りにしてよろしいかしら?」


「はっ、無論です。許可さえいただければ騎士団をまとめ、対処にあたりまする」


「では、お願いいたしますわ。グローナズドヴィンケル卿には、この国の重鎮として働いていただきたいと思っておりましたの」


 騎士団長は嬉しそうに再び頭を下げる。

 それにしても、グローナズドヴィンケルって……、

 この人、そんな長ったらしい名前だったんだ。逆に覚えやすいかも。


 一応は以前も兵士をまとめていたし、治安維持くらいには役立ってくれそうだ。

 ただ、ちらちらと黒甲冑姿のボクを睨んでくるのが気になる。


「ところでヴィクティリーア様……そちらのバロール殿は、何故ここにいるのか、尋ねてもよろしいでしょうか?」


 手柄を取られるのを気にしているのかな?

 以前も、そんな感じで絡んできたし。でも余計な心配だよ。


「バロール様には、わたくしの護衛をお願いしております。彼の実力は、卿も目撃しておられるでしょう? いまはなにかと不穏な時……もっとも、長居していただくつもりはございません。この国のことは、この国の者で行うべきですから」


「それを聞いて安心いたしました。では某は、己の務めを果たします」


 騎士団長は一礼して去っていく。その顔には晴れやかな笑みが浮かんでいた。

 ほんと、分かり易い人だ。

 しばらくは信用できるだろうけど、頼りにするのは危ないと思う。

 ロル子もまた苦労しそうだ。


「バロール様」


 ん? なんだろ?

 ロル子に呼ばれて、黒甲冑の首をそちらへ向ける。


「軽視するような発言をしてしまい、申し訳ございません。彼にはああ言っておいた方がよいと思ったものですから……」


『気にしてないよー』


 軽く手を振って宥めておく。

 実際、まったく問題ない。状況が落ち着いたら去るのも事実だし。


 この公国が平和になってくれれば、魔境にいても安心できる。

 魔境から最も近い港町でもあるから。

 そのためもあって、ロル子に味方したんだし。


『帝国軍が来るまでには、混乱もおさまるかな?』


「なんとか鎮めてみせますわ。これ以上の争いは、誰も幸せになりませんもの」


 小さな拳を握って、ロル子は力強く決意を述べる。

 豪華な金髪縦ロールも一層輝いているみたいだ。


 だけど、とも思う。

 国の命運とか、そんな重い物を子供が背負わなくてもいいのに。

 だからといってボクが肩代わりできる訳でもないんだけど。

 誰か、支えてくれるような人はいないものかな。







 帝国軍が到着するまで、あとおよそ十日ほど。

 その間に公都を治めておくのが、ボクたちの役割だ。

 そこからの政治的なあれやこれやは、帝国と話し合って決めることになる。


 逆らう者が出るたびに制圧!、って事態も覚悟していた。

 だけどそうはならなくて、ロル子は一安心している。

 コルラート先生が頑張ってくれたらしい。


「これで街の代表者も、ほとんどが協力を約束してくれましたわね。さすがはコルラート先生ですわ」


「いえいえ。御二方の活躍があってこそです」


 城の執務室で、ボクたちは一時の休憩を取っていた。

 ソファに腰掛けて、コルラート先生を歓迎する。

 この人とも、以前の亀騒動で会って、少しだけ話をした。

 物腰が柔らかくて、話しやすい人だったのを覚えている。あの時も街の人をまとめてリーダー役になっていたっけ。


 今回の戦争では、魔術師部隊の一員として従軍を命じられていたらしい。

 でも無視して、自分の研究室に篭もっていた。

 王命に逆らったのだから、縛り首になっていてもおかしくなかったはずだ。

 だけどどうやったのか、上手く誤魔化していたそうだ。


「バロール殿の活躍は、住民の多くが目撃しております。ヴィクティリーア様に関しましても、横暴な王を討ってくれたと、とても大勢の者が喜んでおりました」


「わたくしは大したことはしておりませんわ」


『こちらも同じだ。あまり誉められても困る』


「御二人とも謙遜がお好きなようで。しかしもっと胸を張って、私など顎で使ってくださっても構わないのですよ」


 なんていうか、貴族の妙なプライドとは無縁の人だね。

 ロル子の先生でもあるみたいだし、今後も頼りになってくれそうだ。


「それに、私も少しは役に立っておきませんと。バロール殿ばかりに苦労を掛けては、シェリー殿に怒られてしまいます」


『妹にも伝えておこう。コルラート殿にまた世話になったと』


「それこそ世話というほど大したものではありません。ですが、シェリー殿とまたお会いできるのなら―――」


 不意に、コルラート先生が眉根を寄せた。

 その気配をボクも感じ取る。背後に控えていた一号さんも静かに体勢を変えた。


 部屋の入り口へ目を向ける。

 やや間を置いて、ドアが乱暴に開け放たれた。


「見つけたぞ、逆賊ども!」


 入ってきたのは、十名ほどの男達だ。

 剣を構えた男が数名と、白い法衣を着た男が三名ほど。

 逆賊とか言ってるけど、そっちは不法侵入者だよね?


「黒甲冑、貴様が神敵なのは分かっている! 大人しく裁きを受けろ!」


 後方にいる法衣の男たちが、懐から小さな石を取り出す。

 白く輝く石だ。魔力の気配もある。

 それが、ボクたちへ向かって投げられて―――、


「ご主人様?」


『いいよ。ここは専守防衛で、ボクが片付ける』


 迎撃しようとした一号さんを止めて、短い遣り取りをする。

 その直後、投げられた石が弾ける。


 広がったのは真っ白な光。

 『懲罰』の輝きが、室内を覆い尽くした。



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