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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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11 深夜の同窓会


 夜―――、

 帝国使節団との会談は、一旦休憩を入れさせてもらった。


 なんかもう色々と衝撃的すぎて。

 勇者であるサガラくんのこととかも聞きたかったけど、全部後回しだ。


「ご主人様、お茶を入れ直しましょうか?」


『……ううん、そのままでいい』


 一号さんの気遣いを断って、冷めた紅茶を啜る。

 すっかり香りは逃げちゃってるけど、たまにはこういう味も悪くない。


 静かな部屋を眺めながら、ぼんやりと時間を過ごす。

 頭を働かせる気分になれない。

 これだけ鬱々としたのって、随分と久しぶりだ。

 なんだかんだで生き残るのに必死だったから―――、


「失礼します。ザイラス様とマリナ様が、ご主人様への面会を求めております。如何いたしましょう?」


 部屋に入ってきたのは七号さんだ。

 面会ねえ。こんな夜に、同窓会でも開こうっていうのかな。


 まあ、断ることでもないか。

 『変異』を発動、人間の姿になって二人を迎え入れる。


「邪魔するよ、と。この部屋も豪華だなあ」


「うんうん。帝国貴族のお屋敷みたい」


 二人とも、ほんのりと顔が紅潮してる。

 そういえば夕食の時にお酒を出したんだっけ。

 ボクは一口しか飲んでないけど、けっこう好評だった。

 アルラウネとメイドさんで作った果実酒らしいけど、どんな物か詳しくは知らないんだよね。


「二人とも、貴族じゃないの?」


「そうだけど、実家は下級騎士だったから。いまも贅沢はしてないよ」


「私も。教会の孤児院育ちにゃの」


 にゃの?

 二人が席に着くと、帝国貴族への愚痴がつらつらと並べられた。

 堅苦しい礼儀作法を覚えるのが大変だとか。

 なんでもかんでも剣で解決しようとする脳筋貴族ばかりだとか。

 暑苦しいとか。息が臭いとか。

 いい男がいないとか。


 主に、マリナさんが、途切れることなく文句を並べ立てる。

 なんていうか、ダメダメだ。

 黙っていたら神秘的な雰囲気を纏っているのに、いまは残念な酔っ払いにしか見えない。


「飲み過ぎじゃない?」


「にゃによぅ。こんにゃ美味ひいおしゃけが悪いのよぅ。おツマミも、チーズなんて贅沢品……しゃいこー!」


 バタリと倒れた。そのままソファの上で寝息を立て始める。

 この人、なにしに来たんだろう?

 ザイラスくんも困惑顔で苦笑を零していた。


「悪いね。普段はもうちょっと落ち着いてるんだけど……クラスメイトと会えたのがよっぽど嬉しかったみたいで」


「そんなに親しくもなかったけど」


「それでも彼女には意味があるんだよ。あの日、突然の爆発で、殺されて……転生してからも不安だらけだった。いまだって吹っ切れた訳じゃない」


 分かるだろ?、とザイラスくんが憂い混じりの笑みを浮かべる。

 まあ大事件だったのは確かだ。

 教室にタンクローリーとか、よっぽど不幸じゃないと遭遇しないと思う。


「みんなで揃って卒業式がしたいって言ってたよ。もう叶わないって、彼女にも分かってはいるんだろうけどね」


 ボクは曖昧に頷いておく。

 冷めた紅茶を飲み干して、メイドさんにおかわりを注いでもらった。


「片桐くんは、元の世界に戻りたいって思わない?」


「……まあ、戻れるなら。便利だし」


 会話の流れで、あまり考えもせずに答える。

 だけど答えてから気づいた。

 こっちを窺うザイラスくんの眼差しが、思いのほか真剣なものだった。


「なに?」


「……意外だったから。片桐くんは、この世界を楽しんでるタイプかと思った」


 ん~……まあ、そういう部分もあるね。

 っていうか、世界がどうあれ楽しみを見つけるって普通じゃない?


「そういうイメージじゃなかったのも確かなんだけどね。だけどこの屋敷を見ると、メイドさんが大勢いるし、魔獣も女の子ばかりだし……ここの子供たちって、片桐くんが父親だったり……」


「それはない」


 即答。真顔で否定しておく。

 まだまだ子持ちになるつもりはないよ。


 だけど、そういう風な勘違いをされるとは思ってもみなかった。

 ここはしっかりと誤解だと言っておいた方がいい。


「アルラウネやラミアは、成り行きから共同生活が始まったんだよ。絶滅危機でもあったし」


「あー……大陸だと酷い扱いを受けてるみたいだね。珍しい種族だから」


「メイドさんは拾い物で」


「え? 拾ったって、どういうこと?」


「スキュラは、お隣さんみたいなもの」


「……ご近所付き合いは大切だね」


 これだけ言っておけば大丈夫かな。

 ザイラスくんは思慮深い性格みたいだし、分かってくれるでしょ。


 魔獣にだって相手を選ぶ権利はあるからね。

 妙な偏見の目は、早めに修正しておくべきだ。


「えっと、それはともかく……もしも元の世界に帰る手段が見つかったら、片桐くんも協力してくれるかな?」


「ん。状況次第で」


「うん、それで構わない。いまは問題が山積みで、手掛かりを探す余裕もないから……」


 ザイラスくんはほっと息を吐く。

 安堵した表情は緩んでいるけど、完全に気が晴れたって感じじゃないね。

 色々と抱え込んでいるみたいだ。

 元委員長だし、苦労性なのかなあ。


「それと……聞いてもいいかな、大貫さんとのこと」


「……ああ、うん」


 やっぱりその話題は避けられないよね。

 だけどまあ、帝国騎士たちがいる場よりは話しやすいか。

 こうして夜中に訪れてきたのは、ザイラスくんなりの気遣いなのかな。


「大貫さんと付き合ってた、ってことでもないんだよね?」


「ただのクラスメイト」


「そうか。マリナもそんな関係じゃないだろうって言ってたけど……でも大貫さんは本気だったよ。なんて言うか、狂気的に見えるほどで……」


 むぅ。狂気って、酷い言い方だなあ。

 だけど魔王になっちゃうくらいだし、あながち間違ってはいないのかな。

 真っ直ぐすぎる性格なだけ、とは言い難いか。


「転生前は、よく家に来たよ。こっそり。覗きにも来てた」


「……それって、ストーカーってこと?」


「さあ? 趣味なんじゃない?」


 ぱちくりと、ザイラスくんが瞬きを繰り返す。

 んん? そんなに変なこと言ったかな?


 だって行動はストーカーっぽいけど、好きだとか言われたワケでもないし。

 だいたい、大貫さんともほとんど話した覚えはない。

 恋愛感情を抱かれるとは思えないんだよね。


 読むのに三日くらい掛かりそうな手紙を受け取ったこともある。

 だけどラブレターとかじゃなかった、はず。

 ボクのことを誉めてくれてはいたけど、恋愛的な言葉はなかったと思うし。


「えっと……理由はともかく、大貫さんがとても執着しているのは間違いないよ。ここに片桐くんが居るって聞けば、すぐにでも飛んで来るくらいに」


「うん。辛かっただろうね」


「え……?」


「大貫さんがいまいくつかは知らない。でもずっと、ボクを探してたんでしょ?」


 何年か、何十年か、探し続けていたってことだ。

 その情熱には感心する。

 結果が出なかったのは、仕方なかったとはいえ、悲しくも思える。


「もっと早くに会えてたらよかったのに」


「それって……つまり、会うのに抵抗はないのかな? 魔王でストーカーだよ?」


「言葉は通じるんだよね?」


「そうだけど……」


 なら、問題はない。

 いきなり襲ってくるような魔獣だったら、隠れるのも検討したけどね。

 この島だと、そんな出会いばかりだったし。


 帝国としても、ボクと魔王の出会いで、事態の好転を期待しているはず。

 そこらへんの事情はどうでもいいんだけど―――、


「でも、すぐには会えない」


 念の為、ザイラスくんには話しておこう。


「先に、ロル子の問題……リュンフリート公国に攻め入るから」


「は……?」


 やっぱり驚かれるか。

 だけどこれはもう決定事項だし、納得してもらうしかないね。



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