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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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08 いくつもの再会


 事前の報せから二週間後―――、

 帝国からの船が、港街に到着しようとしていた。


 大陸北部にある帝都から人を出したにしては、かなり早い到着した方だろう。

 乗船している勇者パーティの二人は、以前に使ったスペースシャトルっぽい飛行機を使って高速で移動してきていた。

 その様子も偵察用茶毛玉で捉えてある。


 間も無く到着する船にしても、風を操作して速度を上げている。

 委員長、目黒くんによる魔術だ。

 いまはザイラスって名乗っている。ともかくも要注意人物なのは間違いない。

 異世界の存在なんて許しちゃいけない、みたいな考えも持ってるみたいだし。

 戦闘力にしても、なかなか侮れない感じだ。


 もう一人は女神官。マリナさんっていうらしい。

 高所恐怖症で、ついでに船にも弱い。

 船に乗ってる最中も、港に着いてからも、げろげろ吐いてる。

 まあ船酔いって、かなり辛いらしいからね。見なかったことにしてあげよう。


 あとのメンバーは、中間管理騎士のルイトボルトさん。

 それと、褐色騎士のバルタザールさん。ここらへんがメインだ。

 他に目立つのは―――よし、後回しにしよう。


 気になるのは、この時期に帝国が接触してきたこと。

 いまが大変な状況なのは、大陸を偵察して知っている。

 竜軍団の残党処理だけじゃない。

 周辺各国が、揃って帝国への宣戦布告をした。


 元々、広大な領土を持つ帝国には敵が多かった。とりわけ大陸東側にある聖教国とは、エルフや獣人、さらには魔獣への扱いに関しても意見がぶつかり合っている。

 つまりはまあ、外来襲撃のゴタゴタに乗じて領土を奪ってやろうと。

 そう考える国が多かった訳だ。


 帝国も予想はしていたけれど、だからといって完璧な対処ができるとは限らない。

 多方面から攻められては、強兵を誇る帝国でも厳しい戦いとなる。

 とりわけ、魔族の動向に苦労させられているらしい。

 新魔王の即位と、一方的な宣戦布告、さらには国境砦への強襲―――、

 すでに帝国はふたつの砦を落とされているとか。


 他人事じゃなくなる可能性があるし、ボクも興味がある。

 だから、なるべく詳しく聞き出してもらうつもりだ。

 うん。ボクが聞き出すんじゃない。

 シェリー・バロールこと十三号が、まずは交渉役を務める。

 ボクは隠れて、映像越しに様子を見守る役だ。


「おお、シェリー殿、相変わらずお美しい。貴方の笑顔を得るためならば―――」


 バルタザールさんも変わってないね。

 十三号がちょっと微笑むだけで、知ってることはなんでも話してくれそうだ。

 だけどまあ、いまは放置で。


 喋り続ける褐色騎士を制止して、ルイトボルトさんと挨拶を交わす。

 そうして、勇者パーティの二人も紹介された。


「はじめまして、ザイラス・ユリムラルドです。宮廷魔術師の一人として帝国に仕えています」


「私はマリナ・エトワンド。大地母神の神官とし、て、おぅぇぇぇ……」


「……船旅でお疲れでしょう。まずは屋敷まで御案内いたします」


 一瞬だけ、十三号の表情が歪んだ。

 船酔い神官さんも、やっぱり侮れないね。







 帝国側との会談は、まず和やかに進んだ。

 世間話から始まって、外来襲撃のこととか、船旅のこととか。

 当たり障りのない話題で場を温めていく。


 取引に関しても小規模なもので、ほとんど問題なくまとまっていく。

 あまり大きな取引をする余裕がない、っていう状況でもあるんだろうね。

 ただ、戦力になるものは欲しいみたいだ。

 港に設置してある魔導投石器の話には、ザイラスくんも食いついてきた。


「観測手が必要なほど遠くまで届くとなると、単純な力だけでは無理ですよね。もしかして重力系の魔術も使っているんですか? あれは自分も研究しているんですが、なかなかに扱いが難しくて……」


「ちょっと委員長、目の色変わり過ぎだよ」


「え? ああ、すいません。自分は魔術研究のことになると熱が入ってしまい……」


「構いません。見学の許可が出るかどうか、兄に尋ねてみます」


 ん~……あの長距離投撃は、この島防衛の要なんだよね。

 見せるだけならともかく、簡単に技術情報は渡せない。

 何かしらの見返りがもらえるなら別だけど。

 技術交換とかも考えるべきかなあ。


 今回の会談、かなり行き当たりバッタリな部分がある。

 相手の目的がいまひとつ読めないから。

 事前に言ってくれればよかったんだけど、直接に話したいというばかりだった。


 それだけ重要なことだっていうのは推測できる。

 なので、こちらも慎重に様子を窺う方針を取った。

 勝利条件としては、この島でのんびりと暮らしていけること、かな?


「ところで、このお菓子もとっても美味しいですね」


 マリナさんが話題を移した。

 乗り物酔いしてないと、とても上品な貴族令嬢に見える。

 メイドさん特製のお菓子も好評だ。


 一応、作り方を教えたのはボクだけど、かなり曖昧なものだった。

 それを美味しくしてくれたのはメイドさんの腕前によるもの。

 とりわけ女子二人には喜ばれている。


「ええ。このアオモリタルトは、兄も好物なのです」


「アオモリ……?」


 あ。

 マズい。やっちゃった。

 これは十三号が悪いんじゃなくて、ボクの失敗だ。

 勇者パーティの二人組が顔を見合わせる。そうして頷き合った。


「あの……唐突ですが、シェリー様は転生者というのをご存知ですか?」


「……貴方がたがそうだと、聞き及んでおります」


 向こうが転生者の話を振ってくるのは、ボクだって予想していた。

 何のつもりでここまで来たのかは分からないけど。

 ボクも転生者ではないのか?、そう疑われていてもおかしくはない。


 目をつけられるだけの行動をしてきた自覚はある。

 でも、認めるかどうかはまだ決めていない。

 とりあえずここは、十三号の誤魔化しスキルに期待しよう。


「その転生者という話は、本当なのですか? 俄かには信じられないのですが」


「まあ、証明できるものではありませんが……」


「同じ転生者を探しているんです。それで、バロールさんがそうなんじゃないかって思ってます」


 マリナさんが切り込んでくる。

 神官だから防御タイプかと思ったけど、こういう部分は積極的だ。


「さっきアオモリって言いましたよね。それ、私たちが元いた世界の地名なんです」


「なるほど。この世界の人間では知るはずがないと?」


「そうです。だからバロールさんは、きっと……」


「浅慮ですね」


 十三号が冷ややかに切り返す。

 見た目は幼女タイプだけど、その眼光の冷たさは奉仕人形の中でもトップクラスだ。


「兄とわたくしは、様々な地を旅してきました。アオモリという果実も、旅の途中で名前を聞いたものです。たしか最初は露店で売っていた物ですから、誰が名付けたのかはまったくの不明ですね」


「え……でも、この島で育ててるんじゃ……?」


「ですから、以前に聞いたアオモリと同じような果実だったので、そう呼んでいるだけです。兄が転生者という証拠にはなりません」


 強引だけど、一応の筋は通っている。

 少なくとも、マリナさんとザイラスくんを黙らせることには成功した。


 いっそ全部を打ち明けてもいい気もする。

 だけど相手が何を考えているか分からないから、念の為に。

 判断を下すのは、この後でもいいはず。

 どうせ、直接に会うんだから。


「あの……」


 それまで静かに座っていた女の子が、控えめに口を開いた。


「バロール様との面会は、叶うのですよね?」


「はい。ここより南にある本拠の屋敷で、お待ちになっております」


 ほっと安堵の息を吐いたのは、まだ幼い少女だ。

 大人びた顔立ちをしているけれど、表情の端々に子供っぽさが滲んでいる。

 それでも所作のひとつひとつから育ちの良さが窺える。

 ただ、なにより目を引かれるのは、豪華な縦ロールの髪型だ。


「ヴィクティリーア様は、探しものがあってこの島を訪れたと聞きましたが?」


「はい、わたくしの使い魔を……とある魔獣を探しておりますの」


 どういった経緯があったのかは知らない。

 だけどそこにいるのは間違いなく、ボクを召喚した金髪幼女だった。



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