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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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19 拾いました


 幼女を拾った。

 けっして犯罪じゃないと主張したい。

 放り捨てる選択肢もあったんだけど、そうしなかった理由もある。

 この竜人幼女、どうやら邪龍軍団の中でも重要な存在らしい。


『我はリュミリス! 偉大なる龍神より選ばれし御子の血を継ぐ者だ! 偉いのだ! そして強いのだ! 貴様のような毛玉に屈するものか!』


 一号さんに用意してもらった食事を片付けた後、そう宣言して噛み付いてきた。

 ちなみに竜人は雑食らしい。

 お肉が好きだって言ってたけど、なんでも美味しそうに食べてた。


『ぐっ……わ、我の爪も牙も効かぬだと!?』


 まあボクには『上位物理無効』があるからねえ。

 適当にあしらってから、ちょっぴり本気で『威圧』してみた。

 また泣かれた。

 漏らしたのは、見なかったことにしてあげよう。


「ご主人様、やはり彼女は隷属させた方がよろしいかと。私どもでは取り押さえるのに苦労しますし、仲間を呼ばれる恐れもあります」

『そういえば、竜って離れてても念話ができるんだっけ』

「逃亡を防ぐためにも、対策は必要かと判断します」


 ひとまず安全策を取っておいた方が利口だ。

 ってことで、泣き疲れて寝ている間に隷属術式を掛けておいた。

 ボクや拠点の皆には暴力を振るえないように。

 逆らったら死ぬ、なんて危険な術式ではないらしい。


 呪い的な痛みが走るそうだけど、それくらいなら許容範囲内かな。

 児童虐待?

 そんなのは竜がいない世界のルールだよ。


 この世界には、喰うか喰われるかの魔境だって存在する。

 むしろ子供だからって見逃される場面の方が少ない。

 おまけに、この竜人幼女はまた別の世界のルールで生きているみたいだ。


『おまえ、毛玉なのに素晴らしく強いのだな! 見直したぞ!』


 目を覚ました竜人幼女は、嬉しそうに声を上げて抱きついてきた。

 てっきり怯えられると思ってたのに。


『あはははは。思いきり抱きついてもビクともしないぞ! すごいすごい。お爺様やお父様みたいだ!』


 この竜人幼女、しっかり教育しないと危険だ。

 太い生木を圧し折るくらいの力があるし。

 小毛玉も握り潰そうとしてくるし。

 パワー系幼女だね。

 始めにビシッと言い聞かせておかないと、大問題を起こしそうだ。


「貴方はまず、ご主人様への敬意を覚えるべきです」

『敬意だと? 我が敬うのは、偉大なる龍神のみだ!』

「敗軍の、しかも捕虜になった者が偉そうな態度を取るものではありません」

『ふ、ふん! 我らは負けておらぬ! そこの毛玉も、貴様も、いつか我らに屈して泣いて許しを請う―――いたたたたっ、や、やめろぉぉぉ……』


 一号さんが無表情のまま、竜人幼女のほっぺたを摘み上げる。

 暴れられても離さない。

 眼差しが冷ややかさを増していく。

 そのうちに、根負けした竜人幼女は泣いてごめんなさいをした。


『うぅ~、毛玉ぁ……あのメイドが怖いのだぁ……』


 情けない声を上げながらボクに泣きついてくる竜人幼女。

 その背中に刺さる一号さんの眼差しは、とっても冷たい。

 この様子なら島に帰るまでに調教、もとい教育は完了しそうだ。







 幼女一名を増やして、島へと戻る旅は続く。

 幸い、もう竜と遭遇することはなかった。

 折角だから経験値稼ぎに狩ってもいいんだけど、わざわざ探すつもりもない。

 焦って力を付けたい状況でもないからね。


 幸いと言えば、思いのほか、勇者の傷が深いらしい。

 邪龍に腕一本を千切られていたし、普通なら死んでいたっておかしくない。

 だけどそこは世界を救う勇者様だ。

 腕を失っても戦い続けていたし、自分で治療術も使っていた。


 いまは帝都に戻って、高位の神官による集中治療を受けているらしい。

 それでもまだ動けないのは、邪龍を誉めておくべきかな。


『邪龍とか言うな! お爺様は、龍神様に認められた御子なのだぞ! むしろ神聖で偉大なる龍なのだ!』

『そう言われても。黒くて、見るからに禍々しかったし』

『おまえだって黒いじゃないか! この毛玉め!』


 竜人幼女はボクに噛み付いて、毛も毟り取ろうとしてくる。

 そして一号さんに捕まった。

 コメカミをぐりぐりやられて涙目になる。


「ご主人様への敬意を忘れてはならないと、何度言えば分かるのです?」

『いだだだだっ、わ、分かった! 分かったから、やめろぉぉぉ~~~~!』


 順調に教育は進んでる。

 とりあえず爪を立てなくなっただけでも進歩かな。


『と、とにかくだ! あのサガラとか名乗った男は、いま弱っているのだな?』

『まあ、そうみたいだよ』

『うぅ……やはり仇を討つ好機ではないか。せめて父が残っていれば、軍勢をまとめなおすことだって出来たものを……』


 その父である黒龍を追い帰したのは、他ならぬボクなんだけどね。

 間接的には、邪龍の仇とも言えるかも知れない。


 もちろん、そんな事実は告げていない。

 だって話したら面倒な事態になりそうだから。

 異界に戻ったらしい、ということだけは教えておいた。

 ついでに、異界門が消え去ったことも。


 それだけでも竜人幼女にとっては衝撃の事実だったようだ。

 しばらくは愕然として、立ち上がることも出来ないでいた。


 いまはこうして、一応は元気に振る舞っている。

 だけど空元気ってやつなんだろうね。

 竜人の心なんて分からないけど、幼い子供が親から離れるのはやっぱり辛いはずだ。


 だからといって同情するのも違う気がする。

 ボクに出来るのは、ご飯とオヤツをあげることくらいだね。

 それと気になるのは、この後、竜人幼女自身がどうするつもりなのか?


『自分で、軍団をまとめなおそうとは思わないの?』

『ふ、ふん! 我は確かに偉大で強大だが、未熟でもある。己を過信するような愚か者ではないのだ!』


 どうやら、それなりの力が無いと竜たちの統率は難しいらしい。

 いまの竜人幼女だと、十体くらいの竜を従えるので精一杯だそうだ。


『あと千年もすれば、我もお爺様のように強くなる! その時こそ、あの男を泣かして、討ち果たしてやるのだ!』

『千年もあれば、人間は寿命が尽きてると思うけど?』

『なっ、なんだとぉ!?』


 驚いた顔をしてから、竜人幼女はがっくりと項垂れる。

 まあ色々と常識無視なこの世界、寿命を延ばす方法だってあるかも知れない。

 そう教えて、励ましてあげるべきか?

 ボクが迷っている間に、竜人幼女の思考が漏れてきた。


『うぅ……こうなったら異界門を開き直すしかないのか……』


 その言葉は聞き逃せなかった。


『異界門を、また開けられるの?』

『ん? えっと……分からん!』


 腰に手を当てて偉そうな態度を取りながら、竜人幼女は微妙な返答をする。


『儀式の手順と、その時に必要な唄は覚えているぞ。あとは龍神様への祈りと、多くの竜力があれば開けるはずだ!』


 どうにも曖昧な情報だ。

 儀式とか唄とか、なんというか、胡散臭い。


 でも異世界への扉が開けるというのは気になる。

 そういうのは神とかシステムさんの領分かと思っていたんだけど、

 暇が出来たら、調べてみてもいいのかも知れない。



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