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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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18 残敵掃討……?


 ぐるんぐるんと小毛玉が回る。

 派手に旋回して、その勢いのまま空飛ぶ竜の体を貫いた。

 まるで竜巻みたいな高速回転で、六体の小毛玉が次々と獲物を仕留めていく。


 ちょっと前に手に入れたスキル、『逆鱗』の効果もある。

 発動させると全身が強靭になるみたいだ。

 以前から生木くらいは砕けた小毛玉だけど、いまは竜の体も豆腐みたいに貫ける。

 あと、ちょっぴりテンションが上がる。暴力的な気分になるっぽい。

 高揚する、って言えば悪いものじゃないのかな。

 狂戦士化みたいに正気を失う弊害はないと思う。


 異界門を壊して帰る旅の途中、竜の群れに出くわした。

 たぶん敗走した竜軍団の一部だね。

 数十体で、近くの村を襲おうとしてた。


 べつに人間の村を助ける義理はないけど、竜たちを見逃す理由もない。

 経験値とかお肉とか、美味しくいただこう。


「ご主人様、あの辺鄙な村も殲滅いたしますか?」

『いや、しないよ。なんでそんな攻撃的な選択肢が出てくるの?』

「目撃者がいれば、思わぬ不利益を被る可能性があるかと」


 まあ確かに、地上に見える村では大騒ぎになってる。

 竜の群れが現れただけでも非常事態だろうし。

 その竜を毛玉が殲滅したとか、もう訳が分からないだろうし。


 だからってボクに不利益があるものでもない。

 妙な毛玉がいるとか、たとえ噂になっても構わないよ。

 どうせここは大陸だ。

 ボクが住む島との接点も限られてる。

 バロールさんの正体を見られた訳でもないし、放っておいていいでしょ。


 ともかくも一号さんを制止して、ボクは南へと進路を取る。

 のんびりと大陸観光しながら帰るつもりだった。

 もっとも大陸全体を見ると、のんびりとは程遠い状況みたいだけど。


『統率が失くなって、むしろ被害が拡大してるね』

「帝国軍の主力以外では、竜に対抗できる戦力は少ないですから。このまま竜たちが野放図に暴れ続ければ、人類の何割かは削られるでしょう」

『勇者とか、大きな戦力が上手く動けば防げるかな?』

「はい。弱い人々も、次第に効率的な対処法を見つけるかと」


 いまの竜軍団は、個々が強力な火器を持ったゲリラみたいなものだ。

 むしろテロリスト?

 誰彼構わず襲ってるみたいだからねえ。


 どっちにしても、一般人には迷惑極まりない。

 そういう意味では、帝国軍の敗北なのかも知れないね。


 たぶん、勇者の力を頼って、竜軍団を全滅に近い状態まで追い込みたかったはず。

 だけど邪龍を倒すだけで勇者も精一杯で、追撃までは叶わなかった。

 そうしていま、帝国領どころか、大陸全体に被害が広がっている。


 でも竜軍団にも勝利は無い。

 異界門が壊された以上、補給も逃げ場もなくなった。

 世界すべてが敵で、勇者に出会えばまとめて殲滅される。

 延々と鬼ごっこを続けて、いつかは力尽きるしかない。


『勝者は無し、か。正しく戦いは何も生まないね』

「ご主人様が唯一の勝利者であられるかと」


 むう。そう言われると、なんだか黒幕っぽい。

 あながち間違ってもいないから反論もできない。


 ほどほどに人類勢力が衰えてくれると、ボクの島は手出しされないで済む。

 バラバラになった竜軍団も、もう怖くない。

 実に都合よく事が運んでくれた。


 勇者サガラくんには感謝しないといけないね。

 もしも敵に回られたら面倒だけど、邪龍との戦いで重傷みたいだし―――。


「ご主人様、あちらをご覧ください」


 ん? なにか発見した?

 一号さんが指差した方向へ目を向ける。

 空を飛ぶボクたちの先にあるのは、高い樹木が生い茂っている森林だ。


 だけどその一部が炎に包まれて、多くの木々が倒れている。

 森林火災? いや、なにかが暴れた跡かな?


「生体反応が四つ。その内のひとつは竜人のものです」


 竜人、と聞いてボクは飛行速度を落とした。

 少し慎重になって考えてみる。

 話ができないかな、と。


 本来なら、竜軍団との戦いの前にするべきだった。

 捕まえてからの尋問とか。

 だけど竜たちは、離れていても独自の通話手段があるみたいだったから。

 情報収集よりも、こちらの秘密保持を優先した結果だ。

 とはいえ、大きな戦いが終わった以上、もう情報を得ても意味はないとも思える。


『無視しちゃってもよさそうだね』


 一号さんを従えて、黒煙の上がっている森の上空を通過する。

 そこで、四つの人影が見えた。


 三つは剣や鎧を装備した男たちで、もうひとつ、翼を生やした小柄な影が倒れている。その傍らには、力尽きた竜の死体もあった。

 それと、他にも数名、丸焦げになった人間の死体も転がっていた。

 男たちの装備からすると、兵士というよりは冒険者に見える。

 竜一体と竜人一名、それとの戦いになって、犠牲を出しながらも勝利した、といったところかな。


 そういう事情なら、尚更、ボクが手出しする場面じゃない。

 他人の戦いに割って入る趣味もない。

 ただ、倒れて組み伏せられている竜人には見覚えがあった。


 小柄な体格をしている。

 もしも只の人間だったら、親に保護されているような年齢だろう。

 あちこちが血に濡れているけれど、長い黒髪は艶やかだ。

 そう。女性型の、幼い竜人。


 邪龍の頭に乗って偉そうにしていた、竜人幼女だ。

 いまは頭を掴まれて、悔しそうに歯噛みしている。


「クソガキが! 散々に暴れてくれやがって!」


 竜人幼女を組み伏せている男が、忌々しげに罵声を吐いた。

 握った剣を、幼女の首筋に当てている。

 他の二名も顔を歪めながら、幼女を見下ろしていた。

 戦いで仲間を殺されもしたのだろう。復讐したいと思うのも当然だ。


 でも、一名は別の意味で顔を歪めてるみたいだった。


「な、なあ、殺す前に、俺がヤッちまってもいいか? いいよな? こういう小さい子を、一度思い切り甚振ってやりたかったんだよ」


 よし。有罪決定。

 このロリコンどもめ!


 『静止の魔眼』を発動して、続けて毛針も撃ち込む。

 静止空間の中で、ピタリと毛針が止まる。

 もちろん竜人幼女は狙いから外してある。

 そして時は動き出す、と。


 阿鼻叫喚なんて起こらない。悲鳴すら上げずに、冒険者たちは倒れ伏した。

 さすがに命までは奪ってないよ。

 ボクだって、それくらいの自制はする。

 使ったのは『爆睡針』だ。生き物には初めて使ったから、もしも爆発したら謝ろうとは思っていたけどね。


 ともかくも事態は解決。

 残った竜人幼女は、ぽかんとしたまま地面に手をついていた。


「ご主人様が自ら手を下されるのですか?」

『違うよ! そんなことのために乱入したんじゃないよ!』


 本当、メイドさんの倫理観は、一度きっちり修正する必要がありそうだ。

 命を奪うのはよくないことだよ。

 それなりの理由が無い以上は。


『とりあえず、彼女は殺さずに確保する』


 一号さんなら、表情ひとつ変えずに幼女もくびり殺しそうだ。

 なので釘を刺しておく。

 ボクが高度を下げて近づくと、幼女もこちらに気づいて顔を上げた。


『な、なんなのだ、お前たちは!?』


 竜人幼女から念話が飛んでくる。

 どうやら話はできるみたいだ。こっちも一号さんの念話で通訳してもらおう。


『敵じゃないよー』


 味方とも限らないけど、ひとまず『再生の魔眼』を発動。

 急に光ったボクの目を見て、竜人幼女がビクリと肩を縮めた。

 だけど光は傷を癒していく。

 折れていた翼も、しっかりと回復していった。


『これは……わ、我に施しをしたというのか!? どういうつもりだ!』

『なんとなく? あと、色々と話を聞きたいから』

『話すことなどない! 我らは、この世界の敵なのだ!』


 竜人幼女は威嚇するみたいに呻ると、回復したばかりの翼を広げた。

 そうして飛び立とうとする。


『い、いまは見逃してやる! だけどこの屈辱は必ずや晴らして―――』


 ぶべっ!、と悲鳴を上げて、竜人幼女は顔から地面に落ちた。


 小毛玉が足に取り付いて引っ張ったからね。

 逃がさないよ。

 一号さんにも手伝ってもらって、魔力の縄で拘束する。


「捕縛するのでしたら、隷属術式を掛けてはどうでしょう?」

『そんな便利なもの、あるの?』

「ご主人様と、赤青鳥の関係を解析し、開発しました。絶対服従とはいきませんが、こちらへ危害を加えられないようにするのは可能かと」

『試作段階の術式ってこと? そういう危ないのは―――』


 子供に施すのはどうなんだろう、と思った時だ。

 ぐきゅるぅ、と大きな音が鳴った。

 音がした方向へ目を向ける。

 縛られている竜人幼女は俯いて、耳まで真っ赤にしていた。


『お腹、空いてる?』

「う……」


 こちらを睨み返しながら、竜人幼女は小さく声を漏らした。

 念話じゃなくて、耳で捉えられる声だ。

 だけど意味のある言葉じゃなくて、


「う……うぅ……うわああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~ん!」


 ガチ泣きだった。

 涙も鼻水も垂れ流して。喧しいほどの声を森に響かせる。


 うわぁ。本当に子供だ。

 どうしよう、これ?

 お腹空いてるみたいだし、なにかあげたら泣き止む?


 そういえば、ボクの毛の中にオヤツがあったような……、

 バナナしか残ってないけど、食べるかな?



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