13 弱り目に祟り目
適当な木の影にウサギの死体を運ぶ。
ボク自身の治療をしつつ、生肉を齧っていく。
一息ついたところで、周囲の草やツタを利用して、簡単な罠を設置していく。
そんな作業の最中に、思わぬメッセージが届いた。
《行為経験値が一定に達しました。『土木系魔術』スキルが上昇しました》
え? 魔術?
どうしてそんなスキルが上がるの?
魔術的な行動なんて取ってなかったはずなんだけど?
あ、でも草やツタを操るのに『干渉』の魔力糸を使ってる。
この行動が、魔術と関係してるのかな?
よく分からないけど、ひとまずそう考えておこうか。
それにしても、『土木系魔術』って不思議な響きだね。
そういえば前に、『風雷系魔術』があるのも確認してたっけ。
どうやらこの世界の魔術って、属性二つが一緒になってるみたいだ。
他にも光術とか闇術とかが在るのも、システムに尋ねて確認してある。
ついでだ。他の属性についても聞いてみよう。
炎魔術って解放できるー?
《『炎熱系魔術』スキルは、すでに解放されています》
なるほど。なんとなく分かってきた。
それじゃあ、もうひとつ。
水魔術って取れるー?
《『水冷系魔術』スキルは、すでに解放されています》
炎と熱、水と氷が一緒ってところかな。
他にもどんな魔術があるのか、忘れない内に聞いておこうか。
《『空間魔術』スキルは覚醒不可能です。条件を満たしていません》
《『重力魔術』スキルは覚醒不可能です。条件を満たしていません》
《『影魔術』スキルは、すでに解放されています》
《『障壁魔術』スキルは、すでに解放されています》
《『封印術』スキルは、すでに解放されています》
《『錬金術』スキルは、すでに解放されています》
《『呪術』スキルは、すでに解放されています》
かなりの種類があるねえ。
だけど一番役立ちそうな『空間魔術』なんかは、まだ使えないみたいだね。
『魔導の才・極』とかあるのに無理なのか。
才能だけじゃダメとか? 他の魔術を鍛える必要もある?
まあ、そのうちに分かるかな。後回しだね。
なんだか後回しにばっかりしてる気もするけど、優先すべき事柄があるから仕方ない。
いまは、自然に取れた『土木系魔術』について考えておこう。
しかしこれ、繰り返しになるけど、不思議な響きだね。
土木って……。
正直、ぱっとしないね。
けっして貶すつもりはないけど、他の魔術が派手そうなだけに、ねえ?
人間社会だと、まず確実に差別されてるよね。
土木魔術師だっていうだけでクスクスと笑われたり。
学園の土木魔術科は生徒が三人しかいなかったり。
愛し合う二人が、土木魔術への偏見のために引き裂かれたり。
酷いなあ。差別はよくないよ。
きっと土木魔術だって、上手く使えば有用だと思うんだ。
家を建てたり城壁を築いたり、そういう方面では大活躍できるんじゃないかな?
だとすると、いまのボクには嬉しい魔術だね。
穴を掘れるだけでも、罠のレパートリーが増える。
いまは草で足を引っ掛けたり、ツタで絡め取ったりと、簡単な仕掛けしか作れてないからねえ。
ただの野営地が、アジトや拠点と呼べるくらいにランクアップできるかも。
よし。早速使ってみよう。
『土木系魔術』、発動!
……。
…………。
うん、知ってた。
何も起こらないよね。
やっぱり『魔術知識』を読み解くしかないかなあ。
だけどまったく未知の言語を一から理解するなんて、かなり難しい作業だよ。
大学生とか博士とか、旅先では必ず殺人事件に遭遇する探偵とか、そんな特殊技能を持った人でないと無理じゃないかなあ。
少なくとも、ただの中学生だったボクには無茶な要求だ。
おまけに、いまは毛玉だし。
『共通言語』の閲覧許可とやらを取れば、なんとかなりそうではある。
でもそっちはポイントが足りない。
たぶん、”社会生活力”でマイナス補正が掛かってるんだろうね。
さもなければ、システムによる嫌がらせか。
なにせ、ボクを毛玉に転生させるようなシステムだからね。
悪意の塊みたいなヤツだって不思議じゃない。
むしろ、そうであった方が納得できる。
システムがラスボスとか、よくある話だからねえ。
と、妄想して怒ってる場合じゃないか。
さっさと野営地を作らないと。怪我の回復もしないといけないからね。
まずは雑草を編んで身を隠せる場所を作る。
『治癒の魔眼』と『自己再生』を使って傷を癒して、『瞑想』して、
草むらでゴロゴロしながら『魔術知識』の本を読む。
ああ、なんかこういう生活っていいなあ。
あとは、ポテチとコーラがあれば完璧だね。
こんな野外でサバイバル生活なんて、好きこのんでやりたくないよ。
でも、この『魔術知識』はけっこう面白いね。
魔術の構築式部分は立体映像みたいに浮かんでくるんだけど、それを拡大させたり、回転させたりもできる。
電子書籍も泣いて負けを認めそうな技術だ。
見ているだけでも綺麗で―――、
《行為経験値が一定に達しました。『危機感知』スキルが上昇しました》
システムメッセージが届くのと同時に、ボクも異変を察知していた。
低い音が近づいてくる。
地面の下から。震動とともに何かが迫ってくる。
ボクは咄嗟に飛び退いた。
大きく長い影が、地中から突き出てきた。
まるで巨大なミミズだ。
ただし、先端にある口はぱっくりと割れて、鋭い牙を生やしている。
人間だって骨まで噛み砕いて、丸ごと呑み込めそうだった。
対するボクの方は、ソフトボールくらいの大きさしかないんですが。
どうせいと?
困惑している間に、ミミズは頭部と言っていいのか分からないけど、ともかくも巨体の先っぽをボクへと向ける。
目らしき物は無さそうなのに、確実にボクを捉えている。
腹に収める、エサとして。
いやほんとどうしよう。
かつてないピンチだ。ウツボカズラに食べられ掛けた時以上だよ。
だって、一匹だけならなんとかなったと思うよ。
治療でけっこう魔力を使ったけど、いまはそこそこ回復してきてる。
『死毒の魔眼』も、ギリギリ二回は使えるからね。
でもこいつらは一匹じゃなかった。
ボン、ボン、と続けて地面から出てきたミミズは、合計で五匹。
ボクの短い毛玉生、詰んだかも知れない。




