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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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15 邪龍軍団vs帝国軍vs毛玉②


 吹雪を一瞬で消し飛ばし、無数の竜を従え、人間の軍勢を慄かせる。

 眩いほどの白光に包まれた姿は神々しい。

 だけど漆黒の全身は、禍々しい威圧感を放っていて、やはり邪龍と呼ぶのが相応しい。


 邪龍は体を起こすと、二本の脚で大地を重々しく踏み締めた。

 そうしてゆっくりと歩み出す。

 他の竜たちは頭を垂れながら道を開けた。

 帝国軍は動かない。いや、動けない。

 どれだけ抵抗をしても目の前の邪龍には傷ひとつ付けられないと、誰もが本能的に理解していた。


 そのまま邪龍は、あっさりと帝国軍を壊滅できただろう。

 息を吐くだけ。腕を一振りするだけ。

 それだけで、万を越す命を容易く刈り取れたはずだ。


 でも、ただ一人だけ、その前に立ちはだかる者がいた。


『ったく、デケエ顔しやがって』


 ガラの悪い小悪党みたいな台詞を吐いて、勇者は歩み出た。

 手にした長剣を揺らしながら邪龍へと向かう。


『あん? 俺は強くなんかねえよ。ただ妙な役割を与えられて……って、言葉は通じねえんだったな』


 どうやら邪龍が何かを語り掛けたみたいだった。

 けれど勇者は首を振って話を打ち切る。

 もう言葉を交わしたところで、何かが変わる段階は過ぎている。

 だから両者は真っ直ぐに向き合って―――、


 先に動いたのは邪龍だ。大きく息を吸い込む。

 邪龍の口内奥に光が宿って、強烈なブレスを吐く準備に入ったのは明らかだった。


 勇者なら、その隙を突いて一撃を加えることもできただろう。

 けれど、そうはしなかった。

 瞬時に上空へと飛び立つと、勇者は一気に飛行速度を上げた。


 狙いは、自分を囮として帝国軍を守ること。

 ブレスの巻き添えを出すのを嫌ったのだろう。

 けれど同時に、邪龍の攻撃を避ける自信も、その動きから窺える。


 いや、違う?


『来いよ、トカゲ! 正面から受け止めてやる!』


 上空で動きを止めた勇者の前に、半透明の盾が何枚も現れる。

 その言葉通り、真っ向から勝負するつもりらしい。


 邪龍も挑発に乗る気だ。口の端を吊り上げて笑ったみたいだった。

 一瞬の間を置いて、その口から破壊の光が吐き出される。

 まるで何十本もの丸太を束ねたような、極太の白いブレスだ。


 それを受ける勇者も、正面に浮かべた盾に力を注いだ。

 けれど、三枚までは呆気無く消滅する。


『っ……”反射”を完全無視かよ―――!?』


 勇者の声も、その姿も、白光に飲み込まれた。

 帝国軍の兵士たちが、泣き出しそうなほどに顔を歪める。

 逆に、竜たちは歓声みたいな雄叫びを上げた。


 けれどまだ戦いは始まったばかりだった。

 白光が消えると、そこには勇者の姿があった。

 額から僅かに血を流している。

 だけど空中に浮かんだ姿勢からは、まだまだ力が溢れていた。


 邪龍も悠然と立ったまま咽喉を鳴らした。

 大きな牙の生えた口の端から、一筋の赤い血が零れている。

 ブレスが放たれると同時に、勇者が何かしらの攻撃を放っていた。

 鋭い槍を投げつけたような攻撃は、邪龍の咽喉奥を傷つけ、ブレスの勢いも削いでいた。


『掠り傷って感じだな。”懲罰”系も効かねえみたいだし……ほんと、どんだけ化け物なんだよ』


 勇者が忌々しげに呟く。

 邪龍も、お互い様だ、とでも言うように呻り声を漏らした。

 バサリ、と黒々とした翼が広げられる。

 空高く舞い上がった邪龍と、剣を構え直した勇者と、両名はまた睨み合った。


『テメエも色々と事情を抱えてるみてえだな。けど構ってはやれねえぞ。そんな義理も、余裕だってねえんだ』


 眼差しで意志を交わすと、両者は速度を上げた。

 勇者は剣を、邪龍は爪と牙を振るい、再び激突した。







 それはもう他者には手出し不可能な戦いだった。

 誰もが息を呑む。緊張感を強いられ続ける。

 傍から見ているだけでも命懸けだ。


 勇者が剣を振っただけで空が裂けた。

 邪龍の爪も同じく、空間を割り、大地に消えない痕を刻んだ。

 誰かが神の名前を叫んだ。

 けれどそれも破壊音に掻き消された。


 陽の高い内から始まった戦いは、いつまでも続くかと思われた。

 勇者も邪龍も、絶大な攻撃力を誇っている。

 万の命を奪うような一撃を、次々と、惜しげもなく繰り出していく。

 けれどそれを避け、防ぎ、相手へと弾き返しもする。

 多少の傷を負っても、一呼吸の後には回復している。


 まるで神話に出てきそうな戦いだ。

 両者の力は拮抗しているように見えた。

 けれど同じはずがない。

 人間と、龍と、決定的な差異がある。


 そもそも人間は、龍と比べればとても貧弱な生き物だ。

 桁違いの能力で誤魔化しても、拮抗した戦いでは地力の差が出てくる。

 その差によって生まれた隙を、邪龍は見逃さなかった。


 大空に無数の魔術が飛び交っていた時だ。

 邪龍の爪が、勇者の胸を深く抉った。

 致命傷じゃない。だけど苦悶の声を上げて、勇者は体勢を崩した。

 直後に、片腕が食い千切られる。


 それでも勇者は傷を塞ぎ、なんとかして反撃に移ろうとする。

 けれど容赦無く、邪龍のブレスが放たれた。

 一撃目は、辛うじて障壁で防ぐことができた。

 そこへ二撃目も連続して撃ち込まれて―――、


 勇者は血塗れになり、片腕を失ったまま、ついに大地へ叩きつけられた。


『っ……くっそ……これだから、勇者なんてやりたくねえんだ、けどな……!』


 まだ戦えると、勇者は強がって笑ってみせる。

 だけど傷は深く、力も衰えてきているのは明らかだった。

 立ち上がるのもままならない勇者の前に、邪龍が悠然と降り立つ。


 両者は睨み合った。

 これまでの戦いに比べれば、ほんの短い時間だ。

 そしてやはり邪龍は油断なく、トドメの一撃を振り下ろそうとした。


 その瞬間、邪龍が大きく目を見開いた。

 動きを止め、息を呑み、虚空へと視線を移す。


 何が起こったのか―――、


 ともあれ、それは大きな隙になった。

 満身創痍だった勇者だが、その瞬間を見逃さず、全力で剣を振り払った。

 剣撃が、空間を裂く。

 激しい血飛沫が散って、邪龍の翼が根元から斬り落とされた。

 さらに追撃が、硬い鱗に覆われていた腹部も深く裂く。


『はっ……俺だって、こんな世界で死にたくねえんだよ!』


 勇者が続け様に剣を振るい、呻く邪龍を追い込んでいく。

 まだトドメには至らない。

 けれど形勢が逆転したのは間違いなかった。


 …………。

 ………………。

 何故、邪龍が急に意識を逸らしたのか? 致命的な隙を作ったのか?


 うん。知ってる。

 だってそれは、ボクが仕掛けたことだからね。



明日明後日の更新はお休みです。

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