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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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14 邪龍軍団vs帝国軍vs毛玉①


 午後のロードショー、邪龍軍団シリーズ。

 本日はいよいよクライマックスを放送!

 竜と鉄のファンタジー。人の叡智は邪龍に打ち勝てるのか!?


『―――なんてテロップを入れたら盛り上がりそう』

「映像を栄えさせる技術でしょうか。検証してみます」


 一号さんが大真面目に答える。

 さすがに緊張してる、って訳でもなさそうだ。いつもと同じく冷然としている。


 ボクたちはいま森の中にいた。

 少し拓けた場所で、木洩れ日が差していて、芝生に転がってくつろげる。

 だけど周囲は木々で囲まれているので、身を隠すにはいい場所だ。

 野生動物や魔獣の気配もない。

 のんびりと、戦争の様子も眺められる。


 これから大勢の人が死ぬ状況なのに、のんびりっていうのも非道いけどね。

 もしもここが豪華な装飾に包まれた部屋で、ワイングラスなんかを片手にしてたら完全に悪役だ。膝に乗せた猫を撫でたりしてね。


 もっとも、いまのボクは撫でられる側だ。

 一号さんはいくつもの映像を制御しながら、ボクの毛並みを整えてくれている。

 あれ? だけどこの構図だと、一号さんが―――。


「どうかなさいましたか?」

『黒幕?』

「……申し訳ございません。仰られた意味を図りかねます」


 ああ、うん。そうだよね。

 くだらないこと考えてる場合じゃない。

 もうじき世界の命運を賭けた決戦が始まる。


「間も無く、戦端が開かれるかと」


 映像の向こうで、大軍同士が睨み合っていた。

 広々とした草原に、邪龍軍団三万五千と帝国軍五万が布陣している。

 両者は充分に距離を置いて対峙した。

 しばらく静かな時間が流れてたんだけど―――。


『少し意外だね。いきなり竜の群れが突撃するかとも思ったのに』

「彼らも知恵はあるようですから。幾許かの仲間が討たれたことで、警戒しているのかも知れません」

『そうなると、ますます帝国軍が不利かな?』

「作戦次第であると推測します」


 ボクたちが戦況予測をしていると、戦場に動きがあった。

 竜の群れの中から、一際大きな真っ黒の龍が歩み出る。

 ボス邪龍だ。帝国軍を睨みつけると、空へ向けて大きな咆哮を上げた。


 草原全体を揺らす雄叫びに、それまで静かに構えていた帝国軍がざわついた。

 小さく悲鳴を上げる兵士もいる。

 だけど、怯えているだけにしては妙な感じだ。


『なんだか、やけに慌ててる?』

「はい……帝国兵士たちの声から察するに、どうやら邪龍が何かしらの語り掛けを行ったようです。わたくしどもが使う念話のようなものと推測します」


 ほうほう。言われてみれば、兵士たちはそんなことを呟いてる。

 念話も使うとは、邪龍って意外と芸達者だね。

 単純な破壊力だけじゃない、と。


『茶毛玉でも、念話の傍受はできない?』

「はい。申し訳ございません。今後の改良課題とします」

『いや、後回しでいいよ。そんな機能があっても、役立つ機会は少ないでしょ』


 それよりもいまは、帝国軍の反応が気になる。

 察するに、いまのは戦いの前の名乗り口上みたいなものだったんじゃない?

 やあやあ我こそは、みたいな?


 ボクだったら相手が喋ってる間に攻撃するけどね。

 合体中の隙とか、絶対に狙う。

 むしろ最近じゃ、狙う方がお約束になってきてるよね。


 と、話が逸れた。

 帝国軍の方も、なにやら言い返すみたいだ。

 豪華な甲冑を着た騎士が、軍の正面に馬を進める。

 太い槍を掲げると、よく響く声を上げた。


『異界からの竜、いや、非道なる侵略者どもよ! 降伏しろなどと、傲慢にも程がある! 貴様らは我らの強さを知らぬ! 愚かさを悔いる前に、さっさと尻尾を巻いて逃げ帰るがいい!』


 騎士に続いて、兵士たちも揃って声を上げる。

 どうやら邪龍は降伏勧告をしたらしいね。

 無駄な抵抗はせず死を受け入れろー、とか?


 対する帝国軍は、戦う気満々だ。

 あちこちの映像を見ても、怯えてるような兵士はほとんど見掛けられない。

 士気が高いって、こういうのを言うんだろうね。

 精鋭ばかりを集めた軍だって聞いてたけど、どうやら本当みたいだ。


 でも、相手のことを知らないのはお互い様だった。


『っ……こちらの言葉は通じぬだと!?』


 やっぱり邪龍が使う念話も一方通行なんだ。

 ボクとメイドさんが初めて会った時もそうだった。

 前に出た騎士は困惑顔をしてる。

 相手に分からないのに大声で語り掛けるって、傍から見たら滑稽だからねえ。


『ええい、元より語る言葉など不要! 傲慢なる侵略者どもに鉄槌を下すことに変わりはない! 征くぞ! 帝国軍の強さと勇敢さを見せつけてやれ!』


 強引にまとめると、帝国騎士は本陣へと戻っていった。

 そうして両軍はまた睨み合う。

 だけど今度は、すぐに動きがあった。

 邪龍が吠える。配下の竜たちが一斉に前進を始めた。

 地上から空から、分厚い波が帝国軍へと押し寄せる。


 うわぁ。竜津波だ。

 映像でも、その迫力は充分すぎるほど伝わってくる。

 もしもボクがあそこに居ても、真っ先に逃げ出すかも知れない。


『今更だけど、普通の竜一体でも、人間にとっては化け物なんだよね?』

「はい。凡庸な兵士では、腕の一振りで殺されるでしょう」


 そんな竜が、万単位で襲ってくる。

 控えめに見たって大災害だ。天変地異だ。

 まともにぶつかったら、人間なんて呑み込まれるしかない。


 だけど帝国軍は、始めから”まともにぶつかる”つもりなんてなかった。


『大した威圧感だ……しかし竜どもよ、先にこの場に布陣したのは我々だぞ』


 帝国軍の指揮官が、にやりと笑って合図を送る。

 陣の後方、百名ほどの集団が光に包まれた。

 魔力の光は、その集団の足下から放たれている。大型の魔法陣が置かれていた。


『すでにこの草原、すべてが我らの罠と化しているのだ。力に溺れる竜では警戒すらしなかったであろうがな』


 帝国軍は、事前に草原のあちこちに魔法装置を埋め込んでいた。

 さらに大人数で魔力を注ぎ、装置を起動させる。

 草原を囲むように数ヶ所から光が上がって、その光は空にまで届いた。


 すぐに変化は起こる。

 空が暗く染まって、雲が浮かび、途端に辺り一帯が冷え込んでくる。

 雪が降り出した。激しい風も吹き荒れる。

 一歩先さえ見えないような猛吹雪だ。

 視界を奪うだけでなく、槍みたいに尖った氷柱が降り注いだ。


 相手が大災害なら、こっちも大災害をぶつける。

 そんな攻撃だ。

 氷柱の嵐くらいだと、竜の硬い鱗はなかなか貫けない。

 だけど混乱は起こった。


 空でも陸でも、進路を見失ったおかげで狼狽える竜は少なくなかった。

 人間を喰らおうと全力で突撃していた竜が、仲間に激突する。

 何体かの竜が空から堕ちて、それがまた混乱を誘った。


『今だ! 第二陣、攻撃を開始せよ!』


 さらに自然災害じみた攻撃は続く。

 今度は雷撃だ。

 どうやら氷柱よりも強烈みたいで、落雷の轟音に続いて、竜の悲鳴が響き渡った。

 数十体の竜がまとめて堕ちる。

 地上で雷撃に貫かれた竜も合わせると、被害はもっと多いはずだ。


 それに、魔術ばかりでもなかった。

 帝国軍陣地から、何百本もの鉄槍が飛ぶ。大型の兵器から放たれたものだ。

 弩弓から放たれる矢や、投石器の攻撃も続いた。


『なかなか、凄い作戦じゃない?』


 正直、ボクは感心した。映像にも見入っていたくらいだ。

 やるじゃない、帝国軍。

 冷ややかな顔を崩さない一号さんも、その点は同意してくれる。


「はい。とりわけ空への攻撃を重点的に考えていたようですね。空では方向を見失いやすいですし、事実、飛行型の竜部隊は完全に足止めされています」

『でも地上の竜は、少し違うみたいだね?』

「地竜は頑強さに秀でておりますから。闇雲にでも突撃すれば―――」


 一号さんの解説通り、吹雪を突破する地竜がいた。

 数十体の地竜が、猛然と土煙を上げて帝国軍へと迫る。


 でも消えた。

 忽然と。地面の下へと。


『落とし穴って、古典的だけどすごく効果的な罠だよね』

「仰る通りかと。そして、ここまでは完全に帝国軍の作戦通りでしょう」


 単純に人力で掘っただけの落とし穴じゃない。

 大規模な魔術で、地割れまで起こして作った対竜用の落とし穴だ。

 製作には、勇者パーティの魔術師も協力してた。


『頑丈な地竜でも、あの高さだと無事じゃいられないか』


 次々と地竜が落下して、痛々しい咆哮を上げる。

 咄嗟に止まろうとしたのもいたけど、後続に押されてやっぱり落下していく。

 その間にも、大規模魔術や兵器での攻撃は続いている。


 まだ序盤だけど、勢いは完全に帝国軍だ。

 竜の被害は、四桁じゃ収まらないかも。

 だけど―――。


『ここからが本番かな?』

「あれを数や策で押さえ込むのは難しいでしょう。なにもかもを、単純な力で覆せる存在です」


 これまでとは比較にならないくらい威圧的な咆哮が響き渡った。

 直後、吹雪が消し飛ばされる。

 雪よりも白い、煌々とした輝きが辺り一面を照らし出した。


 その輝きの中心に立つのは、黒々とした、その場のなによりも巨大な姿。

 邪龍が、いよいよ戦いに加わろうとしていた。



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