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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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12 小手調べの迎撃戦


 夕陽が差す海を眺める。

 その先から、百体の竜が近づいてきているはずだ。


 でも、まだ影すら見えない。

 空を飛べる竜とはいえ、海を渡るには時間が掛かる。

 生き物なので休息も必要だ。

 鳥みたいに、海に浮かんで翼を休めながら進んでくる。


「明日の昼前には、敵部隊は到着すると予測されます」


 拠点北の港町、もとい前線基地に、ボクはやって来ていた。

 もちろん竜を迎え撃つためだ。

 この辺りに上陸するとは限らないけど、その前に海上で叩き落すつもりでいる。


 様子見? 捕らえてからの情報収集?

 そんなのは今回は無視する。

 偵察竜部隊には竜人もいるので、上手くすれば尋問だってできるだろう。

 だけどそもそも言葉が通じない。


 茶毛玉のおかげで、竜人が互いに喋ってる場面も捉えられてる。

 どうやら念話みたいなもので、言語の違いを克服する方法もありそうだ。

 でも、だからこそ、ボクたちの情報が漏れるのを避けたい。


 この島から去った竜たちの一件からして、どうやら竜同士は離れていても意思疎通ができるっぽい。

 たとえ捕まえても、それで助けを呼ばれでもしたら困る。

 なので、見敵必殺でいく。


「今夜は屋敷でお休みになられても、余裕を持って迎撃可能な距離ですが?」

『なんだか落ち着かないから。もしもの時に、少しでも早く動ける場所にいたい』


 基本的に、ボクは心配性だからね。

 非常時なのに普段通り、っていう方が不安になる。

 それに、久しぶりの本格戦闘だ。

 緊張感はあった方がいい。


 まあ、そんなに深刻になる事態でもなさそうだけどね。

 ボス邪龍とか、竜の全軍が押し寄せてくるっていうならともかく、百体くらいなら圧倒できる自信がある。

 所詮は偵察部隊、って余裕綽々で構えてた方がいいかも知れない。


『迎撃訓練にもなるし。みんなにも、そのつもりで動いてもらって』

「承知致しました。油断せぬよう伝えておきます」


 一号さんが恭しく頭を下げる。

 思い掛けない襲撃だったけど、拠点のみんなのために利用させてもらおう。

 普段からの訓練が大事だからね。

 地震や火事に対するのも、竜に対するのも。







 夜討ち朝駆け。

 迎撃訓練のつもりだけど、なにも馬鹿正直に待ち構える必要はない。

 相手の位置、しかも休息してる場所が分かっているんだから、こっそりと襲撃すればいい。


 まだ暗い海の上で、竜たちがまとまって眠っている。

 その様子を、茶毛玉が中継映像として送ってきてくれる。

 『暗殺』スキルなんてものを手に入れたボクだけど、ここまで状況が整ってると、もはや頼るまでもないね。


 竜部隊から遥かに離れた場所で、ボクは上空から連中を見つめていた。

 まだ爪先ほどの大きさにしか見えない。

 でも『五感制御』で視覚を強化できるし、魔術で操った水粒を並べて、望遠鏡みたいな物も作れる。

 相手が間違いなく眠っているのを確認できた。

 もうじき夜が明ける時間だけど、その前に片をつける予定だ。


「ご主人様、こちらの準備は万端です。ご指示をお願いします」


 一号さんも、ボクの斜め後ろに浮かんでいる。

 竜部隊の数はおよそ百。竜人も数名混じっている。


 それと、青白くて細長い身体をした竜も数体がいた。

 海竜ってやつかな。

 大陸で暴れてる映像はなかったけど、もしかして海路の案内役?

 やっぱり全世界規模で竜が集まってるのかね?

 まあいずれにしても、バラ肉になってもらう予定に変わりはない。


『それじゃあ始めよう。攻撃開始!』


 描く文字にも気迫を込める。

 同時に、キシャア!、と威嚇するみたいに全身の毛を逆立ててみた。

 実際には、ボクの声は吐息にしかならないんだけどね。


 すると、背後から一号さんに撫でられた。

 なんだか子供を宥めるみたいに。

 むう。頼りなく見えたのかな?

 慣れないことはするものじゃないね。


 そんな遣り取りをしてる間にも、ボクの指示は伝わっている。

 遠く、港の前線基地にいる部隊に。

 メイドさんを指揮役にして、ラミア部隊が中心。

 アルラウネとスキュラも手伝いのために少数が派遣されている。


 彼女たちが行うのは、投石器による”爆撃”だ。

 いや、正確には、投石器に似た魔法装置だね。

 山ひとつを越すほどの飛距離を誇る投石器なんて、只の技術じゃ有り得ない。

 メイドさんによる、文字通りの魔改造の産物だ。


 すでに投擲弾は設置されている。

 ラミア部隊が、数名で装置の魔法陣へ魔力を注ぎ込んでいく。

 最近はラミアたちも魔術を学んでいるから、用意された魔法陣を扱うくらいは簡単だ。

 そして、タイミングを合わせて撃ち放つ。

 しっかりと訓練された動作を、ボクは離れた海上で映像越しに眺めていた。


「着弾まで……10、9、8……」


 カウントダウンって独特の緊張感があるなあ。

 心臓がドキドキする。

 でも未だに、この毛玉体の心臓が何処にあるのか謎だ。


 とか考えていると、凄まじい衝撃音が上がって、そこに竜の悲鳴も続いた。

 落下してきたのは、魔術加工された石塊だ。

 しかも雨霰のように。

 単純に重くて硬いだけじゃなく、中には鉄も混ぜて尖らせた物もある。

 石の鈍器と鉄の槍が無数に降り注ぐ。

 眠っていたところに。不意打ちで。ほとんど前触れもなく。

 こんなのやられたら、ボクだって泣く自信があるよ。


 おまけに一撃で終わらない。

 放たれた投擲攻撃は、僅かな時間を置いて、第二撃、第三撃と続く。

 そして第四撃目は、魅了を中心とした状態異常花粉の詰め合わせだ。


 竜の群れは毒に苦しみ、石化に慌てて、さらには仲間に襲われて大混乱に陥る。

 我ながら、非道い作戦を考えたものだねえ。


「ご主人様、トドメをどうぞ」


 そうだね。毛玉の情けだ。

 なるべく苦しまないように終わらせてあげよう。

 まだまだ遠くにいる竜の群れを睨んで―――『重壊の魔眼』、発動!


 発動した魔眼の先、空中に、小さな黒い玉が現れる。

 指先ほどの玉だ。

 当然、混乱している竜たちは気づかない。

 だけどそれは瞬く間に大きくなっていく。

 そして、気づいた時にはもう遅い。


 黒い重力の塊に、竜の巨体が引き上げられ、呑み込まれていく。

 押し潰され、圧縮されながら。

 頑丈な鱗に覆われていても関係ない。断末摩の悲鳴もまとめて吸い込まれる。

 数十体の竜が人間の頭くらいの空間に圧縮されて―――、

 凄まじい爆発が起こった。


 大気がビリビリと震動する。それは遠く離れた海岸まで伝わっていった。

 空の雲は避けて、海原には深い穴が開く。

 うわぁ。

 なんていうか、すごい。

 注ぐ魔力はほどほどに控えたのに、予想以上の破壊力だ。

 殲滅力なら『万魔撃』以上じゃないかな。


 この様子を映像で見てる皆も、愕然として固まってる。

 あ、両手を合わせて祈ってるような子もいるね。

 怖がらなくても、島までは影響は及ばない、はず。

 それに、どうやら敵は綺麗に片付いたみたいだし。



《外来種の討伐により、経験値に特別加算があります》

《総合経験値が一定に達しました。魔眼、バアル・ゼムがLV6からLV9になりました》

《各種能力値ボーナスを取得しました》

《カスタマイズポイントを取得しました》

《行為経験値が一定に達しました。『重壊の魔眼』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『魔力集束』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『時空干渉』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『一騎当千』スキルが上昇しました》


《特定行動により、称号『竜の殲滅者』を獲得しました》

《称号『竜の殲滅者』により、『逆鱗』スキルが覚醒しました》

《条件が満たされました。『英雄の才・弐』が承認されます》



 また一気にアナウンスが流れた。

 『逆鱗』とか、経験値の特別加算とか、気になる部分もある。

 あの竜たちは、経験値的に美味しいってこと?

 ボーナスタイム?

 だとすると、勇者にばかり倒されるのもよろしくない―――。

 と、いまは残敵の確認が先だね。


「敵反応、完全に消滅しております。殲滅完了です」

『そっか。よかった。みんなにもお疲れ様って伝えて』


 一号さんが浮かべてくれる映像で、港基地の様子も確認する。

 まだ呆然としてる子もいるけど、歓声が上がっている。

 投石器の周りで、ラミアやアルラウネたちが手を叩きあって喜んでる。


 うん。いい訓練になったみたいだ。

 この様子なら、島の防衛力をもっと上げていけそうだ。

 ひとまずの安全も確保されたし。

 竜軍団にも対抗できるのが証明されたし。

 この勢いのまま、ボクは大陸に乗り込むとしよう。


 ……もちろん、こっそりと。

 ゲリラ戦に持ち込むのも面白いかも知れないね。



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