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12 森の恵み、それは甘い果実


 森林探索再開。

 これからの方針を考えてみたけど、前提として生き残ること、ってのがある。

 つまりは、衣食住を確保しないといけない。

 いや、毛玉に衣は必要ないだろうってのは置いておいて。


 ともかくも食料と寝床は整えないといけない。

 寝床はまあ、草でも編んで適当に作ればいいと思う。

 叶うなら、城でも建てたいところだけどね。

 だって怪鳥やワニが出るような森だし。

 何が起こるか分からないし。

 さすがに城は無理でも、ちょっとした拠点くらいは作れそうな考えはある。

 いまは無理だけどね。

 草むらに隠れて寝るくらいしかないよ。


 そうなると、やっぱり食料だけでも確保しておきたい。

 ウサギでも狩れればいいんだけど、どれだけの数がいるかも分からない。

 だから果実でも手に入れたいね。

 安定して採れる植物なら、先の予定もある程度は組めるだろうし。


 ってことで、森を探索中。

 時々、高い木の上まで登って周囲を見渡したりもしてる。

 だけど辺り一帯が森ってことしか分からないね。

 海からもけっこう離れてる感じだ。

 あと、近くに流れてる川も見えたので、それを目印に地形を把握していくつもり。


 また木から降りて探索を続ける。

 上り下りもけっこう慣れてきたね。

 この毛玉体から生えてる足、見た目通り、虫みたいに器用に動ける。

 ある意味では、人間よりも便利だね。

 それでも手や指が無いから、やっぱり人間の方が器用なんだろうけど。


 身体能力的には、小さな体の割に優れてるとは思う。

 自分の体と同じくらい大きな石とか持てるからね。

 あと、『五感強化』に頼らなくても、感覚はそれなりに鋭いみたいだ。


 いまも、なんだか妙な匂いを感じられた。

 甘くて良い匂いだ。

 果物かな? 美味しそうな香りがする。

 ウサギの一匹も現れないし、確保しておきたいね。


 少し森が暗くなってきた。

 だけど気にせずに進む。

 甘い香りが強くなる。涎が零れてきそうだ。

 森の奥に、バスケットボールみたいに大きくて、林檎みたいな赤い果物が見えた。


 駆け出す。

 次の瞬間、視界が黒く染まった。

 頭上から何か降ってきた。いや、襲い掛かってきた。

 大きな筒状の、人間も丸呑みできそうな植物だ。

 ウツボカズラだっけ?

 食虫植物を逆さにしたような奴だった。

 頭からボクを呑み込もうとする。

 というか、最初の不意打ちで、もうがっしりと体全部を捕まえられていた。

 全身から毒針を出して対抗する。

 邪魔するな!

 ボクは、あの果物を食べたくて仕方ないんだ!


《行為経験値が一定に達しました。『魅了耐性』スキルが上昇しました》


 包み込んできた花弁を強引に引き千切って脱出する。

 でも同時に、樹液みたいなのをかけられた。

 痛い。体のあちこちから白い煙が上がる。足も二本溶けて落ちた。

 でもこんな痛み、あの果物を食べられるなら幾らだって我慢できる。


 ボクはさらに美味しそうな果実へ向けて進もうとする。

 今度は何体ものウツボカズラが襲ってきた。

 だけどもう不意打ちは喰らわない。

 喰ってやるのはボクの方だ。


 奴等が森の影から姿を現す直前に、魔眼攻撃をばら撒いてやる。

 『死毒』も『混沌』も大奮発だ。

 かなりの魔力を使ってしまうけど構わない。

 『死毒』に侵されたウツボカズラたちは、次々と黒く染まって崩れていく。

 『混沌』が効いた方は、苦しむような、錯乱したような動きをして暴れ始めた。

 暴れるウツボカズラが紫色の体液を撒き散らし始める。

 そこかしこに異臭が漂う。

 怪しげな植物たちの大乱舞だ。

 あれ? これってかなり危機的状況じゃない?


《総合経験値が一定に達しました。魔獣、ティニィ・レア・ベアルーダがLV1からLV2になりました》

《各種能力値ボーナスを取得しました》

《カスタマイズポイントを取得しました》

《行為経験値が一定に達しました。『溶解耐性』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『毒耐性』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『魅了耐性』スキルが上昇しました》


 ぼくは しょうきに もどった。

 って、ボケてる場合じゃない!


 逃げる。そりゃあもう一目散に。後ろへ向かって全速前進!

 ウツボカズラの群れもマズイけど、なにより『死毒』が危険すぎる。

 黒ずんだ空気に触れただけで、ボクの毛先が崩れ落ちた。

 まともに浴びたら、確実に昇天しちゃう。

 BC兵器だ。

 誰だ、あんな危ない物撒いたヤツは!?

 うん。ボクしかいないよね。


 その証拠か、またカルマが200ポイントくらい下がってるし。

 でも生き残るためだったし、仕方ないと思うんだよね。

 おまけに、正気も失ってた。

 裁判だったら無罪じゃないかなあ。


 ってことで、気にしないでおこう。逃げるのも上手くいきそうだしね。

 風下にいなかったのも運が良かったよ。

 今度から、なるべく風上から移動するようにしようかな。

 でも、それだと匂いとかで野生生物には気づかれそうだ。

 どちらにしても良し悪しだね。自然の中で生きていくのは大変だ。


 ともあれ、一旦野営地に戻ろう。

 ウツボカズラにやられた足も治さないといけないからね。

 またしばらくは治療のために引き篭もりだ。

 食料はそこらへんの草で我慢するしかない。

 帰り道に食べられそうな果物でも転がってればいいんだけど。

 あ、でも毒が怖いからすぐに食べるのは無しで。

 余裕があれば、ウサギでも捕まえて毒見をさせたいね。

 とか思ってたら、来たよ。


《行為経験値が一定に達しました。『硬皮』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『溶解耐性』スキルが上昇しました》


 いや、スキルアップじゃなくてね。

 そっちは嬉しいけど。

 ウツボカズラのおかげで、まだちょっと体が溶けてる最中なんだよね。

 『治癒の魔眼』発動。

 でも同時に、正面にいるヤツの相手もしなきゃいけない。


 ウサギだ。

 探してる時には現れなかったのに。

 そして以前と同じように、ボクの姿を見つけてくる。

 しかも今度は三匹の群れだった。

 一応、草陰に隠れるようにして歩いてきたんだけどね。

 こっちは足を怪我してるし、逃げられる状況じゃない。

 戦うしかないね。

 もう向かってきてるし。


 ボクはハリネズミみたいに全身の毛を尖らせる。

 同時に、『混沌の魔眼』発動。

 魔力にはあまり余裕がないけど、こっちは『死毒の魔眼』ほど大喰らいじゃない。

 短い時間なら大丈夫だし、すぐに効果も発揮された。


 さっきのウツボカズラとの戦いで分かった。

 『混沌の魔眼』が与えるのは、”混乱”の効果だ。

 それはウサギたちにも、すぐに影響を及ぼす。


 三匹のウサギは、真っ直ぐに向かってきていた。

 最後尾にいた一匹が、自分の前にいたウサギに襲い掛かった。

 一撃で首を断ち切る。

 うわ。何気にウサギすごいな。

 攻撃の瞬間、前歯が急に伸びたよ。おまけに鋭い。

 あんな攻撃を喰らったら、ボクも真っ二つにされる。

 だけどその心配はなさそうだね。


 先頭のウサギが振り返る。

 仲間の血を浴びたウサギは、今度はその振り返ったウサギに首を刎ねられた。

 壮絶な同士討ちだ。

 混乱効果、えげつないね。

 残りの一匹はボクに向かってくるけど大丈夫。

 同士討ちの間に、足下の草を『干渉』で操って罠を張っておいた。

 足を引っ掛けるだけの単純な罠だけど、ウサギは簡単に引っ掛かってくれる。

 転んだ隙にツタで縛り上げる、コンボが上手く決まったね。

 後は毒針を飛ばしてフィニッシュ。


 食料も確保だ。

 毒で仕留めたのは食べられないけど、大丈夫そうな部分だけ吸収しておこう。

 ちゅぅ~、っと。


《行為経験値が一定に達しました。『毒針』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『吸収』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『干渉』スキルが上昇しました》


 初期スキルがまとめてレベルアップだね。

 いい感じ。実戦だと経験値を得られ易いみたい。

 さて、残りのウサギ肉を野営地まで運びたいけど……難しいかな?

 けっこう重い荷物になる。

 ツタで縛って運ぶにしても、余計な時間を取られそうだ。

 なるべく早く回復に専念したいんだよね。

 いっそ、この辺りを野営地にしちゃった方が安全かな。


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