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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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08 偵察! 邪龍軍団!


 夕方を過ぎる頃に、各クイーンが屋敷へと集まる。

 普段とは違う行動だ。

 外来襲撃が終わるまでは、連絡を密にして情報の共有を図ることにした。


 だけどなにも緊迫した顔を突き合わせる必要はない。

 黒狼なんて、嬉しそうに尻尾を振ってるし。

 オヤツちょうだい!、とつぶらな瞳で訴えてくる。


 しかしこの黒狼、さり気なくクイーンズに混ざってくるね。

 アルラウネとラミアは各クイーンの代表一名のみなんだけど。

 黒狼も合わせると、スキュラは代表二名になっちゃう。

 不公平かな?、とも思う。

 でもまあ構わないよね。特別ペット枠ってことで。


 黒狼とひとしきりじゃれ合ってから、揃って食堂へ向かう。

 皆で夕食を取りながら会議をする予定だ。

 先に赤鳥と青鳥が待っていて、ピーチクパーチク喧しかったので黙らせる。

 大きなテーブルに食事が並べられて、ボクが上座に座った。

 というか、椅子に乗るだけ。毛玉だからね。


 ともかくも他の皆もテーブルを囲むと、すぐに食事が運ばれてきた。

 最近は大陸からあれこれと仕入れたこともあって、随分と食事も豪華になった。

 野菜が充実してきたので、コンソメスープが作れるようになった。

 メインとなる肉料理にしても、香辛料が増えたし、ただ焼くだけじゃなくてハンバークにしたり野菜に巻いたり、餃子っぽいのもメニューに加わった。

 パンも美味しくなったし、アルラウネのおかげで米も収獲できた。


 豊富な食材と、様々な料理手法。

 それらを尽くしたコースメニューも味わえる。


 前菜のサラダが運ばれてくると、黒狼が残念そうに項垂れて、アルラウネが嬉しそうな顔をする。

 いや、黒狼には別メニューを用意してあるからね。

 それより、アルラウネが野菜サラダに喜ぶっていいのかな?

 共食い……とは違うってこと?


 まあ喜んでくれてるならいいか。

 それに、いまはもっと大切なこともあるし。


「お食事中に申し訳ございませんが、皆様、こちらをご覧ください」


 前菜が並べ終わると、一号さんが一礼して中央に画面を浮かべた。

 皆が見える位置に、夕陽に染まった草原が映し出される。そこには万を越える竜の軍勢も陣地を構えていた。


「現在の、邪龍軍の様子となります」


 ちなみに、邪龍軍って名前はボクの思い付きをそのまま使ってる。

 勝手に”邪”呼びはどうかとも思ったけど、どうせ侵略者だし構わないでしょ。

 よしんば侵略者じゃないにしても、勝手に異世界に来た相手だし。

 不法侵入者? そんな法があるかどうかはともかくも。


 食事をしながら会議をする。

 言い出したのはボクだ。

 大事な会議かも知れないけど、気分はテレビを見ながら食事をするようなもの。

 一家団欒の一時だね。

 あ、このトマト美味しい。


「いまはまだ目立った行動はしておりません。ですが、昨日の内に、百体ほどの小隊が二十、各方面へと飛び立っております」

『小隊で、偵察をしてる?』

「はい。より攻撃的な、威力偵察かと。それを追跡した映像も記録してあります」


 映像が切り替わる。

 今度は昼間だと分かる明るい場面で、一号さんが言った通りに録画映像だ。


 そう。いまの茶毛玉には映像の記録機能も備わっている。

 正確には、送られてきた映像を別の装置で記録する仕組みだ。

 ともかくも、そのおかげで重要な場面だけ切り取って見られるようにもなった。

 編集:メイドさん、とかスタッフロールも付けられるかも知れない。


 で、肝心なのは映像の中身だ。

 え~と……なんて言うか、酷い。エグい。グロい。

 大変不適切な場面ばかりなんですが?


「偵察竜部隊は、どうやら目についた生物をすべて襲っているようです」


 ただの動物や魔獣、人間、種族に関わらず襲われている。

 いや、殺されてる。

 一方的に。凄惨に。


 巨大な爪で次々と引き裂かれていく羊の群れ。

 隅々まで丸ごと炎に包まれた村。

 そこに住む人々も、悲鳴を上げる暇もないほど呆気なく焼き尽くされる。

 容赦無く、空から炎を吹きつけられて。

 あるいは、踏み潰されて。

 竜の手に掴まれて、頭から齧られた人間もいた。

 そんな中には、赤ん坊や子供もいた。


「このように、彼らは非常に暴力的かつ危険な軍勢です。知性はあるようですが、話し合いの余地は無い、敵と判断するべきでしょう」

『うん。間違いなく敵だ』


 一号さんが淡々と述べる。ボクも平然と返した。

 だけど胸の内は、少し、ざわざわしていた。


 良心溢れる人間だったら、きっと怒り狂ってただろうね。

 それくらい残虐で悲劇的な映像ばかりだった。

 無修正ではけっして電波に乗せちゃいけないのは確実だ。


 アルラウネたちも珍しく険しい顔をしてた。

 人間と敵対した経験はあっても、やっぱり気持ちのいいものじゃなかったらしい。

 とりわけ子供たちが殺される場面では眉根を寄せていた。


 それでもまあ、食事の手は少し止まったくらいだ。

 いまもハンバーグを口へ運んでいる。

 添えてあるポテトも美味しい。

 表面はサックリ。中身はほくほくだ。


『人間の兵士だと、まるで相手になってなかったね』


 味わいながら、空中に魔力文字を描く。

 映像のひとつで、村にいた十名くらいの兵士が竜に立ち向かっていた。

 たぶん、帝国兵だね。

 だけど竜には傷も付けられずに、あっさりと皆殺しにされていた。


「竜も竜人も、高い戦闘能力を持っています。まだ推測になりますが、弱い固体でも、人間の熟練者で互角かどうか、といったところでしょう」

『万全のメイドさんでも、一人で二体が限界かな?』

「……はい。恐らくは、その程度でしょう」


 皆が揃って息を呑む。

 さっきの凄惨な映像を見た時よりも深刻な顔になってた。


 メイドさんの強さは、各クイーン以上だ。

 一人で二体も相手にできる、じゃない。

 一人で二体しか、と受け止められる。

 おまけに相手は万を越す軍勢なのだから、総戦力は考えたくもない。


 さすがの黒狼も沈んだ雰囲気を察したみたいだ。

 きゅぅん、と鳴いてこっちへ寄ってくる。

 よしよし。撫でてあげよう。

 あ、途端に尻尾を振り出した。もしかして撫でて欲しかっただけ?

 それを睨んで、ラミアクイーンがナプキンを噛み締めてる。いや噛み千切った。


「幸い、敵はまだ海を渡ってくる気配がありません。まずは人間側の対処を観察し、その上でこちらの策を検討すべきでしょう」

『そうだね。こっちから仕掛けるにしても、やっぱり情報が足りてない』


 とりあえず、ラミアクイーンと黒狼は放っておいて、と。


 そもそも”外来襲撃”とは何なのか、未だによく分かっていない。

 何故、世界を渡ってまで敵が襲ってくるのか?

 そんな根本的な疑問も答えが無いままだ。


 茶毛玉が集めた情報によれば、一般的には、こちらの世界を征服するためだと言われている。

 あるいは、物資や金目の物を奪うためだとか。

 人間を奴隷にするために集めているとか。

 殺した魂を外の世界の神に奉げるため、といった噂もあった。


 共通しているのは、やって来るのは間違いなく敵、ってところかな。

 あとは傍迷惑っていうのも同じか。


 何が目的なのか、訊ねてみたい気持ちもあったんだよね。

 でも、いまはもうどうでもいいや。

 あんな映像を見ちゃった後だと、ねえ?


『もしも海を渡ってくる気配があったら、すぐに知らせて』


 竜の百体程度なら、先制攻撃で潰せるはず。

 魔眼の射程もかなり延びてるからね。

 とりわけ『重壊の魔眼』は、広範囲に影響が及ぶからか長射程だ。

 あとは、あんまり使いたくないけど『死獄の魔眼』もある。


『予定通り、島の北側、海岸沿いに防衛線を敷こう。可能な限り、海の上で戦う』

「承知致しました。それでは、大型の兵装などもそちらへ運んでおきますか?」

『うん。お願い』


 そういえば、城に備えた投石器も改良が進んでいた。

 茶毛玉の観測と合わせれば、かなりの遠距離まで攻撃できる。

 この拠点は、正しく最後の砦。

 北の港が前線基地、ってところだね。


 しかし本格的に戦争準備っぽくなってきた。

 あんまり血生臭いことは好きじゃないんだけどなあ。


 ホントだよ?

 これまでの戦いだって、必要最低限のものだったし?

 人間を追い出したのだって、最後は平和的に話し合いで解決したよ?


「まだ未確定ですが、敵の補給線はさほど強固ではないと推測されます。であれば、時間はこちらの味方となるでしょう。大陸の人間を扇動し、効率的な盾とする策なども検討したいと考えております。例えば魅了の花を使い―――」


 部下が容赦無いのは、けっしてボクの責任じゃない。

 ちゃんと止めるし。

 だいたい、人間の盾とか時間稼ぎにもならないでしょ。

 国のお偉いさんとか操れれば別だろうけど、さすがに難しそうだ。

 それに、放っておいても大陸の人達は戦ってくれるはず。


 しばらくは高見の見物。

 でも、あんまり長く待つつもりもない。


 邪龍軍団には、なるべく早く全滅してもらおう。

 ああいう連中がいると、ご飯が美味しくなくなるから。



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