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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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07 非常時にこそ平常心で


 邪龍が来たら逃げる。

 ボクはこの方針を決めた。そして、誰にも伝えなかった。


 だってほら、仮にも島のボスを名乗っちゃったし。

 一応は城持ちの皇帝種だし。

 そんなボクが戦う前から逃げる気満々だなんて、士気にも影響する。

 なので、拠点のみんなには、警戒しつつ普段の生活を続けるように伝えた。


 竜軍勢の様子は、茶毛玉でしっかり監視しておく。

 だけどまあ、海を渡った先の話だからね。

 上手くすれば、ボクたちには関わりなく終わる可能性だってある。

 緊張し続ける生活なんて嫌だ。

 だから、みんなにはボクのまったり生活を支えてもらおう。


 いざとなったら戦うのがボクの役目だ。

 そして、本当に危ない時は真っ先に逃げる、と。

 客観的に見たらダメな王様?

 違うよ。王様は生き残るのも役目だよ。

 命懸けで戦うのは、騎士とか武士とかに任せよう。


 ってことで、毛玉であるボクは、今日もベッドの上で転がってる。

 一号さんからの報告を聞きながら。


「島南部の偵察は、一通り完了しました。やはり竜種の姿は消えています。ハーピーからも同様の報告が上がっています」

『大陸での合流は?』

「追跡していますが、数日後になるかと推測されます」


 竜軍勢の出現から一日が過ぎて、この島にも変化が起こった。

 以前から住んでいた竜たちが、北へと移動を始めたことだ。

 南東の砂漠奥には飛竜が群れを作っていた。

 南西の湿地帯にも、蛇に翼を生やしたような竜っぽい魔獣がいた。

 そんな集団が、揃って海を渡って大陸を目指している。

 どうやら竜軍勢と合流するのが目的らしい。


 ボクの拠点からは離れた場所を飛んでいったので、ひとまず見過ごすことにした。

 いまは竜軍勢に目を付けられたくない。

 もしかしたら、竜同士で敵対している可能性もあるけど―――。


「やはり両竜種は、起源を同じくする可能性が高いようです。生体情報からも繋がりが確認されましたので、過去の外来襲撃での生き残りなのでしょう」


 生体情報。DNA鑑定みたいなものだ。

 メイドさんがやってくれることなので、もう驚かない。


 島の竜は以前にも倒したので、その死体から情報を入手できた。

 異世界からやってきた竜の方は、茶毛玉が落ちた鱗なんかを入手。

 さすがに茶毛玉だけだと、その場で鑑定なんて出来ない。

 だけど、いざっていう時の備えが役に立った。


 大陸には、幾つか”高性能茶毛玉”を潜伏させてある。

 普通の茶毛玉に比べると、二回りくらい大きい。ソフトボールサイズだ。

 だけど竜からしてみれば豆粒みたいなもの。

 こっそりと近づいて、上手く偵察を行ってくれた。


 この高性能茶毛玉は、実はもうひとつの任務のために作ったものだ。

 そちらの結果は、もう少ししたら分かる。

 それにしても、竜が、外来起源種か―――。


『立場としては、メイドさんたちと同じだね』

「否定しきれません……ですが、我々はこちらの世界で生み出されたものです。それに、生命を持つ彼らとは違います」


 まあ、奉仕人形だからねえ。

 元の世界とか言われても、人間みたいな感傷は沸かない、と。


 だけど竜たちは合流するとして、その後はどうするんだろ?

 軍勢の一員として戦うのか。

 それとも元の世界に帰るのか。

 どっちにしても、ボクへの被害が及ばないようにして欲しい。


「彼らの意図を探るため、現在、その通信手段を探っております」

『通信? 島の竜に、その手段で呼び掛けたってこと?』


 本能とか、自分たちで気づいたとかじゃないのかな。

 竜だけに伝わる通信手段。

 もしもそれが存在するなら、盗聴みたいな真似もできる?


「彼らの行動は知性的すぎます。一体や二体ならば本能という可能性もありますが、ほぼすべての竜が大陸を目指しています。不自然な魔力の流れも感知できましたので、数日もあれば解析できるでしょう」


 メイドさんたちと出会えたのが、ボクにとっては一番の幸運だったかも。

 そう思えるくらい頼りになる。

 これで魔力供給の問題がなかったら、とっくにこの世界を征服してただろうね。


 そのうち、地球並の技術も再現できそうだ。

 このベッドのクッションだって、改良されて随分と快適になってる。

 毛玉体もよく弾む。


「……ご主人様?」


 おっと。考え事してる間に跳ねまくってた。

 主君としての威厳も大切にしないといけない。非常時だからね。

 緩んでいた表情を引き締めなおす。

 丸くてふわふわの全身だけど、心持ち、キリッと。


『茶毛玉はいくら使ってもいい。偵察と、警戒を厳重に。この拠点の安全は、なんとしても守れるようにして』

「はい。全力を尽くさせていただきます」


 一号さんが恭しく頭を下げる。

 さて。それじゃあボクも、偶には真面目に働こうかな。







 屋敷を出て、拠点の各所を見て回っていく。

 普段は小毛玉が巡回してるけど、今日はボク自身が足を運ぶ。

 っと、毛玉だから足はないんだった。


 ともかくも、非常時だからね。

 皆には普段通りに過ごすよう言ってあるけど、不安を覚えてる子もいる。

 だから主であるボクが姿を見せて、その不安を取り除こうっていう企みだ。

 でも、むしろこれって逆効果なんじゃない?

 あんまりボクから積極的に関わろうとはしてなかったから、普段とは違うことを意識させちゃうような?


 だけどまあ、ひとまずは平穏に過ごせてるみたいだ。

 作物に囲まれているアルラウネは、ぼんやりと昼寝をしてる。

 ラミアは大きなワニみたいな魔物を狩って帰ってきた。

 いつの間にか、ボクの後ろを子供たちがついてきてるし。

 幼ラウネと幼ラミアが、揃って飛び乗ってきた。


 蔦と蛇の尾に巻きつかれたまま、城壁を出て湖へ向かう。

 水辺で遊ぶ子供たちを横目に、スキュラたちとも雑談を交わしていく。

 黒狼が、子供たちに尻尾を掴まれて泣きついてきた。

 もふもふ仲間のよしみで助けてあげよう。


 そういえば―――、

 こうして大勢と積極的に話すのって、”死んだ時”以来だ。

 ふと思いついて、クラスの皆に声を掛けたんだっけ。

 まさか、こんな毛玉になるなんて思いもしなかった。


 でも、そう考えると、ちょっと不吉?

 いやいや、有り得ないよね。

 話し掛けたら死ぬって、どれだけ酷いフラグ設定なのか―――と?


『―――ご主人様、緊急の報告です』


 一号さんから念話が届く。

 同時に、ボクも感じ取っていた。

 湖の方向へ目を向ける。

 水面ではなくて、その斜め下の方から気配が近づいてくる。


『大型魔獣の反応を捉えました。恐らくは、地下を住処とする種族です』


 直後、派手な水飛沫が上がった。

 たぶん、湖底を突き破って出てきたんだろう。

 姿を現したのは、城壁ほどの背丈がある四つ足の魔獣。

 全身が岩を貼りつけたみたいに角ばってる。それでいて動き自体は滑らかだ。

 トカゲにも似た頭部には、槍みたいな突起が付いてる。


 地竜ってやつなのかな?

 竜の軍勢に呼ばれて、北に向かおうとしてた?

 地下を進んでたけど、湖に出て姿を現したってところかな?


『皆は退避を、いや―――』


 そこまでする必要もないか。

 地竜はこちらへ目を向けると口を開いた。

 咆哮を上げようしたのか、それともブレスを吐こうとしたのか。

 でも、それで終わりだった。


 『静止の魔眼』、発動!

 ピタリ、と地竜が動きを止める。

 あとは『徹甲針』を撃ち込むだけでトドメになった。

 第一声がそのまま断末摩の叫びになった地竜は、湖に沈んでいった。


《総合経験値が一定に達しました。魔眼、バアル・ゼムがLV5からLV6になりました》

《各種能力値ボーナスを取得しました》

《カスタマイズポイントを取得しました》

《行為経験値が一定に達しました。『神魔針』スキルが上昇しました》


 さよなら、出オチ竜。

 君の体はあとで回収して、色々な素材にするよ。メイドさんが。


 いまは竜と関わりたくなかったんだけどねえ。

 まあ仕方ないか。襲われちゃったんだし。

 それよりも、ボクにしがみついた幼ラウネたちが怯えてる。

 いつの間にか幼スキュラも混じってる。

 毛先を丸めて、ぽんぽんと撫でてあげよう。


 って、齧りつくんじゃありません。

 涙と鼻水もやめなさい。


 はあ。まったく。

 子供の相手をする方が、竜と戦うよりずっと疲れそうだ。



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