03 カウントダウン:90日
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《外来襲撃まで残りおよそ90日です。万全の備えをしてください》
拠点の上空を、赤い翼を広げた大きな鳥が飛んでいる。
鷹を二回りは大きくしたような鳥。
以前のファイヤーバード姿とは比べるべくもないけど、随分と成長した。
三日ほど前には炎を吐けるようになって、「にゃっはー!」と喜んでた。
そして直後、一号さんに捕まって水桶に沈められてた。
室内で炎なんて吐くから。仕方ないね。
バカな部分は成長しても治らないらしい。
だけどまあ、赤鳥が力を取り戻してきてるのは確かだ。
「くっ……私もすぐに復活してみせるぞ!」
倒された時期の差か、青鳥はまだオウムくらいの大きさしかない。
悔しそうに喚いてる。
拳でも握ってれば格好がつくんだろうけど、小さな鳥の姿じゃ負け惜しみにしか聞こえない。
おまけに、いまはボクの頭の上で丸くなってるからね。
威厳もなにもあったものじゃない。
なのに、ハーピーたちからは敬意の眼差しが注がれてる。
先日、この拠点に訪れたハーピーたちは、元はサンダーバードに従っていた。
従者というか、巣の近くで暮らしていたらしい。
鳥仲間で、守られてたってところかな。
元々、サンダーバードは何日か出掛けるくらいは珍しくなかったそうだ。
だけど突然に姿が消えて、随分と経って、さすがにハーピーたちも不安になった。そして捜索を始めて、この拠点にもやって来た、と。
まさか毛玉に負けて飼われてるなんて、想像もしてなかったみたいだけどね。
でも、ハーピーの忠誠は変わらないらしい。
「いまは雌伏の時。だが、貴様らの忠義が無駄ではなかったと必ずや証明してみせよう!」
数名分の拍手と、感嘆の声が上がる。
青鳥を乗せたボクの回りには、ハーピーたちが集まっていた。
「この小癪な毛玉も、次の機会には打ち倒し、雪辱を果たしてくれる!」
途端に、ハーピーたちの拍手が止んだ。
笑顔も引き攣ったまま固まってる。
そりゃまあ、倒す宣言をした相手が目の前にいるんだから、蒼い顔にもなるでしょ。
ハーピーたちも、ボクの戦闘力の高さは承知してる。
『威圧』を受けただけじゃなくて、メイドさんからなにやら映像を見せられていた。
どうやらボクの姿を撮った映像集があるらしい。
その時のハーピーたちは、最初に息を呑んで、蒼ざめた顔をして、やがてガタガタと震えて気を失うのも何名かいて、最後はほっこりとしていた。
いったいどんな映像だったのやら。
気になったけど、メイドさんが誤魔化したいみたいなんで聞かなかった。
表向きは、新人教育用の資料だそうだ。
新人というか、新魔獣?
ともかくも、まあそんな感じでハーピーが配下に加わった。
ハーピーと言っても、鳥成分は若干控えめだ。
翼は背中から生えてて、下半身は鳥型。人間と同じように腕も生えてる。あとは髪にも羽毛が混じってる。
モンスター娘道に詳しい人からすると、邪道なのかも知れない。
ちなみに、何故か女性型しかいない。
そして、胸を隠してる羽毛は生えてるのか、服みたいなものなのかは謎。
ラミアの鱗と同じだね。
まあ、あんまり深いことは考えないようにしてる。
仲間が増えた、ってだけでいいんじゃない?
まだ仲間と言うか、取引相手って程度だけどね。
「ご主人様、こちらが引き渡す物資になります。ご確認をお願いします」
メイドさんたちが運んできたのは、余りまくってたサンドワーム肉をはじめ、食料を主とした物資。
ハーピーたちとの物々交換を行っている。
代わりに、ハーピーが住む湿原地帯からも色々と持ってきてもらってる。
魔獣素材とか、そこでしか採れない果実とか。
羽毛の束もあったけど、出所は聞かなかった。
アウラウネやラミアたちと違って、ハーピーは引っ越して来ていない。
元々、定住を好む種族でもないらしい。
渡り鳥的な気質があるというか。
木々が生えてる場所なら、何処でも休めるというか。
遊牧民みたいな生活をしているみたいだ。
さすがにこの魔境だと、何処でも、って訳にはいかないそうだけど。
ともかくも、空を飛べる彼女たちは、活動範囲が広い。
ボクが知らない魔境の地理とかも教えてくれた。
今後も、ボクたちの目が届かない範囲を見回ってくれるそうだ。
それと―――。
「協力していただいた試験の結果も出ました。やはり彼女たちも、魔術への適性が高いようです」
最近になって分かったことだ。
どうやらこの拠点に住む魔獣っ娘たちは、全体的に魔術が得意らしい。
ハーピーたちも同じく。
これまでは花粉とか魅了の魔眼とか、そういう特殊能力に頼ってたから、他の技能を鍛えることに目が向かなかったんだろうね。
切っ掛けは、一人の幼ラミアだった。
ボクやメイドさんが魔術で飛んでるのを見て、真似したいと言い出した。
もちろん、魔術で飛ぶのはそう簡単じゃない。
ボクだって、ほとんど魔眼としての本能で飛んでるようなものだし。
だけどその幼ラミアは、二週間ほどで術式を自分のものにしてみせた。
で、他の子も真似し始めて―――。
「仕事の合間を使って、授業時間を作りたいと計画しております。皆、乗り気になっておりますので、これまでの活動に支障は出ないと判断しました」
『分かった。任せる。期待してる、って伝えて』
文字で伝えつつ、ボクは頷く。
偉そうな言葉かな、とも思う。
だけどボクはもうここの主だって宣言しちゃったからね。
少しはそれっぽく振る舞ってもいいんじゃないかな。
期待してるのも本心だ。
ここの戦力が充実すれば、その分だけボクはのんびりできるから。
「それと、もうひとつ御報告です。例の物の試作品が出来上がりました」
ん? 例の物……?
そういう台詞ってよく漫画とかではよくあるけど、分かり難いよね。
えっと、思いつくのは……。
『ああ、アレ?』
「はい。ご覧になりますか?」
頷いて、メイドさんの後に続いて屋敷へと戻る。
と、頭に青鳥が乗ったままだった。
「おい待て。私はまだこやつらと話が……」
また青鳥が喚き出しそうだったので、ちょこっと毛を立てる。
「あたっ!? き、貴様、ふざけた真似を、や、やめろぉぉっ!」
本気では刺してないよ。ちくちくしただけ。
すぐに逃げ出すと思ったのに、何故か離れようとしない。
仕方ないので、体ごと軽く跳ねて、ハーピーたちの方へと放り投げる。
「お、覚えてろぉー……」
情けない声を出した青鳥だけど、しっかりキャッチされてた。
まったく。なんだってボクに乗りたがるのやら。
そんなにこの毛玉体は居心地がいいのかなあ。
遠隔偵察用の、長期活動可能な奉仕人形。
そんなものが欲しい。
いつだったか、言った気がする。
「最大の課題は、やはり稼働時間に関するものでした」
以前には会議でも使われた部屋で、一号さんが説明を始めた。
他には、手が空いてたのか十三号もいる。
一号さんの手元には、魔術で作った映像が浮かんでる。
映像と言うか、複雑な図解やら文字やらがビッシリと。
「我々、奉仕人形の複雑な思考行動は、擬似魂魄の制御によって成り立っております。この恩恵は大きいのですが、それ故に魔力消費の抑制も難しく―――」
ふむ。なるほど。
さっぱり分からん。
いや、嘘だけどね。お約束っていうやつだよ。
本当は、それなりに理解できる。
一号さんの説明は分かり易いし、魔術に関してはボクも学んでるから。
さすがに細かい術式の仕組みとかになると怪しいけど。
スマホは使いこなせるけど、プログラミングは無理、みたいな。
ともかくも、メイドさんたちは単独行動が難しい。
偵察型を作るのも容易ではない、と。
「そこで試作したのが、こちらです」
一号さんが掌を広げる。
その上には、薄茶色の毛で覆われた、フェルト人形みたいな”それ”が乗せられていた。
えっと……。
『小毛玉?』
「はい。ご主人様の分体がヒントとなりました」
小毛玉は、ボク本体と魔力を共有している。
当り前のように魔眼の連発とかで使ってたけど、考えてみれば奇妙だ。
小毛玉自体は、さほど多くの魔力を持っていない。
だけどいざ使用するとなれば、その魔力はボク本体から送られる。
いったい、どういった経路で送られているのか?
「分体の操作などは、糸のように魔力経路を繋いで行われているようです。その経路を使って魔力も供給されていると推測しましたが、違いました。大量の魔力が使用される際にも、その流れは確認できておりません」
『大魔力が流れれば、感知できる?』
「はい。ですが、分体が大きな魔力を扱っているのは間違いありません」
小毛玉に魔力そのものは流れていない。
でも、一時的に大きな魔力を使っているのは確実。
矛盾してるね。
小毛玉が勝手に魔力を生み出してる、って訳でもないし。
「どうやら魔力自体は、空間を跳躍して転送されているようです」
ああ。なるほど。
例えるなら、普段は糸電話で子供に指示を出してる。
ご飯なんかの必要物資は、その場に転移させて送ってる、と。
しかし魔力だけを転移させるって、難しいことじゃないの?
まったく意識してなかったけど、普段からそんなことしてたのか。
まあ、ボクは毛玉で魔眼だからねえ。
存在そのものが謎だし。
不思議生物としての特殊技能、ってことで納得しておこう。
「空間転移自体がすでに高度な魔術ですが……しかし、それで魔力を送るというのは、ある意味では合理的です。転移による魔力消費はありますが、空間に経路を使って送る場合も、その際の無駄な漏出は起こるものですから」
ん~……まだ話にはついていける。
でも、なんだかややこしくなってきたね。
そろそろ結論を聞こう。
『試作品は、その茶毛玉?』
「……はい。まずは映像と音声のみを得る、偵察機能に特化してみました。理論上では、大陸での偵察も行えて量産も可能です」
さらりと述べた一号さん。
表情はまったく崩れないけど、なんとなく説明し足りない雰囲気を醸し出している。
でもポケットに手を伸ばすと、十個ほどの茶毛玉を取り出した。
ふよふよと浮かぶ茶毛玉。
それぞれが捉えた映像も、空間に映し出される。
「原材料は魔鋼化させた鉄と羊毛、少々の稀少土類です。とりわけ羊毛の質と着色には拘りまして―――」
うん。結論は、やっぱりアレだ。
メイドさんって凄い。




