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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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21 始まりの場所へ


 静けさが佇んでいた朝の森に、子供の声が響く。

 陽気な声じゃない。

 喧しくて、正直言って不快だ。


「さっさと魔獣を倒しに行け! 満足に眠ることもできぬではないか!」

「ですから、魔獣など出ておらぬのです。殿下も落ち着かれますよう……」

「このような場所で落ち着けるものか! 私は王族なのだぞ! だいたい、其方らが頼りにならぬから、このような目に遭うのだ!」


 溜め息を吐きたい気分だ。

 でも、おかげでなんとなく事情は飲み込めた。


 悪ガキは偉い身分にある。王族だって本人も言ってる。

 きっと、国が危ないから逃げてきたんでしょ。

 ただ、他に偉そうな人間が見当たらないのは気になる。

 この自称王子を逃がすためだけの集団なのかな?

 他の王族は、まだ国に残ってる?

 それとも、別々で逃げたとか?

 細かな事情は分からないけど……まあ、詮索する必要もないか。


 ボクが知りたいのは首都の場所だ。

 たぶん、この人達が通ってきた馬車の跡とかを辿れば着けるはず。

 念の為に聞き込みもしておこう。


 ぎゃあぎゃあ喚いてる自称王子に歩み寄る。

 咄嗟に兵士が立ちはだかる動きも見せたけど、一瞬だけ『静止の魔眼』を発動。

 剣に手を掛けた兵士の横をすり抜ける。

 そして、自称王子の頭を掴んで持ち上げた。


「な、なにをする、貴様! 私を誰だと―――」

『うるさい』


 一言だけ告げて無視する。

 これだけ典型的な悪ガキだと、もう怒りを通り越して呆れちゃうんだよね。

 以前に吹き飛ばされたのも、どうでもよくなってきた。


 うん。復讐はなにも生まない。

 仕返しくらいはするつもりだけどねえ。


『質問に、答えろ』


 掴んだ王子を掲げて、兵士たちへ見せつける。

 人質の命が惜しかったら言うことを聞け、のポーズだ。

 兵士たちは困惑してたけど、こっちの意図は伝わったみたいだね。


『リュンフリート公国、その首都、方向はどちらだ?』

「……あ、あっちの、東の方向だ! そんなことを聞いてどうするつもりだ?」

『質問するのは、こちらだ』


 さすがに王子が人質ってのは効果あるね。

 手早くて助かる。

 他の質問にも、兵士たちはだいたい素直に答えてくれた。

 一般知識に近い質問ばかりだし、嘘を言ってる心配も要らないでしょ。


 ただ、他の王族がどうしてるかは、答えを濁されたけど―――。

 大方の事情は掴めた。


『もう、用は無い』


 カシャン、と両肩の装甲を開く。

 兵士たちは目を見張ったけど、構わずに『万魔撃・模式』を撃ち放った。

 黒色の魔力ビームは、兵士たちの横を抜けて、背後の森を貫く。


 そこには、一頭の大きな熊型魔獣がいた。

 人の気配を感じて寄ってきたみたいだね。

 魔力ビームに貫かれた魔獣は、胴体が消え失せて、頭だけが転がった。


「ひっ、ぁ、わぁ……」


 失禁した王子を、兵士たちへ向けて放り投げる。

 ボクは十三号に目配せすると、空へと浮かび上がった。

 眼下では大騒ぎになってるけど、無視。

 あ、だけど一言だけ置いておこう。


『首都の、魔獣は、私が片付けてやる』


 あんまり手強いようなら逃げるつもりだけどね。

 まあ、言うだけならタダだし。


 ともかくも行くべき方向は分かった。

 さっさと向かって、縦ロール幼女だけでも助けるとしよう。

 …………。

 いや、幼女救援はあくまで手段で、目的じゃなかったね。







 街道に沿って東へと進む。

 昼前には、大きな港町が遠くに見えてきた。

 見覚えがある。

 ちょっとだけ感慨も覚える。

 最初にこの世界へやってきて、上空から眺めた街の風景だ。


 だけど今回のボクは、もう風に流されるままじゃない。

 自由に何処へだって行ける。

 それに街の方も、随分と異常な状況になっていた。


 まず、怪獣がいる。

 そう思えるくらいの巨大魔獣がいて、街が酷い有り様になってる。

 城に頭が届くほど大型の亀が、港に居座っていた。

 何隻もの船が潰れて、その亀の下敷きになってる。

 周囲には大量の血が流れた跡もあった。


 少し離れた場所には、兵士たちの死体も数え切れないくらい転がってる。

 おまけに、亀は大型のものだけじゃない。

 小型の亀が、街のそこかしこで住民を襲ってる。

 いや、襲ってるっていうよりは、居着いてるのかな。

 街全体が、亀の巣みたいになってる。


 小型って言っても、小さな一軒家くらいの大きさの亀だからね。

 そんな亀が数ヶ所で集団を作っていて、街に繋がる道も封鎖されてる。

 で、逃げられなくなった人間を食料にしてるみたいだ。


 なにこの地獄絵図。

 道端にへたり込んで、虚ろな目で空を見上げてる人がいる。

 もうなにもかも終わりだー、って叫んでる人もいる。


 辛うじて、中央のお城だけは無事なのかな?

 城壁はボロボロで、見張りの兵士も呆然と立ってるだけ。

 それでも生き残った大勢が集まっていて、なにやら話し合ってる。


『ご主人様は、人間に味方する? そう確認します』


 うん。爬虫類好きでもないし。

 あれ? 亀って爬虫類だっけ? トカゲっぽいからそうだよね?

 まあ、細かいことはいいや。

 他人の領土を暴力で踏み躙ったんだ。

 亀の方も、暴力で追い払われたって文句は言えないでしょ。

 問題は、大型がどれだけ強いのか?


《行為経験値が一定に達しました。『鑑定』スキルが上昇しました》

《条件が満たされました。『解析』スキルが解放されます》


 お? 鑑定さんが進化?

 これは検証したいところ……だけど、さすがに後回しだね。


 とりあえず、大型亀もなんとか対処できると思う。

 だいたいの戦闘力は、不死鳥クラスに及ばないくらい?

 でも防御力なら上かも?

 どっちにしても、動きは鈍そうだし、危なくなったら逃げればいいでしょ。


 それに、ちょっと緊急事態みたいだ。

 小型亀が数匹、中央のお城に迫ってる。

 対する人間は、兵士たちが迎撃に向かわ……ない?


 お城の門から出てきたのは、十数名の住民。武装もしていない。

 見たところ、お年寄りばかりだね。

 初老や中年の人も混じってるけど、平均年齢はかなり上に見える。

 とてもこれから戦うっていう様子じゃない。


 もしかして、自分から餌になろうとしてる?

 亀たちを満足させて、少しでも時間を稼ごうっていうつもり?


 うわぁ。どんだけ追い詰められてるんだろ。

 お年寄り集団が出て行く背後では、泣き叫んで止めようとしてる子供もいる。

 その子供を抱きかかえてる母親も、やっぱり辛そうにしてる。

 そんな様子に背を向けて、悟りきった顔で魔獣に向かっていく老人たち。


 若い者こそが生き残るべきじゃ。

 未来を託したぞ、そんな声が聞こえてきそう。

 凄惨な人間ドラマだ。


 こういう、お涙ちょうだいの話って好きじゃないんだよね。

 なので、ぶち壊させてもらおう。


 小毛玉をふたつ、黒甲冑から出撃させる。

 亀集団の頭上を取って―――、

 『万魔撃』、発動!



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