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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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19 祝勝会の後で


 どうしてこうなった?

 毛玉に生まれ変わってから、これまで散々に不思議な体験をした。

 だけど、今回はぶっちぎりで不可解だ。


 記憶が曖昧なのはいい。

 たぶん祝勝会で調子に乗ったのがいけなかった。

 帝国軍が置いていった物の中にあったお酒。

 加えて、アルラウネとメイドさんが試しにと作ってくれていた果実酒。

 それを飲んだのが原因だろうね。


 『状態異常大耐性』があったので、最初は純粋にお酒の味を楽しめた。

 だけどこの耐性、意識的にオフにもできる。

 やっちゃったんだよねえ。

 だってほら、ボクって未成年のまま死んだし。

 酔っ払うってどんなものなのか、一回くらい味わってみたかった。


 で、泥酔して記憶が吹っ飛んだ。

 そこまではいい。

 ボクらしくない醜態だけど、筋道は推測できる。

 さほど不思議じゃない。

 だけど―――、


『おはようございます、ご主人様』


 涼やかに朝の挨拶をしてくれる一号さんは、息が届くほどに近い。

 具体的に言うと、添い寝してる。

 しかも半裸で。下着姿だ。

 おまけに、一号さんだけじゃない。


 ベッドの上には、アルラウネやラミアの両クイーンもいる。

 彼女たちに挟まれるように、幼ラウネや幼ラミアもいる。

 十三号も一緒に、半裸で抱き合ってる。

 ついでに、端の方には黒狼もいた。

 そしてボクが中央にいて、小毛玉もそこかしこに転がってる。


 カオスだ。

 混沌がベッド上を支配してる。

 これは、アレだ。

 深く考えちゃいけないタイプの事態だね。

 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを、とかって言葉もあった。

 混沌を置き去りにして、爽やかな目覚めを迎えよう。


 幸い、起きてるのは一号さんと十三号だけだ。素早く服装を整えてる。

 ボクもこっそりとベッドから浮き上がる。

 小毛玉も回収しておこう。


『おはよう』

『すぐに食事になさいますか? お風呂もご用意できますが』


 よし。一号さんは普段通りだ。

 このまま何気ない素振りで日常に戻っていこう。


『お風呂で』

『承知いたしました。ところで、彼女たちは……』

『放置で』


 一言だけ置いて、さっさと部屋を出て行く。

 いやぁ、世の中には不思議なこともあるものだね。







 お風呂を浴びてさっぱりしてる間に、他の面々も起きてきた。

 折角なので、揃って朝食を囲むことにする。


「ご主人、夕べはお楽しみだったのニャ」

「お、お楽しみだなどと、貴様、破廉恥だぞ! だいたい、私というものがありながら……」


 赤鳥と青鳥がピーチク囀ってたけど無視した。

 それよりも食事だ。

 屋敷の食堂は、かなり広い作りになってる。

 なんとなく勢いでそうしちゃったんだよね。

 普段は、席に座るのはボク一人なのに。


 どちらかと言えば、食事は静かに食べたい派だ。

 だけどまあ、偶には騒がしいのも良いのかもね。

 広いテーブルも大勢に囲まれて、珍しく役に立ってる。

 それに、話をするのにもいい機会かな。


『昨日の、緊急連絡。詳しく聞かせて』


 一号さんを呼んで、文字を描く。

 もう一晩経ったから緊急とは言えないけど、重要な連絡なのは確かだ。


『皆様にもお聞かせする、ということでしょうか?』

『うん。だいたい、方針は決めてる。でも、意見も聞きたい』

『承知いたしました。では―――』


 リュンフリート公国からの救援要請。

 帝国軍に宛てたものだけど、見張りのメイドさんがそのまま応じて、情報を聞き出してくれた。


 どうやら海の魔獣によって、公国が襲われているらしい。

 航路を塞がれただけじゃなく、港まで襲撃されたってことだね。

 しかもそこは公国の首都だ。

 いまはなんとか持ち堪えているそうだが、王族の脱出を考えるほどの大惨事になってるみたいだった。


 だから、魔境に派遣されてるような帝国軍の一部隊にも救援を求めた、と。

 かなり追い詰められてるのは確実だろうね。


『―――以上となります。皆様のご意見をお聞かせください』


 メイドさんが一礼して、テーブルを囲んだ皆を促す。

 だけど、積極的な発言はない。

 アルラウネとラミアの両クイーンは、眉根を寄せながら首を傾げてる。

 スキュラクイーンはいないけど、代わりに大きな黒狼が席についていた。

 その黒狼も、静かに尻尾を揺らしてるだけ。もふもふ。


『ご主人様、わたくしも意見を述べても構いませんか?』

『いいよー』

『率直に申し上げまして、無視するのが最良だと判断いたします』


 両クイーンも同意見なのか、小さく頷いた。

 黒狼は、ワフ!、と小さく吠える。よく分からない。


 まあ、そうなるよね。

 わざわざ海を渡って人間の国を助けに行く、なんて理由はない。

 ボクだって真っ先に抱いた感想は、「あ、そう」だ。

 義理? 人情?

 毛玉になにを求めるっていうのかな?


 こっちは島のことで手一杯でもあるし。

 しばらくは安心して暮らせそうだけど、まだ第二城壁の建築とか、やりたいことも残ってる。

 近くに、大きな脅威はない。

 だけど魔獣があちこちにいる状況は変わってないんだからね。


 もしも助けに行けば、リュンフリート公国とやらに恩を売れるとは思う。

 それでも、何が得られるかも不明な状況だ。

 海の魔獣とやらに関しても、どれだけの強さなのかも詳しくは分からない。

 やっぱり無視が一番利口だよねえ。

 でも―――、


『ボクは、まず、様子を見にいく』


 人間を助けたい訳じゃない。

 でも、放っておけない理由もある。

 リュンフリート公国とやらは、たぶん、ボクが最初に召喚された場所だ。

 召喚主である金髪縦ロール幼女もいるはず。


 べつに、幼女を助けに行くのが理由じゃないよ?

 いや、そうとも言えるんだけど、厳密には違う。

 ボクの特性にある『英傑絶佳・従』。

 これってたぶん、縦ロール幼女のおかげで持ってる特性なんだよね。

 そこに連なるのは『成長加速』だけ。

 だけどこのスキルのおかげで、随分と助けられたと思う。

 いまは『魂源の才』に連なる『成長大加速』もあるけど、もしも失くなったら、これから力を付けるのに苦労が増えそうだ。


 結論。幼女がいなくなると困る。

 なにやら誤解を生みそうな言葉になったけど、間違ってはいないはず。


 それに、あの子は、ボクを助けようと手を伸ばしてもくれたからね。

 届かなかったけど、忘れてはいないよ。

 ともあれ、だ。


『十日くらい、留守にする』


 それくらいでイケると思うんだよね。

 海を渡る。公国を襲ってる魔獣を倒す。幼女の無事を確認。

 そして帰ってくる、と。

 うん。完璧な計画だ。

 いや、穴だらけで、行き当たりバッタリなのは自覚してるけどね。

 だけどまあ、たぶん……、

 なんとかなるんじゃないかなあ?







 ボクの決定に、反対の声は上がらなかった。

 敢えて言うなら、黒狼が少し吠えてたくらいだ。

 小毛玉でぽんぽんと撫でてやったら尻尾を振ってた。問題ないと思う。


 ラミアクイーンくらいは止めると思ってたんだけどねえ。

 まあ、戦闘力の差を考えて逆らえないってところかな。

 いつでも暴君になれそう。

 いや、なりたいとは思わないけどね。


 ともかくも、行動は決まった。なので準備に取り掛かる。

 今回はバロールさんスタイルで行くつもり。

 人間との接触もあるかも知れないからね。

 あと、海を飛んで行くにしても、それなりの物資は必要だ。

 念入りに準備したいとも思うけど、状況からして急ぎたくもある。

 明日には出発するつもり。


『食事は、十日分、持てるかな? あと、海の上で、寝ることも考えて……』


 黒甲冑の具合を確かめながら、一号さんに指示を出していく。

 一号さんが静かに手伝ってくれてた。

 だけど、ふと口を開く。


『今回の遠征に関しまして、こちらでの対応計画を作成いたしました』


 ん? 遠征?

 そう言っちゃっても構わないのか。

 魔獣を征伐する、ってことになるのかな?

 遠出はするけど、観光って訳でもないからね。


『まず、戦闘に長けた順から六体の奉仕人形を、最大まで魔力を蓄えた状態で待機させます。拠点に危急の事態が訪れた時にのみ稼動させる予定です。残りは、二体が通常稼動、四体が消耗を最低限に抑えるよう務めます。そして一体のみ、わたくしが、ご主人様に同行するべきと判断いたしました』


 ふむん。まあ、悪くないんじゃない?

 拠点の拡張とかは止まっちゃうけど、安全確保が最優先でしょ。

 メイドさんズの戦闘力があれば、いざって時も、ボクが戻るくらいまでは持ち堪えられるはず。


『アルラウネ、ラミア、スキュラの各クイーンとも話し合い、早急に態勢を整える予定です。ですので、一切の御懸念は不要です』


 城壁もあるし、最悪、地下の脱出路も用意してある。

 この拠点の守りは万全だって、胸を張って言えるくらいだ。

 それにしても、だ。


『随分と、張り切ってる?』

『……皆、少しでもご主人様の助力になりたいと考えております』


 …………ふぅん。

 まあ、どうでもいいか。

 ボクも好き勝手やらせてもらってるし。


 このお城は、居心地がいい。

 だから帰ってこれるよう守ってくれるのは、嬉しい、かな。


『ところで』


 さっきの計画だけど、ひとつ疑問があった。

 留守を任せるなら、という前提だけど。


『一号さんが残らなくて、大丈夫? 指揮官型、だよね?』

『それは……』

『わたしが同行するのが最善。そう判断します』


 念話でも、舌足らずな口調になるんだね。

 幼い声でも同時に告げながら、出てきたのは十三号。

 メイド服じゃなくて、豪奢な、シェリー・バロールスタイルになってる。


『わたしは万能型。人間との接触にも慣れている。そう主張します』


 十三号は、スカートの裾を軽く摘んで一礼する。

 ん~……べつに、人間と積極的に関わるつもりはないんだけどね。

 もしかしたら、役立つ場面はあるかな。


『一号さんは、どう思う?』

『……十三号の意見も間違っておりません』


 無表情のまま、一号さんは軽く目蓋を伏せる。

 ちょっぴり悔しそうにも見えた。



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