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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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18 祝勝会へ


 青鳥を収めた籠を持って、屋敷へと帰る。

 不満げな顔を青鳥はしてたけど、まだ油断はできないからね。

 でも、この実験が成功すれば、籠から出るくらいは自由にしてもらっていい。

 嬉しい情報を教えてくれたし。


 部屋に戻ったボクは、桶に氷水を用意した。

 『凍晶の魔眼』まで使った、キンキンに冷えた水だ。


『飛び込め』

「い、嫌ニャ! そんな命令には断固抗議……ニャァァァァーーーー!」


 部屋の隅で縮こまってた赤鳥が、氷水に勢いよく飛び込んだ。

 悲痛な声が響く。

 懸命に羽ばたいて、飛び出してきた。

 ふむん。どうやら情報は本当みたいだね。


「どうだ、これで信じたか? 自分を殺した相手に、私たち不死鳥種は絶対服従となる。これはどうあっても抗えぬのだ」


 可愛らしい声で、青鳥は偉そうに説明してくれた。

 まさか、そんな設定があったとはね。

 赤鳥は隠してたってワケだ。

 その罰と、検証を兼ねて、氷水に飛び込んでもらった。


「寒そうですね。焼きますか?」

「そこは温めるって言うところニャ!」


 さすがに可哀相なので、タオルくらいは貸してあげよう。

 今後は、拠点の貴重な戦力になるかも知れないし。

 いままでは飼い殺しにしてたけど、絶対服従っていうなら話は別だ。

 積極的に育てていくのもヤブサカじゃない。


「いまでこそ、このように弱々しい姿だが、時が経てば私も力を取り戻す。その時には、今度こそ貴様を倒してみせよう。時を操るとは驚いたが、それだけで私を封じられると思ったら大間違……」

『ボクへの攻撃は、禁止で。命令』

「なっ……! 貴様! そこは主人の度量を見せて、いつでも掛かってこい!、と言うべきところだろう!」


 なんでこの鳥は、こんなに戦闘大好きなんだろ。

 負けたっていうのに、ちっとも堪えた様子もない。

 念入りに命令で縛っておいた方がよさそうだね。


 ともあれ、サンダーバードを倒した。

 これでもう、脅威となる魔獣はいないはずだ。

 少なくとも、この島では。

 まだ探索は続けるつもりだけど、ひとまずは落ち着いて拠点の強化に取り組んでいける。


『ご主人様、おめでとうございます』


 ボクの安堵が伝わったのかね。

 一号さんが、お茶と果物を運んできてくれた。

 いつもの無表情だけど、心なしか喜んでくれてる気もする。


『よろしければ、祝勝会など催しては如何でしょう? 他の方々も、ご主人様に感謝を述べたいと申しておりました』


 祝勝会か。悪くないかも。

 だけど感謝って大袈裟じゃない?

 ボクが戦ったのは、自分が落ち着いていたいからだし。


『先の人間との争いでは、ご主人様のみを戦わせてしまったと、嘆いている者も多いそうです。自分たちがどれほど感謝しているか伝えたいと、各クイーンから声が上がっております』


 ふむぅん。よく分からないや。

 まあ、べつに困ることでもないし、好きにしていいんじゃない?

 新しいことをすれば、また何か発見があるかも知れないし。

 ボクは勝手に過ごさせてもらうだけだし。


『よきにはからえ』


 さて、急に気が抜けちゃったね。

 第二城壁の建築は残ってるけど、小毛玉に任せてもいい。

 ボク自身は、久しぶりに編み物でもしようかな。







 サンダーバードとの決戦から数日―――、

 ボクはのんびりと過ごしていた。時間が有り余るくらいに。

 なので、編み物をしつつ、片手間に作ってみた。


 将棋セット。

 木材はそこらに幾らでもあったからね。

 加工も、大雑把なものは魔術で簡単にできた。

 細かい部分は、手作業ならぬ毛作業も加えたけど、ともかくも完成。


《行為経験値が一定に達しました。『細工』スキルが上昇しました》


 こういう地味な作業が、やっぱりボクは好きみたいだ。

 なにも考えずに、ちまちま繰り返すのが。


 逆に、将棋そのものはどうでもいいのかな。

 ひたすら頭を使うし。作業感が無い。

 一旦考え始めると、他のことも気になってくるんだよねえ。

 だから正直、あんまり強くないと思う。

 で、いま、黒い毛玉と青い鳥が将棋盤を挟むっていう、シュールな光景が展開されていて―――。


「ぬうぅ……ならば、こっちに逃げれば……」

『それだと、桂馬で取られる。詰み』

「にゃははは。デカイ口叩いてたのに、雷鳥も大したことないニャ」

「き、貴様こそ、あっという間に負けたではないか!」


 強くないボクだけど、さすがにルールも知らなかった鳥には負けないよ。

 でも困った。

 これだと練習にならない。

 少しは鍛えてからじゃないと、メイドさんあたりに挑むのは怖いんだよね。

 なんとなく、すっごく強い気がする。

 もしも十三号とかに負けたら、主君としての面目が立たないよ。


『ご主人様、よろしいでしょうか?』


 ドアがノックされて、一号さんから念話が届く。

 軽く空中に魔力を流して、OKの合図を送る。

 魔力を感知できない相手だと通じないけど、メイドさんたちなら問題ない。

 声が出せないから、こういう部分でも不便はあったんだよね。


 でも最近では慣れたものだ。

 部屋に入ってきた一号さんは、一礼して用件を伝えてくる。


『今夜となりますが、祝勝会の準備が整いました。外での食事会となりますので、お越し願えますか』


 もうそんな時間か。

 言われてみれば、ちょうどお腹も空いてきたね。


 今日の祝勝会に向けて、各種族があれこれと準備をしてたのは知ってる。

 食事や飲み物の用意はもちろん、ボクに贈り物をくれるらしい。

 こっそりと小毛玉で覗いておいた。


 アルラウネは定番の糸や布、それと新しい果物とかだね。

 幼ラウネは幼ラミアと一緒に、飾り細工も作ってた。

 しかし、この毛玉体に髪飾りとか似合うのかね?

 まあ折角作ってくれたんだし、素直にもらっておくつもり。

 贈り物にケチをつけるほど野暮じゃないよ。

 社会生活力はマイナスでも、それくらいの常識は弁えてる。


 ただ、ラミアクイーンだけは止めておいた。

 だってあのクイーン、自分を飾りつけて贈り物にしようとしてるんだもの。

 何処のクレオパトラだってツッコミたくなったよ。

 さすがに、大勢の前で突き返すのは可哀相だからね。

 っていうか、全員にドン引きされるでしょ。

 がっくりしてたけど、結局、みんなで歌と踊りを披露してくれることになった。

 無難な選択だね。

 練習風景はなるべく見ないようにしておいたから、本番で楽しませてもらう。


 あとスキュラも、けっこう頑張ってくれてる。

 魚や動物の骨を集めて、溶かして、あれこれと加工もしてた。

 途中までしか見てないけど、どうやらボクの像を作ってくれるらしい。

 実物大サイズになりそうだったよ。

 ひとまず喜んで受け取るつもりだけど、何処に置くか、それが問題だね。

 玄関に飾るのもアレだし。

 自分の部屋でも落ち着けないと思う。

 宝物庫とか用意するべきなのかな?


 ともかくも、祝勝会は盛大なものになりそう。

 ボクも将棋盤の前から浮かび上がって、部屋の外へと向かう。

 でも、そこでふと気がついた。

 一号さんの視線が、空中を探るみたいに泳いだ。


『どうかした?』


 他のメイドさんから念話が届いた時の仕草だ。

 だけど一号さんは、少し躊躇うみたいに答える。


『いえ……少々、無粋な連絡が届いたようです』


 無表情だけど、迷ってる。

 なんだろう? 無粋?

 ああ、祝勝会の前に聞かせるような連絡じゃないってことかな?


『問題ない。聞かせて』

『はい。人間の街から接収した魔導通信装置に、緊急の連絡が入りました。帝国軍に対する連絡ですが、相手はこちらの事情を知らないようです』


 んん? ややこしいね。

 通信装置のことは覚えてる。

 魔力で動く、電話みたいなやつだね。

 例の褐色騎士が、連絡手段として置いていった。


 電話機自体は、ボクたちが預かってる。

 だけどその電話機の番号は、まだ帝国軍の物だった時のまま。

 そこに、帝国軍に用がある相手からの連絡が届いた、と。

 しかも緊急か。


『リュンフリート公国からの、救援要請です』


 平穏は長続きしない。

 そんな悲観的な言葉が、ボクの頭を掠めていった。



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