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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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14 毛玉vs帝国軍


 まるで雨みたいに矢が迫ってくる。

 ボクを狙うだけじゃなく、その周囲の逃げ道まで塞ぐように。


 正直、ちょっと怖いね。

 戦国時代劇とかで見たことのある光景だけど、実物はやっぱり迫力が違う。

 数の暴力でもあるから、魔獣に襲われるのとも別の威圧感があるね。

 事前にあれこれと訓練しておいてよかったよ。

 そうでなかったら、竦んで動けなかったかも。


 魔術を込めた矢もあるみたいで、この甲冑くらいは貫通しそうだ。

 でも、届かせない。

 全部吹き飛ばさせてもらおう。


 迫ってくる矢は、空中で弾き飛ばされる。

 同時に、激しい土煙も上がって、ボクの周囲へ輪を描く形で広がった。


「い、いったい何事だ!?」


 答えは、『衝破の波動』。

 ボクの周囲にあるものは全部弾くし、脆ければ粉々になる。

 もしも人混みで発動させたら、肉骨粉製造機になれるね。

 いや、そんなのになりたくないけど。


「くっ……やはり簡単には討ち取れぬか。だが……」


 おっと、余計なこと考えてる場合じゃないね。

 土煙も晴れてきたし。

 それに、敵陣奥に大きな魔力を感じられる。

 一人じゃないね。

 集団で、なにか派手な魔術でも放つつもりかな?


「手加減するな! 大軍に当たるつもりで、全力で撃ち放て!」


 それじゃあ、こっちも本気でいこうかね。

 『衝破の波動』の範囲を広げて、軍勢をまとめて吹き飛ばしてもいい。

 だけど今回は、圧倒して勝ちたい。

 こんなヤツがいる島に居られるか!、って逃げ出してくれるくらいの圧勝。

 ついでに、その圧勝の噂を大陸にまで広げて、別の敵が寄ってこないようにもしたい。


 贅沢すぎるかな?

 まあ、今更迷っても仕方ない。

 作戦通りに片付けよう。

 そろそろ大規模な魔術も放たれるみたいだし、見せ場としては丁度いい。


 一旦、『衝破の波動』を切る。

 そして『静止の波動』を全力展開。


《行為経験値が一定に達しました。『静止の魔眼』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『波動』スキルが上昇しました》


 瞬間、音が止まった。

 もちろん音だけじゃない。

 ボクへ向けて放たれた巨大な炎弾も、雷撃も、無数の光の矢も、

 一万を越える兵士たちもすべてが静止した。


 『波動』と組み合わせて使った『静止の魔眼』。

 これの効果は、時間停止だ。

 実際に時間が止まってるかどうかは不確かだけど、ともかくも止まる。

 範囲内で動くものは皆無になる。

 その外側から、ボクが好き勝手にできるって寸法だ。


 反則的な力だと思う。

 だけどその分、魔力消費も大きい。

 しかも静止してる時間が長くなるほどに、加速度的に消費が増える。

 おまけに、一万の軍勢に合わせて『波動』の範囲を広げたから、あまり長くは止めていられないね。


 それでも十秒くらいなら余裕だ。

 十秒あれば、人一人の首を狩るのも簡単。

 降り注ぐ魔術が停止した中を、ボクは真っ直ぐに突き進む。

 狙うのは、帝国総督クルーグハルトさん。

 なにやら指示を出そうとしてたのか、大口を開けたまま止まっていた。


 その首を、大剣で切り落とす。

 血が噴き上がったけど、それも空中ですぐに停止した。

 ボクは首を手に掴むと、空高くへと舞い上がって―――、


 言わせてもらおう。

 心の中でだけど、カッコイイ台詞を。


 そして時は動き出す、と。


「え……そ、総督!?」

「なんだ!? ど、どういうことだ? いったい何が起こった?」

「敵は!? あの男は仕留めたのか!?」

「それよりも総督だ! お、おい……この死体は、本当にクルーグハルト様なのか!?」


 ボクの眼下では、大混乱が起こってる。

 そりゃそうでしょう。いきなり総大将の首がなくなったんだからね。

 ついでに、もう一撃放っておこう。


 両肩の装甲を開く。

 カシャン、と。

 そうして軍勢の正面に、『万魔撃・模式』を叩き込んだ。

 あくまで威圧だ。

 直撃はさせずに、地面を抉り取っただけ。

 それでも派手な魔力ビームは、前線にいた兵士たちに悲鳴を上げさせた。


『見ろ、貴様らの将は討たれた!』


 上空から、首を掲げて見せつける。

 生首と大剣を持って、マントをたなびかせる禍々しい黒甲冑。

 一歩間違えれば完全に悪役だね。


『敗北を認め、この地より去れ! いまならば追撃はしない』


 大きく空中に描かれた文字は、兵士全員から見えるはずだ。

 識字率もけっこう高いはずだし。

 なにせ『共通言語』スキルとか存在するんだから、きっと読めるでしょ。


 実際、反応は劇的だった。

 負けたのか?

 こんなにあっさりと?

 俺たちはどうすれば?

 そんな声が、あちこちから漏れ聞こえてくる。

 だけど、まだ決着とはいかなかった。


「狼狽えるな! 指揮は、私が受け継ぐ!」


 大声を上げたのは、褐色肌をした騎士だ。

 援軍を率いてきた人だね。

 むう。混乱してた軍勢が、落ち着きを取り戻していく。

 あの人、子犬を撫でてるのが似合いそうな優しげな顔をしてるのに、迫力ある態度も取れるんだね。

 伊達に一万の軍勢を任されてない、ってことか。


「防御陣形だ! 細かいことは考えるな、まずは態勢を整え―――」


 残念だけど、態勢を立て直しての反撃なんてさせないよ。

 まずは『衝破の波動』を最小限の威力で発動。

 逆に、『威圧』を最大限に効かせる。

 そうして地上に降りたボクは、軍勢の正面から歩いていく。


「ひっ、ぁ、ああぁぁ……」

「うわ、あ……!」

「ば、ばばばばばばば、ばけ、も、の―――」


 バタバタと兵士たちが倒れていく。

 中には『威圧』に耐える人もいたけど、膝を震えさせた状態だと、最小限の衝撃でも吹き飛ばされる。


《行為経験値が一定に達しました。『一騎当千』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『威圧』スキルが上昇しました》


 それこそ海を割るみたいにして、ボクは軍勢の真ん中を進んでいった。

 命こそ奪っていないはずだけど大惨事だ。

 泡を吹きながら、失禁しながら、兵士たちが次々と弾き飛ばされていく。


 戦場って汚い。

 匂いとかも吹き飛ばしてるから幾らかマシだけど、あんまり体験したいものでもないね。


 そうしてボクは、褐色騎士の目の前まで辿り着いた。

 辛うじて威圧と衝撃に耐えてる相手と、ゆっくりと距離を詰めていく。


「くっ、っ……なん、なんだ……貴様は……!?」

『バロールだ』


 短く応えて、大剣を横薙ぎに振るう。

 褐色騎士も剣を構えて受けようとしたけれど、構わずに振りぬいた。

 大剣の腹で、褐色騎士の頭をしたたかに叩く。

 『威圧』で竦みきっていた身体は、それだけで地面に転がった。


『敗北を認め、国へ帰れ。ここは私の島だ』

「わ、私は騎士だ! 命ある限り、敗北を認める訳にはいかぬ!」

『ここにいる全員を殺すか? 私は、どちらでも構わぬぞ?』


 これでダメなら、本当に皆殺しだね。

 台詞のストックも無いし。

 アーマーパージからのガトリング『万魔撃』を披露させてもらおう。

 『死獄の魔眼』でもいいかな?

 まともな試し撃ちもまだだったから、丁度いいかもね。


 さあ、どうする褐色騎士さん?

 十数えるくらいまでに決めてもらおうか。

 ひとーつ、ふたーつ、みーっつ……、


「……分かった。降伏する」


 あれ? 認めちゃうの?

 試し撃ちもいいかなぁって思い始めたところだったのに。

 まあいいか。ほぼ当初の予定通りだし。

 犠牲は少ない方が、今後のためにもなるからね。


「だが、約束して欲しい。兵士たちの命は取らないと」

『殺しは、趣味ではない。妙な行動はするな』


 ちょっとバロールさん口調が乱れたけど、大丈夫だよね?

 褐色騎士は項垂れて武器を置いた。

 周りの兵士たちも、もう戦意を失くしてる。


 よし。決着。

 初めての戦争。一万対一で圧倒。

 しかも、ほぼ無血での完全勝利だ。

 これはちょっと調子に乗ってもいいんじゃないかなあ?



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