10 川だー!
魔力回復と自己再生の繰り返し。
やってることは同じでも、効率はかなり上がってきた。
『自己再生』にしても『治癒の魔眼』にしても、これまでは無駄な魔力消費も多かったみたいだ。
治したい部分だけに魔力を集中させる。
そう意識しておくと、余計な消耗をかなり抑えられた。
《行為経験値が一定に達しました。『魔力集中』スキルが上昇しました》
この『魔力集中』は名前通りのスキルだね。
魔力を使う時に一点に集中させて、無駄を抑えるだけじゃない。
多くの魔力を注げば、それだけ効果も上がる。
たぶん、攻撃魔術とかにも使えるんじゃないかな?
そうなると、逆に魔力拡散とかないのかな~って思うよね。
攻撃魔術を広範囲用にする、とか。
でもシステムに問い合わせてみると、答えは返ってこなかった。
どうやら、そこまで細かいスキルは無いっぽい。
まあ、元から広範囲用の魔術があって、それを強力にする手段は別にあるかも知れないけどね。
《行為経験値が一定に達しました。『高速思考』スキルが上昇しました》
ん~、色々と考え過ぎかもねえ。
まだ『死毒の魔眼』も本格的には試してないし、ひとつずつ順を追っていこう。
ひとまずは回復。
それと食事。
もぐもぐ。
そう、狩ったウサギが後回しになってた。
忘れてた訳じゃないよ。
ただ『変身』とか『死毒の魔眼』が強烈すぎて、手を付けられなかっただけ。
ツタで絡めて逆さ吊りにして、ちゃんと血抜きもした。
『吸収』を使えば数秒で食べきれるけど、それだと空腹感が残るんだよね。
折角だし、まともな形で食べたい。
火も通したいところだけど、そんな文明的な物は無いなあ。
魔術なら火を起こすのも出来るんだろうけど、いまは使い方が分からないからね。
下手に挑戦して、自分が火達磨になるのは怖い。
仕方ないので、そのまま齧りつく。
まあ海の上では生魚だって食べてたから、もう悩むほどの問題でもないよ。
不満を言うなら、お醤油が欲しいところ。
お醤油すごいよね、お醤油。
御飯にもパンにもナンにでも合う万能調味料。
異世界でも通用するのは、もはや定説。
目玉焼きにも、ボクは絶対に醤油派だね。ベーコンも欠かせないけど。
ああ、ベーコンエッグが食べたい。
このウサギ、燻製とかにしてベーコンもどき作れないかな?
まあ無理だよねえ。
そんな材料も無いし、煙なんて出したら野生の獣を引き寄せるかも知れない。
あ、引き寄せると言えば……血の匂いって大丈夫かな?
この森がどんな場所だか分からないけど、クマくらいは住んでそうだね。
なるべく早く食べて、さっさと移動しよう。
ちょうど足も治りかけてきたからね。
《行為経験値が一定に達しました。『自己再生』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『魔力感知』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『魔力操作』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『精密魔力操作』スキルが解放されます》
森の中を歩く。
そう、歩ける! 自分の足で!
素晴らしいね。生きてるって素敵なことだったんだ。
いまならクララの気持ちが分かるよ。
まあ、アル○スの少女って、家庭教師のCMでしか見たことないんだけど。
ともあれ、ようやく怪我が完治して動けるようになった。
それでいまは森を散策中。
と言っても、木の上を枝伝いに歩いてるんだけどね。
だってほら、何が出るか分からないし。
木の上なら幾分か安全だと思う。
いまのボクは八本足で、昆虫みたいに木登りも簡単にできる。
節足動物ってやつだね。
魔獣だけど。
あ、黒くてカサカサ歩くってなるとGみたい……、
いや、やめよう。
自分で自分が嫌いになりそうだ。
せめて、まっくろく○すけで留めておこう。
いまのボクは単眼だし、見た目的にはかなり違うけどねえ。
ともあれ、木枝の上を移動。
怪鳥も怖いので、上空にも気を配りながら進んでいく。
そうしてしばらくすると、水の流れる音が聞こえてきた。
川だー!
いや、そんな感動するほどのものじゃないけどね。
なんとなくこう、海だー!、みたいなノリをやってみたくなっただけ。
でも水場を確保できたのは良かったかな。
この体だと別段、水を飲む必要はないみたいだけどね。
それでも何かしらの時には役立つと思う。
魚とかも獲れるだろうし。
草を編んで網でも作ってみようかな。
そうすれば、当面の食料には困らなくなるね。
あんまり大きな川じゃないけど、水は綺麗だし、魚くらいはいるはず。
そうだ、水があるなら、自分の姿も確認できるんじゃない?
なんとなくは分かってるけど、はっきりとは見てないからね。
水浴びがてら、確かめてみよう。
と、木から降りて川に近づこうとした時だ。
ざばぁっ、と大きな水音を立てて現れた。
目が合う。
ワニだ。
全身が硬そうな皮で覆われてる。
人間だって丸呑みできそうな口を、ぱかっと開いた。
鋭く尖った歯がたくさん並んでる。
『死毒の魔眼』、全力発動!
直後、ワニが吹き飛んだ。
体の内側から黒い靄を噴き出して。
《総合経験値が一定に達しました。魔獣、ティニィ・ロウ・ベアルーダがLV3からLV5になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《行為経験値が一定に達しました。『死毒の魔眼』スキルが上昇しました》
《条件が満たされたため、魔獣、ティニィ・ロウ・ベアルーダは進化可能です》
《進化先の候補が複数あります。次の中から選択してください。
ティニィ・ベアルーダ
ロウ・ベアルーダ
ティニィ・レア・ベアルーダ》
え? なにこれ、ヤバイ。
ヤバイ。すごくヤバイ。言葉が出て来ないくらいヤバイよ。
進化可能とか出たけど、いまはちょっと構っていられない。
魔眼を発動した時に、ボクはワニの口の中を睨んでたんだけど、どうやらそこから『死毒』が広がったらしい。
爆発するみたいに広がった死毒は、ワニを体内から食い破った。
さらにはワニの体だけでなく、周囲の草木や地面まで黒く染めて、ぐずぐずに溶かして崩していく。
あ、川も黒くなってる。
ちょうど吹っ飛んだワニが落ちたからね。
真っ黒になった水が流れていって……うわぁ、何処まで行くんだろ。
とりあえず、ボクは急いで退却。
ボク自身まで『死毒』に巻き込まれたら堪らないからね。
後ろへ向かって全力疾走。
《行為経験値が一定に達しました。『俊敏』スキルが上昇しました》
ふぅぅ……。
久しぶりに全力で走った気がする。
っていうか、毛玉生で初の全力疾走だね。
まあ、それはともかく、『死毒の魔眼』だ。
ワニに迫られて咄嗟に使っちゃったけど……うん、あれは酷い。
正しく死毒だ。
一撃必殺。それどころか一撃大虐殺できるんじゃないかな?
正確な効果はいまひとつ分からなかった。
だけど、どうやら視点を中心に毒を生み出すみたいだ。
毒の状態異常を与える、とかじゃないのがポイントだよね。
魔眼効果を切った後にも、しばらくは毒が残る。
だから広範囲にも影響が出る。
魔力消費はやっぱり大きいけど、いまのペースで魔力が伸び続ければ、下手したら街ひとつくらい滅ぼせるんじゃない?
あ、街と言えば、川の下流に街とか作られてないよね?
そもそも人がいるかどうかも分からないんだけど……、
《特定行動により、称号『悪逆』を獲得しました》
《称号『悪逆』により、『破戒撃』スキルが覚醒しました》
《特定行動により、称号『魔獣殺し』を獲得しました》
《称号『魔獣殺し』により、『生命力大強化』が覚醒しました》
なんかキタ!?
『悪逆』と『魔獣殺し』って……。
これは、あれかな?
川に流した毒で、魔獣を何匹かヤッちゃったっていう。
そうかあ。ヤッっちゃったかー……。
なるほど。うん。
人じゃないからセーフだよね。




