10 小毛玉と、モンスター娘と
屋敷へと帰還。
『ご主人様の訓練場所も、早急に検討するべきでしょう』
早速、メイドさんに怒られた。
捕まって撫でくり回されてる。
やっぱり森をボロボロにしちゃったのはマズかったみたい。
『土木魔術で、再生する。可能な限り、早目に』
『そうしていただけると助かります。城壁上で見張っていた方々も、驚いておられましたから』
石壁作りとかは得意なんだけどね。
まだ栽培の促進とかは、あんまり慣れてない。
魔力を注ぐだけで成長してくれるのは楽なんだけど、植物によっては微妙な加減が必要だからねえ。
そこらへんはアルラウネが上手いんだよね。
今度、みっちり教えてもらおう。
『それと、相談がある』
一号さんの胸元から脱出して、椅子へ降りる。
部屋には、他に十三号もいた。
今日はドレスでなくメイド服で、眼帯も外してる。
バロール妹の演技をする時じゃないからね。
屋敷の内装を整える作業をしてたけど、ちょうど一段落したみたいだ。
ついでに、話を聞いてもらおう。
『メイドさんを、増やせない?』
『新たな奉仕人形を作る、ということでしょうか?』
『そう。可能なら、偵察任務で、長く活動できる型を。ボクの魔力量が、随分と上がったから。ひとまずは二~三名で』
メイドさんズは頼りになるけど、その持久力の無さは弱点だよね。
いまはまだ大きな問題になってない。
だけどボクから離れられないっていうのは、これからもっと不便が出てくると思う。
補給の問題って、戦争でも大切だって聞くからね。
糧食がなくなって飢える軍隊とか、ファンタジーだと定番だし。
きまって敗北する側。
そっちには回りたくない。
食事を制する者は世界を征す、とかそんな言葉もあったようななかったような。
『ボクの、余った魔力を、長い間保存する。可能なら、拠点みんなの分も。そういう仕組み、魔法装置を作りたい』
『それは……大掛かりな物となります。研究も必要です』
『うん。だから、将来。長い目で見て』
進化して、かなり魔力量も増えたからね。
なにせ小毛玉六体と合わせて、『万魔撃』七発同時発射とかやっても、そんなに消耗しなかった。
ガトリングガンみたいに魔力ビームの連発もできそう。
我ながら恐ろしい。
この毛玉は、いったい何処に向かっているのやら。
ともかくも、この有り余る魔力を有効活用したい。
いつかこの拠点がもっと大きくなって、大勢が住むようになれば、ボク以外からも魔力を集めてもいいだろうし。
敷地内で魔力を使う場合は、一定量を税金みたいに吸収するとか?
そんな仕組みが作れたら、とっても楽になるんじゃない?
『……ありがたく存じます』
いきなり一号さんが深々と頭を下げた。
一拍置いて、十三号も同じように礼をする。
え? なに?
なんか変なこと言っちゃった?
『我々、奉仕人形は道具であり、感情を持ちません。在り続けても、滅びても、人間のように喜びも悲しみも覚えません。ですが……感謝したいのです』
ん~……? まあ、よく分からないけど、いいか。
椅子の上に転がったまま、頷くみたいに目を伏せておく。
感謝されて困るものでもないからね。
偉そうな態度を取っておけば、適当に流してくれるでしょ。
『では、その魔法装置の研究も含めて、早急に作業を進めます』
『うん。お願い』
一号さんと十三号は、また一礼して部屋を出ていこうとする。
でも、ちょっと待った。
その前に―――、
『……なにか、ございましたか?』
二人揃って、無表情で恍けようとする。でもダメです。見逃しません。
ポケットに入れた小毛玉を返しなさい。
っていうか、どうして持っていこうとしてるかなあ。
お城の北側に出て、魔術を発動。
有り余る魔力を活かして、次々と組み上げていく。
ズゴーン!、ガシャーン!、ドゴーン!、と。
何をって?
もちろん、新たな城壁を建築していくのですよ。
いまあるお城を守る、第二城壁ってことだね。
しばらくは必要無いだろうし、機能もしないと思う。
形は整えられるとしても、けっこうな規模になるから、そこに配置できるだけの戦力も無いからね。
防衛隊のラミアも、いまの周辺警備で手一杯だし。
だけどまあ、威圧の意味もある。
立派な城壁を造っておけば、おいそれと攻めてくる相手もいなくなるでしょ。
それに、けっこう楽しい。
壁って言っても、あれこれと工夫も考えられるからね。
階段や通路の設置をどうするか?
どうすれば、ここを守る部隊が動き易くなるか?
防衛用兵器を配置したり、意地の悪い罠を仕掛けたり―――。
目指せ難攻不落!、って感じで。
実際に使われる場面になったら、それはまた大変なんだろうけどね。
小毛玉もいるから、効率は三倍になってる。
七倍じゃないよ。
いま手元にいるのは二体だけで、他は拠点のあちこちを見回ってる。
まず一体目は、アルラウネの観察。
っていうか、クイーンと一緒に日向ぼっこをしてる。
幼ラウネも揃って、草むらでぽかぽかと。
さっきまで芋虫や歩く根っ子の相手もしてたんだけどね。
アルラウネは気まぐれだから。
でも、うたた寝してても働いてるとも言えるのが不思議なところ。
みんながゴロゴロしてる間に、周りの植物がにょきにょき育ってる。
寝る子は育つ?
そんなはずもないんだけど、アルラウネの特殊能力みたいなものだね。
そうして育った草花からは、蜜や油が採れる。
豊かな食生活のためにも、アルラウネのお昼寝は欠かせないってことだ。
で、二体目。ラミアたちに同行。
クイーンを中心に、ラミアたちは幾つかの部隊を作ってる。
拠点の防衛隊だね。
それぞれに武器も持って、部隊ごとに訓練も行ってる。
真面目だね。
血気盛んって言うよりは、なにかを怖がってるみたいにも見える。
たぶん、ラミアが一番危険な目に遭ってきたからじゃないかな。
いざっていう時にも抗えるように、懸命に力を求めてるような。
そんな鬼気迫る様子も窺える。
まあ、その分だけ防衛隊としては頼りになるよね。
いまはちょうど、イノシシの魔獣を見つけて仕留めたところ。
さすがにもう、ここらをうろついてる魔獣は怖くないね。
部隊のみんなで喜び合って、イノシシを抱えて拠点へ帰る。
少々血生臭いけど、充実した日々を送ってるみたいだ。
ただ、ひとつ気になる部分もある。
さっきから、やたらクイーンが妙なポーズを取ってる。
胸元を強調するみたいに腕を組んだり。
細い腰を見せつけるみたいにくねらせたり。
むにゅん、キュ、もにゅ、って感じだ。
空気を桃色に染めそうな気配が溢れてる。
青少年の教育には大変よろしくないような……、
まあ、放っておいてもいいか。
別のラミア部隊の様子も見ておこう。
それと、スキュラの方にも小毛玉は向かわせてある。
まだ知り合って日が浅いから、彼女たちの生活はよく分かってない。
ひとまずは落ち着いてるのかな?
湖の岸辺では、黒狼と幼スキュラたちが追いかけっこをしてる。
うん。微笑ましいね。
子供と動物って、見てるだけで心が和むよ。
と、油断してたら幼スキュラに捕まった。
小毛玉の欠点があるとしたら、全方位視界じゃないことだね。
だから、背後からこっそり近づかれると気づけない。
小毛玉を捕まえた幼スキュラは、両手で抱えたままじっと見つめてくる。
こてりと首を傾げて……わぁっ!?
いきなり齧りつこうとしてきた。
慌てて逃げたよ。
そういえば子供って、こういう突飛も無い行動に出るよね。
あ、黒狼が駆け寄ってきた。
齧りつきっ子に向けて、なにやら諭すみたいに吠える。
言葉が通じてる? 幼スキュラの方も、反省するみたいに頭を下げた。
むむう。やっぱり謎だ。
これはしばらく観察しないといけないね。
で、残り一体の小毛玉は、メイドさんのところにいる。
正確には、一号さんの頭上に乗っかってる。
毛針を刺したりとかせずに、ただ乗ってるだけ。
なのに、落ちない。
それだけ一号さんの所作が慎ましやかってことだね。
ほとんど動いてないとも言える。
基本的に、他のメイドさんズに指示を出すのが一号さんの役目だから。
だけど決まった時間になると、屋敷から出て各所の見回りにも向かう。
メイドさんたちだけじゃなく、アルラウネやラミアの所にも。
時折、頭の上に視線を注がれたりしながら。
一巡りしたけど、これといった事件は無いね。
拠点内は平穏そのもの。
たまに、建物やら武器やらを作ってる派手な音が響いてくるくらい。
ん? なんだろ?
メイドさんが歩みを止めた。
『ご主人様、少々よろしいでしょうか?』
小毛玉を介して、念話が送られてくる。
こっちも小毛玉で文字を描いて応じる。
『なにかな?』
『街からの報告です。新たな事実が判明しました』
ほほう。潜入メイドさんがなにか掴んだのかな?
そろそろ、お昼御飯の時間でもある。
食事をしながら、話を聞かせてもらうとしよう。




