表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

入学したのはいいけど怪しい人達でいっぱいです

 ピリリリと悪魔の音色、この時間にセットしたアラームが僕を何の苦しいこともない夢の世界から現実の世界へと引き戻す。しかし、今日のこのアラームは何時もよりとてもありがたく思えた。


「ん、んぅ……? もう朝だよね……?」


 カーテンの向こうが少しだけ明るい。それがその答えを教えてくれる。時間は午前五時。いつもより早起きだ。このいつもより早い時間ににアラームをセットしたのは勿論理由がある。


「……起きなきゃ」


 体が軽い。高校生活を送っていた時に感じていた布団を抜け出す際には呪いともいえる程の体が重い現象がない。恐らく寝る前からワクワクしている大きなイベントが今日はじまるからだ。

 そのイベントとは、高校二年生の頃から狙っていた志望校であり、何とか一発で合格した。そして自分の家から一番近い大学の入学式がその今日なのだ。自分のカレンダーにもこの日がかなり強調されていて、今日、四月十日に赤ペンで大きく丸がついていて、更に青ペンで『入学式!!』と殴り書きで書いてある。楽しみで仕方がない。

 僕は目を完全に覚ますため洗面所へと向かう。まずは顔を洗って、口を濯いでから歯磨き。この歯磨きをしている時間でさえ勿体なく感じる。僕は一刻も早くその入学式の会場に向かいたいため、いつもより洗い方が雑だけど今日はべつにいいよね。

 僕がいる部屋と洗面所は二階にある。洗面所は一階にもあるけど、基本的に親が使っているので物が散らかっていたりごちゃごちゃしている。だからあんまり僕は一階の洗面所を使わない。

 寝癖を整えた後に着替えに移る。大学生活の為にと、なけなしのお金を叩いて買った服はセンスの無い僕でもかっこよく見える様に友達が選んでくれた服。彼が世間的に見てセンスがいいのかどうだかは僕には分からないけど、僕からしたらいいと思う。ベルトをきつめに締め、気合いを入れ直すと僕は大きく一呼吸した。


「すー……はぁぁ……よしっ!」


 身だしなみは完璧。髪型はいつものスッキリとした短髪。鏡の中にいる僕は自分から見たら完全に男だと思ってるんだけど、男にしては小さめの身長、この細身の体から「なんで男装してるの?」ってよく言われる。僕は女の子に見えるらしい。そんなことは絶対に認めないけどね。

 期待を胸に今からをご飯を作りに行くため台所へ向かう。お母さんとお父さんは入学式に来てはくれない。海外に出張したりして世界を飛び回っているからしかたない。両親とも仕事は翻訳家で、その世界では知らない人は居ないくらい有名、と両親とも自慢げに話していた。だから今いる家族は部屋で寝ている天然な妹と、酒豪な姉がいる。姉はいびきを立てながらソファーの上で寝転がっていた。


「 全くもう、胡桃(くるみ)姉ぇ、こんなところで寝てたら風邪引くよ?」


 このいびきを立てている姉は僕達、長月家の長女である 長月ながつき 胡桃くるみ。黒に近い茶髪で腰まであるほどの長さ。いまはボサボサであるが。こう見えて僕が今から入学しようとしている大学を主席で卒業している。酒臭い彼女を見たらそんなことは考えられないがかなり頭はいい。言動は正直言って馬鹿だけどね。

 姉を揺すって起こそうとしてるけど「うぅ……」と呻くだけで起きないのでとっておきの言葉を耳元でこそこそと話す。


胡桃くるみ姉ぇ、元彼さんからメール来てるよ」

しゅうまじで?!」


 ガバァっ!と寝ていたとは思えない速度で体を起こすと僕の両肩を掴む。

 今更ながら僕の名前は長月ながつき しゅう。長月家の次男であって、女の子ではない。女の子っぽいとは言われるけどね。

 この姉は正直言って男運が無いというか、見る目が無いというか経験は豊富なものの、その関係が半年以上持ったことはない。世間から見たら相当美少女らしいけど、僕はなんとも思わない。それと連れてくる彼氏はいつもイケメンである。中身が色々あるだけで。


「 ほら、ピコピコ光ってるよ」


 僕が指差すのはダイニグテーブルに乱雑に置かれている彼女の携帯。内容は見てないけど恐らく元彼関係のメールだと思い僕は彼女を起こす手段として利用した。そうじゃなくても彼女を起こす手段として最良なので省みる気はない。


「うぐ……二日酔いがっ、これでは携帯まで届かない!」

「自業自得でしょ? 朝ごはん作るから待っててね」

「冷たいよ?姉さん泣いて……お?珍しく早起きで、その格好。なるほど今日だったか! 姉さんが弟の入学式に保護者として参加――」

「胡桃姉ぇは今日仕事でしょ? 無理してこなくていいよ」

「弟よ、拒否は悲しい」


 この姉は銀行員というこの風格にとことん似合わない職業をしている。人は見かけによらないとはよく言ったものである。こんな酒豪で、ぐーたらな姉が世間では凄まじくできる女とされている。やっぱり見かけは大事だなぁ。


 今日のメニューは卵焼きにウインナー、そして味噌汁に白米。いつもより手抜きだけど、お弁当も三人分作らなきゃなので、一番早く出来る料理だからこれに決めた。料理を作っていると後ろから「これ広告じゃん!? ちょっと秋――」と言いかけてダッシュでトイレに向かっていく。二日酔いによる症状だろう。お大事にと心の中で祈っていた。

 料理がだいぶ完成してきたころいつも早起きな妹が階段を下りてダイニングへ向かってきた。髪型は黒のセミロング。天然と言われているが、彼女には自覚がないらしい。実はキャラを作っているのではないかと思うこの頃。因みに妹は二歳年下、姉は二歳年上である。


「あれ? お兄ちゃん随分今日は早いね」

「おはよう紅葉もみじ。今日は僕の大学の入学式だからね。楽しみにしてたんだし、早めに起きてようと思ったんだ」

「あっ、そっかー胡桃お姉ちゃんはまだ寝てる?」

「トイレの中だよ」

「またお姉ちゃん飲み過ぎたんだ……」


 長月家の末っ子、長月ながつき 紅葉もみじと目を合わせず会話しながらそそくさと作った料理をお皿に盛り付ける。また、ということで紅葉も呆れていた。姉の健康も心配なところだけれど、いつもの事なので大丈夫と思ってしまう。お酒の飲みすぎには注意して欲しいところだね。


「はいどうぞ」

「ありがとー」


 僕の朝ご飯は用意していない。いつもコンビニで済ませたりしてるから、料理する時間がもったいないって事も理由の一つかな。妹の分のお弁当を作っていると、姉が真っ青な表情でトイレから出てくる。やはり辛そうだ。彼女はフラフラと歩きつつ、近くにある椅子に深々と座る。


「うげぇ……気持ち悪い」

「ほら、胡桃姉ぇ。酔い止めと水置いとくよ」

「大丈夫? お姉ちゃん?」


 僕は付近にあった酔い止めと、水を入れたコップを置き、妹は背中をさする。背中をさすることは逆効果のような気がしたけど……後で調べえみようかな。再びキッチンに戻り、次は姉の分の弁当に取り掛かる。妹は吹奏楽部の朝練のため、もうすぐ出発するだろう。しかし、もうすぐ出発しなきゃ行けないのであろう制服姿の妹は、いまテレビから流れているニュースに夢中になっていた。


『――いま注目されている伊勢外大学のニュースです。先日剣道にて全国大会で優勝を果たした早乙女さおとめ 立夏りっかさんについて今日は優勝に至るまでの意気込みを聞いていきたいと思います』

『宜しくお願いします』


 映し出されたのは細身で、如何にも女の子が好きそうな甘いマスクの男性。しかし、本当に剣道で優勝したとは思えないほどの優しい雰囲気だ。

 にこにことした優しい笑顔に 紅葉も蕩けきっている。やはりなにか惹きつけるモノがあるのだろう。


「お兄ちゃん? そういえばこの大学いくんだよね? 」

「そうだね。だいたい言いたいことは分かったよ。この早乙女さんを紹介しろってことだね?」

「流石お兄ちゃん! 分かってるね!」

「僕は剣道部は入らないよ? だから無理かな」

「えー!? そこを何とか!!」


 あのとろけきった表情を見れば全員が全員分かると思う。完全に女の子の目だったからやはり一目惚れしてしまったんだろう。僕は部活やサークルに入る気はない。余程面白そうな部活でもない限りね。姉に便りっきりなのも男として行けないと思うし。


「こうみえたってぇ、お姉ちゃんもぉ、剣道で頑張ったんだぞぉー」


 僕が行く伊勢外大学はかなり部活道の種類がある。サークルの数もたくさんだ。そこで姉は女子剣道部の部長を行っていた。そこでも彼女はできる女と世間に知らしめるように剣道では凄まじい強者として一時期有名になった。ただ、たまにルール外の動きをして反則負けということもあった。ルールを分かっている筈なのになぜ? と思ったがそこまで気にしなかった。いかにも我が姉らしいといえば姉らしい。

 そんなことを考えつつ、弁当を作っていたらなかなかびっくりすることをテレビの中の彼は言い放った。


『――なので、異世界研究部という部活のお陰でもありますね。 このテレビを見ている皆さんも我が大学を是非一度探してみてください!』

『い、異世界? そんなサークルありましたっけ? 早乙女さん』

『えっ? ありますよ?俺は掛け持ちですし、この部活は――』


 突然のオカルトチックな彼の説明に思わず目を細めた。彼は剣道一筋でここま上り詰めたと思ったのに突然、異世界研究部という謎の部活のお陰と言い放ったのだ。スタッフもたじたじである。普通は顧問の人のお陰というものではないのだろうか?


「あーなんか私この人の興味失せたかも……」

「それは正しいと思うよ」

「ううっ……きもぢわるい」


 妹は危ない人と判定したようである。たしかに全国放映でこんな事を言えるのは薬をやっていてハイテンションなのか、それともどこかネジが外れているのかのどちらかだ。常人ではないことは確かであろう。彼に対する興味は引き波のように去っていっただろう。彼のSNSは炎上しそうだ。姉の気持ち悪いは二日酔いによるものか、はたまたあの人によるものか。姉のみぞ知るってところだね。


「あっ、私そろそろ行ってくるね!」

「弁当わすれないようにね」

「いってら……」


 彼女は小走りで玄関から出ていった。弁当もそろそろ完成するし、僕も早めにそろそろ出発しようかな? と思っていた矢先、衝撃の事実を目の当たりにする。


「はぁ。また紅葉のドジが忘れたのかぁ」

「あいつのドジはお母さん譲りだからね。うっぷ」


 玄関にちょこんと僕が作ったお弁当が残っている。言った矢先に全に忘れてしまっている。余談だが母親もドジであり、それがきっかけで現在の父親と出会ったようだけどね。それを引き継いだ妹はいずれそのような流れで男と出会うのでないだろうか、と時々思っている。


 とりあえず折角作ったんだ。お金は持たせているが、このお弁当を処分するのも勿体無い。今から向かえばまだバスの出発時刻には充分間に合うだろう。なので、かなり早いけど出発する事にしよう。


「僕は紅葉に弁当を届けてくるついでにそのまま大学に向かうよ。胡桃姉ぇも仕事に遅れないようにね」

「わかった……いってらっしゃい……」

「鍵掛けるのよろしくね」


 そう言って俺は二階から鞄を取ってきて軽く背負う。少し急ぎ目に行ったほうがいいかな? 片手には妹の分の弁当を持って、俺は少し緊張気味でダイニングにいる姉に一声かけてから家を後にする。緊張はやはり入学式のことについてだ。



 玄関を開ければ既に完全に日が昇っていて、雲一つ無い満天の青空と眩しい陽の光が僕を照らす。雨にならなくてよかったなぁ。

 機構はまだ裸寒くて、半袖の季節にはまだ遠いところ。でも春の暖かい風は春という季節の真っ只なことを教えてくれる。


「って、こんな感慨にふけってる場合じゃないよね」


 妹がいるであろうバス停に向けて、両手で弁当を抑えつつ走り出す。こう見えても僕はサッカー部だったので体力は人並みにあると思う。実際はどうなのか分からないけどね。


 人は通学途中の人も居たけど気にしないで走る。あんまり知らない人だし、良いかなって思う。事故が起こりそうなT字路も安全を確認してかは走り出した。しばらく走った後、ついに沢山人が集まっているバス停にたどり着いた。少し呼吸を整えながらゆっくりと歩く。近づいても妹はまだ気がつかないようなので、彼女の頭を軽く叩く。


「痛い?! 」

「こら、忘れもんだよ」

「あっ、それ忘れてたかも……ありがとう」

「じゃあ僕はこれで、学校行ってらっしゃい」


 僕は逃げるようにここから離れる。先ほどざわついていた声は僕のことを呼ぶのに兄、ではなく、姉であった。妹の友達も例外ではない。勿論の男と見破れた者いたが、かなりごく少数だ。どう見てと男だと思うんだけどな……


 僕はこのままコンビニに寄っておにぎりを買うことにする。そろそろお腹が空いて、背中とお腹がくっつきそうだ。とりあえず大学は歩いて行けるほどの距離なのでゆっくり向かってもまだ時間が余ると思う。少年漫画の立ち読みでもしようかな。

 そんなことを考えていると先程のT字路へ辿り着く。そもそもここのT字路は人が通る事が少ない。あんまり知られていない近道だ。いろいろな店がある隣の大通りを選ぶ人が大多数なのでここは少し寂しい。どうせ人は来ないしもうちょっと大学の予定について考えようかな。

 そう思っていた時に、T字路の向こうから人がやってきた。その人は携帯を弄りながら歩いている。いわゆるながら歩きだ。だけど僕の視線はそこに向いたのではなく、その美貌に集中してしまった。母親から女の子をジロジロ見るものじゃない、と言われたけどついつい視線が離せない。

 透き通るような白い肌にそれに対して漆黒で、いつもの姉とは違う流れるような黒髪。そして夢で出てくるような美しい美貌。凄まじく長い時間見ていたような気がするが、彼女は俺を無視して通り過ぎた。気がつけば誰もいないT字路の行き止まりをぼーっと見つめていた。


「これって、一目惚れってやつかな……」


 これではいけないと思い、首を振ると僕は再びコンビニに向けて歩き出した。先程のすれ違った彼女の顔を何度も何度も思い出しながら。


  ◆ ◆ ◆


「あの人……どこの人なんだろうな……何してるんだろうな……」


 週間の少年漫画を立ち読みしているが、内容が全く頭に入らない。先程から脳裏をかすめるのは氷のような無表情な彼女の顔。彼女が笑ったなら、彼女の笑顔はどれだけ美しいのだろうか? どれだけ僕は彼女のことを気にしているのだろうか。ああもう! こんなに僕はあの人のことが気になるの?!


 思わずコンビニの中で叫びそうになったその時、軽い衝撃が背中を襲う。かなりびっくりしたので少し声が出てしまった。


「ぅっ!?」

「よっ! 秋!」

「もーなんだよ……苗代なわしろー……」

「ははっ、相変わらず女々しいな」

「残念ながら僕は男ですよーだ」


 僕より背が高いこの人は苗代なわしろ 土筆つくし。中学の時からの友達だ。彼はうちの姉には劣るが恋愛経験豊富な男子。大学でお別れだなと思っていたら同じ大学を受ける事を高校三年の後半に知った。

 僕はこう見えても負けず嫌いだから、苗代には負けたくないので彼のお陰で勉強のモチベーションが維持できたとも言える。とりあえず彼には色々な出来事で負けたくない。

 因みに彼はすこし勉強すればなんでも出来るという天才肌である。これも彼に負けたくない理由の一つである。

 漫画に顔をうずめていると、僕の頭をポンポンしながら苗代は語りだす。


「ははは。んで、こんなところで何してるんだ? 時間潰しには結構ギリギリだぞ?」

「……あれ? 今何時だっけ」


 恐る恐る携帯電話をみる。時間は八時五十分。開場まで残り十分だ。余裕を持って到着かなりここで時間を潰してしまったようだ。


「おっと、こりゃ気付いてなかったみたいだな。そこまで今週号面白かったか?」

「僕まだおにぎり買ってない……」

「飯も食ってないのかよ。待っててやるから早く買って来い」

「なんか負けた気分……」


 複雑な気持ちでコンビニの会計を済ませたあと、早足で大学へと向かう。必要なものは全て鞄に入っているので心配なところは何も無い。町はかなり車が渋滞している。やはりこの大学は国立なだけあり、人気も凄まじい。よく僕達受かれたなぁ。


「桜が綺麗だな。彼女と来たい気分だ」

「この……リア充め」


 今通っている道は桜吹雪が舞う道。大学はもうすぐで到着する。苗代が言うようにここはデートスポットとしても人気な場所。夜中にここへ来ればイルミネーションが飾られたりして、カップルが来れば、二人の心はとっても近づくだろう。

 そんなことを考えていると再び先程の女の人を思いだしてしまう。


「…………」

「どうし……へぇ? その表情は……ついにお前もか! おめでとう!これで男だな!」

「な、なにさ?急に」


 苗代は急に僕の表情を見つめると笑いながら僕の頭をポンポンと叩く。突然の事態に、そしてまさか僕の心情が分かられてしまったと思い、激しく慌てる。


「ははは、そう隠すなって。お前、好きな奴が出来ただろ? あれは恋する乙女の顔ゴフッっ?!」

「誰が乙女だ。僕は男だよ。それと好きな人なんていないしそれに……ゴニョゴニョ」


 こんなことをしているが現在進行形で顔は真っ赤である。全然説得力は無いけど僕は否定……できたのかな? 最後の方は言えたかどうかわ分かんないけど、言えたということにしておこう。

 顔を真っ赤にしながら鳩尾にパンチしたのは多分乙女と言われたからだね。断じて一目惚れなんてしてない。

 本当のことをいうと僕はこんな事態は初めてだからいまとっても困惑してて、何が正しいのか分かんない。けど、きっとこれは


「いやいやいや、僕に限ってそれは……」

「秋、お前は恋をしている」

「ふざけんないでっ!」

「ごふぅぅっ!?」


 僕の右肩を掴んでグッと親指をたて、いい声で僕に全てを察した表情をする。とても気に入らないので次は肘を再び鳩尾へめり込ませた。


 ◆ ◆ ◆


「では、これにて入学式を終わりにいたします」



 新入生たちは終了と同時に思い思いの行動をしはじめる。ここからは大学見学してもよし、部活動見学をしてもよし、帰ってもよし、という完全に自由な時間だ。苗代は昔からの知り合いがこちらにいるためここにはいない。緊張したけど、対して大きな事はしなかった。

 ざわついた会場を後にして僕はジュースを買いに行くことにする。


 会場から出てすぐ近くにあった自販機で、僕は意外なものを見つける。


「……あれ?これって……」


 僕が手を伸ばして、無意識にそのジュースのボタンを押す。しまったと思い気がついたが、もう遅い。ほかのジュースより100円高いそれは自販機から排出させられた。


「……やっぱりそうだ……これ……牛乳コーラ……」


 牛乳とコーラを混ぜれば透明になると聞いたことがあるだろうか。実際にやってみた動画は見たものの、飲むとなれば話は別。色からして(透明だけど)美味しくなさそうだ。値段が高い理由は単純に供給が少ないためであろう。ここの自販機は生徒オリジナルのジュースが売っている。


「ど、どうしよう……買ったし飲む……やだなぁ」


 周りでは部活動の勧誘で賑わっている。残念ながら僕は女子バスケ部や、女子バレーなどの最初に女子がつく部活にしか誘われなかった。男子なのに……


 これを飲むか、飲まざるべきか考えていたら肩を軽くトントン と叩かれる。苗代かと思い振り返ると


「こんにちわ。新入生さん」

「っ!?」


ドクンと大きく高鳴ると心臓のギアが凄まじく上げられ、5000kmを走り終わった直後のように激しい鼓動へと一気に切り替わる。僕が話しかけられたのは……今日の朝の時に見た綺麗な彼女だ。彼女の声は何処か冷たさを感じさせるような淡々した喋り方。なによりその視線がこちらを向いていることではち切れるんじゃないかと思うほど心臓が高鳴る。


「こちらへ来ていただけますか?」

「っぅ?!」


もはや顔は真っ赤だ。まさかとは思うがこれって告白……いやいや関係なんてまだないに等しいし! そもそも全然話したことがない相手に告白なんて……! いやまさか彼女も?! いやでも僕女の子とかおもわれてたり?!


下を向きつつ、そんな事しか考えていないまま校舎へ入り、エレベーターを使い、そして長い廊下を渡る。顔の火照りはまだ冷めない。

そしてついに彼女の足が止まる。


「こちらへ」


彼女は扉を開けるとそこは大きな部屋であり、どこか研究室のような機会が沢山ある。良く分からない本も沢山散らかっている。何だろうここ……不思議な空気の感じがする。彼女は後から入るようで僕が入るのを待っている。どうやらさっさと入った方がいいみたいだね。


「失礼します」


意を決して完全に体が中へ入った途端。バァン!!と扉が勢いよく締められる。突然の事態に驚き、扉に手を掛けるがガチャガチャと――


「空かない?!」

『ふっふっふ』『はっはっは』『ぬっふっふ』


誰もいない空間、そして床に本が転がっている空間に三つの声が響く。正直言ってかなり怖い。先程のドキドキとした鼓動は別の意味でドキドキし始めた。こんなドキドキいらない。

どうしようか、助けを呼ぼうか、そんな考えを巡らせて困っていると、なにやらぼそぼそと相談する声が聞こえ始めた。


『えっ、ひとり足りなくない?』『おいいい、またお前か!』『打ち合わせ通りにやろうよ!?』『知りませんそんなの。そもそも私だってかなりドキドキしているのです』


最後の声は先程ここまで連れてきた美しい女の人。えっ、どんな関係――


『まぁいいや、いくぞっ……!ってうわぁあ!』

「?!」


突然天井の一部が地面に落ちるとその中から一人の男の人が落ちてくる。そう、ドシャっ!!と見ているだけで痛くなってきそうな落ち方、頭から落ちてきた。


「もーばかなんだから……えいっ」

「?!」


次はミニスカートの女の子。これも年は同じぐらい、しかしそのミニスカートは下から風を受けているのに見えそうで見えないという、鉄壁ぶりを見せる。


「お前ら落ち着けよ……本当はコッチな」

「?!」


別の天井の部分が()()沈みこんでいくと、ロープが垂れ下がり、そこから男の人が出てくる。茶髪である。かなりクールな感じだが、なぜ上半身が裸なのたろうか。筋肉はあるので見せたいとかなのかな?

ロープから降りた男の人が地面についた途端、後ろからバタン! バタン!扉が高速て開け閉めされた音。ここまで連れてきた女の人だ。あ相変わらず無表情で美人であったが、頬はピンクに染まっている。


「さぁ!!行くぞ!!」


彼の鼻血が出ている顔に集中線がかかるほどの迫真さを目の当たりにした途端、そこに居た全員が早足でこの鼻血の人の元へ集まり、全員が僕に片手を出してこういった。


「「「「異世界研究部へようこそ!!」」」」

「…………」


いろいろな意味で開いた口がふさがらない。ただ、とりあえず一言は言えた。


「……同好会ですよね?」

「部活動だぁぁぁっ!!」


 鼻血の人の熱い叫び声が本だらけの部屋に響きわたった。




アイディア被りを恐れた結果、勢いのまま書いてしまいました。結構昔から考えていたので先に書いていた異世界モノの小説が終わる頃、被っている等言われたら流石に心が折れてしまうので先に一話分でも、と書いた次第です。


基本的に更新は先に書いていた異世界モノの更新が優先となります。いつも投稿が睡眠を削ってまでも全力でかいていますが、遅いので、休日にこの話がかけるかどうかという感じです。


更新速度は1ヶ月に1回あるかないか程度で期待しないでください。


高覧監視です♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ