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Smart phone shop boys

作者: keisei1
掲載日:2014/11/30

 青い空に飛行機雲が円を描いている。それは近くの空港から発着するプライベートセスナが、毎朝恒例の訓練を一つ終えた証だ。プライベートセスナの持ち主は富豪らしいが僕は名前は知らない。きっと贅沢な暮らしを送っている人なんだろう。そう思って高校生の如月慎一はジェットスノボーに乗ると、学校へと向かっていく。ジェットスノボーは噴射するジェットエンジンで地面スレスレを滑空する優れものだ。

 今日も慎一はお気に入りの愛機「F157-D」で登校する。学校に着くと門扉のすぐ近くに、ホログラムの人工知能、通称「アジェット・ガイ」が生徒達とお喋りをして、彼らの悩み相談に乗ってあげていた。アジェットは白人風の顔をした人工知能で、顔だけが学校に入ってすぐの場所に設置されている。アジェットの顔貌はとても大きく、2メートルほどの大きさがあった。慎一も今日もご機嫌にアジェットに挨拶して教室へ向かう。

「おはよう。アジェット。今日も元気かい?」

「ハーイッ! 慎一。君の方こそどうだい!? 彼女の美弥(みや)は大切にしてくれよ!」

 アジェットは歯に衣着せず、何でもあけすけに言ってしまうのが悪い癖だ。慎一は「ちょっ! 勘弁してよ!」とだけ言い残すと教室へと向かう。教室はまだ授業前で騒がしい。みんなスマホをいじって、脳内検索するネットの世界で遊んでいる。そう。この時代のネットは進化していて、こめかみにつけたプラグを用いて「ネットの街」という架空の街を、実際に脳内で体感することが出来たのだ。みんな少し瞑想気味で少し危ない雰囲気もするけれど、この時代では見慣れた光景だ。みんながそれぞれ、「ネットの街」に遊びに行って楽しんでいるんだろう。慎一はとりあえず、ガールフレンドの美弥に声をかける。

「おはよう。美弥。なに調べてるの?」

 美弥はネット世界に没頭していたが、慎一の声を聞き届けるとプラグを外して、笑顔で応じる。

「あ、おはよう。慎一。何って。今日のニュースよ。有人火星探査機が、明日にも発射されるって。今NASAに訪問見学してきたの。探査機はスッゴイカッコいいフォルムでうっとりしちゃった」

「そう。でも『ネットの街』ばかりで遊んでいると良くないよ。リアルも充実させなきゃ」

 そう慎一に指摘された美弥は、不思議そうに慎一を見つめる。

「慎一、あなたまだそんなこと言ってるの。今の時代ネットもリアルも関係なし。自由に横断出来るフィールドなんだから。区別するなんて……、あ、先生が来たわ」

 見るとクラスの担任の町田が、出席簿を持って教室に入ってきた。ネットで遊ぶのをやめて着席する生徒たち。町田は教室が静まり返るのを待って、今日の4時限目の特別課外授業について話をする。

「あー、今日の課外授業だが、みんながとても楽しめるものになっている。近くの空港でプライベートセスナを毎日飛ばしている方がいるだろう。H2Oホールディングスの社長さんだ。その方が『ネットの街』を使って社内見学に招いてくれるらしい。楽しみにするように」

「はーい」

 そう生徒達は返事をする。H2Oホールディングス。スマホのゲームアプリを大量配信している会社だ。その会社の社長があのセスナの持ち主、搭乗者だったのか。そう思うと慎一は俄然興味が湧いてきた。ゲームの製作現場ってどうなってるんだろう。どう作るんだろう。どうやるんだろう。とにかく見てみたい。その思いで慎一の胸は一杯になった。

 4時限目を迎える前に慎一はガジェットと少し話をしておいた。H2Oホールディングスの社長がどんな人なのか知っていたら教えて欲しい、と頼んだのだ。ガジェットは顔を曇らせる。

「H2Oホールディングス。余りいい噂は聴かないな。チート行為をしたユーザーに料金を過剰請求するなど、配信するゲームの出来は良くても、会社自体は今一つの評判だ」

「そうなのかい? アジェット」

 そう慎一が応じると、アジェットはこう一つ提案をしてきた。

「おまけに『ネットの街』で、H2Oホールディングスのゲームアプリを使って遊んだ子供たちが、『ネットの街』から戻れなくなる事案も発生しているらしい。慎一。少し心配だ。僕と回線上で繋がっておこう。いつでも連絡が取れるように」

「OK。アジェット。ありがとう。そうしておくよ」

 そう慎一はアジェットに告げると、無料電話を彼とつなげておいた。そして4時限目、いよいよH2Oホールディングスの社内見学が始まる。みんな嬉々としてプラグをこめかみにはめる。H2Oの社内へとネット上で移動した生徒達は、まずは町田の先導でグラフィックエディタールームへと足を運ぶ。そこでは数十名の絵描き達が、膨大な量のゲームグラフィックを仕上げている。グラフィックプロデューサーの高原が対応する。高原は右手を大きく広げてルームを見渡す。

「ご覧ください。こちらでユーザーの胸を沸き立たせるキャラクターや、背景がデザインされています。ここが我がH2Oホールディングスの出発点なのです」

 生徒達はみな、極彩色鮮やかなグラフィックの数々に魅了されている。ひとしきり見学が終わったあと、高原は、このフロアに、特に興味を惹かれた生徒に呼び掛けて、引き続きフロアに留まるよう勧めた。数名の生徒達がそのフロアに留まるのを望み、担任の町田は、特段そのことを気にもかけずに、次のフロア、次のフロアへと足を運んでいく。シナリオ部署、プログラム部署、各種設定部署などを案内されて、それぞれ数名が各々の部署に留まった。そして社内見学の最後、社長との面会という段になって美弥は気付く。

「ちょっと待ってよ。慎一。途中途中でクラスメートが、離れて行ったから、もう今は私達を含めて数名しかいないじゃない」

 慎一は「あれ」と気付く。慎一は口元に手をあてる

「それもそうだ。おまけに町田先生まで、さっきの各種設定部署に留まったから、生徒数人で社長に会うしかないのか。ちょっとおかしな話だ。離れたみんなも合流する気配も見せないし」

「何か不気味じゃない? ちょっと私、不安。この会社の変な噂も聞いてるから」

 美弥の話をそこまで聴いて、慎一はアジェットの話を思い出す。

「アジェットもそういう話をしていた。ちょっと一旦『ネットの街』から離脱してみよう」

 そう言って「ネットの街」のページを閉じようとする慎一だが、上手く行かない。「ページを閉じる」に何度タッチしても反応しないのだ。その様子を見た美弥は不安そうな顔を見せる。

「ひょっとしてこのH2Oホールディングスの会社訪問サイトって、閉じられないページなんじゃない?」

「『閉じられないページ』って言うとワンクリック詐欺のサイトとかにある奴?」

 慎一の言葉に「そう」と美弥は頷く。「何それ! 怖い!」と言って、残っていた数名のクラスメート達は肩を寄せ合う。すると自分が先頭を切らなければと美弥は思ったのか、気を奮い立たせる。

「とにかく『この』社長室の扉を開けてみましょうよ。無暗に怖がるのはそれから、よ」

 美弥のその冷静な言葉に、落ち着きを取り戻したクラスメート達は、慎一、美弥とともに広々とした社長室の扉を開ける。そこにはH2Oホールディングスの社長、根岸聡が円卓の前の椅子に座っている。少し恐々としていた生徒達だったが、スマートで清潔感のある印象の、まだ若い根岸に安心したようだ。根岸は会社概要を手短に告げると、H2Oホールディングス社の本当の目的を告げる。

「さぁ、私達の表向きの事業内容は分かってもらえただろう。ここからが本題だ」

 根岸は、黒く艶やかな髪を後ろに撫でつける。根岸の妖しげな瞳を前にして、美弥と慎一を除くクラスメート達は肩を震わせる。根岸は真実を話していく。

「本当のところ、H2Oホールディングスは、某国の国家機関の一つでね。頭脳、感性、身体能力を含め、将来IT軍人として使える子供たちを集めているんだよ」

「そんな!」

 驚く慎一達を前に、尚も根岸は告げる。

「ゲームで遊ばせたり、社内見学をさせたりするのは、実はその耐性を調べるためでね。ここまで残った君達はその耐性を存分に見せてくれた。あとは……」

 そう言って根岸は立ち上がる。根岸の背後にH2Oホールディングスが開発したゲームアプリのキャラクターであるモンスターが姿を現す。根岸は微笑む。

「あとは身体能力をこのモンスターで調べるたけだ。大丈夫。君達にも武器くらい与えてあげるよ。ゲームで遊ぶのと同じようにね」

 すると慎一や美弥の前に、レーザー・ガンやレイ・ソードが浮かび上がる。

「さぁ存分に楽しませてくれ。秘密を知った上にIT軍人としての将来を見出せなかった者、つまりは敗北した子供たちは、未来永劫、永遠に『ネットの街』を彷徨ってもらう。さぁプレイ・ザ・ゲーム」

 そう言い残して、根岸は室内の奥へと姿を消した。慎一は咄嗟の判断で、美弥を初めクラスメート達に武器を投げ渡す。

「慎一!」

 美弥がそう叫ぶも、レイ・ソードを掲げた慎一の決意は揺るがない。

「ここまで来たら戦うしかないよ。だってゲームに負けたら『ネットの街』を永遠に彷徨うんだろう? そんなの俺はゴメンなんでね」

「それもそうね。一つやってみましょう!」

 そう美弥は相槌を打つと、レーザー・ガンを手に取り、じりじりと迫りくるモンスターに向き合う。その異形の姿を恐れたクラスメートの数人は広々とした社長室から逃亡しようとする。だが退路をモンスターに塞がれ、鋭く尖ったかぎ爪で体を引き裂かれ、消失した。あとには「Delete」の文字だけが浮かび上がる。

「みんな!」

 美弥と慎一がそう叫ぶも、残されたのは美弥と慎一を含めて三人しかいない。モンスターは慎一達に襲い掛かる。何とか転げるように攻撃をかわした慎一は思い出す。アジェットと電話回線を「通話」にしていたのを。慎一はモンスターの口から吐きでる炎や、雷を回避しながらアジェットに訊く。

「アジェット。聴こえる? 話は全部聞いた通りだ! たしかこの会社のゲームプログラムには欠陥があったはず! チートの抜け道を探してくれ! 頼む!」

 学校の門扉の前で、H2Oホールディングスの全容を知ったアジェットは、大きな声で応える。

「OK! 慎一。僕の頭脳、AIはそこらのプログラマーが犯した失態、過ち、ミステイクなんてたやすく見つけることが出来る! ちょっと待ってくれ。すぐにプログラムの穴を見つけて、慎一達の武器、そして身体能力をあげる。任せろ!」

 するとそのやり取りを聴いていた美弥もアジェットに付け加える。

「アジェット! ついでに警察に通報もしておいて。よその国の国家犯罪に、警察がどこまで対応出来るかどうか謎だけど!」

「分かった! 美弥。あとはせいぜいその可哀そうなモンスター達を可愛がってやっておくれ!」

 そう言ってアジェットはチートを万全にする。

「よし! これで武器、身体能力強化はOKだ!」

 慎一と美弥は声を揃える。

「ありがとう! アジェット!」

 そう言い終えるか終えないかの内に、もう一人残っていた生徒がモンスターの炎に飲まれ、消失した。「Delete」の文字が虚しく浮かぶ。

「くっ! 最後は俺達二人だけか! 美弥。武器の能力向上はすんだかい?」

「大丈夫! このっ! ハイパーバズーカでっ、敵モンスターはイチコロよ!」

 そう言うと美弥は、抱えあげたバズーカ弾で、モンスターを砲撃する。モンスターはたちまちのうちに撃退され、残り一体となった。だがやや疲れ切った美弥は、ぐったりと肩を落として息をする。その美弥目掛けて襲い掛かる、最後一体のモンスター。だがそのモンスターを一刀両断したのは慎一のレベルアップしたレイ・ソードだった。モンスターは雄叫びをあげて絶命していく。その様子を見届けた慎一は、座り込んだ美弥に手を差し伸べる。

「美弥。やったよ。俺達」

 「でも」と美弥は言葉を遮る。闘いはまだ終わっていないのだ。消失した生徒達を奪還し、そして何よりも自分達がIT兵士にさせられないために、「脱出」しなくてはいけないのだ。そう二人は言葉を交わし合って、社長室から出ようとする。だがそれを、社長室の奥から再度現れた根岸が遮る。彼は格段に身体能力を強化したようだ。根岸は言う。

「全てを知って、『はい、終わり。ハッピーエンディング』とは世の中、中々上手くいかないものでね」

 そう言って根岸は、妖艶に笑みを浮かべると人獣化した右手を、慎一と美弥に振り下ろす。その瞬間、何者かの砲撃が一斉に、根岸目掛けて行われる。それは日本国のIT兵士が社長室に流れ込んできた証拠だった。IT兵士は更に抵抗を続ける根岸に、砲弾を浴びせ続ける。見ると、「Delete」されたはずの生徒達も無事保護されている。やがて、根岸は力なく倒れいき、元の人の姿に戻った。

 普通の一人の青年に戻った根岸に、慎一と美弥は訊く。

「どうして、他国の国家機関なんかと手を組んだんです?」

 すると根岸は、一人の怜悧でスマートな青年起業家の面持ちを見せて、答える。

「それはね。僕が企業を起こして、上場しようとした時、この国は不当に僕の企業に妨害を加えたんだよ。この国の古い企業体質、既得権益を守る為だけに」

「そんな……」

 明らかにされる事実を前に慎一と美弥は言葉を失う。根岸は更に告げる。

「だから僕のこの行為は一種の『復讐』だった。そういうことだよ」

 その話を聞いて慎一はうなだれる。根岸もまた、この国の闇に抗おうとした一人の戦士だったのだと。だがそこで気持ちを奮い立たせた美弥が、根岸にこう伝える。

「でも、過ちは過ち。あなたは方法を間違った。罪を償わなければならないわ」

「美弥」

 慎一がそう零すと、IT兵士に連行されていく根岸はふと笑みを零す。

「『償い』か。違いない」 

 そうしてH2Oホールディングスを巡る一連の事件、騒動は幕を降ろした。後日、アジェットのいる校門近くで慎一と美弥は話をしていた。慎一は美弥に言う。

「未来は『僕達の手』にか」

 そう感慨深げに零す慎一の横で、美弥は懲りもせずに「ネットの街」のゲームアプリで遊んでいる。

「おい、美弥!」

 美弥は思わず苦笑いを浮かべる。

「分かってる、分かってる。『ネットの街』で遊ぶのもほどほどに。でしょ? 分かってるんだから」

 すると美弥は立ち上がり、プラグをこめかみから外すと、慎一の手を取り、走り出す。

「もっと世界を変えて行かなきゃね。じゃないと」

 美弥はそう言って、あとは口をつぐんだ。その言葉の続きを慎一は充分に汲み取ったようだった。駆け出した二人を見送るアジェットは最後に一言、こう零すのだった。

「二人ともケガには注意しろよ。リアルの世界ではチート行為なんて出来やしないんだから」

「分かってる!」

 アジェットにそう言葉を返した慎一と美弥の言葉は、弾むように心地よく戸外に響いていた。

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