ずっと君を見ていた
ふらふらと歩いていたら、いつの間にか夕暮れの公園に来ていた。考えるより先に足が動いて、ゴミ箱と書かれた箱の前につく。
さっきから握り締めた、綺麗な包装紙にくるまれた物体……。手作りの、お菓子。
本当なら、好きな人の誕生日に、今日に告白するつもりだったのに。
『私、佐川くんのことが好きです!』
放課後、あいつの姿が見えなくて、校舎裏まで探しに行ったら、あいつ、見るからに大人しそうで可愛い感じの後輩に告白されてやんの。
『こういうの初めてで……よく分からないんだけど。僕でよければ、これからよろしく』
ああ、告白に成功した女の子の笑みの、何て可愛いこと。あの後にしゃしゃり出たって勝てるもんか。学校を飛び出して、ふらふらと夕暮れの街を彷徨う。
ぶるぶると震えた手でプレゼントを持ち上げる。
もういらないの。もう何の役にも立たないの。人目につく学校で捨てられない。家に捨てるなんて惨めなことしたくない。こんな目的も果たせない物体、こういうところで捨てられるのがお似合いだ。
「もったいない」
不意に、後ろから声をかけられる。
「それ、捨てるくらいなら俺にくれよ」
「……は?」
知らない男にそう言われて戸惑っている間に、そいつは私の手から奪い取るようにして引ったくり、中のお菓子をもくもく食べ始めた。
不思議と、不快感はなかった。食べ物だから、誰かの胃に入るのが本望だろう。作った人の本意がどうかは置いといて。
「ごっそさん」
そいつは食べ終わるとそう一言だけ言って、どこかへ去っていった。呆気にとられながらも、私は自分の中でこう結論付けた。
「……お腹減ってたのかな?」
包装紙は透明なものだったから食べ物だってすぐ分かっただろうし、見るからに食べられる物をその辺に投棄だなんて、正義感強い人なら怒るかもしれない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「それ、同学年の工藤幸一くんじゃないの? 凛」
翌日、教室で親友の美咲がそう言った。
「身長や髪型だけで当てられるの?」
「知らぬは本人ばかりなり……ってね。凛って超絶鈍感だもの」
呆れたように言う美咲。鈍感って……鈍感なら失恋で傷つかないと思う。
◇◇◇◇◇◇◇◇
下校の時間、日直の仕事で帰りが遅くなった私は、早々と下校する生徒達を羨ましそうに窓から見つめた。
「……!」
そこにいたのは佐川と、彼女だった。あいつら、校内にいる時は微妙な距離だったくせに。校門を出た途端、慣れない手つきで相手の手を握ろうとしていた。視力のいい自分が恨めしかった。
「ああ、昨日のプレゼントはあいつにだったのか」
振り返ると、昨日のただ食い男こと、工藤くんがそこにいた。
「プレゼントって、別に」
「あいつ、うちの教室で喚いてたぜ、幼馴染が今年から誕生日プレゼントくれなくなったって。そういう自分は彼女作ったくせに、それでも女友達はプレゼント寄越せとか無神経だよな」
……昨日、あいつの誕生日無視するような形になったもんな。
「何そんな顔してんだか。小野寺凛サンには、もっといい男がいると思うけど?」
「はぁ……」
「あれ、気づいてない?」
数十年片思いしていて告白前に降られた自分に、一体何の価値があるのだろう。
「俺、ずっと小野寺さんのこと見てたんだけど」
「え?」
「……見てたんだよ! ずっと」
工藤くんの言葉の意味を理解した瞬間、さーっと顔が赤くなる。
「この高校だって、小野寺さん目当てで死ぬ気で勉強して入ったし!」
「え、あ、あの」
金魚みたいに口をパクパクするしかできない。
「中学だって、結局三年間話しかけられなかったけど、卒業アルバムには頑張って書いたのに」
「中学から!?」
全然気づかなかった。この人、そんなに私のこと……。
「小学校だって、地区違ったけど、毎日家の前を通る小野寺さん見るのが楽しみだったし」
そんなに昔から……この人、私と同じなんだ……。
「幼稚園だって、よく花摘んでる小野寺さんに見惚れてたし」
……ん?
「新生児室で隣になった時からずっと見ていたのに」
「え……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「本当に凛は鈍いよ」
親友の美咲は、教室の外でそう呟いた。
「あんな人に片思いされてるのに気づかないんだもん。私が親友ってかスパイだったの知ったら怒られるかな……。でもあんな純愛の人はそういないから、きっと後で許してくれるよね、うん……」
そういって、視聴覚室の鍵をそっと閉めた。