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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第7章 湯治
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その夜


「う……ん。」



 目を覚ますと、私は土方サンの膝の上に頭を乗せ、団扇で扇がれていた。



「あれ? 土方サン……此処は?」



 土方サンは深い溜め息をつく。



「ああ……目が覚めたか? お前という奴は…風呂場でのぼせやがって……運ぶのに苦労した」


「のぼ……せた?」


「まったく……。良いところで倒れちまいやがって……お前、わざとか?」



 土方サンは笑った。



 先程の事を思い出すと、全身が紅潮する。



「……ごめんなさい」


「まぁ……良い、そろそろ夕餉だ。ここの料理は格別旨いぞ?」



 その言葉に一瞬舞い上がったが……



 土方サンがこの宿に来たことがある素振りに、正直複雑な気持ちだった。



 女性と来たのかなぁ……



「そんな面ぁすんな! ここはなぁ……隊士どもの慰安旅行に使った事があるんだよ。あとは、接待に幹部連中と使ったな。まぁ……そん時は、こんなに良い部屋じゃなかったがな」



 私の表情を見て、考えを見抜いたのか……土方サンは、言い訳をするかのように言った。



「そっか」


「お前は色々と考えすぎなんだよ」



 土方サンはぶっきらぼうに呟いた。






「失礼します。夕餉の支度が整いました」


 女将は部屋に入ると、仲居達が豪勢な料理を次々と並べ始めた。


「副長さんが新選組の方以外とお見えになるのは初めてですね? それも、こんなに可愛らしいお嬢さんと……副長さんも隅に置けませんねぇ」



 女将は、仲居達が支度をしている最中に話し掛けてきた。



「ああ……そうだな」


 土方サンは適当な返事をする。


「それにしても、当宿でも一番の部屋を利用されるとは……さすがは副長さんでございますね」


「まぁ……今日はあのむさ苦しい奴等とは違うからなぁ」


「あらあら、こんな色男に大枚はたかせるなぞ……お嬢さんが羨ましいですわ」




 一番の部屋?



 大枚をはたかせる?



 この宿は一泊いくらなのだろうか?




「さてさて。お支度が整いました。今宵はごゆっくりお寛ぎ下さいましね?」


「ああ……そうさせてもらおう」




 並べられた食事は見た目も鮮やかで、食べるのが勿体無い程だった。



「いただきますっ!!」



 私は早速、料理を口に運ぶ。



「わぁ……美味しい!!」



 目を輝かせた。



「そりゃ良かったな」



 土方サンは満足そうな表情を浮かべると、杯を飲み干した。



「あっ。お注ぎします!」



 空になった杯に酌をする。



「ああ……すまねぇな」



 お腹がいっぱいになり、大満足な私は土方サンの隣に座った。


「? ……いきなり、どうした?」


「土方サン……今日はありがとうございました♪すっごく嬉しかったです!!」


「お前が満足したなら……それで良い」


 私たちは顔を見合わせ、笑い合った。





 この世が乱世である事すら忘れてしまいそうになる。




 まさに至福の一時だった。





 夕餉の後は、部屋の窓から景色を眺め、話をした。




 土方サンの事や私の事




 二人が出逢う前の、その隙間を必死に埋めるかのように……





「さてと……そろそろ寝るか?」




「はいっ!」



 同じ布団に潜り込む。




「初めて会った時は……訳の分からねぇ小娘だと思っていたが……そんな小娘に、いつしか本気になっちまうとはなぁ」



 土方サンは照れ臭そうに言った。



「小娘じゃないですよぉ。もう、立派な大人の女性ですっ! ……そりゃあ、雛菊サンみたいな色気はまだありませんけど?」



「ほう……言うじゃねぇか」




 一瞬にして、土方サンの雰囲気が変わるのが分かった。




「お前が、本当に大人の女なんだか……しっかり、教えてもらわねぇとなぁ?」




 土方サンは不敵な笑みを浮かべると、私を強く抱き締め口付けた。




「土……方さ……ん?」






 夜はまだ長い。












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