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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第7章 湯治
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憤り


 屯所に戻ると、土方サンは私を布団の上に乱暴に降ろす。



「痛っ!!」



 土方サンが怒っているのは、一目瞭然だった。


 何も言わず、私を見下ろす。


 その視線と沈黙が痛い。





 土方サンは無表情のまま、私の右足を思い切り掴む。


「っっ!!」


 捻った足を思い切り掴まれ、私は声にならない悲鳴を上げた。





「お前は……どうしていつも、そう無防備なんだ? 知らない奴に付いていくなと子供の時分に習わなかったのか?」



「それ……は、女性……だったから」



「ほう? 女だからと付いていって……挙げ句にあのザマか? 剣術どころか、刀すら持たないお前がどうやってその身を護るってんだ!? そもそも、原田達から報告が無かったら……今頃お前はどうなっていたか、そんな事も分かんねぇのか!?」




 土方サンは声を荒げた。




 先程の恐怖を思い出すと、涙が溢れる。




「……悪ぃ」




 土方サンはそう呟くと、先程とはうってかわって、私を優しく抱き締めた。



「半分は……俺のせいだな。いや、あの女がああなっちまったのは、俺の……せいか」



 涙を流しながら、土方サンを見上げる。



「まぁ……確かに、その、何だ? 田舎から京に来たばかりの頃は、ちぃとばかし派手に遊んじまったけどなぁ……今はそういう奴等とは全部縁を切った!!」



 土方サンは少し照れ臭そうに言った。



「土……方サンは……縁の切り方……が下手……なんですよ」


「……うるせぇよ」



 土方サンは抱き締める力をわざと強める。



「く……苦し……いで……す」



 私のその様子を見て、土方サンはしばらくの間笑っていた。






 その後



 私が土方サンの膝元で横になりウトウトしていると、原田サン達は仕事が済んだようで報告に来た。



 突然の事に、起き上がるに起きられず、私は仕方なくそのまま寝たふりをする事にした。



 斉藤サンが報告を始める。



「長州の浪士3名と、あの女……尋問を行い、幾つかの有力な情報を得られました。こちらに関しては、特段急ぐべき情報でもありませんでしたので、書面にした後、閲覧頂こうと思います」


「そうか。奴等はどうした?」


「3人の男は奉行所に引き渡しました。余計な罪状も付けましたので、斬首になるのも時間の問題かと思います」


「女はどうした?」


「女の方は例の置き屋に……あの見世でしたら、逃げる事も叶いませんので丁度良いかと」


「そうか……」


斉藤サンの報告が済むと、原田サンが土方サンに尋ねる。



「土方サン! 嬢ちゃんは……大丈夫だったのか?」



 土方サンは膝元で眠る、私の髪を愛しそうに撫でながら答える。



「間一髪……といった所だったがな。お前らのお蔭で無事に済んだんだ……本当に、お前らには礼を言う」



 土方の意外な一言に皆、面を喰らった。



 あの土方サンが……こんなに柔らかい表情で……お礼を言うなんて。



「まったく……こいつは、首に縄でも付けておきてぇくれぇ危なっかしい。本当に……どうしたモンだかなぁ?」




 何の影響か……明らかに人が変わった、というか、人間味が出てきたというか……そんな土方サンに驚きつつも、四人は部屋を後にした。




「土方サン……変わったな」


 平助クンがポツリと呟く。


「土方サンのあんな表情……初めて見たぜ」


 原田サンも同調する。


「それ程に嬢ちゃんが大事なんだろうよ?」


 永倉サンは笑いながら言った。


「まぁ……副長も人の子という事ですよ」


 最後は斎藤サンが締める。




 四人は廊下を歩きながら、そんな他愛もない事を話していた。





 寝たふりをしていたが、私はいつの間にか本当に眠っていたらしい。



 翌朝、起きてみると隣に土方サンが居た。



 土方サンもほぼ同時に目を覚ます。



「ん? もう起きたのか。そうだ! 今日は……湯治に行く。目が覚めたのなら、支度をして来い」


「湯治?」


「お前……昨日、足を痛めたんだろう? 近藤サンと山南サンに、挫きに効く温泉があるからお前を連れて行ってやれと言われた。」


「近く……ですか?」


「いや。少し距離があるからな……泊まりにしようと考えている」


「泊まり……かぁ」


 

 そう考えた瞬間、全身が紅潮した。



「なぁに赤くなってやがんだ? んな事ぁ今更じゃねぇか!」


 土方サンは私の鼻をつまむと、笑いながら言った。




 温泉……楽しみだな。


















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