表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第1章 夢現 ―京という街 ―
3/181

困惑



 再び目を覚ました私は、何故か数人の男たちに囲まれている。



 …………!?



 それどころか……私の頭が……一人の少年の膝の上にある!?



 その状況に気付いた瞬間、私は驚きのあまり慌てて飛び起きる。



「あ! 天女サンが目を覚ましましたよ?」



 少年は一瞬にして嬉しそうな表情に変わると、ニカッと笑った。



 改めて辺りを見回してみると……そこは時代劇のお屋敷のようだ。



 ここは……何処だろう?



「で? 総司、俺は確かに捨て置けと言ったはずだが……お前はどうして俺の言う事を無視して連れて来た!? 女は犬猫じゃねーんだ。勝手に拾って来るんじゃねぇよ!」



 これは……先程の低い声だ。


 声の主は、あからさまに不機嫌そうな表情をしている。


 綺麗な顔をしているのに……勿体無い。


 不謹慎にも、それが私の率直な感想だった。



「やだなぁ、土方サン。女の子には優しくしろって、習わなかったんですかい? 僕はね、土方サンみたいに冷血漢じゃないですからねぇ。倒れている娘をそのまま捨て置くだなんて……そんな非道な事はできませんよ」



 総司と呼ばれた少年は鼻で笑いながら、わざと嫌味の含んだ言い方をする。


 その険悪な雰囲気に割って入る勇気もなく、私はただただ俯いていた。


 そんな時、二人の男がやって来る。



「あっ、近藤さん! 山南さんも居る!」



 総司さんは、その男性を見るや否や、嬉しそうな表情を浮かべる。



「総司が何やら珍しい娘を連れてきたと聞いてなぁ……何事かと思って来てみたのだが……」


「そうなんです! 先刻、屯所の裏庭の桜の木に彼女が舞い降りてきまして……。あっ、舞い降りてきたというのは本当なんですよ? これは嘘ではないですからね? まぁ、とにかく……そのまま捨て置くなんて酷い事は、僕にはできなかったから……だから、保護したんです! それにね、近藤サン。彼女はきっと……桜の大樹に使わされた……桜の天女なんですよ」



 総司さんは必死に説明した。



「フフ……総司は相変わらず優しいなぁ。ふむ……天女か、それは実に風情がある……そうは思わんかね? 山南君」


「そうですねぇ。桜とは少々季節外れではありますが……まぁ、その発想は実に沖田クンらしいですね」



 近藤さんと山南さんは顔を見合せて微笑んだ。


 その直後、近藤サンは私に視線を合わせると、柔和な表情で優しく尋ねる。



「さて……実際のところ、お嬢さんはどうしてあんな所に居たのかな?」


「………わかりません」



 私がそう答えるや否や、喉元に刀の切っ先が突き付けられる。



「おい、お前……嘘吐くんじゃねぇよ。隠し立てする奴ぁ、昔っからクロだと決まってんだ。正直に話さねぇと、痛ぇ目みるぞ? それとも、お前……斬られてぇのか?」



 私に刃を向ける者……それは、総司さんが「土方さん」と呼んでいた男だった。


 土方さんは、冷たい表情で私を見下ろしている。


 怯むものか……


 私は何一つ悪い事はしていないし、嘘だって吐いていない。


 何より、訳が分からないのは私の方だ。


 それなのに……どうして、私が責められなければならないのだろうか?



「分からないモノは、本当に分からないんです! それでも私を斬りたいと言うのなら……斬りなさいよ! こんなの……どうせ夢……なんだか……ら」



 気付けば、私の目からは涙が溢れていた。


 それが恐怖からくるものなのか、悔しさからくるものなのか……自分でもよく分からない。


 だが……ここで先に目を反らした方が負けだと思った私は、必死に土方さんを睨み続けた。



「トシ! 止めんか!」



 近藤さんの一声に、土方さんは瞬時に刀を仕舞う。



「……チッ」


「土方君。刀を持たぬ女性に刃を向けるなど、感心できませんねぇ。それに……斬るという言葉は、女性に向ける言葉として不適切ですよ?」



 山南さんは、近藤さんの言葉の後に付け加えた。


 土方サンは、バツが悪そうな表情と共に眉間に皺を寄せ、私から視線を反らす。



 何だか……更に険悪な雰囲気になってしまったような気がする。



 必死に頭を巡らせるが、この場を和ませられる様な妙案は全く浮かばない。



 目の前の状況と、自分の置かれた状況を理解することも出来ず、服の裾をギュッと握り、口を真一文字に固く結んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ