舞い降りた天女
「う……んっ。頭……痛ぁ……」
目を覚ますと傍らには、先程の樹齢200年の桜の大木。
…………には間違いない。
が。
明らかに景色がおかしい。
大きさも形も、確かに同じ木に見えるものの……満開に咲き乱れていたはずの桜の花は……何故か、全く咲いていない。
それどころか……そこには学校すらも無く、この大樹を中心にしてその周囲は同様の木々で溢れている。
状況が掴めない私は、辺りを見渡す。
そこで初めて、この土地が古いお屋敷の塀のような物で囲まれている事に気付いた。
「なに……コレ。私はどうして、こんな所に居るの? 学校……は? 桜は何処? こんなの、おかしい。これは……夢……だよね?」
その時
何処からか、足音が近付いてくるのが聞こえた。
しかし……状況を理解しきれない私は、ただただ呆然とその場に立ち尽くすことしか出来ずにいる。
「こっちです! 早く来て下さいって! もぉ、土方さんってば体力無さ過ぎですよ。そんな風にのろのろと歩いていたら、天女が帰っちゃいますってば。土方さんは、天女に会えなくても良いんですか?」
「っるせーなぁ。わぁーったから、引っ張るんじゃねぇよ!」
足音はすぐ近くまで来ている。
「マズイ! 早く隠れなくちゃ……いくら何でも、これじゃ不法侵入だよ」
近付いてくる二人の男の声に、反射的に我に返った私は、とにかくその場から逃げようとした。
その瞬間
「おい、お前……何処のモンだ?」
見知らぬ男は、低い声で問いかけると同時に、後ろから私の肩を強く掴む。
声の主の方へ、恐る恐る振り返る。
刹那
私は再び、先程同様の強い目眩に当てられ、意識を手放した。
視界が暗転してゆく中……
私はどこか安心していた。
「あぁ。やっぱり夢……だったんだ」