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第一話 『PAST』

第一話 『PAST』


一月二八日 一三時二六分 ???


 どうやら間に合わなかったみたいだ。ある程度想像はついていた、まだ作戦の範囲無いだから心配することはない。

「次の人を使おう」

携帯電話を取り出して番号を入力し通話ボタンを押す。コール音が鳴り始める、一度目のコールが終わってすぐに電話が繋がった。

「もしもし」


*    *     *


一月二八日 一三時二六分 C地区 第三高校一年二組


「ゲーム理論の話をしていたのですが、聞いてましたか?」

「ぇ……ぁ……」

 何が起こったか分からない俺は質問に応えられずパニックになっていた。こんなことは珍しい。俺は何事にも動じない――周りからは冷めていると言われる。やはり俺の態度が珍しいのか、クラスメートは好奇な視線を向けてきている。

「す、すいません。聞いてませんでした」   

「桜庭くん……あなたはいつもボッーとしていますが、具合でも悪いのですか?」

「だ、大丈夫です」

「そうですか? ……まぁ、いいでしょう。はいっ、じゃあ授業続けますよ」

ついさっきと同じ質問――いや少し違う気もする、さっきまでの出来事は全て夢だったのか。いや夢にしてはリアルだし、それに自分が刺される夢なんて悪夢でしかない。

 まずは頭を整理しよう。俺は現代社会の授業を抜けて保健室に向かった、変な男が現れて保健室で男に刺されて……急に現代社会の授業に戻った。夢なら戻って当たり前だ、ただ目が覚めただけ。

 そんなことを考えている間にチャイムが授業の終了を告げた、その後に別のチャイムが鳴った。

「えー、教員の方々にお知らせです。不審な人物が校内で目撃されました。性別は男、金髪で耳にピアス、刃物のような物を手に持っているようです。何かを探すように校内をうろついている様です、至急生徒の安全を確保してください。繰り返します……」

善本が存在した⁉ そうなると夢は夢でも予知夢だ。困ったな……予知夢だったら俺は殺されてしまう。いや、可能性は二つある。

一つ目、さっきまでの出来事は予知夢でこのあと俺は殺される。二つ目、タイムスリップをして過去に時間が戻った。確率は前者が九十九パーセントで後者が一パーセントといったところだ。予知夢なら見る人がいるけどタイムスリップはフィクションの中の話だ。        とはいえ死にたくない、何か夢じゃないという証拠があればいいんだが。

こうなったら、クラスの奴らが大騒ぎしている間に教室から抜け出して証拠を探しに行こう、不審な態度を見せないように教室から出れば大丈夫だ。

あえて犯人について大騒ぎしている集団の横を通って扉へと向かった。

「桜庭くん、どこに行くのですか? 座ってなさい。」

「……はい」

 先生の存在を忘れていた、先生にもバレずに抜け出さなきゃいけない。作戦を練り直さなければいけない。

先生は授業が終わったので教室の前側のドア付近に移動している、なら後ろ側のドアからなら抜け出せるはず。

クラスの女子が先生に質問を始めた、今しかない! クラスメートの間を縫うように移動をしてドアの前に辿り着いた、後はドアをそっと開けるだけ――

「あ、あれ?」

 ここで新たな問題が発生した、ドアには鍵がかかっている。何度か試みたが鍵が引っかかりカチャカチャと音を立てるだけだ。

後ろに誰かが立っているのは分かっている、それが先生であるということも。俺にだってプライドがある、後ろを向きたくない。

「桜庭くん?」

「何でもありません、ごめんなさい」

 お、おとなしく席に座っていよう。何か策があるはずだ……タイムスリップだという確証を得る策が。待てよ、あの時――善本に刺された時は俺が現代社会の授業に戻りたいと思ったからタイムスリップしたのかもしれない、そうならタイムスリップをもう一度しようと思えば戻れるんじゃないか?

念には念をということで、あの時と同じように声にも出してみることにした。

「現代社会の授業に戻りたい――」

 視界が狭くなっていく、刺された時と似ている。視界が真っ暗になるまで五秒もかからなかった。


*    *     *


一月二八日 一三時二五分 C地区 第三高校一年二組


視界は、すぐに明るくなった。まずは自分のいる場所の確認をする。ここは俺の席、ということは教室、今は授業中! 

本当に過去に戻れた、タイムスリップは実在した。予知夢じゃないなら俺が死ぬ未来は避けることができるじゃないか。いやいや、判断するにはまだ早い! もう少し様子を見てみよう、ボーっとしていれば名前を呼ばれるはずだ、その後は授業の内容を聞かれる。

「……くん……桜庭くん……桜庭くん‼」

ビンゴだ、ここで「何ですか?」みたいな反応をすれば……待てよ、試しに未来を変えられるかどうか確かめてみよう。とりあえず反応を前回と変えてみるか。

「先生どうしました? 話なら聞いてましたよ」

「本当ですか? ボーッとしてたように見えましたが」

「ゲーム理論の話ですよね?」

「そうです。ちゃんと聞いていたようですね、では授業を続けます」

 よし、いいぞ。ちゃんと会話が変わっている。これは利用できるかもしれない、宝くじとかで儲けられる気がしてきた。さっそく放課後に買いにいかなきゃ‼ 

そういえば、俺は何で狙われてたんだ? 善本みたいな奴と関わった覚えはない、気になるな。本人に聞いてみるか、危なくなったら過去に戻ればいいし。

「先生、ちょっとトイレ行ってきても良いですか?」

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 あの男は保健室に向かうはずだから待ち伏せするなら、そこしかないな。

よく考えると簡単だ、待ち伏せして取り押さえて狙われる理由を聞くだけだ。でも、両手に刃物を持ってたからな、こっちもカッターを用意しておいた方がいいな。

「廊下でしゃがんで、何してるの? 桜庭くん」

 すぐ後ろで声がした。楽しそうで人を小馬鹿にした口調、保健室で聞いた声。振り向くと善本が立っていた、今回は刃物を持っていない。おかしい、今頃は保健室に向かっているはずなのに――

「な、何でこんなところに!」

「何で? 良く分からないけど俺は君を探してたんだよ」

 冷静になれ、俺。落ち着いて対応すれば、そう簡単に刺されるはずがない。善本の持っていた刃物はリーチが短い、前回は気を抜いていただけなんだし。

「善本、今度は刺されないからな」

「俺の名前を……もしかして、何か使えるようになったのかな?」

 どうしてそんなことが分かるんだ、コイツ……何を知っている。知られていたとしても怖がることは無い。なぜなら過去に戻れる俺は死なないからな。ここは強気でいこう。

「ああ、使えるようになったよ。だからお前のような奴にはやられない」

「……調子に乗るなよ、ガキが」

 善本の雰囲気が変わった。目つきが鋭くなり口元に終始浮かべていた笑みが消える。完全にオーラが違う、勝てる気がしない。

俺が何もできないで固まっていると善本は、胸元から黒い(・・)()か(・)を取り出した。

「どうした、桜庭」

 あれは、銃⁉ このパターンを考えてなかった、平気で人を刺すような奴が銃を持っている可能性は十分に考えられたのに。とにかく頭を狙われたら即死だ、死んでしまったら思考すらできなくなって過去に戻れない‼

に、逃げなきゃ……あれ? 足がすくんで動けない!

「う、うわぁぁぁぁ!」

「待ってください」

 撃たれると思ったその時、善本の背後に人が現れた。それはさっきまで教室にいたはずの榊原先生だった。

「何者だ⁉」

「彼のクラスの現代社会担当です。彼から離れてすぐに銃をしまってください、いまなら警察に通報はしませんから」

「止まれ、撃つぞ」

 榊原先生の目に怯えの色が無い。この学校にも頼りになる大人がいたんだな、それにしても榊原先生の態度は銃を向けられた人の態度とは思えない。まさかだけど、善本の弱点を知っているとか?

「今すぐ消えろ。さもないと引き金を引く」

「私はあなたの秘密が分かっています、一日が長いと疲れるでしょうね」

一日が長い? 時間って人によって長さが変わったりするものなのか? 確か相対性理論は楽しい時間が短く感じるっていう話だった気がするけど。そんな話をしたところで何になるんだ?

俺の疑問とは裏腹に先生の言葉は効果抜群だったようだ、善本はすっかり青ざめて汗をかき始めている。俺にはさっぱり分からない。

「先生何を言ってるんですか?」

「お、お前まさか⁉」

「とにかく、銃をしまって」

「くそっ‼」

善本が悔しがりながら銃をしまう、榊原先生の勝ちだ。助かった、とはいえ先生の魔法の言葉はどういう意味だったのだろ――

「あれ?」

俺は目を疑った。悔しがっていた善本の姿が見当たらない、一瞬でいなくなったのだ。例えるならタイムスリップと同じようにフィクションの世界に出てくるに能力――瞬間移動のようだった。

 瞬間移動は後で考えるとして、俺の命は救われた。そのかわりに先生と二人きりになってしまい、お互いに黙ったままで気まずい空気が流れる。

どうしよう、困ったな。人に助けられる経験が少なかった俺にとってお礼を言わなきゃならないこの状況は拷問と同じだ。と、とりあえず簡潔にお礼を言ってみる。

「先生、ありがとうございます」

「いえ」

 うわ、話が続かない。授業中は、質問ばかりしてくるのに。あ、でも単純に俺が嫌われているだけっていうパターンがあるか。どちらにしても、この空気には耐えられないから何かを会話しないと。

「な、何で俺が危ないって分かったんですか?」

「危ないのは知りませんでした。ただ、あなたを探しに来たんです、見つけたと思ったら銃を向けられているから」

「そ、そうですか。さ、さっき言っていた一日が長いってどういう意味ですか?」

「私は君のことも分かってます」

 先生が俺の質問を無視して言ってきた。おい、嘘だろ……まさか、タイムスリップがバレたっていうのか⁉

いや、あり得ない。適当な事を言って俺から何か情報を聞き出そうとしているんだな。

「何の事ですか?」

「とりあえず、授業の時間に戻ってきた理由を教えてください」 

「っ‼」

 これは、バレてるな。理由は分からないが、このセリフは俺がタイムスリップをしていることを確実に把握している。でも、先生が知っているのはおかしい。

「はぁ……あなたの事は、置いておきましょう。あの男の事が気になるのでしょう?」

「はい、先生は全部知ってるんですか?」

「いいえ、全部は知りません」

「じゃあ何を?」

「彼は――」


*    *     *


一月二八日 一五時五○分 C地区 第三高校廊下


「終わったぁ!」

「今日、部活無いし遊ばない?」

「オッケー、行こうぜ‼」

 帰りのホームルームが終わった途端にあちこちから放課後に何をするかとか、部活が面倒だといった会話が聞こえる。部活をやっていない俺は普通であれば真っ直ぐに家に帰るのだが、今日はそうも行かない。

命の恩人である榊原先生から「第二会議室に来てください」とお呼び出しがあった。どうやら今日の放課後に善本を捕まえる計画らしい。俺が狙いなら放課後もう一度くるだろうというのが先生の予想だ。

「でも、こんなことになるなんて考えてなかったなぁ」

 帰宅する他の生徒に紛れて独り言をつぶやく。第二会議室は職員室付近にあるので職員室前の廊下の人ごみを流れるように進なければならない。職員室前の廊下は混み合うので普段は近づかない。人ごみが無くなるまで待っていたいところだが、先生から「生徒の波から離れちゃいけないですよ」といわれている……そろそろ酔いそうだ。

色んな注文をしてくる割には、俺は先生からまだ詳しい話は聞かされてない。けど、善本の事を把握している先生の指示には従ったほうが良さそうだ。

暇つぶしに周りの生徒の会話を聞いてると目的地である第二会議室に辿り着いた。教室扉を開けると中にはすでに榊原先生が居た。

「やっと来ましたか。準備はいいですか?」

「はい、大丈夫ですけど。準備?」

 そういえば、歩いてる間に善本が出てきても良かったのに、善本は出てこなかったな。

あいつなら俺がどこに居ても関係ないはずだ。何故なら善本は――

時間(・・)を(・)止める(・・・)()が(・)できる(・・・)人間(・・)と戦う準備ですよ」

 ――そう、時間を止められる。だから急に姿を現すと先生は言っていた。どんな方法でそれを知ったのか俺には分からないが筋は通っている話だった。

 それより、俺は気になることがある。

「先生もしかして、対策会議とか作戦会議とか好きな人ですか?」

「す、好きではないですが……何か?」

 ああ、好きなんだな。ホワイトボードに大きく作戦会議と書いてある、うっすらと対策本部という文字を消した跡が見えるが気にしないであげよう。きっと、誰かが落書きしたんだろう、もちろん先生じゃなくて生徒が。

「何でもないですよ。……で、先生は何で俺の能力や善本の能力が分かったんですか?」

「そうですね、そこから始めましょうか。実はですね、私も能力みたいなものがあるようです」

「は?」

 一瞬戸惑ったが、俺のタイムスリップまたは善本の時間静止のような能力が使えるということか、これなら善本に勝てる気がしてきた。そもそも一対二だから負けるはずがないだろう。三人とも能力が使えるっていう状況なら尚更だ。

「私は、何故だか時間が戻った事と時間が止まった事が分かりました。しかし時間が戻る前何をしていたかを覚えている訳ではなく、時間が止まっても止まっている間動けた訳でもない。つまり状況を把握する能力があるようです」

「……それで?」

「以上です」

 ……はぁ、使えねぇ。時間が止まったのが後から分かっても仕方がないじゃないか、その間に刺されたら大問題だ。俺の能力の性質上、即死だけは避けたい。

天から地に落とされた気分だな、会議が始まる前より勝てない気がしてきた。

「じゃあ先生、善本についての事を教えてください」

「分かりました。一つしかありませんが、あの男には出来ない事があります」

「出来ない事?」

「恐らく、時間を止めている間は動かない人間や道具、置物を動かす事ができない」

 なるほど、そういうことか。少しだけ気になっていたんだ、時間を止めている間に俺を刺せば俺は間違いなく死んでいるだろう。だけど、一度もそれをしないのは何故なのか。根本的に善本の能力では出来ないことなら納得だ。

良く考えるとヒントは周りにたくさんあった。例えば最初に保健室にいた時は扉が開いていたから入ってくることが出来た。逆に教室にいる間はドアが閉まっているので入れなかった、もちろん廊下にいる時は障害物が無いので歩きやすい、だから先生は人ごみ――人の壁という障害物から離れちゃいけないと言っていたのか。

「恐らく、物に触れたら時間は動き出すのだと思います。どうですか桜庭くん?」

「まだ憶測の段階ですが辻褄は合いますね。先生にそんな洞察力が有ったとは知らなかった」

だが、保健室に行った時に感じた違和感がある、保健の先生が居なかった事だ。これは先生の話だけでは納得できない。

「はい。では、これを踏まえて作戦を練りましょう」

「待ってください、一つ気になることがあります」

「何ですか?」

「保健室に保健の先生が居なかったんですけど……」

「それは、今回とは関係の無い偶然の出来事でしょう」

いや、おかしい。先生も俺も見落としていることがあるはずだ。タイムスリップとか時間停止とか、SFチックな事ができる協力者がいるとか。可能性としては充分あり得る。

その時、ゆっくりと会議室の扉が開いた。扉を開けたのは一人の女子生徒だった。

「失礼します、一年一組の片倉です。榊原先生少しよろしいですか?」

「はい、何ですか? 桜庭くん、少し待っていてください」

 俺は了解の意を込めて軽く頷いたが、何となく嫌な予感がしていた。先生が出ていく時に見えた女子生徒の目が虚ろだったからだ。

まさか、あいつが……。最近の嫌な予感は当たっている、あいつが協力者というこの予想も当たってしまうかもしれない。考えれば考えるほど先生が心配だ。

 先生を追うために、会議室から出る。今出て行ったばかりなのに二人は見当たらない。

視線をふと落とすと廊下に先生が倒れていた、反射的に先生に駆け寄って声をかける。

「先生、大丈夫ですか⁉ 一体何が……うぐっ⁉」

後頭部に衝撃が走った、目の前が真っ暗になった。


*    *     *


一月二八日 一九時一五分 ???


 目の前が暗くなった。いや、暗い場所に移動したのか。あたりに工具が散乱し、何に使うのか分からない大きな機械が半分だけカバーに覆われている。いかにもしばらく使っていませんという感じだ。

これは、工場か? 暗すぎて何も分からない、工具からの連想だ。それに工場のような場所なら日本内に数えきれないほどあるし学校の周りにもいくつかある。

「まったく今日は散々な日だ、中年に襲われて女子生徒に襲われて。今度は何だ、俺は今いったいどこにいるんだ」

 そんな独り言をつぶやいていると奥から物音がした。明かり漏れているのが見える、あれは外の明かりなのか……別の部屋の明かりなのか。

「とりあえず、ここから抜け出そう」

 起きたらここに居た。先生もここにいるのか? 探さなきゃいけないな。あと、あの生徒……許さねぇぞ。

 光の正体は別の部屋の照明だった、そこはガレージのような場所で、何も置いてないで異様に広い。車が点々と駐車してあり、何故かひっくり返っているものもある。

「桜庭くん、君が一番遅かったな。連れの先生はもう帰ったよ」

 どこからか声が聞こえた。なんといってもこの広い空間だ、反響してどこから聞こえているのか分からない。

「こっちだよ。」

 今度は分かった、右だ。黒いジーパンに黒いシャツ、そしてサングラスをしている男が立っていた。靴も黒い、まさに黒ずくめだ。

「こんにちは」

「…………」

「そんなに警戒しないでよ」

「本当は、夜だろ?」

「驚いたな。まさか気づくとは思ってなかったよ」

 実際は勘だ。よく考えると工場だからと行って昼間に日が一切入ってこないのはあり得ない。明かりが日の光だと思っていた自分が恥ずかしい。

「でも、実は君以外にも気づいていた者もいた、その人達はみんな合格だよ。まぁ時を遡る者としては出来て当たり前かな」

「お前は何者なんだ?」

「そうだな……特に職業についてない。僕のことはウルドと呼んでくれ」

 本当の名前は流石に言わないか。人を誘拐するような奴だ、しょうがないか。ここに長居する訳にもいかないからな。

「何故、俺をここに連れてきた?」

「君だけじゃないよ、何人かここに来てた。理由は君の能力とこれから何が始まるのかを説明をするためさ」

「俺の能力……か」

「そう、君の時を遡ってやり直す能力。最初に言っておくが、その能力は僕らの能力の一部だ。僕も君と一緒で過去に行ける」

「一部?」

「コピーみたいな物だよ。こちらにも事情があって詳しくは話せないけど」

「これから何をするつもりだ」

「簡単に言って、能力者同士のサバイバルかな」

 能力者同士のサバイバル? ふざけているのか、真面目なのか。話が突飛過ぎて良く分からない。

「サバイバルって、俺の能力に殺傷性は無いと思うが」

「そうだね。基本は銃やナイフで戦う。君の能力は補助に過ぎない、だから使い方次第で役に立つ」

「強制参加か?」

「いや。断っても良いが、その時は――」

 ウルドは俺に銃を向けてきた、本日二回目の銃だ。でも俺には能力がある、早めに対処すれば何とかなる。

「この場で、死んでもらう」

「なるほど」

 やっぱりそうか……さて、過去に戻るか。あれ? 戻れない。

「言っておくけど、今は君の能力は使えない。僕を含めてこちら側は、不可能そうな事でも大抵の事はできる。君が想像していることより遥かに多い事を。今は君の能力を封じているだけだが」

「…………」

「参加するよね?」

 銃口は真っ直ぐに眉間を向いている。このまま、死ぬ選択肢もあるが、そういう訳にもいかない。やり残したこともたくさんある、やるしかないな。

「分かった、参加しよう」

「よし、決まりだ。ルールを説明する。まず初めに君の携帯電話の連絡先は全て削除させて貰った」

 勝手に俺の携帯に何してるんだ、この人は……。

「アドレスも変えさせて貰った」

「勝手に何してんだよっ!」

「まあまあ、落ち着いて。みんな同じ事をされてるよ」

「……分かったよ」

「こちら側がもう良いと判断するまでサバイバルは続く、その間は指定したホテルで寝泊まりしてもらう。君の関係者には、こちらから話をつけておく。それと、僕とはこれからペアで寝泊まりは君と同室だ。ルール違反をした者が君に危害を加えそうな場合は僕が対処する」

「ルール違反と言うと?」

「うーん、そうだね……続きはホテルで話そう」

 そう言って、地図を渡してきた。誰もが聞いたことのある名前のホテル。

「えぇぇぇぇ⁉ A地区の最高級ホテルじゃん!」

「ははは、楽しみにしてな。さぁ、行こうか」

一生に一度は泊まってみたかった。A地区のホテルは全て高級だ、オフィスが多いだけに独特な発展を遂げている。寝泊まりは随分と充実しそうだな、うん。

 ウルドを追いかけてガレージから出ると、ヘリコプターが待っていた。

「ウルド……だっけ? これで、移動するの?」

 ウルドはピースサインを送ってきた、人生初のヘリでの移動だ。俺がヘリに駆け込むと離陸を始めた、なんだか緊張する。しばらくたつと縦の移動から横の移動を始めた。

 でも、楽しみにしていた乗り心地は悪い。空の移動手段だから速いのは当然だが、とにかく揺れる。それなのにウルドは楽しそうだ。

「おー、揺れる揺れる!」

「楽しそうだな……お前」

「君は楽しくない?」

「つまらなくは無いが、立ってるのが精一杯だよ」

 さっきから、頭を数回ぶつけていてクラクラするし、楽しめる余裕は無い。ウルドはバランスを崩した様子が一切見られない、やはりただ者ではない。

「ウルド、他のヘリとぶつかりそうだ」

「オッケー」

 操縦士が何やら物騒なことを言っている、ウルドは平気な顔をしている。ぶつかったら死ぬだろ、何がオッケーだよ。


*   *     *


一月二八日 二一時一五分 A地区 上空


「あれ?」

 ヘリコプターはビルが立ち並ぶ活気に溢れた街の上空を飛んでいた。C地区はこんなに元気な街じゃない。まさかA地区に着いたのか? どれだけスピードを出したんだよ、ヘリコプターってそんなにスピード出せたのか。

「ホテルに着いたよ」

「もう着いたのか? まだ十分くらいしか経ってないけど」

「時間はね、楽しいと早く過ぎるんだよ」

「お前、頭ぶつける時間が楽しいのか?」

「僕は君と違って、ぶつけないからね」

「ああ、そうですか」

「実際は、一時間くらい経っているけどね」

「えっ⁉」

「途中で時間を止めたんだよ」

「お前、そんなこともできるの?」

 何だか良く分からなくなってきたな、ウルドは本当に色んなことができるらしい。ヘリコプターが横の移動から縦の移動を始め、すぐにホテルの屋上へと着陸した。

「さあ、行こう。部屋は七○四五号室だよ」

「ここは何階だ?」

「屋上、数字で言うなら十二階」

「そんな高い階だと襲撃されたらすぐに逃げられないだろ」

「安心して。ホテルにいる間に襲撃するのはルール違反だから」

 つまり、ホテル内襲われた場合はウルドが対処するから気にしなくていいのか。まだルールを全く聞いていないからルール違反も分からない。おそらく七〇四五号室で話をしてくれるだろう。

何も考えずにウルドに着いていくと、客室の前に辿り着いていた。何も考えなかったから場所が分からない。どうやってここに来たのか。

後で聞けば良いだけなので、ドアを開けて客室に入ろうとする。

「桜庭くん、ちょっと伏せて」

「何でだ――わっ!」

 ウルドは俺の頭を無理やり下げさせて、その上で回し蹴りを決めていた。いつのまにか俺の後ろにいた帽子を被った男がよろめいている。

「桜庭くん、部屋に入って」

 言われるがまま客室に入る、気になるから扉は開けっ放しだ。男は手にナイフを握っている、さっきホテルでの襲撃はルール違反って言っていたのに破ったものがもう出てきたのか。

ウルドは、男のナイフを膝蹴りで弾き飛ばした、そのまま強引に背負い投げを決めた。同時に落ちたナイフを蹴って俺が開けっ放しにしていた客室内に入れた。そして、気絶した男を担いで客室に入ってきた。

「こんな感じでホテル内での不審者は、僕が対処するよ」

「は、はぁ……」

 洗練された技だった、素早く綺麗な動き。頼もしいと素直に思った。この人と一体どれくらいの時間を共に過ごすのだろう。長いなら仲良くしないといけない。

そんなことを思いながら、ベランダに男を横たえて誰かに電話をしているウルドを見ていると、俺の携帯が鳴った。

「はい、もしもし」

「もしもし、榊原です」

「さ、榊原先生⁉ 何で俺の番号を知ってるんですか?」

「ヴェルダンディーさんにお聞きしました」

「ヴェルダンディー?」

「パートナーらしいです。桜庭くんにもパートナーが?」

「はい、ウルドっていうのがいます。先生は今どこに?」

「エンジェルホテルの部屋にいます。桜庭くんは?」

「俺は、プリンスホテルにいます。近いですね」

「そうですね、とりあえず無事そうでホッとしました、今度は直接会いましょう。では、おやすみなさい」

 おやすみなさいと返して電話を切る。ヴェルダンディーさんはウルドの仲間だな。

明日は先生に会いに行こうかな、もしかしてルール違反かな。

「桜庭くん、何て呼べばいい?」

「え?」

 ウルドが変な事を聞いてきた。桜庭くんって呼んでいるじゃないか。

「何でもいい」

「じゃあこれからは、心って呼ぶよ」

「そうか、俺は今まで通りウルドって呼ぶよ」

「良いね。何か質問ある? 無ければ寝るけど」

 おい、ルールを教えろよ! 俺から話を振るのは納得できないが、しょうがない。

「ルールを教えてくれるって言ってたよな?」

「面倒臭いなぁ、でも話してあげるよ。まず一つ目、ホテル内での襲撃は禁止。二つ目、ホテル外であればサバイバルに参加していない者に襲われても自分で対処すること。三つ目、朝九時までにホテルの外に出ること」

「……終わり?」

「うん、心が知っていれば良い事はこれだけだよ」

 ルールはもっとあるけど、今は教えないという意味か。それなら、もう一つだけ聞いておこうかな。

「じゃあルール説明したから寝るね」

「待て、ウルド。最後に一つ」

「何?」

「このサバイバルゲームの目的は?」

「俺たちの仲間を選ぶため」

「そうか、おやすみ」

 自分の部屋に入って鍵を閉める。ホテルの一つの客室の中に三つの部屋があるホテルなんて、感動する。今までこんなホテルがあるとは知らなかった。

サバイバルゲームは明日から本格的に始まるらしい。明日になったら銃とかくれるのだろうか? だんだんと心配になってきた、ゲームと聞いて少し気が緩んでいたが死ぬかも知れない。

明日ちゃんと起きないと失格になってしまって意味がないので、アラームを七時にセットしてベッドに入った。


























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