エピローグ『AFTER』
エピローグ『AFTER』
四月八日 一五時三〇分 A地区 ビル街
あの日、ウルド達との決着から一ヶ月以上が経過した。もうすっかり春だ、桜もちらほらと咲いている。
俺は昼間からA地区のビル街を歩いている。今日は入学式なので新二年生は授業が無いのだ、だからいつものカフェへと向かってる。
最近、A、B、C地区はすっかり回復した。しかし行方不明者がまだ大勢いる。電機屋のテレビは、昨日現れた地下からの生還者の話をしている。Y、Z地区から帰ってきた人は少なくない、X地区の人々は美季さんが移動させたので行方不明者は沙季さんだけだ。
他にも地下の壊れた街並みが芸術だと騒ぐ人が現れたり、地下の存在を隠していた政府は解散して選挙を始めたりと日本は変わりだした。
「ウルド!」
そんな呼び声が聞こえた。
ウルド――今は俺の名前だ。本当は死んだ者の名前は使わないらしい。不名誉な永久欠番にするのを避けるために俺は死んだ者の名前を引き継ぐことになった。
美季さんが小走りで近づいてくる。ちなみに美季さんはエイルという名前になった。
「プライベートなんですから、普通に呼んでくださいよ」
「それもそうね。桜庭くん、学校は?」
「学校は休みです、今日は入学式なんですよ」
「ああ! そういうことね」
美季さんと並んで歩く、ショッピングモールがもうすぐ見えてくる。
「もう一ヶ月だね」
「そうですね、時間が経つの早いですね……」
「戻れば?」
「いや、こんなとこで能力を使ったら怒られますよ? アレースさん、組織に入った瞬間スパルタになったし」
「バレなきゃいいのよ」
「それは……バレた時のことを考えて発言してますか?」
「考えてない」
あはは、と笑う美季さん。平和だなと思って空を見上げる、名前の分からない鳥が飛んでいる。その鳥は大きく旋回してビルに止まる。あのビルは三人で共闘したビルだ、今日も何かのイベントをやっているのか、いつも以上に賑わっている。
「ん?」
「桜庭くん? どうしたの?」
ビルの屋上に人影が見える。その人へと視界がフォーカスされていく――あの髪の色、服装。知っている、良く知っている。
「美季さん、ちょっとここで待っててください!」
「え? あ、ちょっと⁉」
ビルへと走る、確か屋上へ行くにはエレベーターで一番上の階へと行く。それから階段を使わないといけない。
不思議なことにこうやって走っていると、あの日に読んだウルドの手紙の内容を思い出してしまう。
心へ
この手紙は読んでいるってことは、僕はすでに死んでいるみたいだね。一体どんな死に方をしたのか気になるけど、まぁいいや。
この手紙を心が読んでいるとは限らないけど、心に宛てて書かせてもらうよ。
僕、小早川楓は未来を変えるために過去に戻ってきた。表面上の目的は榊原香を世界のトップにすることだけど……本当は違う。
未来の日本は能力を活用して生活する日本とコンピューターで管理される日本に別れていた。世界的に見てもその二種類の国に別れていた。その境目がA、B、C地区だ。その国家分離を遅らせるのが僕の役目だった。
僕が死んでいるなら地震による被害が出ただろう。それだけで目的はある程度達成した事になる。ここで君たちの出番だ、その国家分離を止めてほしい。簡単な事では無いと思うけどゆっくり落ち着いてやってほしい。
二○年くらいは確実に先延ばしになったから、時間はある。
最後に組織の先輩として一つだけ。
心、君は未来をどう思う? 僕はね、未来は一人ひとりの小さな動きで出来上がっていくと思っている。君のその一歩が大きく未来を変える力の一部になるんだ。
君がやってきたことはいつか大きく未来を変えるんだ。これまで君がやってきたことは決して無駄にはならない。
それだけは忘れないで欲しい。短い間だけど楽しかった。
ウルド
あの手紙を読んでも特に俺は感動しなかった、しかし不思議な事に一言一句漏らさず覚えてしまった。
今になって、ウルドが手紙に書いていたことが分かる気がした。この階段を駆け上がる動作も、俺の呼吸も、心臓の鼓動も、未来を作り上げている要素の一つ。
階段の最後の段を登る。目の前のドアを開ければ屋上だ。何だか緊張する、とりあえず深呼吸――よし落ち着いた。
俺はドアを開く。
――未来が変わるまであと三秒




