11月 君と温もり
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2014.03.09 誤字訂正
龍ちゃんとの事が無事に収まり、いつもの日常に戻った11月上旬。いつものようにふたりで遅めの晩御飯を食べているとタクさんが来週末の予定を提案してきた。
「温泉?」
「そう紅葉も見頃だろうから見に行こう。」
そう話すタクさんの口ぶりはどう考えても温泉が目的の様だが、久しぶりの旅行にふたつ返事で賛成した。
長かった2週間が過ぎてやっと迎えた週末は、よく晴れたドライブ日和だった。
1泊分の荷物を車の後部座席に乗せて、車は駐車場からゆっくりと動き出す。
「久しぶりだね。」
「そうだな。」
ハンドルを握るタクさんに話しかける。朝も遅めに出発した為予想通り渋滞にハマったが、特に急ぐ旅でもないのでふたりのんびりと他愛ない話をしながら久しぶりのドライブを楽しんだ。
「いらっしゃいませ。」
笑顔で旅館の女将さんが迎えてくれフロントへと案内してくれた。
「予約していた長原です。」
「長原様ですね。お待ちしておりました。」
タクさんが宿泊台帳に記入しているのを隣で待っていると出迎えてくれた女将さんが話しかけてきた。
「奥様お荷物お預かり致します。」
「あ、はい。お願いします。」
奥様と言う単語に驚いているうちに、女将さんは荷物を持って行ったので否定するタイミングを完全に失ってしまった。ひとり苦笑いで誤魔化しているとフロントのお兄さんがこれからの予定を聞いてきた。
「紅葉狩りへ出かける予定です。」
旅館から歩いて15分程の所に紅葉の名所があるのでそこへ行く計画をたてていた。
「では、夕食は18時からでよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします。」
お兄さんから観光マップを貰いそのまま外へと出掛けた。紅葉の名所へ向かう道すがら温泉街のお店を覗いていると、突然タクさんがくすりと笑った。
「どうしたの?」
「奥様って呼ばれて戸惑ってたの思い出した。」
その顔はとても楽しそうだった。
「見てたの?」
「まぁな。」
また思い出したのか、今度は声を出して笑い出してしまった。
笑いがおさまるまでの間、ふたり並んで道端にあった無料の足湯に浸かっているとある事を思い出した。
ここ最近、会社で同僚達からおめでとうと声をかけられる事が多くなった。はじめの内は何の事だかわからなくて見兼ねた岸田君がある噂を教えてくれた。
“長原と桐島が遂に結婚するらしい”
岸田君曰くほとんどの社員が知っているらしい。それを聞いた時はどんだけこの会社は暇なんだと正直思ってしまった。
私がこれだけ言われるのだからと為しにタクさんに聞いてみる。
「そう言えば、最近会社で会う人会う人おめでとうって言われるんだけど…」
「気にするな。」
苦々しい表情を浮かべるタクさんを見るに、タクさんも散々言われてきたのだろう。
「でも、どこから湧いて出たのかな。」
先月の龍ちゃんの事でタクさんといる事を決めたが、それは自分自身の中で決めただけで誰かに話した記憶もない。そして、ふたりの間でも結婚話は一度として出ていない。
「多分、龍次さんの結婚話を紺野にしてるのを誰かに聞かれたんだと思う。」
私の呟きにタクさんがすまなそうに答えてくれた。
推測するに、誰が結婚と言うキーワードとタクさんが私と同期の紺野さんに話す光景から勝手に想像したんだろう。
「ああ、そういうこと。」
「そういうこと。」
私が理解したのをタクさんも理解してこの話は終わった。話がひと段落した所でようやく紅葉の名所へと足を向けた。
温泉街から歩いて10分程の所にある紅葉の名所は観光客で賑わっていた。
人の多さに少しうんざりしたが、目の前に広がる真っ赤な世界に心が踊った。
「凄い!!」
思わず声に出すとタクさんも同じ様に頷いていた。
「圧巻だな。」
人の流れに身を任せながら紅葉のトンネルを歩く。見上げれば赤いのはもちろんだが、地面までもが赤い落ち葉で覆われ360度赤い光景はまるで別世界へきたようだった。
「そこのご夫婦さん、おひとついかがてすか?」
紅葉から声が聞こえた方に目を向ければ、団子が並ぶ屋台のおばさんと目があった。
「じゃふたつください。」
他に夫婦らしいカップルが居ないか辺りを見回しているうちに、タクさんが財布を出しながらみたらし団子を二本買っていた。
タクさんからひとつ貰い歩き出す。
「そこのカップルさん、おひとついかがですか?」
笑顔の素敵なおばさんは、次に来たカップルにはしっかりとカップルと言っているのが後ろから聞こえた来た。
「最近多いな。」
また夫婦に間違われ、流石のタクさんも苦笑いだった。
「そうだね。」
ちらりと後ろを振り返り確かめる。カップルと呼ばれた二人は私達と同年代だったので、私も苦笑いで応えるしかなかった。
紅葉も見終わり旅館に帰ってからも温泉や料理に堪能した翌日、夜明け前に起き出したタクさんと私は旅館の目の前に広がる湖の湖畔へと足を向けていた。
夜明けを迎えようとしている湖の水面には朝靄が立ち込め、肺に入ってくる11月の冷たい空気に身も心も洗われるようだった。
そしてゆっくりと山の向こうから昇る朝日の光によって朝靄が黄金色に染まり始めた時、そっとタクさんが私の手を取った。
ふたり静かに湖畔に並び立ち、きらきらと輝く水面を見つめ、手のひらから伝わる互いの温もりを味わう。
ただ手を繋いでいるだけなのに、それだけでひとりではないと思えた。
「結婚しようか。」
タクさんの声が聴こえた。
終わりが終わりなので、今回のみ完結はつけてません。
続きはまた近々upします。




